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第2部第226話 聖女様マロニーその12

(1月18日です。)

  今日で、バロー市内の『人間化計画』が終わる。1日平均1400人位だったが、朝8時から夜8時までずっと『聖なる力』を使い続けても、特に体調が悪くなったり、倦怠感を感じたりは無かった。人間化した後に健康障害のある人たちには、さらに『治癒の力』を掛けてあげている。


  あの孤児院には、夜、顔を出してお菓子や唐揚げなどをプレゼントしていた。本当は、子供達の笑い顔を見たいのだが、もうベッドに入っているので、ヘラーさんに様子を聞くだけで我慢している。


  「マロニーちゃんは、偉いわよね。うちの子達と大して違わないのに、お仕事頑張っていて。」


  ええ、内緒ですが、見た目は10歳、実年齢80歳ですから。『明日、この街を出発するの。』と伝えると、寂しそうな顔をしていたが、この街にいつまでもいる訳にはいかない。短いお付き合いだったけど、困った事があったら、ブレナガン伯爵家宛にお手紙を書いてねとお願いしてお屋敷に戻ったの。


  次の日、市の北門から出ようとした時、大勢の子供達が見送りに来ていた。朝早く起きて待っていてくれたんだろう。私、窓から身を乗り出して手を振ったわ。涙なんか拭かずに、いつまでも手を振っていたの。



  結局、領内の全ての町村を終えて、伯爵家に戻ったのは、1月も終わり頃だったの。ずっと休んでいた学校に登校したんだけど、クラスが幼稚園か1年生のクラスになってしまったようだった。中身は、皆、4年生なんだけど、机や椅子も少し大きいし、みんな苦労しているみたい。でも、人間に戻って若返る程度も個人差があって、ほぼ変わらない子もいるので若返りの規則も絶対じゃあないみたい。1年生や2年生のように絶対年齢が低い子は、ほぼ若返らないみたいね。


  2月からは、ハンス辺境伯領内に向かうし、そこが終わると、南のミシガン伯爵領、メイソン伯爵領と2つの領内での『人間化計画』を実施する予定なので、もう学校に来る事が出来ないだろうと思っている。でも、お別れも挨拶は嫌いだから、皆には黙っておく事にしたの。


  ブレナガン市に戻って、すぐにエルフィー弓道具店に行って、『虹の魔弓』を見せたの。セロさん、色々見ていたわ。


  「この魔石、誰が作ったんですか?」


  「え、ゴータ様と言う冒険者様ですが。」


  「その方が、この弓に魔法陣を入れられたんですか?」


  「え、魔法陣?何ですか、それ。」


  「マロニー嬢のお話を聞きますと、この魔石には7つの魔法を付与する触媒としての機能があるようですが、その他にもハンドル部分に4つの魔法陣が刻み込まれていますね。気が付かないようですが、光に当てると浮かび上がってきます。ハッキリとは分かりませんが、『魔力強化』、『魔力加速』、『魔力操作』、『魔力蓄積』の魔法陣だと思います。過去の魔弓に似た魔法陣が刻まれていたとの記録があります。この魔法陣も、その冒険者様が刻まれたのですか?」


  「いえ、知らなかったので、でも、多分そうだと思います。」


  「普通、2個以上の魔法陣を刻もうとすると素材が持たずに砕ける事が多いのですが、これは驚きの技術と知識です。伝説級か神話級の魔道具師でもなければ、このような技を使う事はできません。その方は、一体どんな方なんですか?」


  「はあ、『C』ランク冒険者と言ってました。」


  「はあ?冒険者のことはよく分かりませんが、そのランクって特別なんでしょうね。」


  いえ、私の知識では、冒険者になって5年程度でなれる普通レベルと思うんですが。ちなみに、この魔弓を買うとすると幾らくらいするか聞いてみると、過去に例が無いけど、1つの魔法属性が付与できる魔弓で金貨1000枚以上はするそうだ。この魔弓は天文学的価格が付きそうだと言っていた。まあ、売らないけど。


  帰りにリッカーさんの所に寄って、コテツとエスプリの点検をお願いしたら、3日くれと言われた。まあ、今回はそんなに使ってないからかなと思ったが、『使い方が激しい。』と怒られちゃった。でも、刃こぼれがほぼ無いのは、『剣の理』に合った使い方をしているからだって褒められちゃった。


  2月1日、ハンス市に向かう『人間化計画』キャラバンの馬車に乗った。メンバーは前回と一緒だったんだけど、やはり慣れている人たちの方が良いわ。ハンス領内に入ると、いくつかの小さな村があったので、そこで『人間化』をしながらキャラバンは2月6日、ハンス辺境伯領の領都ハンス市に到着したの。驚いた事に、領主騎士のグラナダさんが城門のところまでお迎えに来ていたの。久しぶりに会ったグラナダさんは元気そうだったけど、城門の上に


  「歓迎 聖女マロニー御一行様」


  と大きく書かれた横断幕が掲げられていた。なんかものすごーく恥ずかしいのですが。馬車を降りてグラナダさんに挨拶をしたの。


  「お久しぶりです。グラナダさん。お元気でしたか?」


  グラナダさんは、この世界に来て一番最初に出会った女性で、その時に『グラナダさん』と呼んでいたので、今もそう呼んでしまう。本当は騎士爵かもしれないので、様付けが適当だったかも知れない。


  「う、うむ。久しいな。しかし、マロニーちゃんが今をときめく『聖女様』だったとは驚いてしまったよ。」


  あれ、グラナダさん、緊張してるみたい。私は、自分で『聖女』なんて言ったこともないし、単なるメイドで冒険者で小学校4年生なんだから。あれ、ちょっと無理があったかしら?グラナダさんと、他の騎士さん10人位の先導でハンス辺境伯邸に向かったんだけど、グラナダさん以外は、全員人間族だった。あれ、こんなに人間族の騎士さん達っていたかな?


  この前来た時は、お屋敷に行かずに、街に入って直ぐに別れたから分からなかったけど、辺境伯様のお屋敷って、石造りで、周りが堀に囲まれている、まるで砦みたいなお屋敷だった。少し高台になっていて堀の水面はかなり深い所にある。普通の人が落ちたら絶対に昇って来れないだろうね。正門は跳ね橋が架けられていて、街の敵が侵入しても、この屋敷で籠城できるような作りになっている。さすが辺境伯のお屋敷ね。


  公邸も石造りで、敷地内の西側にあるんだけど、3階建てで、それだけで堅固なお城になってるみたい。ハンス辺境伯様の奥様とご令嬢、それと執事やメイドさん達が大勢で迎えてくれた。私は、馬車から降りて、奥様にご挨拶したのだけれど、メイド服を着た私を見て吃驚していたみたい。


  玄関を入って、奥に階段のある大きな広間には、真っ赤な絨毯が敷かれていて、その先に70歳位のリッチ族の男性がいらっしゃった。この方が、ボンネビル・フォン・ハンス2世辺境伯様だった。後で聞いたら、108歳だそうだ。奥様もリッチ族で、今、85歳だと教えてくれた。お嬢様もリッチ族で、41歳だが、見た目20代後半という感じの方だった。


  私は、ハンス様の手前3mの地点で立ち止まり、スカートを両手でつまみ上げ、左足を後ろに曲げ、右足の膝を少し曲げて、そのまま姿勢を低くするカーテシーによる礼をしながら、


  「ご機嫌よう。初めて辺境伯閣下のご尊顔を拝し奉り、恐悦に存じます。私は、マロニーと申す小物でございます。この度は、3賢人様よりの依命により罷り越しました。ご厚誼、ご鞭撻の程をお願い申します。」


  まあ、どこに行っても決まりきった口上なのは、貴族社会では当然で、貴族に仕えるメイドの嗜みとして、これ位言えるのは当然ね。


  ハンス辺境伯様は、このような正式の口上を受けた事がないようで、目を白黒していたが、王都出身者の奥様は、扇で口元を隠してニコニコ笑いながら、


  「ご丁寧なるご挨拶、痛み入ります。さあ、こちらでお寛ぎ下さい。」


  と、奥の部屋に案内してくださった。そこでお茶を飲みながら、寒暖となったが、グラナダさんも同席していた。顔見知りでもあり、前回、大したお礼もないまま別れてしまったので、奥様に大層怒られてしまったそうだ。


  ご挨拶も終わったので、一旦、部屋行く事になるが、その前に、ここにいる人だけ『人間化』をする事になった。もう、皆様、ソファに座ったままで良いですから、リラックスして下さい。


  私は、右手を上げて、『聖なる力』の光を皆さんの頭上に広げ、そのままスッポリと覆い尽くしてしまう。私は、奥様のお顔を見ていた所、みるみる若返っていった。


  ハンス辺境伯様  39歳


  スザナ奥様  22歳


  ベネッセお嬢様  15歳


  グラナダさん  13歳


  あ、リッチ族の方々の若返り度ってすさまじいのね。奥様なんか、直ぐに立ち上がって姿見の前で、ご自分の姿を確認されている。ベネッセお嬢様なんか泣き始めてしまった。あれ、グラナダさん、別の意味で泣いているみたい。


  そう言えば、リッチ族ってブレナガン伯爵様以外は、王都で見かけただけだったわね。奥様とベネッセお嬢様は、これから街にドレスを買いに行くと言ってハンス辺境伯に止められていたわね。奥様は、当然、出産適齢期だし、お嬢様も結婚適齢期になったばかりで、これからは数多い人間族の男性の中から、婚約者を選べるのですもの。良かったですね。


  執事さんやメイドさん、それに使用人の方達が大勢、広間で待機されていた。皆さんの『人間化』は、夕食後という事で、私は一旦2階の客室に案内された。


  お風呂に入って、サッパリして、メイド服を着ようとしたら、どこかに持ち去られていて、代わりの服が置かれていた。白のブラウスに白のスカート。そして白のフード付きローブだ。フードの縁と、胸の合わせの所には、金糸で飾り模様が刺繍されている絹製の上等なものだ。うーん、物語に出てくる『聖魔道士』が着ているものを模しているのだろう。でも、このローブ、内側がダウンになっていてとても温かく、そして軽いの。あ、これもありね。


  ローブ姿の私を見て、執事さん達は感嘆の声をあげている。年配のメイドさんは、膝間づいて手を合わせている。あのう、それって違いますから。メイドに祈らないで下さい。

マロニーちゃん、解錠も得意でした。

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