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第2部第225話 聖女様マロニーその11

(1月15日です。)

  院長先生とヘラーさんの3人で、お話し合いをした。この孤児院を食い物にしているのは、ゲスパと言う裏社会のボスで、西町の魔人街に事務所を持っているそうだ。金になることは何でもする街の嫌われ者だが、騎士爵様の1人を後ろ盾にしていて、市民からの訴えも、もみ消してしまうらしいのだ。


  あの子達も、最初は下の子達からパンを巻き上げるくらいだったが、その内、院長先生やヘラーさんに小遣いをせびりにくるようになり、半年くらい前に、ゲスパと共に現れて、毎月の借金をお願いされたのだ。もし断れば、『この付近は放火が多いので気をつけたほうがいいですよ。子供達が可愛いならね。』と脅されたそうだ。


  子供達のことが心配で代官所にも相談に行けず、仕方なく言われるがままにお金を渡していたのだった。


  「分かりました。私が、伯爵様にこの件を伝えておきますので、来月から来ることは無いものと思われます。」


  「本当ですか。有難う。有難う。」


  院長先生、涙を流して喜んでいる。さあ、次のお仕事があるから、帰らなくっちゃ。私は、テーブルの上に金貨10枚を置き、


  「これは僅かばかりですが、子供達に栄養のある物を食べさせて下さい。勿論、お二人もね。」


  そう言って、孤児院を出た。もう悲しみの気配はなく、元気な子供達の声が聞こえている。私は、真っ直ぐに西の魔人街に向かった。ゲスパの事務所は直ぐに分かった。貧しい魔人街にあって黒く塗られた大きな建物で、入り口にはガラの悪そうな魔人族の男が何人か見張りをしていた。うーん、どうしようかな。事務所の中に入ってもいいんだけど、返り血を浴びたく無いしなあ。よし、外に出してしまおう。私は、『虹の魔弓』を取り出し、矢を1本だけつがえた。火をイメージして力を鏃に流し込む。矢尻が見ていられないほど赤く光っている。距離は200m、漸く見張りの男達がこちらの光に気がついたようだ。メイド魔法『身体強化』をかけてから、矢を放つ。赤い光線が事務所の玄関ドアをぶち抜いた。中で、爆発があり、炎と黒い煙が立ち上って行く。あれ、見張りの男達が居なくなっちゃった。


  次矢は、水をイメージする。氷よりも水の方が良いと思ったの。辺りに延焼しないようにね。3本ほど打ち込んだら、白い煙になったんで火は消えたみたい。さあ、後は、待ち構えましょう。矢を3本つがえて誰かが出てくるのを待っていたんだけど、誰も出て来ない。まさか、終わったの。


  ゆっくりと事務所の中に入って行く。きな臭い煙を吸わないように辺りを見渡す。あ、誰もいない。いえ、生きてる人がね。あ、あの子、孤児院に来ていた子達だ。もう孤児院には来ないでね。来れないだろうけど。


  2階に上がって行く。弓と矢筒は収納し、『投げビシ』を右手の指の間に挟んでおく。2階の状況も酷かったけど、まだ生存者がいるみたい。あ、あの男は駄目ね。腸がはみ出している。お、この男は大丈夫そう。じゃあ、お腹に『投げビシ』を撃ちこんでと。


  とどめを差しながら一番奥の分厚い扉の前に行く。ドアを開けようとしたけど、鍵が掛かっていた。こんな物理的な鍵など、メイド魔法『解錠』で、完全無力化よ。ドアを開けて中に入ろうとしたら、上段に振りかぶっていた剣を振り落としてきた男がいたけど、ちょっと下がったら、ドアの上枠に剣が引っかかったみたい。馬鹿ね。邪魔だから蹴りを入れたら向こうの壁まで吹っ飛んで動かなくなっちゃた。中に入ると立派で大きな机があって、その陰にいかにも裏社会のボスという感じの男がいた。ゲスパだろう。首が太くて短く、髪を丸坊主にしているんだけど、斜めに刀傷が大きく入っている。ゲスパ、金色のショートソードを持っているんだけど、馬鹿じゃあないの。金なんかいくら合金でも剣としては柔らかすぎて役に立たないわよ。


  「お、お前は誰だ。な、何をしに来た。」


  説明するのも面倒だけど、聞きたい事もあるし


  「私はマロニー、メイドよ。孤児院に酷いことしたから仕返しに来たの。でも、今直ぐ死にたくなかったらあなたの後ろにいる騎士様のお名前を教えて。」


  「だ、誰が言うか。俺が殺される。」


  「じゃあ、今、殺されなさい。」


  ゲスパの右腕の肘関節に『投げビシ』を投げ込む。右腕が金色の剣ごと吹き飛んだ。


  「ぎゃーっ!痛え、痛え。他、助けて、な、何でも言うから、た、助けてくれ。」


  この手の男は、他人の痛みには冷酷な笑いを浮かべるくせに、自分の痛みには免疫が無いようだ。


  「で、だあれ?」


  「ドルチェだ。ドルチ騎士爵だ。」


  「証拠は?」


  「この金庫の中に、賄賂の領収書が入っている。見てくれりゃあ分かる。それより、血を、血を止めてくれ。このままだと死んじまう。」


  私は、ゲスパを蹴って退かすと、後ろの金庫の扉を開ける。金庫のダイヤルなんて、有って無いようなものよ。一瞬で解錠した事に、ゲスパは痛みを忘れたようだ。扉を開けることと自分の命を交換条件にしようと思っていたらしいのだ。金庫の中には、大量の金貨と借用証文などが入っていたが、ドルチェ騎士爵の領収書は直ぐに見つかった。


  「なあ、あったろ。だからよう。助けてくれよ。このままだと、死んじまうよ。」


  「じゃあ、死んでね。」


  ゲスパの短い首に『投げビシ』を3個ほど打ち込む。ゴロン!首が床に転がった。


  ドルチェの領収書と金貨を全て押収してから、手をかざしてしょぼい火を借用書に着けて置く。風を吹かせて燃え上がらせた。ゴータ様みたいに威力のある火球を出せれば、あっという間に終わるんだけど。


  最後に、生き残っている者がいないことを確認する。あ、大切なものを忘れていた。ゲスパの持っていた黄金のショートソードを回収する。あれ、これって鞘と柄の部分が純金かも知れない。馬鹿なものを作るわね。重いだけじゃ無い。よし、これはオークションにかける事にしたわ。後、ゲスパが握っていたので気持ちが悪いから、全体を『ウオッシュ』しておこうっと♪


  ドルチェはどうしよう。許す気はないけど、取り敢えず、ギリム男爵に証拠と共に事情を話しておこう。代官屋敷に向かう前に、もう一度、孤児院によってヘラーさんに今まで貸していたお金を渡して置く。金貨60枚を渡したら多すぎると言われたけど、貸したお金には利息が付くのよ。これメイドの常識。と言うことで一件落着ね。





  代官屋敷は、街の中心にあって、前半分が行政庁、後ろ半分が代官公邸となっている。行政庁からも公邸に行けるが、正面玄関は南側に回り込んだところにある。警護の騎士さんに来訪の趣旨を告げると直ぐに中に案内してくれた。


  お屋敷の中は、慌ただしい感じがした。私達の護衛をしてくれた騎士さんに事情を聞いたら、私達が捕らえた山賊達を護送してきて、騎士隊本部に帰着したと同時に西町にある犯罪組織のアジトが何者かに襲われ、構成員全員が惨殺されると言う事件が起きたそうだ。それで、事件処理のため全ての騎士達が招集されているとの事だった。


  シスター達が、何故かジト目でわたしを見ている。ブローニーさんが、小声で


  「マロニー様、私達と別れられてからどちらに行かれましたか?」


  「武道具屋さんとスイーツ屋さん。」


  「その割には、お戻りが遅かったようですが。それからは?」


  「私立孤児院に行ったわ。」


  「何をしに?」


  「子供が、チンピラにやられて死にかけていたの。」


  「まあ、そうですの。そのお子様は助けられたのですね。」


  何も言わずに頷いた。


  「それで、そのチンピラはどうなりました。」


  「死んだ。」


  ブローニーさん、大きなため息をついて、


  「それで、これからどうなさるのですか。」


  「代官様に全部話す。」


  「そうですね。それがよろしいですね。」


  ブローニーさん、天を仰いで祈りを捧げている。死んだ人たちの冥福を祈っているのだろう。慌てて私も真似をして手を組み天を仰いだ。天の神様、今日は何人か分かりませんが、命を奪ってしまいました。罪深き私をお許しください。うん、これで大丈夫。




  結局、この日は事件のことを代官様に話す時間はなかった。翌日、朝食後に事件のあらましを代官様に話すことができた。ドルチェ騎士爵の事は、騎士団長様立ち会いの元、尋問する事になったのだ。正面に男爵様と団長様が座り、ドルチェは丸腰で椅子に座らせられている。後ろの左右には、尋問官が立っていた。私は、ドアの近くで立って聞いている。尋問するのは団長様だ。


  「ドルチェよ。お主がゲスパから賄賂を貰っていたと言うのは本当か?」


  「滅相もございません。その金は、昔、奴がまともな時に貸した金を返して貰ったものです。借用書を確認してください。」


  狡い男だ。昨日、ゲスパのアジトを捜索した際、借用書などは全て燃えていたことを確認してるはずだ。


  「しかし、この借用書は1枚だけじゃあ無いんだよ。毎月毎月、結構な額がお主に渡っているのじゃが。」


  「それは、何かの間違いでは。私のサインなど、いくらでも真似出来ますから。」

  「ううむ、それはそうじゃが。」


  「団長閣下様、一つ提案があるのですが?」


  「おお、マロニー嬢殿、何か考えがあるのか?」


  「はい、この者を無罪放免、釈放されてはいかがでしょう。勿論、裏社会の者と繋がりがあったと言う騎士として有るまじき行為により、身分剥奪、免職とするのです。」


  「いや、それでは余りにも手ぬるすぎるのでは。」


  「大丈夫です。私に考えがあります。」


  ドルチェは、勝ち誇ったような顔で振り返って私を見た。


  「ドルチェ様、これで貴方は騎士でも何でもありません。この街には騎士爵である貴方様を恐れる者は多いでしょうが、平民となった貴方様を恐れる者が何人いますか。ご家族ともども夜道にはお気を付け遊ばせ。」


  まあ、夜まで生かしておくつもりは無いけど。その意味を悟ったドルチェは、ガタガタ震えだし、ギリム男爵に命乞いを始めた。


  「だ、男爵閣下。全てを話します。ですから無罪放免だけはお許し下さい。」


  男の涙ってみっともないわね。ギリム男爵は、黙って席を立った。ドルチェは、背後の尋問官に身に付けている騎士たる証の装飾品を全て剥奪され、代官屋敷を追い出されて。私も、そっとついていく。後ろを振り返り振り返り、歩いていたドルチェだったが貴族街を出たところで、突然、胴体と頭が切り離されてしまった。誰も見ていなかったことから、一般人の事故死として処理されるだろう。

 

相変わらず、チートの嵐でした。

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