表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
671/753

第2部第222話 聖女様マロニーその8

(1月12日です。マロニー視点です。)

  朝食後、さらに森の奥まで進んでみる。ブレナガン市の猟師さんや薬草採取の方々もここまで来ることはないみたいだけど、本当に鬱蒼とした森だった。小物の魔物が多かったんだけど、私達を見て逃げていくだけの意気地のない魔物ばっかりだったわ。今日は、お昼まで進んだら、引き返すつもりだったんだけど、1度も大型魔物が現れないので、今日は、もう駄目かなとあきらめかけた時に、前方から強い瘴気を感じたの。匂いも腐った死肉、つまり魔物独特の匂いがしてきたので、かなりの大型魔物と思ったわ。ゴータ様も気が付いたようで、こちらを見て頷いていたわ。


  私は、弓に3本の矢をセットしたまま、森を進んで行ったんだけど、木の間からチラッと見えたそいつは、何だろう、ライオンかな。大型猫の顔の周りには立派な鬣があるんだけど、頭にはヤギの角が生えているの。体は、ヤギのように毛深いんだけど、手足の先は爪が鋭い猫の足になっているわ。一番変なのが、背中に蝙蝠のような翼が生えていて、少しだけ地面から浮いているの。あと、尻尾が蛇の頭になって、その頭がこちらを向きながら牙を剥き出しにしている。


  「キマイラだ。」


  ゴータ様が教えてくれたの。私が、冥界図書館の魔物図鑑に載っていた『キマイラ』は、ライオンの頭とヤギの頭の二つが生えているものだったのだけど、こいつは、もっとハイブリッドね。そいつは、私達を見つけたみたいで、ライオン頭が口を大きく開けて、威嚇してきたわ。大きく開けた口に矢を3本打ち込んでやった。勿論、炎の力を込めるのは忘れなかったの。口の中で爆発が3回あったんだけど、口を閉じてしまって、威力を消し去ってしまったみたい。絶対、あれってチートだわ。構わず、次々と矢を放っていくけど、分厚い毛皮が邪魔をして、致命傷を与えることが出来ないみたい。そのうち、そいつはかなりの高さに飛び上がったのだけど、逃がすものですか。私も、メイド魔法『空間浮遊』で、同じ高度まで浮かんで、どんどん矢を射ていくわ。致命傷ではなくても、やはり刺されるのは嫌みたいで私の方に向かってきたの。私の『空間浮遊』は、浮かび上がるだけで、横の移動は風を起こして徐々に進む程度なので、凄いスピードで迫ってくるキマイラを右に左にかわすなんて絶対に無理。あ、これって終わりなの。私、思わず目を瞑って右手を前に出してしまったの。でも、何も起きなかった。あれ、どうしたのかな。そっと目を開けたら、キマイラは、どこにもいなくて、ゴータ様が剣を持ったまま浮かんでいた。


  ゆっくり地面に降りて行く。身体の震えが止まらない。助かったのだ。あのままだったら、間違いなくキマイラの顎門に身体を挟まれ、晩御飯になっていただろう。


  「空中で自在に動けぬのなら、空中に浮かんでの戦闘は避けるべきですよ。」


  「ひ、ひゃい!は、反省してます。」


  キマイラに矢を打ち込むことばかりを考え、選曲を考える余裕が無かった。私のメイド魔法『空間浮遊』は、荷物を浮かばせて移動しやすくすることがメインの目的だ。飛翔用では無い。相手が空を飛ぶ魔物なら、右に左に自由に移動できるのは自明の理。そんな魔物に、ふんわりと浮くことしか出来ない私が、同じ土俵で戦って勝てる訳なかった。やはり、あの時は地上からの高射攻撃しかなかった筈だ。でも、私の弓って何m位の高さまで有効なのかしら?


  「マロニーちゃんは、『浮遊』と『飛翔』って同じ性質の魔法だって知っている?」


  「え?そうなんですか。でも『飛翔』って、すごい速度で自由自在に空を駆け巡るじゃあありませんか。私のように、単に浮かぶのとは大違いですよ。」


  「じゃあ、その浮かぶのってどうしているの?」


  「え、それって『浮かんで!』って念じて手をクイっと上に向ける感じで。普通は、家具や水の入った桶を持ち上げるんですけど、私は、その力で自分自身を持ち上げているんです。」


  「うん、その持ち上げる力って、重力に反して上に向ける力だよね。それを、横に移動する力にしてごらん。こういう風に。」


  ゴロタ様は、その辺の小石を浮かばせて、スーッと横に移動させ、自分の周りをクルクル周回させている。あ、あれなら重く無いから出来そう。でも、上に持ち上げる力と、横に移動する力が同じなんて考えもしなかったわ。あ、やってみよう。えーと、まず、あの小石を持ち上げてっと。手の平を上に向けてクイっと。うん、ここまでは簡単。次は、あれを横に動かすのね。手の平を横に向けてクイっと。おお、出来た!じゃあ、それをスーッと。あ、簡単かも。手の平をクルリンと。あ、小石も回った。じゃあ、もっともっと回してと。うん、次は私の周りを。ヨシヨシ。


  もっと早く。もっと早く。もっと早く。もっと早く。もっと早く。もっと早く。もっと早く。もっと早く。もっと早く。


  何か、小石が赤くなって来たわ。あれ、どうして。でも綺麗。赤い輪ができちゃったわ。あ、消えた。何で、どうなったの?


  この時、あまりに早く円運動をしていた石が空気摩擦で熱を持ち、溶けて消滅してしまったことに気が付かなかったマロニーだった。ゴロタは、頭を抱えてしまった。何だ、この子は。念動の力が人並み外れている。あんな小さな円で移動させることさえ驚異なのに、小石とは言え空気抵抗で溶けて消滅させるなんて、常識では絶対に出来やしない。


  ゴロタ様が、そんな事を思っているなんて全然感じない私は、面白くなって、いくつかの石を動かし始めたの。あ、この石は、あの木の周りを回って来てから、低く周回させてと。あ、あの石は縦に回転させて、そのループの中を、あっちの石が潜り抜けるの。これって、面白い。


  「もうそろそろ、危ないから、それ以上石を回さないでね、これが出来たなら、自分の身体を左右、前後に動かすのも簡単だよ。でも今日はやめておこうね。」


  まっぷたつに分かれたキマイラの体から、牙や爪、皮や尻尾を剥ぎ取ってから、魔石を回収する。これはデカい。虹のように青から赤へと綺麗なグラデーションが特徴的な魔石だった。キマイラの胴体は、ヤギの胴体なのだが、毒の尻尾がある事から、お肉も食べない方がいいかも知れない。さあ、これでゴータ様との楽しい魔物狩りも終わった。後は、お昼を食べて、帰りましょう。


  ゴータ様が、私に弓を手に取って色々見ている。ハンドル部分に開いている魔石用の穴を見ていて、今のキマイラの魔石を割って手頃な大きさにしてしまった。それを手の平に握っていたら、ボーッと赤い光が包んでいた。光が消えて手の平を開いたら綺麗な正円の魔石があった。みる角度によって赤かったり、青くなったり。


  「綺麗!」


  「この魔石は、キマイラの魔石からしか作れないんだけど、こうやって、この弓に挟み込んで、それからこうしてと。」


  言いながら、手を上に向けて、何か念じていると、大きな魔法陣が空中に浮かび上がり、それを嵌め込んだ魔石に向けて投影したの。


  「さあ、これで良しと。」


  「あのう、何を?」


  「うん、なんて言えばいいかな。マルチ魔弓かな。特に力を流さなくても、『火』、『氷』、『雷』、『風』、『光』、『聖』そして『治癒』の7つの力がイメージするだけで矢に纏わせる事が出来るんだ。試してご覧。」


  早速、試してみる。火をイメージしながら矢をいると、真っ赤な光に包まれた矢がまっすぐに飛んでいって、木に当たると、あっという間に燃え上がってしまった。


  「イメージ次第で、爆発したり溶けたりと作用は色々だから、対象に応じたイメージを持つ事が大切なんだ。」


  凄い。ゴータ様は『C』ランク冒険者なのに、こんな事が出来るなんて。人間って皆そうなのかしら。でも『マルチ魔弓』は無いわね。ネーミングセンスは最悪ね。


  「虹の魔弓。」


  「え?」


  「この弓には『虹の魔弓』という名前を付けさせて頂きますの。宜しいでしょうか?」


  「あ、そうだね。その方がカッコいいね。マルチじゃあねえ。うん、それがいいね。」


  ゴータ様の了解も貰ったし、さあ、それじゃあ昼食にしましょう。」


  今日のお昼は、ベーコンと玉ねぎの刻んだ具が入ったスクランブルエッグにして、マヨネーズにあえてから、長いパンを二つに切って挟んだエッグサンドにしたの。お好みでケチャップとジャムを乗せても良いんだけど、ゴータ様、ケチャップをたっぷり掛けていた。飲み物は、甘いミルクティーにしたんだけど、冬空の下で飲む温かいお茶ってとっても美味しかったの。


  さあ、帰りましょう。荷物を片付けて帰ろうとしたら、ゴータ様が私の手を握ったの。え?手を握って帰るんですか?恋人みたいに!


  ちょっとドキドキしたんだけど、違ったみたい。そのまま浮かび上がり、50m位、浮かんでから水平移動を始めたの。ちょっと速い、早すぎる。私の身体が水平になって、2人で超高速に飛んでいくんだけど、冷たい風も当たらず、眼下を流れる風景に驚くばかり。『飛翔』って、こんなに速いの?それともゴータ様の『飛翔』だけが凄いの?あっという間にブレナガン市の北門近くに着いてしまったの。


  「それじゃあ、ここでお別れするから?」


  え?もう、お別れなの?そんな。今夜は、伯爵様に紹介するつもりだったのに。でも、冒険者って忙しいのよね。色々と依頼を受けていて、それをこなして行けるのが一流の冒険者だって事位知っているわ。


  「有難う御座います。あのう、またお会いする事が出来ますか?」


  「うん、ゴロタ帝国領の領都にある冒険者ギルドで聞いたら分かる様にしておくよ。じゃあ、頑張ってね。」


  「はい、必ず会いに行きます。ゴータ様もお元気で。」


  あれ、何で涙?たった2日だけ一緒に居ただけなのに。そんな泣いている私の頭を撫でてくれてから、そのまま北門から街に入らずに、西に向かって歩き始めた。私は、いつまでも手を振ってサヨナラしたんだけど、ゴータ様は一度も振り返らず、あっという間に見えなくなってしまったの。


  有難う御座います。今度会う時は、もっと強くなってますからね。約束します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ