第2部第221話 聖女様マロニーその7
(1月11日です。マロニー視点です。)
夕方まで、森の中を進んで、遭遇した魔物は『ポイズン・アナコンダ』1匹だけだった。虫系が出てこなかったのは良かったけど、もう少し出てきても良い気がする。しかし、こいつの悪質さは半端じゃなかった。大きな木の上でトグロを巻いているが、気配を消していて、下を通る獲物に毒液を垂らすのだ。毒液は、皮膚に浸透するタイプのもので、頭や首筋にかかると即死級の中毒になってしまう。
それと、通常樹上に捕食系の獣や魔物が居れば、字面には食べ残しや骨が散乱しているものだが、こいつは骨まで消化してしまうようで、何も残っていないのだ。それでも垂れてくる毒液で、下草が茶枯れているので、注意深く見ていれば気がつくかも知れないが、私は全く気が付かずに毒液を浴びてしまった。
ビチャッという音と共に首筋に何かが掛かり、思わず手を首筋にやってみると、手の平が紫色になってしまった。
「わ!何これ?気持ち悪〜い。」
手の平についた紫色の液体をパッパッと払い落とし、『クリーン』を掛けて置く。首筋にも『クリーン』を掛けていると、上からドサッと何かが落ちて来た。慌てて飛び下がってみると超大型のアナコンダだった。普通のアナコンダは精々10m位の長さで毒はないが、こいつは毒持ちの上に20m以上の長さがある。胴周りも太くて直径が70〜80センチはありそう。これではエスプリでは切り落とせない。私は、コテツを抜き、上段に構えた。アナコンダは、鎌首を持ち上げて来た。私は、思いっきり前にジャンプしながら、コテツを袈裟斬りに切り下ろし、アナコンダの向こう側に着地したの。
アナコンダは首を切り落とされても、切り口から毒の液を振り撒きながらビタンビタンとのたうち回ってるの。げえ!気持ち悪い。もう、遠くから見ていて息絶えるのを待つしか無いわね。そう思って見ていると、『ウインドカッター!』という声と共に10本位の風のリングがアナコンダの胴体を切り刻んでいた。すっごい!もう、一瞬でアナコンダの輪切りが出来てしまった。流石のアナコンダもご臨終ね。でも、ゴータ様、火魔法に氷魔法に風魔法、それに浮遊魔法と空間収納って、多彩な魔法を使いこなしているのね。これくらいできなければ冒険者にはなれないのかしら。私、魔法は使えないけど、剣と弓の技をもっと高めて、少しでも冒険者に近づかなくっちゃ。
アナコンダの魔石は、頭の下にあったんだけど紫色の毒液にまみれていたので、メイド魔法『ウオッシュ』で綺麗に洗い流してからゴータさんに渡そうとした。
「それは、一番最初に首を刎ねたマロニーちゃんが貰うべきだよ。それより、毒液を浴びていたけど、大丈夫?」
「ああ、本当だ。ウエー、気持ち悪い。」
「いや、そこじゃあ無くって、身体の方?何処か具合悪く無い?」
「ええ、大丈夫みたい。私って、毒、あまり効かないみたい。ちょっと洗って来ますね。」
私は、走ってゴータさんから見えない所まで行き、服と身体をメイド魔法『ウオッシュ』で綺麗にしたの。後は『ドライヤー』で服を乾かして元通りよ。ゴータさんのところに戻ると、アナコンダの首の下辺りを切り開いていた。紫色の大きな毒腺を切り取り、空間収納にしまっていた。
「この毒腺、売れば結構なお金になるんだよ。」
「そうなんですか。でも私、遠慮します。なんか汚そうだし。」
「マロニーちゃんは、変わってるね。ポイズン・アナコンダの毒を浴びて平気なのも驚いたけど、お金にも執着が無いんだね。」
「えーと、お金が欲しい時は魔物を狩ったり、悪い人から奪ったりしているので、余り困っていません。」
「うん、そう言えば『コカトリス』を狩ったって言っていたよね。石化の呪いを受けなかったの?」
「なんか、体に当たっていたような気がしていたんですけど、はね返していたみたい。」
「もしかすると、マロニーちゃん、『防御』スキルか『状態無効』スキルを持っているかも知れないよ。」
「えー!私、メイドですよ。そんなスキル持っている訳無いじゃ無いですか。」
この日は、後、ヤマドリを何羽か撃ち落として野営の準備を始めた。水の匂いがしたので、探してみると小さな泉があったので、そのそばでキャンプすることにしたの。適当な木の枝を拾って来てそ中のして、その間に防水布を貼ってテントみたいにしようとしたら、ゴータさん、丸々完成したテントを取り出してきた。あ、なんか立派そうなテントで、床にはあらかじめマットがしいているの。凄いな。
私は、ちまちまとキャンプ用のテーブルセットとティーセット、それに食器類を出して、お茶の準備をしたの。それから、地面の槌をチョコチョコ固めて小さなバーベキューコンロを作ったら、その辺の小枝をセットして、手のひらで小さな火を出し、小枝に火を付けたわ。大きな枝をナイフで切ってコンロの準備はおしまい。イノシシの太もものお肉と、山鳥の太もものお肉を適当な大きさに切って、金串に差したんだけど、お野菜も必要なので、空間収納からネギとシイタケを出して交互に差しておいた。塩と胡椒と秘伝の旨味粉を掛けてから焼くんだけど、火に近すぎても遠すぎてもうまく焼けないのよね。
あと、鍋に水を張って、ヤマドリの骨ガラから出汁をとって、それにジャガイモと人参とタマネギを小さく切っていれておいたの。最後に、大きなウインナーソーセージに切れ目を入れてボッチャンといれてから、塩コショウでお味を調整して出来上がり。あ、新鮮なサラダも必要ね。大量に収納しているキャベツとレタスを使ったサラダに、小エビをあらかじめ塩ゆでしていた物をまぶして、上からトマトを煮込んで越したケチャップと油と卵黄と酢から作ったマヨネーズを混ぜたソースをかけてサラダの完成。
バターロールを少し火に当ててから、二つに切り、バターとジャムを塗っておいたの。飲み物は、ミルクしか準備していなかったけど、ワインの方がよかったかな。ゴータさん、私が料理するのを見ていて、
「マロニーちゃんは、料理が上手なんだね。」
って言ってくれたの。でも、私が作った料理を食べてから、そう言ってもらえるともっと嬉しいんだけど。でも、料理も気に入ってもらえたみたい。特にヤマドリの串焼きについては、お肉の周りはパリッと焦げていて、中はジューシーと理想通りの焼き上がりだったわ。夕食が終わってから、ゴータ様が長剣の形を教えてくれたの。まず、一通り私の知っている形をやったんだけど、じっと見ていたゴータ様が、誰に教わったのかを聞いていたので、伯爵家騎士団のドンキ団長から教わったと言ったら、剣術の道場とかに通ったことはないのか聞かれたので、ここに来るまで剣術を教わったことはないことを教えてあげたの。ゴータ様が言うには、基本的にはあっているんだけど、細かなところで、少し違うそうだ。特に、足さばきと体の捌き方、それと剣の振り方について、握りから始まって腕の伸ばし方まで、細かなところを直して行かなければならないと教えてくれた。
ゴータ様、ご自分の長剣を『空間収納』から出されたのですが、私の持ってるコテツとよく似た剣だった。銘を『オロチの刀』と言うらしいのですが、何故か同じ人が打った剣のような気がした。その剣を鞘ごと右腰のベルトに差し、姿勢を正してから、一礼し、その後、右手で鞘に手を添えて、3歩前に進んでいく。ほぼ、つま先を放さず前進したのだが、この歩み方から剣の稽古の一環だそうだ。剣を抜いてから、構え方、足の運び、それと剣の振りかぶり具合など、すべてが理にかなっている動きだった。そして、振り始めと剣を止めるときの気合など、私とは全く違う動きなの。今まで私がやって来た稽古っていったい何なの。
今日、一晩では、七つの剣の形すべてを教わることはできなかったけど、一番最初に通して見せてくれた形を思い出しながら形の稽古をするだけで、絶対効果が違うわよね。後は、練習ね。繰り返し、繰り返し練習したわ。手にまめが出来て出血をしたんだけど、『治癒』の力を掛けながら何回も練習したの。そのうち、ゴータ様が『もうやめるように。』と指示されたので、あきらめて、剣を納めたの。月と星の位置から、真夜中になっていたみたい。
お休みの前に、ゴータ様に断って、森の奥に行って、身体を綺麗にしたの。汗臭い身体で一緒のテントでは寝たくないものね。さっぱりしてからテントに戻ったら、すでにゴータ様は眠っていて、私も隣の寝袋に潜り込んで眠ったの。あ、鼾の癖はないけど、疲れ切っていたので心配だわ。でも、眠たいし、どうしよう、どうしよう・・・・zzzz。
朝5時、ゴータさんがテントから抜け出すと同時に私も起き出したの。真っ暗な中でも、夜目が利くので問題がないけど、メイド魔法『ライト』で周囲を明るくしたの。あ、未だ顔を洗ってなかったし、髪だって乱れていると思うんだけど、まあ、薄暗いから大丈夫ね。
今日も、昨日教わった長剣の形を何回も何回も繰り返すの。2時間後、ついに『七の形』まで、細かくゴータ様に教えて貰ったの。ゴータ様の教えでは、これでほとんどの魔物は殲滅できるだろうけれど、後は武技『斬撃』が使えるように練習した方が良いと言われたの。『斬撃』って、知らないんですけど。ゴータ様、ご自分の剣で見せてくれたんですけど、剣を横に払っただけなのに、剣から水平に光が迸って、向こうの大木5本位を一遍に切り倒してしまったの。どうやら、剣の勢いに自分のエネルギーを加えて放つ技らしいわ。あれ、これって、以前、パーティで剣の形を見せた時に、少しだけでた光に似ているわ。あ、剣に力を込めるのね。剣の形の最後の止めの時に、力を込めてみる。あ、出た。光が無効に飛んで行って木を一本切り倒してしまった。あとは、威力の調整ね。ゴータ様、教えてすぐできたことに驚いていたようですけど、以前、似た状況の経験があっただけなので、決して才能があるわけではないので、誤解なさらないでくださいね。
マロニーちゃんは、知らないみたいだけど『明鏡止水流』の形を覚えました。




