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第65話 クイール市、壊滅

  いつもは、ゴロツキがやっつけられておしまいですが、今日はちょっと違います。この街の出来事が、これからのゴロタの生き方を決定します。

  「何だと、人が優しく注意していれば。大体、エルフが人間様に依頼なんて10年早いんだよ。」


  どうやら、この男、シェルさんを、依頼を頼みに来たものと誤解しているようだ。


  「このエルフ、ちょっとこっちに来い。」


  あ~~~あ! シェルさんに触っちゃった。


  男が、シェルさんの左腕を掴んだ瞬間、男の身体は3m位、吹き飛ばされた。男の仲間たちが、ガタンと椅子を倒しながら立ち上がった。全部で、4人。


  ボス格らしい背の高い男が、シェルさんに近づいてきた。


  「困ったねえ。エルフが人間に手を出したら、この国では、死刑だよ。」


  男は、スラッと左腰に下げていた長剣を抜いた。ギルドの中で剣を抜くなんて、何を考えているのか。


  「ちょいと、ギルド内は、喧嘩禁止だよ。やるんなら、外でやんな。」


  さっきの、受付のお姉さんが、あきれたような声で注意している。このお姉さん、僕達の冒険者カードを確認しているから、男の方を心配している。


  「フン、ギルドの中では、他の冒険者の迷惑になる。おとなしく言う事を聞くか、一緒に外に出るか、どうする。」


  「言う事を聞くって、何をする気なの?」


  「決まっているだろう、男と女の事だよ。」


  やはり、最初からそれが目的だったようだ。先ほどから、『エルフ風情が』と馬鹿にされて頭に来たシェルさんは、自分から外に出て行った。後に続く哀れな冒険者5人、その後から続く、野次馬となっているミニスカ美少女達と美少年。どんな状況なんですか。


  外に出ると、男たちは、シェルさんを取り囲んだ。ボス格の男が、シェルさんのカッターシャツの胸元を掴もうと右腕を伸ばして来た。シェルさんは、体を左に躱すと同時に、その腕をつかんで、下に引きずりおろす。逆を取られた手にひきずられ、男の身体が一回転して地面に叩き付けられる。それを見た、先ほどの下卑た男が、両手でシェルさんを掴もうとするが、背を低くしたシェルさんが、急に伸びあがったので、顎に頭突きを喰らい、その場で昏倒する。左側の男には、左肘鉄と裏拳を、右側の男には、左膝頭を前蹴りで砕き、最後の背の小さい男に対して、


  「まだ、やる気?」


  と、ニタアと気持ちの悪い笑いをしながら、問いかけたから、その男はズボンの前を濡らしながら、後ろを向いて逃げて行ってしまった。


  シェルさん、『身体強化』、全く使ってませんよね。様子を見に来ていた、ギルドのお姉さんは、僕達に、冒険者達の争いにギルドは関与しないから、どちらが悪いとは、証言しないと言われた。それは、王国でも同じだったので、納得できた。


  ただ、あの背の高い男は、この市の1等官市長ゲスパーの3男で、ギルド内でも親の威光をひけらかす下種野郎だとの事だった。お姉さん、貴重な情報をタダでありがとう。僕は、再度ギルドに入って、依頼ボードを見ていた。変わった魔物の討伐を受けてみようと思っていたのだ。


  シェルさん達は、ギルドに併設されているレストラン兼酒場で、特産の芋の身をすりつぶしたグニュグニュの粒が一杯入った甘いミルクを飲んでいた。いま、この国では、これがプチ・ブームらしい。


  その時、ドカドカと衛士の集団がギルド内に入って来た。王国では、ギルド内は、ギルド自治が尊重され、通常の場合に衛士が入ってくることはない。必要な場合には、ギルドマスターを通じて対処をお願いすることになっているのだ。衛士長が、司法省3等認証官の発行した令状を手にして、


  「この中にエルフの冒険者はいるか?」


  と、大声で怒鳴った。シェルさんが、面倒くさそうな雰囲気を出しながら、


  「それって、私の事?」


  と、テーブルから立ち上がって、衛士長の方に向かって歩いていく。途端に、衛士長の後ろにいた衛士達がシェルさんを取り囲み、シェルさんの腕を後ろ回しにして、手錠を掛けてしまったのだ。


  「ちょっと、何するのよ。」


  「お前には、傷害罪の告訴が出されている。申し開きは、詰め所で聞く。なお、エルフには人権がないので、令状執行の手続きは割愛する。」


  そう言うと、衛士長とそのご一行、それにシェルさんは、ギルドの外に出て行った。吃驚した僕達は、直ぐに後を追った。クレスタさんが、衛士長に追いつき、色々質問したが、何も答えてくれない。まるっきり無視をして、市の中心にある衛士駐屯所に入っていった。僕は、イフちゃんに、頼んで、衛士駐屯所の中の様子を調べてもらった。念話のみならず、『念識』という、イフちゃんと視聴覚を共有する能力で、駐屯所の中が手に取るように分かるのである。


  僕達は、駐屯所の近くにある、レストランに入って、皆で相談を始めた。こういう時には、イレーヌさんが、とても頼りになる。イレーヌさんによれば、上京はこうだった。


  シェルさんは、傷害罪で逮捕されているが、傷害罪は、通常、犯罪奴隷10年が最高の刑であるが、エルフが人間を怪我させた場合には、終身奴隷となる可能性がある。


  裁判は、市内にある司法省出張所内の裁判所で行われるが、先ほどの令状を出した「司法省3等認証官」が裁判官では、ほぼ有罪は確実である。無罪になるには、無罪の明白な証拠を提出して裁判に勝つか、被害者からの告訴を取り下げて貰わなければならない。


  「ちょっと待ってよ。有罪の明白な証拠は必要ないの?」


  クレスタさんが、素朴な疑問を質問した。皆もそう思って頷いている。しかし、その回答は悲観的だった。


  「有罪の明白な証拠かどうかは、司法省3等認証官が認定するのだけれど、きちんとした基準は無いの。被害者が『殴られた、怪我をした。』と言って、それを裁判官が信じれば明白な証拠となってしまうのです。」


  そんな馬鹿なことが有る訳ないと思うが、皆、黙ってしまった。有効な手立てが思い付かない。








------------------------------------------------------------------  

  その内、イフちゃんから、『念識』が送られてきた。取調室に後ろ手錠のまま座らせているシェルさん、その前には、制服姿の衛士が二人座っており、その後ろに先程の背の高い市長の3男が立っていた。


  「坊ちゃん、いくら何でも、これは無茶過ぎますよ。物証ゼロですよ。」


  「ふん、お前は、黙って俺のいう事を聞いていればいいんだ。明日から家族を路頭に迷わせたくないだろ、」


  衛士達は、黙ってしまった。男は、シェルさんの方に近づくと、髪の毛を鷲掴みにして、顔を上向かせ


  「おい、俺のいう事を聞かなかったら、どうなるか分かっているんだろうな。終身奴隷落ちだぞ。え、どうする?」


  と、今にも顔がシェルさんにくっ付きそうにして脅している。


    ぺッ!


  シェルさんが、男の顔へ唾を吐いた。顔を真っ赤にした男が、シェルさんの左頬を平手打ちする。


    バチーン!  


  口の中を切ったのか、口元から血が流れて出してきた。涙を浮かべながら、キッと男を睨むシェルさん。男は腕で顔を拭きながら、残酷な目でシェルさんを見ている。


    ガタン!


  僕が立ち上がった。皆は、僕の見ている『念識』は見えていないので、何が起きたのかと不思議そうな顔をする。


  「てめえ、バカにしてんのか。」


  男は、シェルさんの胸を鷲掴みにしようとしたが、それは不可能だった。頭に来た男は、シェルさんの髪の毛を引っ張って立ち上がらせ、鳩尾にパンチを叩き込んだ。裁判になったときに、支障がないように顔に傷をつけない、狡いやり方だ。あきれた衛士二人は、取調室を出て行った。二人きりになったのを確認した男は、シェルさんのカッターシャツを破ろうとして掴んだその瞬間だった。


   ドゴーーーーーン!!


  駐屯所の玄関ドアと、正面の壁が吹き飛んだ。5人位の衛士が、血まみれになって倒れている。他の衛士も軽傷だが、無事なものはいなかった。衛士長が、部屋から飛び出て来た。僕の姿を認めて、


    「お前は!」


  と言った瞬間に、物凄い風で、後ろの壁まで吹き飛ばされた。衛士長の首が変な方向を向いている。他の衛士達が、剣を抜いて僕に切りかかろうとした。僕が視線を向けるだけで、火だるまになるか、雷撃で大やけどを負った。


  僕は、そのままシェルさんがいる取調室まで行った。ドアを開けると、シェルさんを盾にした、あの男がいた。僕は、手も上げずにその男の心臓に氷の槍を突き刺した。シェルさんを抱き上げ、手錠を見た。頭の中に『開錠』のイメージが浮かび上がったとともに、手錠が外れた。僕は、シェルさんをお姫様抱っこして、取調室から出ようとした。シェルさんが、泣きながら、僕に話しかけた。


    「ゴロタ君、もういいの。もう、怒らないで。」


  しかし、シェルさんが殴られたことはどうしても、許せなかった。殴った男は、もう死んでいる。しかし、あの男の横暴を許している、この国の制度やこの国の人達が許せなかった。お姫様抱っこをしたまま、駐屯所を出ようとすると、200人位の軍人が駐屯所を取り囲んでいた。


  隊列の中には、行政官の服を着た太った男がいた。


  「儂の息子をどうした。このまま、ただで済むと思っているのか。」


  僕は、『サンダーボルト・ストーム』をその男の上に落とした。男を中心に半径10m以内の人間は雷撃により黒焦げだ。また周りの部隊は感電死により殲滅された。もう、僕達を静止する武力は、この市内には無い。


  イレーヌさんは、クレスタさん達と、遠くからこの様子を見ていた。とても恐ろしく、人間のしている事とは思えなかったそうだ。


  今回の事案は、僕の方に理があると思った。しかし、衛士駐屯所を瓦礫の山にし、200名以上の軍隊を一瞬で殲滅した。その時、イレーヌさんは、ゲール総督から密命を受けていたことを思い出した。


  『絶対にゴロタ殿を怒らせるな。国が亡ぶぞ。』


  イレーヌさんは、『何で、もっとちゃんと言ってくれなかったんですか。』と悔しがった。足元に水たまりが出来ていることには全然気づかなかったイレーヌさんだった。

ゴロタって、本当は怖いんです。イレーヌさんの気持ち、わかります。

無詠唱、無動作でアイスランスが突き刺さるなんて怖すぎます。

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