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第2部第219話 聖女様マロニーその5

マロニーちゃん、ゴロタと一緒に初冒険です。

(1月11日です。ゴロタ視線です。)

  午前8時、ブレナガン市の街壁にある北門の前に行く。すでにマロニーちゃんは来ていた。マロニーちゃんの服装は、いわゆる冒険者スタイルだ。オフホワイトのチュニックにピンクの剣帯、緑色のズボンに黒の冒険者靴、緑系統の迷彩ベストに赤の矢筒だ。左腰にはショートソードを提げ、左手にはあまり見ない鋼のリムの弓だ。頭は銀髪のツインテールに鳥の羽の飾りのついた中折れハットを被っている。女の子の正統派冒険者スタイルだ。シェルやエーデル達はミニスカートにこだわりすぎて、どうやっても冒険者には見えない。でも、ポケットのいっぱい付いたベストだけでは寒いのではないかと思って聞いてみたら、異次元空間からカーキ色のダウンジャケットを出して羽織っている。


  「便利な魔法だね。『空間魔法』かい。」


  「いいえ、メイドのたしなみ、メイド魔法の『空間収納』です。」


  あ、訳の分からない魔法が出てきた。メイド魔法って、メイドさんが使う魔法なのだろうが、しかし『異次元空間』に荷物を収納する魔法は、かなり難易度の高い空間魔法の筈なんだが。まあ、マロニーちゃんがそういうのだから間違いないだろう。しかし、『メイドのたしなみ』って、マロニーちゃんの国では、メイドさんは、普通に空間魔法を使っているのだろうか。早速、北を目指して歩き始める。森までは歩いてどれくらいあるのだろうか。かなり遠いように見えるのだけど。


  「ゴータ様、少し早く歩いて宜しいですか?」


  「ええ、大丈夫ですよ。」


  そう言うが早いか、スタスタと早歩き、いや早走りになってしまう。森までは、狩人や樵が往復しているのか道が均されていて走りやすいが、かなりペースが速い。とても10歳の女の子の走る速度ではない。しかも、そのままの速度でずっと走り続けるのだ。森の端までは1時間強で到着してしまった。森には、獣も多いが、やはり瘴気が強く、魔物の存在が感じられる。この瘴気の出所を探し、潰してしまえば魔物の発生も抑えられるのかと思うが、今のところ、それほどの被害が発生していないだろうから、まあ、放置しておいても大丈夫だろう。


  森の中は、マロニーちゃんが先頭で進んでいく。この森には2回ほど来たことがあり、今日は久しぶりに来たらしいのだ。人間界では、ゴブリンやオークなどの亜人種の魔物が出てくるところだが、この世界では亜人種は基本的に人間や魔人族と同じ範疇にはいり、獣種や竜種等の魔物が、討伐対象の魔物になっている。森に入って、30分、マロニーちゃんが魔物の存在を確認したようだ。僕にもはっきり魔物の気配が分かったのだが、マロニーちゃんは、魔物の息遣いや匂い、音などでその存在を感じているようだ。


  マロニーちゃん、足音を消しながら木々の間を抜けていく。すでに弓には矢が1本、番えているが、あと2本の矢羽根の部分を左手で持っている。僕も後から静かについて行ったが、あ、木の上にいた。熊のような魔物だが、かなり大きいし、目が3つ付いている。ホーンベアだ。そいつはまだ僕達に気が付いていないようだ。とりあえず、指鉄砲の準備をしておいたが、それは杞憂だった。マロニーちゃんが、瞬く間に3本の矢を放っている。魔力の放出を感じなかったので、技だけで射っているようだ。しかし、上手だ。3本の矢が3つの的つまり目に的確に当たっており、脳まで射抜いているようだ。ドサッと木から落ちてきたホーンベアに近づいているときには、右手でショートソードを抜いていた。近づいたと同時に首筋を切り裂いてしまい、とどめを刺してしまった。というか間違いなく、最初の矢で絶命していただろう。マロニーちゃんは、そのままホーンベアの足にロープを括り付け、そのロープの端を木の枝にかけて、足を持ち上げようとしている。かなり苦労しているようなので、手伝ってあげるが、重さは1トン近くはあるだろう。10歳の女の子が持ち上げられる重さではないはずだが、ズリズリと引き揚げかけていたのにはびっくりした。この子の筋力はどうなっているんだろうか。


  「マロニーちゃんは、凄いね。いつも一人だけでやっているの。」


  「あ、バーガス君なんかと来た時もあるけど、あの子達、小さくなっちゃったんで、これからは当分一人で来るつもりなんです。」


  いいや、他の子供は絶対に役に立っていないでしょう。マロニーちゃんは、手際よくホーンベアの皮をはぎ、お腹を割いて、胆のうだけを採りだし、それと心臓近くに手を突っ込んで魔石を取り出していた。血まみれになった手を、お椀のようにして、水を生み出して貯めてから手を洗っていた。うーん、水魔法にしては微妙な量だね。でも、水だけで綺麗にしているところを見ると『クリーン』も使っているようだ。


  ショートソードと矢じりについた血糊を綺麗にしてそれぞれ収納していた。あれ、あのショートソード、もしかしたら『聖剣』?聖剣で魔物を討伐し、それと魔物を捌くのに使っているの。それって信じられないんだけど。そのまま、進んでいくと、今度はイノシシの魔物、ファングボア3頭がいた。顎から大きな牙が4本生えている大型のイノシシだ。木々が邪魔をしてかわしやすいかも知れないが、突進の速度は馬鹿にならない。マロニーちゃんは、弓で1頭ごとに矢を1本当ててから、ショートソードを抜き放って走りこんでいった。正面のイノシシの鼻っ柱を正面から切り裂くとともに、返す剣で下あごから脳に向けて突き刺して絶命させた。すぐに右にジャンプをして、今度は真下に向けてショートソードを突き下ろして、イノシシの心臓付近を突き刺してあっという間に絶命させた。残った1頭が逃げ出そうとしたが、ショートソードを左手に持ち変えて、右手で何かを投げつけている。あ、逃げ出したイノシシの足に何かが当たったと思ったら、もんどりうって倒れこんでしまった。すかさずマロニーちゃんが走りこんで、ショートソードでとどめを刺している。


  あ、あっという間に3頭のイノシシを殲滅してしまった。まったく魔法を使わずに体力と技能だけでできることではない。マロニーちゃん、本当に常識外れだね。これからイノシシの解体だが、ファングボアは、通常のイノシシよりも美味なため、肉も持って帰りたいところだ。マロニーちゃん、ショートソードを鞘に納めてから、異次元空間から長剣を出してきた。あ、あれって和の国の長剣みたい。僕の持っている『オロチの刀』とよく似ている。その刀を器用に使って、イノシシの頭を切り落としていく。それから、今度は解体ナイフを使って、牙や毛皮、それに骨以外の肉を半身にして、そのまま異次元空間にしまい込んでいる。魔石は、たいして大きくないが、僕に差し出してきた。いや、僕が貰う理由ってないでしょう。いらないと断ると、首をかしげてから、自分のポケットにしまっていた。長剣の血糊を綺麗に拭き取ってから、納刀しているところを見ると、刀の使い方も理解しているようだ。


  午前中に北の川の辺まで行くことができた。さあ、お昼にしよう。何を作ろうかと思ったら、マロニーちゃん、お皿に盛ったローストビーフサンドとティーセットを出してきた。あと、キャンピング用のテーブルとイスも出してきて、昼食の準備が終了だ。お茶の入れ方も本格的だ。ポットに入れた水は、手をかざして温めていた。火魔法かなと思ったら、これは魔法でも何でもないとのことだった。メイドとして必要な能力で、お湯を温めるとか、茶碗を洗うなどメイドとしてできないなど言えないそうだ。そのため、メイドになった時に一番最初にやらされることで、それが満足にできるようになってからメイド魔法を習い始めるとのことだった。なんか、僕の考えている魔法とは大分隔たりがあるような気がする。


  昼食を食べながら、マロニーちゃんに僕が一緒にいる必要が無いような気がするけどと言ったら、


  「そんなことありません。一人で来たら寂しいじゃ無いですか。それと、私の手に負えない場合には、是非、ゴータ様のお力をお借りしたいんです。」


  あのう、マロニーちゃんの手に負えない魔物って何ですか。想像できないんですけど。あと、さっき使っていた長剣を見せてもらう。異次元空間からさっと取り出して渡してくれた。鞘から抜いてみると、長さ70センチ弱の長剣だ。刃体を見るとやや赤みがった剣だ。きっとヒヒイロカネが使われているのだろう。しかし、こんなに凄い刀を解体用のナイフ代わりに使うなんて、この子の武器に関する知識はどうなっているのだろうか。


  「この剣はどうしたの。凄い剣だけど。」


  「ええ、この街の武道具屋さんから買ったんですけど、『コテツ』という銘がある剣だそうです。大型の魔物を捌くときの刃の長いナイフを探していたら、これを売ってくれたんです。ヒゼンと言うところで作られたと言ってました。」


  頭が痛くなってきた。この子は、10歳にして『ヒゼンの刀』を使っている。それも解体用として。あ、そう言えば、さっき投げていたのは何だろうか。聞いてみると『投げビシ』という武器らしい。あれ、これってイチローさん達『忍び』の人達が使っていた武器じゃないの。これ、かなり練習しなければ使えないはずだけど。でも、さっき見たところ、百発百中だったようだ。使い方と言うか、投げ方を教えて貰って試しに投げてみる。的は30m位先の木の枝だ。思いっきり投げてみたら、的が少し外れて木の幹に当たってしまい、その木が真っ二つになってしまった。うん、威力は申し分ないが、小さな的に当てるのは難しそうだ。あ、僕も、その『リッキー武道具店』という店で買っていこう。


  さあ、食事が終わって午後の部だ。まず、目前の川を渡る必要がある。しかし、川の流れは速く、石等が水面から出ていないため、濡れずにわたることはできない。僕は、『浮遊』と『飛翔』スキルがあるので、問題なく渡れるが、マロニーちゃんはどうするのだろうか。様子を見ていると、僕の右手を握って来た。え、何をするの。


  少し、顔が赤くなってきたが、マロニーちゃん、そのまま浮かび上がっていた。え、『浮遊』?その後、弱い風が後ろから吹いてきて、川の向こう側に進んでいく。ゆっくり向こう側にわたってから、静かに着地した。


  「マロニーちゃん、今のは?」


  「メイド魔法の一つ『空間浮遊』ですわ。掃除をするときや井戸からの水汲みに役立ちますので。」


  ああ、また頭が痛くなってくる。掃除と水汲みで『浮遊』が必要なのですか?これだけの『浮遊』魔法を使えるのは、国家魔導士級でなければ使えませんよ。しかも、自分だけではなく、僕まで一緒に。あ、もしかすると、僕って荷物扱いですか。

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