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第2部第218話 聖女様マロニーその4

マロニーとゴロタの初めての邂逅です。

(1月10日です。ゴロタ視点です。)

  結局、昨日は午後7時まで施術し続けた。午後だけで5時間半1100人に対して『人間化』をおこなっていることになる。


  今日は、午前9時半には今日の会場である北の教会の礼拝室に入っていた。と言うことは、昨日のあのペースだと午前中に400人程度はこなしているはずだ。この街のアンデッド族の数がどの位か分からないが、シェルナブール市と同じ位とすれば、4日で完了してしまう。凄まじいスピードだ。


  フランちゃんの場合、途中、魔力回復薬を飲みながら『神の御技』を使い続け、やっと彼女の半分程度だ。一体どうなっているのだろうか。僕が直接会場に入るわけにも行かないので、イフちゃんに偵察に行って貰った。然し、すぐに出て来てしまった。


  『危なかった。もう少しで完全浄化されるところだった。でも施術する所は見てきたぞ。彼奴、聖剣を媒体に『聖なる力』を発現させておる。それも2種類を意識せずに使っておるのじゃ。末恐ろしい子じゃ。精霊たる儂でも、あれほど凄まじい浄化エネルギーでは、30年は復活できんぞ。』


  あの子は、11時半になると会場を出て『蜂蜜亭』に食事に行き、13時半には、また会場入りしている。お昼休みに往復するには、かなり無理のある距離だが、彼女は全く気にしていないようだ。


  しかし、走っている時、周りの人達は全く彼女に気が付いていない。『隠蔽』スキルか『気配消去』魔法を使っているのだろうか。勿論、僕も『隠蔽』スキルを使っている。


  会場では、人間に戻ろうとするグール人や僅かだがレブナント人が集まっていた。騎士や行政の応援者達が、集まった人間の内、高齢者と思われる人のを確認している。問題がなければ、組と時間を書いた整理券を渡している。あ、今日は1組60人か。礼拝堂のキャパが60人なのだろう。今日も15分ごとの入れ替え制だった。


  午後3時前、黒い三角頭巾を被って、黒い布で体を覆っている一団が現れた。どうやら『人間化』に反対する者達らしい。全部で10人位だ。頭巾に開けられた目の穴から覗いている目の感じから、年寄りのような気がする。


  『人間化反対』


  『グール人に永遠の命を』


  『私も若返りたい』


  最後は、自分の希望を言っている。騎士に追い払われているが、離れたところで、集まって同じことを叫んでいる。騎士達は、彼らを無視して整理を行っていた。今日は、午後4時半には終わった。あの子が教会から出てきた。流石に疲れたようだ。大きく伸びをして、体の凝りをほぐしているようだ。


  「あーあ、やっと終わったわ。同じことを繰り返すのも辛いわね。待ち時間も長いし。ねえ、今度は、広場でまとめてやってみようか。」


  若い騎士が、彼女に返事をしていた。


  「マロニー嬢、変わった事をやって失敗したら大変なんだから。さあ、帰りますよ。もうこの街は終了したし、明後日からは周辺の街や村を回るんだから。」


  どうやら、この街の『人間化計画』は終わったらしい。行政庁の職員や騎士達は馬車に乗って帰るらしいが、彼女は歩いて帰るからと言って、一人残っていた。騎士の一人が『危ないから。』と言っていたが、笑って無視していた。僕は、気配を消しているんだが、こちらをじっと見て首を傾げている。まさか気が付いた?


  僕は、『隠蔽』を『完全隠蔽』にモードを上げて、彼女の注意をそらした。彼女は、首を横に僅かに振ってから、さっきの黒の集団のところに行った。


  「おじいさん達、頭巾を外してお顔を見せてください。」


  皆、戸惑いながらも頭巾を外した。皆、グール人だがかなり年配だ。彼女は、説明を始めた。用心のため100mは距離をあけているが、耳をすませば普通の会話はちゃんと聞こえる。


  「説明は受けたと思うけど、皆様は、人間に戻られても、もう寿命があまり残ってなく、体力のない人間ではそれさえも無くなってしまう、つまり死んでしまうかも知れないんですよ。」


  「嫌、嘘だ。皆、あんなに若返っているじゃ無いか。儂らも若返ってみたいんじゃ。」


  「一度、人間に戻ると、もうグール人にはなれないんですよ。それでも良いんですか。」


  「か、構わぬ。覚悟しておる。」


  「それでは、この中で100歳以下の方はおりますか?」


  誰も手を上げない。彼女は、大きくため息をついた。


  「それでは120歳を超えている方は?」


  一人の男性が手を挙げた。見るからにお年寄りという感じだ。


  「おじいさん、人間になった途端、ご臨終かも知れませんよ。それでも良いのですか?」


  「良い。人間になって死ねるなら本望じゃ。」


  これって絶対に嘘だから。人間だった時がない現代のグール人に、人間に戻ることへの望みなんてあるわけがない。絶対に、人間に戻るための方便に違いない。でも、面白いから黙って見ていた。


  「分かりました。私の周りに集まってください。」


  皆、彼女の周りに群がった。


  「キャッ!近いです。近いです。私から3mは離れてください。」


  老人達は、グズグズと離れ始めた。彼女の周りに円陣が出来上がる。それを見た彼女は、なんと異次元空間から剣を取り出した。それも、詠唱も何もなく、さも、そこにあるのが当然だと言うばかりに。


  剣を鞘から抜き払い、頭上に掲げて瞑想を始めた。剣が赤白い光を帯び、その光が老人達を包み込む。それから青白い光に変化し、最後は白い光に変化した。


  先程の最高齢の老人が崩れ落ちている。人間に戻ったせいで体力が無くなり立っていられないのだろう。彼女は、慌てて彼の元に近づき、右手を胸に当てている。青白い光を流し込んでいる。あの魔力は『ヒール』だ。きっと使えるだろうと思われたが、彼女は無意識に使っているようだ。


  老人は、気がついたようだが、立ち上がることが出来ない。足の筋力が立ち上がるほどの力を失っているのだろう。


  「誰か、この人をご自宅まで届けてあげて。」


  数人がかりで、その老人を抱え上げ何処かに連れて行った。残された彼女は、ショートソードを異次元空間にしまい、僕のほうに向かって歩いて来た。きっと、僕の存在に気が付いているのだろう。僕は、『完全隠蔽』スキルを解除した。


  「ちょっと、あなた。ずっと見ていて何か用?あれ、貴方、昨日『蜂蜜亭』にいなかった?」


  「あ、僕は、えーと『ゴータ』、ゴロタ帝国領から来た冒険者なんだ。」


  「え?冒険者なの!」


  彼女は、僕の全身を上から下まで舐めるように見て、


  「確かに冒険者のようですわね。私は『マロニー』。冒険者を目指す者です。以後、お見知り置きをお願いします。」


  マロニーの口調が変わった。メイド口調だ。しかし、僕の方が吃驚だ。彼女は、メイドにしかみえないけど。いやメイドの格好をした幼女かな?この格好で冒険者になるのかな?


  「ねえ、お願いがありますの。冒険者のこと教えて下さいませんか?私の国では、冒険者がいなくって、本でしか読んだことがないのです。お願い致します。」


  これは無理だ。彼女のこの迫力でお願いされたら、断るなんて出来ない。


  「こんな所じゃあ、あれですわね。そうですわ。ゴータ様、どちらに泊まっているのでしょうか?そちらに参りましょう。」


  「うん、分かった。でも、そのメイド口調はやめてくれないかな。くすぐったい。」


  「まあ、失礼な。80いや私のメイド歴の集大成を。でも、分かりました。普通の口調にしますね。」


  それから、僕の泊まっているホテルまで、貴族街を縦断して向かったのだが、貴族街の城門もフリーパスだったことに驚いてしまった。マロニーは、領主館を示し、


  「今年の3月まで、こちらのブレナガン伯爵様のところにお世話になってるの。それから、ゴロタ帝国領に行く予定なのよ。」


  と教えてくれた。領主館の前に立っていた警護騎士のところまで走って行き、何か話していた。戻ってきて、


  「これで安心。今日は夕食は要らないって断って来たの。」


  「君は、ここのメイドじゃあないのかい?」


  「あら、そうは言ってないけど。私は、元の国ではメイドだったけど、今は、伯爵のお客さん?あれ、何だろう。」


  ホテルに到着した。ホテルのレストランに入り、今日の夕食をお願いする。小さなメイドさんが客席に座っているのは、ものすごく違和感がある。メニューはディナーコースにするかと思ったら、彼女は魚介類のスープとバターロールにした。随分、少食だ。僕は、そのほかにフワとろオムレツも追加注文しておいた。料理に来る前に彼女に質問をした。


  「マロニーちゃんは何処から来たのかな?」


  「荒野の向こうの人間族の国から来ました。そこでは公爵様にお仕えしていたのですが、冒険者になりたくて、メイドを辞めてこちらに来たのです。」


  「人間族の国には冒険者ギルドって無かったのかい?」


  「はい、騎士様達が魔物や盗賊を成敗しておりました。また、雑用は商人ギルドでやっていたようです。」


  この子のいた国とは、この世界ではないようだ。しかも、ゴロタ帝国のある人間界とも違うようだ。公爵家というからには、貴族社会のある国だろうし、この子の肌の色から、もし僕らの世界ならグレーテル大陸しかありえないからだ。そうすると、彼女は異世界からの転移者と言うのだろうか。しかし、自分で望んで来たと言っているようだから、自由に行き来ができる世界なのだろうか。


  「ちなみに貴女の仕えていた公爵様のお名前を教えていただけませんか?」


  「いえ、主家にご迷惑を掛けてはいけませんし、主家の名前を出さないと言う約束でしたので、フルネームはお許しください。ただ『D公爵様』とだけお伝えいたします。」


  「うん、何か事情があるのですね。分かりました。追及はしません。」


  「ありがとうございます。ところで、ゴータ様は冒険者と言う事ですが、冒険者ランクはどれくらいでしょうか。」


  僕は、偽造されている『C』ランクの冒険者証を見せてあげた。マロニーちゃんはチラッとみて、すぐに気が付いたらしい。


  「ゴータ様はヘンデル帝国、うわさに聞く人間界からいらしたのですか。と言うことは、ゴロタ皇帝陛下のお付きかなんかで来たのですか?」


  「まあ、お付きではないんだけど。この世界は魔物が多いと聞いていたので、素材狩りのために転移させて貰ったのだ。これからは自由に人間界とこの世界で行き来できるようにするって言っていたよ。」


  「と言うことは、私も人間界に行くことが出来るようになるのでしょうか。」


  「うん、きっとそうなると思うよ。」


  「はやく、そういう日が来ればいいですわね。あ、この世界のグールやレブナントが人間界に行くと、どうなるんですか?」


  「それは分からないんだ。こちらのアンデッドと、人間界のアンデッドが同じ種族なのかどうかも分からないしね。」


  「そうですよね。まあ、私にはあまり関係はありませんがね。ところで、ゴータ様は、魔物狩りでこちらに来たとおっしゃっておりましたが、ちょうど私も明日、明後日はお休みですので、北の森へ一緒に魔物狩りに行きませんか。私も剣の練習のために強い魔物を狩りたいので。いえ、『B』ランク相当以上の魔物の場合は、あきらめて貰って結構ですから。」


  「ウーン、日程はどうするのかな。」


  「はい、明日、朝8時に北門の前で待ち合わせていただきたいのです。森の中で一泊して川の向こうまで行ってみたいと考えておりますの。いかがでしょうか?」


  「うん、その日程なら、特に予定がないので大丈夫かな。それじゃあ、明日、魔物狩りに行くと言う事で、今日は、この料理を食べてしまおう。」


  どうも調子が狂ってしまう。でも魚介スープは絶品だった。




  

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