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第2部第214話 マロニーは小学4年生その19

(1月1日です。マロニー視点が続きます。)

  今日は、ティタン王国歴2061年1月1日だ。今から2061年前に魔人族を率いる大魔王が人間及び災厄の神々に勝って建国してからの暦らしいんだけど、それって神話の世界みたい。人間社会では、グレーテル王国歴2032年1月1日と言うことになるみたいよ。伯爵家では、慌しい朝を迎えていたの。朝、5時に起きて、お風呂に入って、女性陣は髪を洗って、きれいにアップに結い上げて、それから朝食になるの。まだ、ドレスは着ないわ。汚したら大変だもの。食事の際、伯爵から家族及び家令と領主館警護騎士の方達に新年の挨拶をするの。


  その後、女性陣は、ドレスを着て、最後にお化粧をして装身具を付けて新年参賀の準備完了となるわけ。昨日のうちに大広間に作られた新年参賀会場は、伯爵家がひときわ高いところに立ち、子爵家が2家、男爵家が4家挨拶に来ている。準男爵や騎士爵の方達は、別の間で待機しているの。既に子爵たちがそろっているところに、伯爵を先頭に奥様とソニーお嬢様が壇上に上がるんだけど、皆さん、衝撃を受けていたみたい。そりゃそうよね。見たことも無い若造と美女、それに幼女が伯爵家が立つべきところに整列して立っているのだから。


  伯爵が、新年の挨拶をするとともに、事情を説明していた。皆、吃驚するやら喜ぶやら。どう見たって若返り効果が望めるし、これから跡継ぎを産むことも可能になるんだから。新年の挨拶が終わったら、私の周りに円陣を作ってもらう。小さなお子様には、監視のメイドさんが付いている。あまりにも幼く立っていられない場合の介添えのためだ。でもバーカス君が一番若いようだから心配はいらないみたい。


  私は、ドレスを着ていたけど、左手に『聖剣エスプリ』を持っていたの。右手で柄を持って抜きはらうと、大きく頭上に掲げた。ちょっとだけ、『聖なる力』をためてから、丸く円を描くイメージで光の輪を広げていった。力を流し続けながら、周りの反応を確認する。うん、皆、肌の色も良くなり、若々しくなっていく。念のため、もう少し、力を注いでおいてから、力を流すのを辞めた。これでおしまい。注ぐ力を大きくすれば円は大きくなるし、時間は流し続けている間はずっと光り続けているのが確認できた。


  同じことを準男爵様や騎士爵様達に行う。かなり人数が多くなったが、人数に応じて力を増幅する必要はなく、光の円の大きさをコントロールしているだけの感覚だった。光そのものに能力の差ってないみたい。光に包まれてさえいればスムーズに人間化されるようだ。もっと大変かと思ったけど、あっという間に終わってしまったわ。この調子なら、領内の人達全員を人間化するのも、短期間で終わるかもしれないわね。


  あ、バーカス君が近づいてきている。どう見ても5歳児以下だ。何で泣いているんだろう。


  「マロニー嬢、僕、こんな風になりたくなんてなかった。人間になるのは良いけど、4歳か5歳位になってしまったじゃないか。これじゃあ、いつまでたってもマロニー嬢に勝てないじゃないか。」


  ごめんね。でも、きっと永久に私に勝つことはできない気がするんだけど。まあ、これからの人生、限りある人生なんだから、有意義に過ごしてね。あ、でも学校はどうなるんだろう。今、小学校4年生だけど、もう一度幼稚園から始めるのかな。





  今日の新年参賀は無事に終わったみたい。例年、無事に終わっているんだけど。明日は、領内の有力商人達が挨拶にくるみたい。明日も同じことをするのかと思ったら、今度は地域単位で計画的にやっていくらしいのだ。明日、明後日はお休みして、4日からは、男爵以上の各貴族屋敷を回って使用人たちを一遍に人間化するみたい。準男爵以下の屋敷の使用人は、騎士団本部とか行政庁の会議室などに来て貰って、いっぺんにやってしまう予定だ。


  それから、一般居住区に行って、商人や職人などを人間化するみたい。小学校や教会などの皆が集まれる場所でやるので、『人間化申請書券指定券』を発行して、名簿を照らし合わせながら実施するみたい。うん、その辺のところは、行政庁の職員さんに任せていれば大丈夫ね。タイムスケジュールを見ると、市内全域を終えるのが、今月の25日となっていた。あのう、学校はどうするんですか?そう思ったら、当分の間、休校になるみたい。人間化したレブナント人とグール人は年齢差がありすぎて一緒にはできないでしょ。それに、学齢をどうするのかも決まってないし。今の4年生をそのまま4年生として授業をしていいのかも分からないし。結構、細かなところでは混乱しているみたい。


  はっきり言えるのは、奥様達は非常に喜んでいると言う事だ。若いってことは全てに優先して女性のあこがれみたいね。まあ、10歳の私にはよく分からないけど。あと、ソニーお嬢様の場合、どうしようかな。7~8歳位のようだけど、知識は14歳だし。でも、もう結婚相手に困ることはないわね。だって、周りはみんな人間族、つまりソニーお嬢様と一緒なのだし、3賢人様も、これからの貴族に種族規制はないと言っていたわ。つまり、人間族でも魔人族でもOKなのよ。さすがに魔人族との結婚は無いでしょうけど。今の一般居住区に住んでいるレブナント族やグール族の未婚男性のうち、イケメンかつ優しい性格の男なんて一杯いるわよ。多分。


  今日は、どこもお休みなので、どこにも行かずに裏庭で、浮遊訓練をしてみる。メイド魔法の『空間浮遊』を練習する。まず、裏庭に置いてある庭石を浮かせてみる。特に呪文などなく、手を伸ばして、指をクイッとやると、ふわりと浮かび上がった。そのまま、私の周りを一周させてから、元の位置に戻した。これで、大きな家具をどかしての掃除が楽になるわ。何回か練習していると、ソニーお嬢様、いやお嬢ちゃんが裏庭に出てきて、


  「何をしているの?」


  と聞いてきた。別に隠す気持ちもないので、


  「はい、メイドのたしなみとしてのメイド魔法の練習をしておりました。」


  「メイド魔法?それって、何?」


  「はい、いくつか種類があるのですが、『空間収納』、これはティーセットや掃除道具等を収納するのに必要です。それに『洗濯洗浄』つまりウオッシュですね。これは食器や服などの汚れ物を洗うのに必要です。それと『化粧』ですね。これはお化粧する時間がもったいないので、メイドには必須でしたけど、私には必要がないと教えて貰えませんでした。あと、『気配消去』ですね。これは、メイドとして存在はしても、ご主人様やお客様に邪魔にならないようにするために必要です。最後は、今、お見せした『空間浮遊』ですね。これは、重たい荷物を運んだり、家具を移動して掃除をする際に必要になる魔法です。」


  「え、なんかすごいけど、火をつけたり、風が吹いたりって魔法ではないの?」


  「はい、あれは生活するうえで普通に使っているもので、料理や裁縫の能力と同じく魔法には入りません。」


  「マロニーちゃんの世界って、不思議と言うか、理解できない事ばかりね。すべての魔法が、メイドの仕事に結びついているのね。」


  「はい、メイドですから。」


  「じゃあさ、敵を攻撃する魔法ってないの。こう、バーンと爆発するような奴。」


  「ありますが、私達メイドには使えない魔法です。と言うか使ってはいけないと言われております。」


  「使ってはいけないってことは、使えるってことなの?」


  「私には分かりません。使った事がありませんから。」


  「それじゃあさ、ファイアボールを試しにやってみてよ。的はいつもの弓で使っている的でいいわ。そこに火の玉をぶつけてみて。呪文は知っている?」


  「はあ、何とか。」


  「じゃあ、やってみて。」


  仕方がない。杖を持っていないので、『聖剣エスプリ』を杖代わりに使ってみる。エスプリの切っ先を上に向けて詠唱を始めた。手をかざしてしょぼい炎を出すイメージを、剣に集める。


  「地獄の業火を司る炎の聖霊よ。すべての者を焼き尽くすその姿を顕現させよ。われの名はマロニー。炎の精霊イフリートに命ずる。その力を我に貸し与えたまえ。ファイアボール。」


  詠唱をしている間に、『聖剣エスプリ』の刀身が赤く炎に包まれ始めた。あれ、まずいかなと思ったが、初めて使うファイアボールだ。うまくいくかどうかも分からないので、大丈夫と思って、詠唱を終わるとともに剣を的に向けて振り下ろした。


  これは、大失敗だった。炎が出なかったのではない。炎の玉が大きすぎたのだ。的どころか裏庭を中心とした大爆発は、貴族街中に鳴り響いたらしい。炎の大きさは、約100m。ファイアボールは術者の方には向かわないので、裏庭の先にある塀を破壊し、その先の他所の貴族屋敷の塀も破壊してしまった。通行人がいなかったことが幸いだ。的の後には20m位の大きさの穴が開いていて、穴の底には溶岩のようなものがグツグツ音を立てていた。


  それよりも、何故か見たことのない女の子がいる。誰?赤い吊りスカートに白のブラウス、寒くないのかしら?


  「おぬしか、我を気安く呼んだのは。小娘のくせに。」


  「え、どなたでしょうか?」


  「人を呼んどいて『どなた様』もないだろう。お主が呼んだ炎の精霊だ。」


  「あ、イフリート様ですか。いえ、呼んだわけではなく、お力をお借りしただけなのですが。」


  「馬鹿者、あれだけの呪文詠唱と魔力量だ。単に力を貸すだけで済むか。

良いか。我はもう帰る。用事があるのだ。これからは呪文を詠唱するときは、時と場合を考えろ。愚か者が。」


  女の子は帰ってしまった。赤い髪のお下げがかわいい女の子だったが、イフリートって、あんな感じの精霊だったけ。冥界図書館で見た図鑑のイフリートと大分イメージが違うんですけど。でも、何となく、また会いそうな気がしていたのは何故かしら。


  あ、いけない。ソニーお嬢様、あれ、どこ?ソニーお嬢様は、気を失って倒れていた。傍に駆け寄り、手のひらからしょぼい水を出してお顔にかけてあげる。お屋敷から、伯爵様をはじめ、皆が出てきた。裏庭の様子を見て驚いている。そりゃそうよね。ほとんど跡形もなくなっているんですもの。それにマグマがグツグツ言っているし。先輩メイド達が、私に『攻撃魔法を使ってはいけない。』って言った理由が分かったわ。冥界のお屋敷が大変になってしまうものね。やっぱり、私にはメイド魔法以外の魔法適性は無いのね。もう絶対に使わないわ。


  それからが大変だった。お嬢様は伯爵に怒られるわ。あ、私も怒られちゃった。てへ。それに裏のお屋敷に謝りに行くわ。他の貴族様達が襲撃と思って騎士達を連れて応援しに来たので、事情を説明してお帰りいただくなど、対応が大変だったの。

マロニーちゃん、攻撃魔法が使えないんじゃなくて、使っちゃいけないと言うことだったんですね。

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