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第2部第213話 マロニーは小学4年生その18

(12月30日です。)

  伯爵との話は、まだ続いていた。


  「で、これからが本題だが、この書簡は王都のキロロ宰相からのものだ。内容を読んで驚いた。全てのアンデッド族を人間に戻す計画があるそうだ。」


  「はい、モーガン侯爵から伺っております。」


  「なら話が早い。それで、王都での人間化は着手しているはずだが、それが済めば周辺の侯爵領内で人間化を進めるそうだ。問題は、その次だ。順次、周辺区域を拡張していくそうだが、まずは王都の東部を辺境領まで次は南部に向かって、王都周辺まで戻り次は西部のゴロタ帝国統治領の国境までと、時計回りで計画を進めていくそうだ。」


  「と言うことは・・・」


  「そう、我が領地とハンス辺境伯領が最後になるというわけじゃ。」


  「それは、いつ頃になるのだろうか。」


  「分からんが、旧ボラード領だけで1月近くかかっていたそうじゃ。」


  「そうですか。」


  私にとって、『人間化計画』がどれほどの期間かかってもどうでも良いことだと思っている。問題は、もしかしてゴロタ皇帝陛下と会えるかも知れないという事だ。ゴロタ帝国の『聖女』だけで計画を進めているとは思えない。中には、人間になる事を拒否するアンデッド、反対するアンデッドもいるはずだ。そういう輩だって、ゴロタ皇帝の力なら押さえ付けることが可能なはずだ。


  ということは、今すぐに旅立って、反時計回りに旅すれば早くゴロタ皇帝陛下に会えるチャンスがあると言うことだ。そんな事を考えていたが、ブレナガン伯爵は、斜め上のことを言い出した。


  「それでじゃ。この書簡にもあるのじゃが、マロニー嬢、其方は『聖なる力』の持ち主だと書いてある。そしてエメル司法長官とドスカ騎士団長の奥方達を人間に戻したそうじゃないか。」


  チッ、余計な事を書きやがって。そう思ったが、おくびにも出さず、


  「ええ、まあ。」


  と曖昧に答えておいた。この返事の仕方で、これからの話には乗り気ではないとわかりそうな物だが、伯爵には完全にスルーされてしまった。


  「そこでお願いじゃ。我が領地から、人間化を進めてくれないだろうか。謝礼金は出すので、ぜひ頼む。」


  「あのう、来年のお正月が終わるまで考えさせてもらえませんか?」


  「おお、おお、そうじゃな。急かしてすまなかった。じっくり考えてくれ。」


  部屋に戻ったら、マリーちゃんは眠っていた。そっと、その横に潜り込んで、伯爵の頼みをどうしようか考えようとしたが、あっという間に眠りに落ちてしまった。






  翌日、まだ暗いうちに起きた私は、身支度を整えて裏庭に出る。いつもなら弓の練習からだが、最近はコテツの抜き打ちの練習だ。私の身長は132センチだった筈。ということは、肩の中心から指の先までは66〜68センチ。刃体だけで70センチのコテツを鞘から抜き出すためには、右上方向へ抜かなければならない。早く、そして正確に、何度も何度も抜き打ちの練習をする。大分いい感じだ。この感覚を覚えておこう。そして、抜き打ちでの面、抜き打ちでの胴払い、抜き打ちでの突き、バリエーションを増やして行く。


  次に『聖剣エスプリ』を抜く。正眼に構えて深呼吸をする。身体の中に『聖なる力』の流れを感じる。胸からお腹にかけて流れている力を意識して剣に集める。集める。集める。集める。何も起こらない。まだ力が足りないのだろうか。もっと、もっと集めていく。最初赤白買った光が白くなっていく。


   シュバーーーーン!


  光が爆発した。何?どうしたのかな。お屋敷に特に変化は無かった。今のは何だったのだろう。光が爆発したら、あんなになるんだろうか。何本もの光の筋が、お屋敷の中に流れ込んでいったんだけど、被害は無かったみたい。ホッとして、さあ、じゃあ弓の練習でも始めようかなと思っていたら、お屋敷の中から女性の悲鳴が聞こえてきた。何かと思って、急いでお屋敷に戻ってみて、私は言葉を失ってしまった。


  お屋敷中の人が、皆、人間になってしまっていた。マリーちゃんと、下働きの魔人族の方達を除いて。


  1階の大広間に皆が集まってきた。ほとんどの人が寝巻きにガウン姿だ。勿論、ソニーお嬢様もだ。あ、ソニーお嬢ちゃんだった。


  「マロニーちゃん、あなた、何をやったの?」


  「違うんです。ただ剣の稽古をしていただけなんです。」


  「マロニー嬢、いったい、どんな稽古をしたのだ。」


  「昨日、伯爵様が聖剣エスプリは、『聖なる力』が必要だとおっしゃられたので、朝、練習そてみたのです。そうしたら光が爆発してお屋敷の中に流れ込んでいってしまったのです。


  ああ、伯爵様は若々しく、奥様はもっと若若しく、ソニーお嬢様は8歳児に、ボニカちゃんは6歳児位になってしまった。年齢が低いと若返りも補正が入るみたい。そうでなければ、1歳児なんか存在しなくなるもんね。補正式は分からないけど、まあ想像の範囲内ね。でも知識はそのままなので泣いたり聞き分けが無いと言うことは無い。ルルさんは12歳位の少女に、ドンキさんは24歳の好青年だ。


  20代前半にしか見えない伯爵が執事さんやメイドさんたちに事情を説明している。人間になったことや、その際、グール人は今の年齢の6割から7割くらいの年齢になってしまう事を説明した。流石に幼女にまで変化したのはレブナント族のソニーお嬢様だけで、次に若いのはルルさんだ。ボニカちゃんは、もう一度人生をやり直そうね。


  奥様は、ニコニコ笑って、ご自分の年齢を誤魔化していたけど、10代後半ね。とっても可愛らしい。あれって反則だわ。お二人は、チラチラお互いを見て顔を赤くしている。あれ?怪しい雰囲気だわ。


  ソニーお嬢様が泣き出してしまった。


  「マロニーちゃん、酷い。人間になるのは、よく考えてからって言ったじゃない。元に戻してよ。」


  えーと、無理です。それに、もう一度レブナントになっても今のままレブナントになるので8歳児のレブナントが誕生するだけですが。しかし、リッチやレブナントの若返り方って凄まじいのね。これじゃあ、誰だって混乱してしまうわね。


  今日は、明日の新年参賀の受け入れ準備のために、皆、忙しい筈なのに、それどころじゃあ無くなってしまったの。ソニーお嬢様達はお小さい時に着ていた服を引っ張り出していたし、奥様は、ニコニコしながら、10代でこちらに嫁いできた時のドレスを試着していたの。伯爵に至っては、全く威厳のない好青年という感じで、鏡を見ながら、威厳が出るように百面相をしていた。


  私は、エスプリを見つめながら考えていた。今まで、一人一人個別に『聖なる力』を使っていたけど、この聖剣を使えば広範囲に『聖なる力』を使える。ということは一遍に数十人に『聖なる力』を使えるって事ね。あ、これ、便利かも。私は、エスプリを剣から抜いて、『聖なる力』を流してチャージしたり、吸い込んだりして力のコントロールの練習をしていた。


  お昼前、伯爵に呼ばれて執務室に行ったんだけど、伯爵が一番若そう。笑っちゃうわ。おほん。そんなことは兎も角、明日、寮内の貴族達が全員、新年の挨拶に来られるそうだ。奥様やお子様を連れて来られるので、その際、一遍に人間化をしてもらいたいそうだ。別に構わないけど、これってズルズルと陰謀にハマってしまいそう。でも、今回、『聖なる力』を思いっきり込めたけど、全然平気だった。あれなら何回でもできそう。それに、あんなに大きな力は要らないわよね。分からないけど。


  そう言えば、バーカス君は何歳になってしまうんだろう。計算してみると、3歳半だった。これは、暫く剣術の稽古は無理ね。非力で木刀を振れないわよ、きっと。


  お屋敷のメイドさん達、何か急に気合が入ってきたみたいで。それはそうよね。明日、結婚適齢期の超優良株が続出するんですもの。でも急にスカートの丈を詰めるのは辞めましょうね。騎士隊の皆さんも若返ってしまって、張り切っているんだけど、身体能力は、間違いなくグール族だった頃の方があったんだから無理しないでくださいね。


  冥界の大晦日というと、倉庫の大掃除が私の仕事で、1日中埃だらけになって、ようやく終わったら、もうご馳走も残っていなくて、緩くなった大浴場に一人で入って泣いていた事を思い出してしまった。今年は、お屋敷のシェフさん達に混じってお料理を作るの。私の担当はローストビーフと大川海老の鬼殻焼きよ。大川海老って海で取れるロブスターの淡水版なんだけど、ほぼロブスター。いや、海のロブスターより繊細な味ね。今の時期だと、1匹銀貨1枚はするけど、この前魔物狩りに行った時に罠を仕掛けて籠一杯分位採集していたから、今日はお屋敷中で海老祭りよ。


  ローストビーフは、私の得意料理のひとつよ。材料は、勿論ビーフなんだけど、どんなに硬いお肉でも私の『美味しくなーれ。』作戦で、あら不思議、ホッカホカのトロトロになっちゃうの。秘密は圧力よね。オーブンで焼く前に圧力を高めた鍋でコトコト煮込むの。それからオーブンで焼くんだけど、本当に美味しいのよ。


  大量に焼かなければならないけど、若いシェフ君、火の見張りは任せました。焦がさないでね。あと、デコレーションケーキも作りたいんだけど、生クリームとか、バニラエッセンスとかの素材が集まらないので呆れ目ることにしたの。あと、大晦日と言えば、スープパスタ。それも黒い雑穀を臼で引いた粉を使うの。でもそんな粉はないっていうから、小麦粉で代用ね。小麦粉の場合は、お水を入れて練ってから、きれいな袋に入れて踏み続けるの。そうすると小麦粉の中のグルテンが固まった、腰の入ったパスタになるわ。さあ、踏んで、踏んで。その間に、私は、パスタのスープと上に乗せる具材を作るわ。スープは、鶏がらから作るんだけど、浮いた灰汁を丁寧に取り除いていくと、すましたスープの出来上がり。それにお塩と大豆から作ったソースを入れて出来上がり。冥界では、人間界での品物が入ったので、和の国と言うところから、お蕎麦やカツオ風味だしを使った本格的年越し蕎麦を作ったんだけど、ここでは、真似事だけね。具だって、クルマエビはないから、カボチャやタマネギの天ぷらしかできないし。あ、王都ではイカがあったけど、ここでは入手不可能みたい。


  朝から、ガタガタしていたけど、何とか、年越しの準備は終了したみたいね。


冥界でのマロニーちゃんの大晦日はかわいそうでした。

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