表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
660/753

第2部第211話 マロニーは小学4年生その16

(12月25日です。)

  今日の夕飯も旅館のレストランで摂ることにしたの。奴らのアジトと言うか屋敷は殲滅したけど、仲間がまだ残っているかもしれないので、用心のため、あまり表に出ないようにしたわ。明日は、午前6時には出る予定。マスターにそう言ったら、『その時間は、まだ北行きの駅馬車は出ていないよ。』と教えてくれたんだけど、駅馬車に乗るつもりはないから大丈夫。歩いていくつもりよ。


  夕食のメニューは、美味しいクリームシチューとオムレツだった。マリーちゃんも好物なんだけど、一口食べては泣いてるの。ロキちゃんにも食べさせたかったって。うん、マリーちゃんは、悲しくてもいっぱい食べて、少し太りましょうね。そう言えば、私、かなり食べている方だと思うんだけど、全然体重が増えないし、身長も伸びていないみたい。この調子だと、バーカス君に追い越されてしまうわ。もうボニカちゃんには最初から追い越されているけどね。二人で静かに食事をしていると、レストランの扉が開いて、騎士さんが2人入って来た。あたりを見回してから、私のそばに来て、


  「お前が、マロニーと言う女か?」


  何、それ。初対面で『お前』呼ばわりで、しかも呼び捨て。少しカチンと来て黙っていたんだけど。そうしたら、


  「黙っていちゃあ分からんだろ。お前に少し聞きたいことがある。」


  「騎士様、騎士様はどちらの騎士様なのでしょうか。」


  騎士でも、領主が領内の治安維持のために編制している領主騎士団の騎士と、貴族が私的に雇っている貴族騎士があり、貴族騎士には治安維持の権限、つまり捜査権や逮捕権は与えられていない。私は、そのことを確認したかったのだが、そんな事とは知らない二人は、


  「うん、俺らか。俺らはバガーニ男爵様指揮の騎士だ。それがどうかしたか。」


  「いえ、そのバガーニ男爵様の騎士様がどのようなご用件でしょうか。」


  「今日、北の倉庫街で、職人が20人ほど惨殺されてな。その下手人がお前に似ているとの通報があったのだ。」


  これは、絶対に嘘だ。今日、ここで暴行・誘拐事件があったのは領主騎士団には伝わっているはずだ。そして、男の子が殺されたことも判明しているだろう。それに協会に男の子の亡骸を持ち込んだのもばれていれば、その下手人とやらが私だとすぐに分かるはずだ。問題は、それを知ったところでどうするのかと言う事だ。この騎士二人は何が目的なのだろう。


  「さあ、何のことか。私みたいな小柄な幼女が、そんな恐ろしいこと、できる訳ありませんわ。」


  「それをこれから調べるのだ。一緒に来て貰おう。そっちの女も一緒だ。」


  「すみません。私達、ただいま食事中ですので、後にしていただけませんか。」


  「ふざけるな、騎士に逆らうなんて、それだけで死罪だぞ。分かってんのか。」


  「あら、逆らうだなんて。私は、食事が終わるまでお待ちくださいとお願いしているのです。それとも、バガーニ男爵様の騎士様は幼い私達が食事をとるのも許さないのですか。」


  食事中の他のお客様達が噴き出している。雰囲気を鋭敏に感じた騎士達は、黙ってレストランの外のソファに座り込んでしまった。しかし、どうしようかな。選択肢は幾つかあるんだけど、まず、一つ目は、この騎士二人を始末する。二つ目は、騎士の屯所に行って、他の騎士達も殲滅する。最後は、騎士を雇っている貴族も殲滅する。ウーン、悩むな。まあ、食事が終わってから考えよう。マリーちゃんが不安そうに私を見ている。


  「マリーちゃん、安心して。マリーちゃんは、ここにいて良いからね。」


  せっかくの食事も、あまり美味しく感じられなかった。と言うことはなく、美味しいものは美味しかった。私は、完食してから、騎士さん達の所へ行く。あらかじめ、ショートソードを剣帯に下げておいた。


  「さあ、行きましょうか。」


  「もう一人のガキは?」


  「彼女は行きません。どうしても連れて行くと言うのなら、仕方がありません。表に出ましょうか。」


  自分では、普通に話しているつもりだが、騎士さん達の目が彷徨っている。どうやら、北の事件を起こしたのが、私のような女の子だと言うことは半信半疑だが、それでも20人からの手練れを殲滅する実力を持った者がいるのは間違いないのだ。警戒するのも当然だ。


  「いや、お前だけでいい。それで、その剣だがこちらで預かっておく。」


  「お断りします。剣は私の命です。これを取り上げるのなら、それなりの覚悟をお願いします。」


  あ、出まかせを言っちゃった。メイドの命は、メイド服です。あれ、銀トレイかな。まあ、とにかく『剣』でないのだけは確かです。


  「そ、そうか。なら、いい。俺たちについてこい。」


  旅館を出ると、二人は私の前を歩いている。少し距離を開けようと急ぎ足だ。ちょっとだけ脅かしてやろう。


  「いいのかなあ。私の前を歩いて。後ろからバッサリなんてないよねえ。」


  ビクッとした二人は、慌てて左右に開いて、こちらを見た。


  「さ、先に行け。」


  「えー、どこに行けばいいのか、マロニー分からない。」


  「ふ、ふざけるな。バガーニ男爵様のお屋敷に決まっているだろう。おう、そこを左だ。」


  「と言うことはー。この件に関しては、バガーニ男爵様もご存じなんですね。間違い無いかなー。」


  「間違いねーよ。」


  「じゃあさ、ロキちゃんが殺されたことも男爵様、知ってらっしゃるのかなあ?」


  「それは知らねえ。そもそもガキの一人ぐらい死んだって気にしねえだろうし。そ、そこを右だ。」


  うーん、段々、男爵を殺したくなってきた。どうしようかなあ。その内、大きなお屋敷に到着した。でも正門から入らず裏に回ったの。騎士達の屯所は裏にあるみたい。


  屯所の中には8人の騎士がいて、隊長らしき男が鎧も付けずにだらし無く座っていた。他の騎士達も、バラバラに立っていて、剣を下げていたり丸腰だったり、警戒感ゼロね。


  取り敢えず、私の後ろから付いてきた二人の騎士に斬りつけて戦闘不能にしておく。それから近くの男から次々と戦闘不能にして行くが、足を切り離すに留めておく。最後に隊長の首筋にショートソードを当てるまで5秒かな。


  「ひとつ聞きたい。男爵は、この事を知ってるの?」


  冷たい声で質問する。首筋が少し切れて血が滲んでいる。


  「ヒッ!わ、悪かった。許してくれ。」


  詫びの言葉を聞きたいのでは無い。真実を知りたいのだ。


  「ロキちゃんを攫ったこと。ロキちゃんが殺された事を男爵は知っているのか聞いている。」


  右手に力を込める。ショートソードの刃が首に食い込んでいく。


  「し、し、知っている。小さい子を売り飛ばせばいい金になるんだ。」


  「何故、私を連れてきた。」


  「おめえ、いや、あんたを売ればいい金になると言っていたぜ。」


  「私の事はどこで。?」


  「俺らが、伯爵家の騎士から聞いたんだ。」


  「伯爵もグルか?」


  「な訳あるかい。これがばれりゃあ死罪だ。」


  「そうか。」


  ショートソードに力を込める。ピューッと鮮血が噴き出している。ここに転がっている連中はこのままにしておこう。一生、片足で生きていけばいい。


  そのまま、男爵家の本館に行く。まだ皆起きているようだ。裏口から中に入る。鍵がかかっていない。なんて不用心な。血まみれのショートソードを右手に下げている私を見てメイドが悲鳴をあげる。放っておいて、表側の広間に出る。そんなに大きい屋敷では無い。男爵は2階だろう。2階に上がると、男爵の部屋はすぐに分かった。扉の前に何人かの執事が、ショートソードを握って立っている。


  「どけ!」


  ショートソードを左手に持ち替え、『投げビシ』で肩を射抜いた。這って逃げて行く執事達を放っておいて、扉を蹴破る。向こう側に吹き飛んだ扉の先に、ロングソードを両手に握った男がいた。


  「き、騎士達はどうした。エルビンは、どうしたんだ。」


  エルビンって誰よ。あの隊長か?まあ、どうでもいいや。男爵に近づく。間合いに入ったと同時に、上段から男爵の頭に真っ直ぐ打ち込む。顔が左右に分かれてしまったが、そのまま切り下げて行く。腰の辺りでショートソードを引き抜く。


  カーテンでショートソードの血糊を拭き取り、そのまま窓の外に出る。そこは、正面に面したベランダだった。そこから飛び降り、屋敷の外に出ると、走って旅館に帰った。マリーちゃんが心配だ。


  マリーちゃんはマスター達と一緒にいた。泣き腫らした目を見ると、留守の間、ずっと泣いていたんだろう。さあ、シャワーを浴びて寝ようね。今日は、マリーちゃんと一緒のベッドで眠る事にしよう。








  次の日、朝食の時、旅館の表に誰かが来ていた。10人以上かな。窓の外を見ると騎士さん達だ。綺麗な鎧を着ている。おそらく伯爵直轄の騎士隊だろう。昨日の昼間来た騎士さんもいた。


  レストランの中に一人の騎士さんが入って来た。隙のない動きから、結構使えるみたい。


  「ここ、いいかな?」


  私の向かい側の席を示した。マリーちゃんは、私の左側に座っている。


  「どうぞお座り下さい。」


  「有難う。今日は、マロニー嬢に謝りに来たんだ。バガーニ男爵家を昨日調べさせて貰った。家令達から色々聞いて、幼児誘拐の事も明らかになった。これもマロニー嬢のお陰だ。伯爵が是非、感謝とお詫びを申し上げたいと申しているのだが。」


  「誠に申し訳ありません。私達は、これから急いでブレナガン伯爵家ご令嬢ソニー様を追いかけなければなりませんの。伯爵様には宜しくお伝えくださいませ。」


  「やはりな。ところで一つだけ聞きたい。死体を見聞したところ、膝に妙な傷があるのを発見したのだが、あの武器は、何を使ったのかな。」


  私は、『投げビシ』を一個取り出し隊長に渡した。


  「これを投げただけですよ。」


  これで、隊長の用件は終わりだ。朝食後、早々に出発の準備をして、マリーちゃんと二人、マスターと奥さんに別れを告げた。あ、宿泊代の他に、今回の件に関してお詫びとして金貨1枚を渡しておいた。


  「本当に、歩いて行くのか?駅馬車も、昼前には出るぜ。」


  「いえ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。」


  マスター、本当にいい人だ。ありがとうございます。さあ、ソニーお嬢様を追いかけよう。

マロニーちゃん、もうチートが過ぎます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ