第64話 ワイちゃんは納豆が好きです。
焼肉は、大人も子供も大好きです。特に、食べ放題が大盛況です。
(6月20日です。)
夕方、クイール市の手前の野営地に着いた。何時ものようにキャンプセットを出し、セッティングしていたら、ワイちゃんがモグモグ何かを食べている。見たら、手を糸だらけにして、匂い豆を食べていた。10包、全部食べたらお腹が一杯になったそうだ。
仕方がないので、洗濯石で手をきれいにし、その後、テントの中で、パンツ1つにして、身体を綺麗にしてから、僕の寝袋の中に入れた。
今日の食事の準備は、ノエルがするので、僕は、枯れ枝集めとスープ作りをした。今朝、買ってきた食材で、ソイスープを作る。具は、ワカメとアブラアゲだ。アブラアゲが何か知らないが、やはり大豆から作るらしい。
鍋にお湯を沸かし、コンブと言う海藻の乾燥した物を入れて煮る。お湯にうっすらと色が着いたら、コンブを取り出す。残ったお湯に、水で良く洗って細かく刻んだワカメと、アブラアゲを入れる。一煮立ちさせてから、豆ペースト、『MISO』と言うのを適量、お玉の上で溶かして出来上がり。あ、お玉も食材店で買っておいた。出来たスープをマグカップに入れて、出来上がり。簡単、簡単。
ノエルちゃんの料理は、牛肉と玉ねぎをトマトスープで煮込んだものだが、ビーフ・スト何とかと言う料理だそうだ。ライスと混ぜて食べたが、絶品だった。ノエルちゃんの言うには何日も煮込むともっとうまいそうだ。
食事が終わり、後片付けをして、周囲に虫除け石を置いた。この石も、今朝、食料品店で買ったものだ。効果は分からないが、1個銅貨9枚と鉄貨8枚だったので、10個買っておいた。
テントに入ると、今日の番のノエルが、恨めしそうな顔をしていたが、無視をしてワイちゃんと寝た。あ、そうそう。シールドを忘れないように張らなくちゃ。ワイちゃんが、珍しそうに、僕の下半身を引っ張ったり、握ったりしていたが、全く気にならずに、直ぐに眠ってしまった。
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イレーヌさんの、本日の行動報告。
600 起床
700 朝食 鯖味噌定食 料金不明
800 ホテル出発 料金不明
830 駅馬車乗車
1200 昼食
1700 野営地到着
1800 食事 牛料理
2000 就寝
本日の特異報告
謎の幼女が同行 ゴロタ殿がいずれからか連れてきた 誘拐の届け出無し
ノエル君 料理が上手い
ゴロタ殿のテントの監視 不能 原因不明
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次の日の早朝、剣の稽古をしていたら、ワイちゃんがジット見ていた。自分もやってみたいと言う。『黒剣』を渡して、やらせて見たら、面打ちで、剣を止めた瞬間、大きな『斬撃』が山の向こうに飛んで行った。危ないので、気を込めるのを止めるように言ったら、何もしていないと言う。イフちゃんが、『龍種の特性で気の練り方が人間とは違うようだ。飛翔は魔力だが、ブレスは気力つまりスキルなのだ。』と言っていた。剣の型の、動と静の間に込める気合いが『斬撃』を生むそうだ。
あ、ワイちゃん、面白がって、そんなに飛ばしていると。あーーあ、ほら、山が削れたじゃ有りませんか。
今日の朝食は、昨日の残りの温め直しだが、昨日より旨い。本当に。
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(6月22日です。)
もう1泊、野営をして辺境郡の郡都クイール市に着いた。駅馬車は、ここまでの約束だ。お疲れさまでした。
クイール市も、城門があって、入都者のチェックがあったが、イレーヌさんがいたので、直ぐに終わった。イレーヌさん、偉い。
クイール市は、交易都市として発達した都市で、昔、この辺一帯を治めていたクイール王の王都だったと言う話である。
今日は、もう遅いので、ホテルを取る事にする。ホテルは、まあまあのホテルにした。何時ものように、ダブルに追加ベッド、ツインとシングルである。シェルさんが、涙目でワイちゃんに帰ってくれるように頼んでいた。ちょっと可愛そうだったので、夕食後、帰って貰うことにした。途端に、シェルさんが笑顔になり、顔が赤くなっていた。あの、シェルさん。何を期待しているんですか?
夕食前に、ワイちゃんのお土産を買いに行った。勿論、納豆の大人買いだ。ニコニコしているワイちゃんとホテルに戻ると、シェルさん達が何やら揉めてる。聞くと、今日の当番が誰かで揉めているらしい。仕方がないので、今日だけ、皆に公平にセレモニーをするということで納得して貰う。そのかわり、1人30分だ。
ホテルの夕食は、レストランでのディナーコースにした。ワイちゃんは、ナイフとフォークに苦戦していたが、僕が切り分けて上げたら、喜んで、右手でフォークを持って、食べていた。龍にも利き手が有るのには吃驚した。左に座っているシェルさんが、自分のお皿を僕の方に寄せてきた。ふと、皆を見ていると、こちらをジッと見ていた。
僕は、首を軽く横に振って、シェルさんのお皿を戻した。それから1本だけの約束でワインを頼んだ。テイスティングは、クレスタさんだった。皆が飲んでいたので、ワイちゃんも飲みたそうにしていた。一口だけ、味見をさせたら、渋くて不味いそうだ。
食事は、非常に美味しかった。特に、羊肉のシチューは絶品だった。デザートのババロアを、ワイちゃんが喜んで食べていたので、僕の分も上げることにした。
部屋に戻ったら、山に帰るワイちゃんが、今度はママとバアバのダーちゃんを連れて来て良いか聞いてきたので、何時でも来て良いと答えた。この答えが、後の巨龍戦争の発端になるとは、その時の僕が知る由もない。
ワイちゃんは、服を脱いでスッポンポンになり、山のような納豆を持って消えた。
それから、イレーヌさん以外の全員が僕の部屋に集まって、僕がシールドをかけるのを確認してから、セレモニーが始まった。
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翌日、クイール市の冒険者ギルドに行ってみた。僕以外、誰も装備を着けていない。一体、何をしに来たのかと思われているだろう。
受付は、30歳位の愛想の良いお姉さんだった。モノクルは掛けていない。
「いらっしゃませ。クイール市帝立冒険者ギルドにようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか。」
シェルさんは、自分達が王国の冒険者であること。帝国との違いを教えて貰いたいと言った。
「分かりました。情報量は、大銀貨1枚になりますが。」
うん。この辺は一緒だ。別室に案内されて、色々教えて貰った。
依頼を受注するのは同じだが、報酬は、依頼主から直接、受領する事になっている。依頼主が、報酬を払わなかったり、分割、遅延をした場合には、ギルドが手数料を差し引いて支払う事も出来るそうだ。
冒険者ランクの認定には試験制度が有り、昇格には、必ず試験が必要となる。これは、最上級の『SSS』ランクと言えども同じだそうだ。ちなみに、現在、『SS』ランク以上の冒険者は帝国にはいないそうだ。
昇格試験は、年に1回しか受けられず、落ちたら1年間、受験資格を失ってしまう。受験料は、ランクに応じて高くなり、『A』ランク以上は、大銀貨3枚だ。なお、帝国のランクと王国のランクは、共通であり、『S』ランク以上の冒険者は、似顔絵付きで紹介されるとの事であった。
ダンジョンに関しては、別途料金となるが、既に経験が有るので、有益な情報はないとの事であった。
王国にはいない魔物について聞いたら、モンスター情報は、モンスターランクに応じて料金が異なるが、閲覧自由のモンスター図鑑を見ることを勧められた。冒険者の中には、文字が読めない者も多いので、図鑑を読む代読料のようなモノだと言った。
ギルドを出る前に、依頼ボードをついでに、見ていたら、様子を見ていた冒険者の1人がシェルさんに近づいてきた。
「エルフ風情が冒険者ギルドに何の用だ? ここは、お前が来るような場所じゃあ無いんだよ。」
シェルさんのミニスカート姿を見て、同業者とは誰も思わない。しかも、見たこともない刺激的な格好だ。絶好の暇潰しになると思ったのだろう。シェルさんは、いつものゴミを見るような目付きで、
「汗臭い身体で、近づかないで。匂いが、移るから。」
シェルさんが、怒っています。
いつものパターンが始まりました。でも、今回は、ちょっと違います。