第2部第210話 マロニーは小学4年生その15
(12月25日です。)
今日は、創造主様が生まれた日です。獣人の子マリーとロキは、新しく生まれ変わる日です。昨日、マリー達を助けたというか、奴隷の様に扱っていた男を、もう二度と酷い事ができない様にした私は、直ぐにロキと言う子の様子を見たんだけど、怪我も無く病気でもないみたい。でも酷い栄養失調で、死にかけているのが直ぐに分かったの。もしかするとダメかも知れないと思ったけど、取り敢えず旅館に連れて帰ったの。
旅館のマスターは吃驚していた。私がマリー達を連れて来た事ではなく、あの男からマリー達を連れて来られた事にだった。でも、あの男のことが心配らしく、あの男の事を聞いてきたので、『二度とマリーちゃんに意地悪できなくなった。』って言ったら、またまた驚いていた。私は、直ぐにソニーお嬢様達に連絡して、ルルさんにマリーを温かいシャワーで洗ってあげる様にお願いした。下着と寝巻きは私のものを貸してあげたの。
ロキちゃんは、旅館のロビーのソファに寝かしてあげた。それから、マスターにお願いをして、キッチンを借り、消化の良いミルク粥を作ってあげた。ソファーに横にさせたまま、少しずつ食べさせてあげたんだけど、うまく噛めずにむせてしまう。なるべく固形物が入らない様に注意しながら、スプーンでお粥の上澄みだけを飲ませてあげた。ずっと飲ませていたら、その内眠ってしまったので、毛布をかけてあげて休ませてあげた。マリーちゃんは、マスターから温かいスープと柔らかいパンを貰って食べていたんだけど、ロキちゃんのことが心配で、あまり食べられない様子だった。
でも、私がロキちゃんの様子を見ているからと言って、二階の部屋に行って私のベッドに横にならせたの。ソニーお嬢様もルルさんも、『交代でロキちゃんを見てくれる。』と言ってくれたんだけど、私、眠らなくても平気な体質なので、朝まで起きてロキちゃんを見ていたわ。
午前5時頃、ロキちゃんが目を覚ましたので、トイレに連れて行ってあげて、それからキッチンのお粥を温め直してあげたら、お皿一杯をペロリと食べてくれたの。
それから、お湯を沸かしてロキちゃんの身体を拭いてあげたんだけど、腕や足は枯れ枝の様に痩せていたし、所々皮膚病にかかっていたの。皮膚病は『治癒』で直したんだけど、失われた体力は、時間が経たなければ回復しないわ。ロキちゃんは、4〜5歳くらいかな。魔人の子って年齢が分からないわ。
「ロキちゃん、今、幾つ?」
指を3本立てて、『いつつ。』と言った。どっちか分からなかったけど、身長から言って3歳ということはないだろう。ロキちゃん、お皿をペロペロ舐め始めたので、少しだけお代わりしてあげたの。今度は、レストランのテーブルにつかせてスプーンで食べさせてあげたんだけど、食べながら眠り始めちゃった。そのまま抱き上げて、2階のお部屋に連れて行って、マリーちゃんが寝ているベッドに一緒に寝かせてあげた。
ソニーお嬢様がお起きになられたので、小さな声で、今日は、この旅館にもう一泊してから帰ることにしたいってお伝えしたの。ここからブレナガン市までは駅馬車もあるし、『私が必ず連れて帰りますから。』とお願いしたの。ソニーお嬢様は、年末年始の行事があるので、30日までには帰らなくっちゃあいけないらしいので私がここに残ることにしたの。ソニーお嬢様は、私達を心配されていたけど、ブレナガン伯爵麾下の貴族達から年始の挨拶を受けるための準備もあるので、ここに残ることは出来ないみたいだった。
朝食後、旅館のマスターに若干のチップを渡して、私たちのことをお願いされてから、お帰りになられたの。ドンキさんが、『嬢ちゃんなら心配ねえだろうが、気をつけろよ。』と言って、ソニーお嬢様達の跡を追って行った。
私は、ロキちゃんのことをマスターに頼んで、マリーちゃんと二人で、子供服を買いに行ったの。マリーちゃんに聞いたら、ロキちゃんは、この前4歳になったんだけど、あの男に5歳だと言えと言われていたらしいわ。それでマリーちゃんは、7歳になったばかりなんだって。2人は兄弟かって聞いたら、違うんですって。あの男に家に連れて行かれた時は、もうロキちゃんがいて、ロキちゃんの面倒を見ろって言われていたんだって。
色々、お話ししているうちに、マリーちゃん、ようやく笑う様になったわ。もう持ちきれないほどの服や下着を買って、旅館に帰ったら、何か様子がおかしい。中に入るとマスターが血まみれになっていて、側には奥さんかな女の人が手当てをしていた。あ、ロキちゃん。部屋に急いで戻ると、部屋が荒らされている。ロキちゃんもいなかった。
1階に戻って、マスターに『治癒』をかけてあげる。出血がひどい様だけど傷は大したことない様だ。何があったか聞くと、昨日の男の組の者だと言う男達3人が現れて、『ガキを出せ。』と言って暴れたらしい。マスターは、2階に上ろうとした男達を阻止しようとしたが、反対に袋叩きにあったらしい。そして泣き叫ぶロキちゃんを連れ出してしまったらしいのだ。
今日の夕方、もう一度来るからロキちゃんの身代金として金貨5枚、男の葬儀代で金貨20枚を準備しておけと言われたそうだ。私は、マリーちゃんの事をマスターと奥様に頼んで、ロキちゃんを探しに行った。旅館の外に出てから、嗅覚を可能な限り鋭敏にした。追跡する匂いはミルク粥。あ、あった。北に向かったようだ。早足で追跡する。匂いが途切れることは無かった。
街の北のはずれ、それなりの大きさの建物が、倉庫みたいな建物と併設されていた。建物の入り口には、いかにも柄の悪そうな男3人が屯している。おかしい。匂いは、確かに家の中に続いているが、中からロキちゃんの声がしない。
私は、コテツを取り出し、腰に差した。左手で鞘の鯉口付近を持ち、いつでも抜き打ちできる姿勢のまま男達に近づく。男達は、接近する私に気づいたが、不用意に私の前に立った。私の剣の間合いに入った瞬間、正面の男の首が飛んだ。そのまま右側の男の胴を切り裂き、返す刀で左の左肩から心臓までを袈裟掛けで斬り下ろした。
血潮を振り払って納刀する。家の扉を開けて中に入って行く。大きな広間には20人位の男がいた。真ん中のでかいソファにふんぞり返っている男に視線を向ける。
「ロキを返せ。」
「て、てめえ、どうやって入った。まあいい。ガキは、ビイビイ泣いてやがったから引っ叩いたら静かになったぜ。そこに転がっているだろう。」
男が、顎でロキちゃんの亡骸を示した。その瞬間、飛び込んだ私の抜き打ちで首がゴロリと落ちている。それからは殲滅ショーだ。慌てて剣を抜いてくるが、遅い。手首を斬り落としての胴の一閃、心臓の一突きの後で横凪に胸を斬り裂く。一人を袈裟斬りで斬り下ろした次は隣の男の腰から胸に掛けて切り上げて胴体を分断する。あっという間に10人程を切り倒した所で、何人かが出口に向かって逃げ出し始めたが、私はコテツを左手に預け『投げビシ』で両膝裏を撃ち抜いた。全員がその場でもんどり打っている。その時、後ろから切り掛かった男がいたが、両手で持ち直したコテツで心臓を刺し抜いてしまう。
もう5人位しか居ないが、一先ず出口付近で這って逃げようとしている3人の首を切り落とす。振り返って、残りの男達に迫って行く。
「待て、待ってくれ。お、俺らが何をした。ガキを殺したのはボスだ。あんたが一番最初に殺した奴だ。なあ、ゆる・・・」
私は、無言で男3人の首を切り落とした。後に残っているのは静寂だけだった。家の中の気配を探るが、誰もいないようだ。私は、紙で刀身を拭って納刀してから、空間収納にしまい、それからベストとチュニックを脱いだ。ズボンも脱いでおく。そのまま畳んで空間収納に格納し、予備の同じ服を取り出して着込んだ。靴も血糊が付いていたが、洗面所で血を流しておく。
さあ、帰ろうか。私は、冷たくなったロキちゃんを抱き上げ、アジトを出て行った。一旦、旅館に帰ってから、ロキちゃんの身体を綺麗にし、泣いているマリーちゃんと共に教会に向かう。教会は、身寄りの無い者達が亡くなった場合、共同墓地に埋葬してくれるのだ。シスターにお願いすると、裏の墓地に案内してくれた。大きな石室があり、その中に遺体を投げ込むのだ。墓守の男が、ロキちゃんを受け取ろうとしたが、それは断って自分で石室の奥に投げ込んであげた。中から強い死臭がしたが、それはしょうがない。
お祈りをしてくれたシスターに金貨1枚を渡して、ロキちゃんの冥福を祈ってくれるように頼んでから旅館に戻ることにした。旅館では、伯爵家の騎士さん達が事情を聞きに来ていたが、訴える気も失せていたので、何も言わずにブレナガン伯爵発行の通行許可証を見せて帰って貰った。
部屋で、マリーちゃんと二人で泣いていると、奥さんが温かいミルクと蜂蜜を持って来てくれた。飲んでみると甘くて美味しい。
「ロキちゃんにも飲ませてあげたかったね。」
マリーちゃんがそう言うと、奥さんも一緒に泣き始めた。夕方までメソメソしていたが、明日の準備もしなければならない。マリーちゃんは疲れて眠っている。私は、コテツを出してシャワー室で綺麗に血油を洗い流し、薄くオリーブオイルを引いておく。それから、ベストとチュニック、ズボンをお湯を張った洗濯ダライに浸けておく。一つずつ、取り出してメイド魔法『ウオッシュ』を掛けながら揉み洗いをする。この魔法、先輩メイドが使っているのは何回も見ていたんだけど、教えてくれなかった魔法なの。『綺麗になーれ』と『染みはなくなれ』の二つの思いが重なったものだと最近になって分かったのよ。あとはメイド魔法『ドライヤー』で乾かしておしまい。あ、これ、私が勝手に名付けた魔法よ。手から温かい風を出すなんて、魔法でも何でもないと思うんだけど、『ドライヤー』っていうと、凄くカッコいい、かな?
殲滅ショー、少し残酷でしたが、マロニーちゃんの怒りは、収まりませんでした。




