第2部第209話 マロニーは小学4年生その14
(12月24日です。マロニー視点です。)
グレート・ティタン市を出てから1週間、北風が強く馬車の進みが遅くなっている。この調子だと、大晦日までにブレナガン伯爵領に到着するかどうか分からないそうだ。メイソン伯爵領の領都であるセント・メイソン市に到着すると街はお祭り状態だ。黄色い三角帽子を被って街を歩く人や、変な赤い帽子とコートを着たお爺さんが大きな袋を持って歩いていたりと、絶対に普通じゃない人達ばっかり。それに、もう暗くはなっているけど、町中、お酒臭いし。
「ああ、今日は聖夜なのね。」
「聖夜って何ですか?」
「あれ、人間界には聖夜ってないの。大いなる神、この世界の創造神である大魔王様が生まれた日の前夜なの。大魔王様は、今から3000年前、天上界からこの世界に降臨されたんですけど、幼き大魔王様は、厩のなかで聖母に産み落とされたらしいの。」
頭が痛くなってきた。大体、大魔王様って、創造神とは全く違うし。人間界での創造神は、『センティア神』だし、違う世界では『大いなる神』と呼ばれているが名はないものとされている。冥界図書館の蔵書の中に、聖書と明記されている書物が200程あるが、一神教での創造神は、救世の神であるとともに破滅の神である場合が多い。というか、何故、神様は自分でお作りになられた世界を滅ぼすのだろうか。良く分からない。私達がいるこの世界は、人間界(地上階)と魔界それに冥界に分かれ、神も多数信じられている。『災厄の神』もいれば救世の神もいるが、『魔人戦記』を読むと天上の神が『災厄の神』を下界似つかわし、大魔王となった『全てを統べる者』と争うのが定番になっているそうだ。大魔王が聖なる存在だとは聞いたことが無い。
でも、この魔界では、そう信じられているのだろうけど、それと、あの酔っ払いのおじさんって何か関係があるのかな。それにあの赤い服を着たおっさん、絶対におかしいから。なぜ、お皿を自分の前に置いて、物乞いしているのよ。
まあ、分からないことは放っておいて、今日は、この街に泊まるのだからホテルを予約しなくっちゃ。あれ、でもどこもいっぱいみたい。今日の日のために若いカップルが高級ホテルを予約しまくっているんだって。ソニーお嬢様も深いため息をついてあきらめてしまったみたい。街の外に出て野営しても良いんだけど、とりあえず温かい食事ね。
レストランはどこも一杯。高級そうなレストランは、若い魔人族のカップルがいっぱい。あ、若い男の子が指輪を女の子に差し出している。もしかして、あれがプロポーズなの。面白いから見ていよう。あ、女の子が泣きながら席を立ってレストランを出て行った。呆然としている男の子。うん、世の中、いつだって思い通りには行かないもんだから。
レストランの予約をあきらめ、場末の旅館でもいいから泊まれるところを探すことにした。でも、いくら場末といっても、馬車2台は預かれるだけのレベルは必要ね。ようやく見つけた旅館は、かなり小さい旅館で、1階が食堂、2階が客室になっていたんだけど、客室が2つしか空いていなかったみたい。仕方がないので、私達女性陣で一部屋、男性陣で一部屋を取ることにしたの。男性陣は、例のごとく繁華街にでかけていったんだけど、私達は1階の食堂で『今日のおすすめ』を食べることにしたわ。それほど大きくない食堂だったけど、入り口付近にもみの木が飾ってあっていろいろと飾り付けをしていたの。あのもみの木の意味って何か分からなかったので、ルルさんに聞いたら、ルルさんも良く知らなかったみたい。
でも、隣の席でそれを聞いていた年配の人が、親切に教えてくれた。そもそも、今は、創造神と呼ばれているんだけど、太陽を神様にしている宗教もあるみたい。太陽神を信仰していた人々にとって、日照時間が短くなる秋から冬は、『死が近づく時期』と恐れられていたんだって。それで、昼間が一番短い日から日照時間が長くなることは、太陽神の復活を意味し、その時期に祭が行なわれていたらしいの。それが後に創造神の生まれたとされる日と結びつき、12月25日が創造神の生誕祭とされたんだって。それで、冬も緑の葉を茂らせるモミの木は特別の木だと思われ、聖夜のイメージとして定着したみたい。というか、冬でも緑を保つことが永遠の命を表しているというのが、今の説らしいわ。まあ、私にとってはどうでもいい無駄知識ですが。
3人で楽しく食事をしていると、細い木の枝を売りに来た魔人の子がいたの。火打ち石を持っていて、その木に火を付けてくれるんだって。木が燃えていく様子を見ながら、これからの幸せを願うという風習があるんだけど、そのための木の枝って、1本銅貨20枚なの。ただ燃やすだけなのに少し高いかなと思って断ったら、悲しそうな顔をしていたのね。私よりも少し小さいかしら。バーカス君と同じくらいかな。他のお客さんにも買ってもらう様に頼んでいたけど、皆、あらかじめ持っているみたいで、誰も買わなかったわ。仕方がなく、レストランから出て行ったんだけど、レストランのマスターが諦めたような顔をしていたみたい。ドアを開けられて気が付いたんだけど、外は雪が降ってきていたみたい。あの子、大丈夫かな。こんな寒い夜に、結構薄着だったみたい。木の枝、10本位買ってあげた方が良かったかな。
私、どうしてもあの子が気になったので、ソニーお嬢様に断って、探しに行くことにしたわ。王都で買ったダウンジャケットを羽織って、急いで店の外に出たんだけど、どこにもいない。でも、振り始めた雪がうっすらとつもり、そこに小さな足跡が続いているのを発見した。普通なら暗くて見えないけど、私には夜目が利くのでまったく問題なかった。
その子は、裏路地の奥の方の建物の陰で雪を避けていたけど、雪除けにはなっていないのか、肩や頭にうっすらと雪が積もっている。ボウっと明るい炎が見える。あまりにも寒いのか売り物の木の枝に火を付けている。でも、たった1本の枝を燃やしたところで温かくなるわけないのに。私は、その子のそばに行き、声をかけた。
「家に帰らないの。」
吃驚したように私を見てから、食堂のお客さんの一人だと気が付いたみたいで、
「ええ、この木の枝を全部売らないと家に帰ってはいけないといわれているの。」
「ひどいお母さんね。」
「お母さんじゃあないわ。私達に食事とベッドを与えてくれる優しいおじさんなの。」
「お母さんはどうしたの。」
「お母さんは去年死んだの。お母さんの作ってくれたジャガイモスープ美味しかったな。」
そう言うと、1本の木の枝に火打石で火を付けた。雪で湿ってしまったのかなかなか着かなかったが、やっと着いたようで、左手で枝をもって、右手を火に当てている。
「その木の枝、みんな買ってあげようか。」
「本当?でも、結構高いよ。1本銅貨20枚もするんだよ。」
「うん、きっと大丈夫。これで足りるかな。」
私は、銀貨1枚、つまり、この木の枝50本分を差し出した。
「あ、足りるんだけど、お釣りが無いんだ。今日は全然売れなくて。」
「お釣りはいらないよ。何か、温かい物を食べなよ。」
「うん、ありがとう。あ、私はマリー。あなたのお名前は?」
「私の名前はマロニーって言うんだ。これからブレナガンまで帰るの。」
「え、ブレナガン?私のおばさんがいたんだけど元気かな。もう、ずっと会っていないな。」
「ふうん、そうなんだ。会えればいいね。」
これで、マリーちゃんとはお別れだ、30本位の木の枝を持って、レストランに戻ることにした。でも、どうしてもマリーちゃんのことが気になって、Uターンしてマリー、の様子を見張ることにした。マリーちゃん、とぼとぼと歩き始めたが、さっきの食堂まで戻るみたい。あれ、何だろう。見ていたら、食堂のおじさんから、パンの耳やお肉の切れ端を安く買っているみたい。銀貨を出してきたので、おじさん、お釣りの大銅貨9枚と銅貨80枚を渡している。今日のマリーちゃんの買い物は、わずか銅貨20枚、あの木の枝1本と同じだった。でも、買ったパンの耳とお肉の切れ端を大切そうにバスケットの中に入れて、店をでて行った。そのまま、町はずれのバラックのような家が並んでいるところに向かっていった。
マリーちゃん、家の中に入っていくと、何か大きな声が聞こえてきた。
「てめえ、何、食い物買ってきているんだよ。今日は飯抜きで木の枝売りだって言ったろ。おい、持っている金を全部出せ。出せよ。」
ああ、やはりそうか。予想した通りの展開だ。
「おじさん、私は良いけど、ロキには食べさせて。昨日から具合が悪いし、何も食べてないでしょ。」
「うるせえ、あの坊主はもう駄目なんだよ。おめえの稼ぎで養えねえのがいけねえんだ。おう、もう30本、早く売って来いよ。そうすれば、おめえがかってきたパンの耳を少しは分けてやるぜ。肉は俺が喰っとくけどよ。へへへ。」
ああ、昔、冥界図書館で読んだ童話とそっくりの展開だ。このままでは、きっとマリーちゃんは明日にはどこかの協会の中で、毛むくじゃらの犬に抱かれて死んでいるんだ。でなければ、木の枝を燃やし続けて天子様に連れていかれるのかな。まあ、このまま放っては置けないわね。
よし、マリーちゃんを助けよう。それでブレナガンまで連れて行って、一緒におばさんを探してあげよう。その前に、この腐れ男を処分しなければ。いいよね。この男、もう死んでいいよね。今日は聖夜だから、死んだらきっと天国へ行けるから。
私は、ショートソードを抜いて、ドアをけ破るとともに、後ろから魔人族の男の心臓をプスリとショートソードで刺し抜いてしまう。男は、まったく反応することなく絶命してしまった。すぐにショートソードを抜くと、血が噴き出してしまうので、心臓の鼓動が完全に止まるまで、そのままにしておいた。
ソードをしまってから、ゆっくりとマリーちゃんの方を向いて、話しかける。
「えーと、マリーちゃん、私と一緒にブレナガンに行かない?」
マリーちゃん、最初は何が起きたか理解できないようだったが、私の言っている意味が分かったみたいで、目に涙を浮かべながら大きく大きく頷いていた。
私は、ロキちゃんを抱えて旅館に戻ったんだけど、その時、じっと私達を見ていた者がいたことに気が付かなかった。
今回のお話は、超有名なお話のパクリです。著作権の問題は発生しないと思います。




