第2部第208話 マロニーは小学4年生その13
(3日前、12月17日に戻ります。ゴロタ視点です。)
今日、フランちゃんと一緒に『F35B改ライトニングⅢ』でグレート・タイタン市に向かった。ゴロタ帝国のティタン大魔王国統治領内のアンデッド族『人間化計画』は、ほぼ完了した。高齢者を除いて、ほとんどの者が人間に戻るのを希望していたので、特に混乱は起きなかった。しかし、フランちゃん、毎日、『神の御業』を、使い続けていたので、さすがに疲れ切ってしまったようだ。多くの人間化をしていく間に、ある一つの法則が判明した。レブナントの平均寿命180歳、グールの平均寿命120歳を基礎として人間の平均寿命80年に監査した年齢になるようだ。つまりレブナントの場合、今の年齢に4割5分をかけた年齢、グールの場合は、今の年齢に6割7分をかけた年齢になるようだ。そのため、もともと寿命間近の場合、人間族に戻っても持病等があれば体力が持たなくて重篤な状態若しくは死に至る場合があるのだ。そのためレブナントで160歳、グールで100歳を超えている場合には、人間に戻るのは諦めてもらうことにしている。
キロロ宰相との約束もあるので、帝国統治領の『人間化計画』が無事に完了してから、少しフランちゃんを休ませて、次のフェーズに入ることにする。ティタン大魔王国全土のアンデッドの『人間化』だ。フランちゃんの魔力は、一般の女性に比べればかなり多いのだが、それでも何回か『神の御業』を使えば、魔力や体力が消耗してしまう。僕には分からないが、スキルを使用するのには、代償として、本人の魔力や体力を消費するらしいのだ。そのため、大量の魔力回復ポーションを作っておいて、5回の『神の御業』を使ったら1本飲むという具合に作業を進めていった。魔力回復ポーションは、通常のポーション造りに似ているが、途中で魔石から抽出したエキスに魔力を注ぎながら合成していくので、作成する側にも膨大な魔力がないとすぐに、魔力切れになってしまう。幸いなことに僕の魔力はほぼ無尽蔵なため、バンバン作ることが出来るのだが。
グレート・ティタン市にある王城は、いつものように荘厳で広大なお城だ。その昔、ここを統治していた大魔王は、どれだけの財力を注いだのだろうか。『F35B』が王城前の広場に着陸したら、すぐにキロロ宰相やドスカ騎士団長が迎えに来てくれた。国の最重要人物がそんなに簡単に出てきていいのですかと思ったが、まあ、ここで何かあっても僕が何とかできるから、いいのかなと思ってしまった。機体は、すぐにイフクロークに収納してからキロロ宰相達と王城内に入っていく。相変わらずでかい大広間の先から2階に上がっていき、玉座の間の奥にある『賢人の間』に案内される。ここが、3賢人で協議をしたり会食をする場なのだろう。
そこまで行くと、エメル司法長官のほかに二人の人間族の若いご婦人がいた。この国で見る初めての人間族だ。それもどう見ても20歳以下に見える。
「初めまして、僕はゴロタと言います。こちらは、僕の国で治癒院をやっています『フラン』と言います。」
「こちらは、エメル司法長官の妻女のサラセン殿、もう一方はドスカ団長の妻女のダイナ殿だ。見てのとおり、人間族だが、もともと人間族だったわけではない。二人ともレブナント族だったのだ。」
あれ、フランちゃん、この二人に『神の御業』の力を使った?フランちゃんは僕が何が言いたいのか察したようで、首を横に振った。
「この二人を人間族に戻したのはどなたですか。」
「実は、東の荒野の向こうにあると言う人間族の国から来た『マロニー』という10歳の女性いや少女と言うか幼女なのじゃ。」
それはおかしい。僕は、この世界を『F35B』で赤道沿いに1週していた。確かにティタン帝国の裏側にも大陸があったが、そこは砂漠と草原が広がる大陸で獣や魔獣はいるが、人間或いは亜人が棲んでいるような様子はなかった。ましてや国家が存在するなど考えられない。では、その女の子はどこから来たのだろうか。考えられるのは立った一つだ。ゴロタ帝国のある人間界から転移してきたのだろう。しかし、そんな幼い女の子がたった一人で、この世界で生きていくなどできるのだろうか。魔物や獣が跋扈しているこの世界だ。ついこの前だって、3万もの魔物がわいてくるような不安定な世界で、生き延びるだけでなく、『神の御業』を使えるなんて、にわかには信じがたい。それに幼女と言うのも気にかかる。どうして僕の周りには幼い女の子ばかりが集まるのだろうか。そんなだから、『幼女殺し』とか『殲滅のロリコン王』とかの二つ名が付いてしまうのだ。
「それで、その『マロニー』と言う女の子は、どちらにいるのですか?」
「ああ、それについては少し説明が必要なのです。実は、そのマロニーと言う子は、同い年の女の子と8歳の男の3人で、『コカトリス』を討伐してしまったのです。それで、首や翼それに魔石を献上するために王都にやってきた際に、その子の力を試させてもらったのです。その結果が、ご覧の通りです。」
なんだか、チートさが異常だ。自分の若いころのようだ。10歳の女の子がコカトリスを討伐、何の冗談ですか。しかし、何かおかしい。そもそも何故その子の力を試したのか分からない。
「あのう、その子が『聖なる力』を持っていると言うことがどうして分かったのですか?」
「はい、東の荒野に接したところに『ハンス辺境伯領』がありまして、そこの騎士達が狼の群れに襲われたのです。たまたま居合わせたその子が、重傷の騎士達12人を治療したのです。その時は分からなかったのですが、のちに彼ら12人がすべて人間族になっていたことが分かったのです。その報告を受けて、私達で当時の状況を調べた際に、その『マロニー』なる幼女が怪しいとなった次第です。」
「それで、その『マロニー』と言う女の子はどちらに向かわれたのですか?」
「はい、王都での用件が終わったので、北にある『ブレナガン伯爵領』に帰られたと思います。そこの令嬢と一緒に行動をしておりました。そうですね、今日出立したので、通常なら2週間程度かかるはずです。」
うん、これは後ほど調査する必要があるな。まあ、所在がはっきりしているのならば、急ぐことも無いだろう。それから、キロロ宰相と今後のことを打ち合わせた。まず、最初に、王城で働く者達を人間族に戻すことにした。しかし、その前に、人間に戻る祭祀に参加できる条件を明らかにする必要がある。実は、エーデル市において少なからず高齢のグール人が死にかけたのだ。もともと寝たきりだったのだが、人間族に戻したとたん、危篤状態になってしまった。おそらくグール人の人並外れた体力がなくなってしまい、身体が病に勝てなくなってしまったのだろう。こうなったら、僕たちのやることなど何もない。ただ、静かに息を引き取るのを見守るしかなかった。やはり、この力にも限界があるのだと言う事を思い知らされてしまったのだ。
とりあえず、これからの作業を詰めることにする。キロロ宰相には各市町村に通達を出してもらう。『人間回復計画』の公開と、人間族に戻るための条件だ。それから、現在、種族間の差別を撤廃してもらいたい。すべての人間は、人間であるがゆえに平等であり、その権利は神をも侵すことのできない権利であることを高らかに宣言してもらいたい。
それから、『人間化』を進める順番については、すべてこちらに任せてもらいたい。その『マロニー』と言う子がどの位の力を持っているか分からないが、今のところ、こちらの戦力はフランちゃん一人なのだから。
その日の夕方、王城内にいる者達のうち、人間に戻りたい者を大広間に集まってもらった。驚いたことに全員だった。まあ、高齢者は、定年で退職しているのでいないのは当たり前でも、一人も拒否する者がいないと言うのも珍しい。それも奥様達の変貌ぶりをリアルに見れば、自分もとなるのも無理はなかった。皆が集まってガヤガヤしている中で、キロロ宰相が大声で指示を始めた。
「静かに、静かにせんか。これから、皆を人間に戻すのだが、どこか具合の悪い物はおらぬか。皆に内緒にしている大病を患っていると、人間に戻った時にそれが原因で死に至ることもあるのじゃ。皆、大丈夫じゃな。」
キロロ宰相、最初から脅しているのですが。それでも辞退するような者は皆無だった。まあ、この結果は、あと10分後位には分かるだろうが。フランちゃんが、皆の手段の中に入って行った。皆に、自分から同心円状に並ぶようにお願いしている。何十もの輪ができた。いよいよ始まるのだ。
フランちゃん、『キルケの杖』を高々と掲げた。この杖は、クレスタの遺品で、将来的にはマリアちゃんに上げようと思っていた物だが、今回、フランちゃんに貸し出しているのだ。キロロ宰相から借りていたクレイス製の『魔杖』についてはお返ししていた。
キロロの杖がピンク色に光り始めた。その光は杖を中心に同心円上に広がっていく。そこにいる者達の全身をピンクの光が包み込む。しばらくして、その光が青くなり、白い光になったところで、儀式は終わりだ。手を組んで祈り続ける者、黙って目を瞑っている者、光に包まれた瞬間から、自分の顔を撫で続ける者など様々だが、すべての者に神の福音がもたらせられた。
至る所で感嘆の声や喜びに泣き崩れる声が聞こえてきた。さあ、これからが大変だ。グレート・ティタン市は16の行政区と大司教直轄区に分かれていた。まずは、大司教がいる大聖堂に行き、大礼拝堂を借りる算段をする。それから、各区住民の集合日時をスケジュールして、大礼拝堂に集まった人々を一括して人間化しなければならない。大礼拝堂の収容人員は、600人だそうだ。1日10回で回して、6000人、グレート・ティタン市の人口が68,000人と言う事だから、10日以上いや休日もあるので2週間はかかってしまう。いやいや聖夜から新年にかけての休みもあるから、来年1月一杯を計画にあてることにしよう。他の市町村は、来年に計画を立てることにして、キロロ宰相配下の行政庁職員に頑張ってもらうしかない。
マロニーちゃんの存在をゴロタが知ることとなりました。




