第2部第205話 マロニーは小学4年生その10
(12月15日です。)
夕食会が終わって、ソニーお嬢様と部屋に戻ったの。ソニーお嬢様付メイドのルルさんは、別の部屋で食事をとったようね。私とソニーお嬢様は別の部屋だったけど部屋の広さや調度は同じ感じのようだった。自分の部屋で、のんびりしてお風呂でも入ろうかなと思ったら、部屋の扉がノックされた。どあ開けてみると、お城の従卒さんがいて『3賢人様がお呼びです。』と伝えてくれた。従者さんについていくと、キロロ宰相の執務室に案内された。室内には宰相以下の3賢人と奥様達がソファに座っていた。私も、空いているソファに座ると、さっそく宰相が口を開いた。
「お休みのところ申し訳ない。実は、折り入ってマロニー嬢にお願いがあるのだが。」
あれ、何だろう。『若妻』さんに関係あることかしら。でも10歳の女の子に直接頼むなんて、よほどの事なんだろう。私は、黙って宰相の次の言葉を待っていた。
「実は、もうご存じのとおり、エメル司法長官とドスカ騎士団長は人間族だ。以前は、儂と同じハイ・リッチだったのじゃが、ある人の力により人間族に戻ることが出来たのじゃ。そのある人とは、ゴロタ皇帝陛下と極めて親しいフラン殿と言う方なのじゃが、その方の『聖なる力』いや『神の御技』のお力により体内の『闇の力』が浄化され、人間族に戻れたのじゃ。」
へえ、初めて聞いた。『聖なる力』と言うのは、私がご主人様に与えられた力だから知っているが、『神の御技』というのは何かしら、魔法の一種なのかな。まあ、私には分からない力だから関係ないし。
「そこで、これは最近の情報なのじゃが、ハンス辺境伯の領主騎士団の騎士のうち、12人程がグール族から人間族に戻ったとの知らせがあったのじゃ。詳しく調査したところ、この者達にはある共通点があった。それは、マロニー嬢、あなたからケガの治療を受けたとのこと。それも瀕死の重傷だった者達をことごとく、全く傷の無い状態にするという神の奇跡の技だったとのことだった。それこそ『神の御技』では無かったかと推測した次第です。」
え、あれって、ただ『聖なる力』を思いっきり流し込んだだけなんですけど。あれが『神の御技』なの。そんな魔法が使えるなんてご主人様からは何も聞いていないんですが。
「あのう、その『神の御技』って魔法、私、使った事無いんですけど。」
「うむうむ。マロニー嬢がどのような魔法を使えるかは分からぬが、先ほどの空間収納魔法、あれは、よほど高位の魔導士でなければ使えぬ技じゃ。儂らでも儂しか使えぬからのう。それもあのコカトリスの頭を丸ごと収納するなど、その魔力量は計り知れない物じゃ。それで、ハンス辺境伯の騎士達に施術した力を、ここにいるダイナ、あ、ドスカの妻女なのじゃが、ダイナにかけて貰ないじゃろうか。」
「えーと、力を流すだけなら構いませんが、失敗しても責任取りませんからね。」
「おお、勿論じゃとも。いいな、ドスカ、ダイナ。」
「おお、儂は異論はないぞ。」
「私も、キロロ様のご指示に従います。私も夫と同じ人間族になりとうございます。」
ダイナ様に、前に出ていただき、その場でしゃがんで貰う。私は、立ったまま、ダイナ様の頭の上に右手を置く。目を閉じて体の中の力、それも『聖なる力』だけを右手に集めていく。手のひらからどんどん、どんどんダイナ様の頭の中に温かい力が流れていくのを感じる。私は目を閉じていたから分からなかったが、私の右手とダイナ様の身体全体が赤白く光っていたそうだ。力が流れていかなくなったところで、手を放し、目を開けた。そこには、15~6歳位の少女がいた。え、若返ったの?
ダイナ様は、自分の手を見て、血色も良く若々しくなったことに吃驚した。それでも、ご自分がどのような姿になったかお分かりになっていなかったので、それほどでもなかったが、周りにいた人々、特に他の奥様達が驚きになられていた。キロロ宰相が、不思議そうに、
「あのう、マロニー嬢、その力は若返りの力もあるのじゃろうか。」
そんなこと聞かれたって、分かるわけないじゃない。というか、50歳位に見えるドスカ団長と年の差ありすぎない?エメル司法長官が口を開いた。
「これは、私の推測だが、もともとレブナント族と人間族では寿命の差があるではないですか。人間族の寿命が80歳とすると、レブナント族の寿命はおおむね180歳、つまり2倍以上の差があるわけです。レブナント族のダイナさんは、今、38歳だとお聞きしました。ということは、その寿命差がそのまま、今の年齢に換算されて人間族になってしまうのでないでしょうか。現に、私も、ドスカも50代のような姿になったわけだし。ハイ・リッチとて寿命はあるでしょうから、その寿命に応じた年齢に戻った訳ではないかと。」
あ、他の奥様達が、指を追って数えている。リッチ族の平均寿命って分からないし、残っているリッチ族の奥様達の今の年齢も知らないけど、間違いなく若返るだろう。一人の奥様が席を立ちあがってこちらに来た。
「マロニー様、私にもぜひお願いします。」
いや、見た目50歳位の女性に『マロニー様』と言われても、困るんですけど。でも、力はかけてあげますよ。その女性は、エメル司法長官の奥様でサラセンと言うお名前でした。お年は聞かないことしていたんですが、『52歳』とご自分で明らかにされました。早速、力を流し込むとサラセン様は18歳位の見た目になられました。聞くと、リッチ族の平均寿命は220歳位だとのことでした。エメル司法長官の前の奥様がなくなられてから、ずっと独身だったそうですが、30年前にサラセン様と再婚されたそうです。
最後は、リッチ族のキロロ宰相の奥様かなと思ったのですが、今回は遠慮しておくとおっしゃったのです。夫がまだ、ハイ・リッチのままで自分だけ人間族になると言うことは、自分の方が先になくなると言う事なので、今、人間族になる気はないそうでした。キロロ宰相、泣かないでください。いつでも、力をお貸ししますから。因みに、奥様は今、68歳だそうです。人間族に戻ると23歳位かな。こうして、今日のイベントは終了した。キロロ宰相が、今回、私とボニカちゃん達がコカトリスを討伐したことに対しては王国として勲章の授与を考えているとのことでした。また献上品に対するお礼としてブレナガン伯爵に対し白金貨50枚を授与する予定だと教えてくれた。白金貨の価値を良く知らないけど、きっと凄い金貨なんだろうな。
次の日は王都見物をするので、早々に退去して自室に戻ることにした。ああ、何か疲れてしまった。
次の日、今日は1日、王都見物だ。美味しいものを食べたいし、服や武器なども見て歩きたいな。ソニーお嬢様も久しぶりの王都らしく、何かウキウキしている。ルルさんも王都は初めてらしい。うふふ、今日は何を食べようかしら。ルルさんは、ニットの上下スーツに羊の防寒衣を着ていた。ルルさんは、分厚いセーターとスカートに羽毛の入っているコートを着ていた。私は、そんなしゃれた物を持っていなかったので、冒険者服を買ったときにおまけで貰った雨具を羽織っている。風を通さないので、そこそこ温かいが、やはりかなりみすぼらしいようだ。ルルさんが呆れていた。淑女たるもの、雨も降っていないのに雨衣を着ているのは恥ずかしいと言うのだ。と言うことで、今日の第一目標は私のコートを買うことになってしまった。
街は、人も多くにぎやかだった。貴族街から外に行くと、本当に王都なんだなという賑わいだ。大通りに面して大商店が並んでいる。服屋さんはもちろんのこと、靴屋さんに帽子屋さん、下着専門店に宝石店、本当に多種多様で目移りしてしまう。目的の毛皮屋さんはすぐに見つかった。中に入ると、凄い。毛皮ってこんなにあるんだ。羊に狐、イタチにテン、変わったところではヤギに似た魔物の毛皮もあった。いろいろ試着してみたが、一番温かかったのは、テンの毛皮のコートだった。でも、値段が金貨70枚もするの。しかも手入れも大変そうで、雨に濡らしてはいけないんだって。あ、これってパスかな。
早々に店を後にして、今度はルルさんが来ているようなコートを探すことにした。ちょっと借りてみたけど、物凄く温かいし、表面が防水加工していて少しくらいの雨でも大丈夫だって言っていた。羽毛衣料店は、少し外れたところにあったんだけど、ここって、それだけでなくキャンプ用品とかも売っているお店なの。アウトドア専門店らしいけど、アウトドアって何か良く分からなかった。
そこで見つけた薄い緑色のジャケットを買うことにしたの。コートだと、冒険者服になった時、剣が邪魔をしてしまうので、腰から下が出ているジャケットタイプが冒険者には最適ね。私は知らなかったけど、羽毛にも種類があって、鶏の羽なんか一番安いんだって。最高級品質は、白い水鳥の羽の根元にあるパヤパヤの糸みたいなところなんだって。店員さんが、『ホワイトグースダウン98%』とか言っていたけど、確かに軽くて暖かい。お値段も金貨1枚以上したけど、貰うことにしたわ。ルルさんは、白色、ソニーお嬢様はピンク色を進めていたけど、森の中で敵から見つからないように目立たない色というとこの色が一押しね。店員さんが、オリーブ色というって教えてくれた。オリーブの実の色かしら。それとも葉っぱ?
早速着込んでみる、これなら剣を吊るせる。さっそく、剣帯を腰に巻いてショート・ソードを下げてみる。矢筒を背中に背負い、弓を右手に持った。その姿をお見せの鏡に映してみる。うん、カッコいい。なんとなく、顔が荷や付いてくる。ルルさんが呆れていた。私って、冒険者マニアだそうだ。冒険をしないのに冒険者のような姿をする人たちのことをそういうらしい。でも、冒険者って男のロマンよね。私は、女の子だけど。
お昼は、『粉や』っていうお店に行って、卵とエビとキャベツが入った小麦汁を目の前の鉄板で焼く料理を食べたんだけど、ヘラで塗るソースの味が抜群でいくらでも食べれそう。具材もいろいろあり、お肉にエビ・カニそれとタコにイカ、本当にお腹いっぱいたべたわ。午後は、公園や図書館それに博物館などを見物してから、夕方、貴族街にあるブレナガン伯爵王都別邸に泊まることにしたの。多くの領地持ち貴族は、王都にお屋敷を持っているの。その土地は爵位に応じて与えられるんだけど、ブレナガン伯爵の別邸は、土地こそ他の伯爵家と同じくらい広いけど、建物は、こじんまりとしていて、 6LDK位の広さしかなかった。建物の管理は、年配の夫婦にお願いしていて、敷地内に使用人用の家屋に住んでいるそうだ。今日の夕食は、管理人さんの準備した者にしたが、素朴だけど誠意が感じられるとても美味しい魚料理だった。今日は、ドンキさん達4人も一緒にこの別邸にとまることにしたので、夕食もにぎやかなものだった。




