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第2部第204話 マロニーは小学4年生その9

(12月15日です。)

  午後4時45分、ようやく、私達の面会の順番が来た。待機していた『白松の間』には、私達以外誰もいなくなってしまった。部屋を出ると長い長い廊下を歩いていく。その先に大きな扉があった。高さは5m以上あるだろうか。こんなに大きな扉が必要なのだろうか。扉の左右には、専門の従卒がついており、左右に大きく開いてくれた。


  「ブレナガン伯爵家ソニアリア・フォン・ブレナガンご令嬢がまいりました。」


  中の従卒が大きな声で紹介する。あ、『ソニアリア』というのは、ソニーお嬢様の正式なお名前ね。ソニーお嬢様が先にはいり、私はその後を付いていく。玉座の前には、玉座より一段低くなった段があり、そこに3人の男の方達が座っていた。この方達が3賢人なのだろう。真ん中の人がキロロ宰相だとも思うわ。私達は、カーテシーをきちんとしてから、自己紹介した。


  「ソニアリア・フォン・ブレナガンでございます。」


  「マロニーです。」


  今日は二人ともドレスなので、カーテシーも決まってくれた。それで、正面を見て驚いた。真ん中のキロロ宰相はリッチのようだが、左右の方々は明らかに人間族だ。あれ、3賢人って人間だったの。昔は人間だってことを聞いていたけど、確か、3人ともリッチだったはず。キロロ宰相が最初に口を開いた。


  「ソニアリアよ、書状は読んだ。『コカトリス』を討伐したそうだな。ブレナガン候の所には、腕の立つ騎士がおるようじゃな。して、献上品があると聞いていたが、それはどこじゃ。」


  献上品を床に直接置くわけにも行かない。従卒の方がテーブルを準備してくれる。私が、空間収納からコカトリスの頭、翼1対、それと魔石の入った宝石箱を取り出して並べる。3賢人は、ギョッとしていたが、すぐに平素の顔に戻った。ソニーお嬢様が口上を述べる。


  「この品は、我が領地で討伐したコカトリスの部位と魔石でございます。3賢人様に献上いたしますので、是非、お納めください。」


  「うむ、すさまじい物じゃな。この国でコカトリスを討伐したのは、今から120年前だったと記憶しておる。その時は、大きな被害を出しながらも討伐したと聞いておるが。ドスカ団長、どうだったかのう。」


  「うむ、あの時は我も参戦したが、石化されてからの攻撃により、千単位の兵士が粉々にされたのう。これは頭や羽の色から成鳥ではないかも知れぬが、それでも石化の能力は恐ろしいからのう。」


  「そうじゃったか。それで、そちの隣の少女は何じゃ。」


  「はい、この少女、マロニー嬢こそ、コカトリスを討伐した本人でございます。」


  「は?何だって。こいつが?あり得んだろ。」


  あのう、キロロ様、素に戻ってますが。


  「はい、この子が、お友達2人と共に倒しております。」


  「そ、そのお友達とは、どのような?」


  「はい、この子の同級生の女の子と、小学2年生つまり8歳の男の子です。」


  もう、皆、黙り込んでしまった。ドスカ団長が質問した。


  「そ、それでマロニーとやら。どのようにして討伐したのかな。」


  「はい、私が弓で足2本を射ち抜いて転倒したところを、ボニカちゃんの弓とバーカス君の剣で、戦闘不能にしました。最後に、私が首を切り落としました。」


  私、事実を言っただけだけど、何かおかしかったのかな。ドスカ団長が誰かを呼んでいる。あ、ボニカちゃんを『ちゃん』付けで呼んだのが気に障ったのかな?


  もう一人の人間族の男の人が、私に質問して来た。


  「あなたは人間族のようですが、どのようにしてこちらに来たのですか?それとも『聖なる』いや、あなたは『フラン』と言う女性を知っていますか?」


  「この世界には、東の荒野を渡って来ました。フランと言う人は知りません。」


  「東からと言うと、それはいつ頃ですか。」


  「10月の中旬頃だったと思います。」


  「あなたはハンス辺境伯領を通った事がありますか?」


  「はい、有ります。」


  「もしかして、その時、狼と戦っていた騎士達を助けませんでしたか?」


  あれ、これって正直に答えるとまずいモードかも知れない。黙っていると、ソニーお嬢様が余計なことを言い始めた。


  「マロニーは、弓の名手であると共に、優秀な『癒し手』なのです。うちの騎士も、死にかけていたところを助けて貰ったのです。」


  あーあ、言っちゃった。まあ、嘘じゃあ無いけど、何となく内緒にしていたかったな。


  「人間、癒し手、人間、癒し手・・・」


  あ、この賢人様、自分の世界に入ったみたい。ハッとして、真ん中のキロロ宰相と内緒話をしている。でも私には筒抜けなのよね。


  『この子は、もしかすると『聖なる力』を使えるんでは無いかな。人間族だし。』


  『うーん、しかし試すわけにもいかんぞ。』


  『いや、ドスカの若妻はどうじゃ。20年前に結婚したから、今は36歳のはずじゃ。』


  『いやドスカに聞いてみないと。それに、その若妻だって、意思確認が必要じゃ。』


  何やら不穏な会話をしているようだが、内容がよく分からない。何、『若妻』って。私を若妻にしようって言うの。ムリー。絶対にこの爺さん達の若妻なんて無理だから。


  その時、誰かが入って来た。姿からすると宮廷付従者では無いようだ。とすれば騎士かな。その男は、少し進むと膝まづき、


  「大将軍閣下、準備が整いました。」


  と言った。何の準備だろうと思ったが、黙っていると、ドスカ団長が私に向かって声をかけて来た。


  「マロニーとやら。お主の弓の腕を試したい。良いかな?」


  「御意のままに。」


  すると、ドスカ団長を先頭に3人の賢者が玉座の間を出て行った。私とソニーお嬢様もそれに続く。行き先は、宮城内の屋内鍛錬場だった。ひとりの騎士が鳥籠を持っている。中には黄色いカナリヤが3羽入っている。


  あれ、騎士さん、そこでカゴを開けると逃げちゃいますよ。あーあ、逃げちゃった。


  「マロニー、あの小鳥達を射ってくれるかな。弓は好きな物を使って良いぞ。」


  弓架台には大小色々な弓が架けられていた。と言うか、あの飛び回っている小鳥を射ち落とすのですか?


  「えーと、それは無理です。あんな小さな小鳥を打ち落とすなんて無理です。私にはできません。」


  「ほお、やはり無理か。」


  「はい、あんな可愛い小鳥を射つなんて可哀想だと思います。」


  「何?できない理由はそこか?うーん、困ったのう。では、どうすれば良いかのう。」


  私は、鍛錬場の隅に転がっていた壊れた武具の破片を示して、


  「あの武具の破片を3つ同時に放り投げてください。それを全て射抜きましょう。」


  私は、エルフの弓を出した。新しい弓は、強すぎて今の私では『身体強化』を使わないと連射ができないのだ。いつもやっているように、矢を3本左手で持ち、その内の1本を弓につがえる。残りの2本は、左手で矢羽根をもっている。準備完了だ。


  「準備OKです。」


  騎士の方が1個ずつ投げてくる。いや、そうじゃ無いから。私は、一旦弓を降ろし、騎士の方にお願いする。


  「いえ、そうではなく一遍に投げて下さい。なるべく高く。」


  騎士さん、了解したみたいで大きく頷いた。私は、もう一度弓を構えて、


  「お願いします。」


  今度こそ、3個の武具のかけらが高く投げられる。当然、それぞれがバラけながら放物線を描いていく。


    ビュビュビュン!!!


  3本の矢が、ほぼ同時に放たれる。


  パスパスパス!!!


  全ての的に矢が命中する。しかもど真ん中を射抜いている。これで弓矢ショーはお終い。さあ、帰りましょう。そう思ったら、『今日は王城の客室に泊まるように。』と言われた。明日は、王都見物の予定だったので、断りたかったのだが夕食の後で、折り入って頼みたい事があると言われたの。もし『若妻』の件だったら絶対に断ろうと思ったけど、ソニーお嬢様が承諾してしまったので、もう仕方が無かった。


  本来、国賓等の宿泊は王城の隣にある迎賓館に泊まるのだろうが、私達は内輪の客という扱いなので、王城内に泊まることになったの。それで、今日の夕食は、3賢者様と一緒ということになってしまった。これって、とっても名誉な事なんだけど、300歳のご老人達と一緒に食事したって絶対に愉しくなんか無いと思うんですけど。


  夕食会は、非公式なので普段着でと言われたんですけど、ドレス以外、冒険者服しかないし、うーん、どうしよう。まあ、いいか。ブラウスにチュニックで、ベルトと言うか剣帯を腰に巻いておく。勿論、剣は付けない。チェーンメイルも装着しないで、本当に簡単な服装にしたの。流石に鉄板入りの黒のブーツというわけにも行かないので、部屋に置いてあった室内履きをお借りした。あ、勿論ズボンも履きませんでしたよ。チュニックは、元々ワンピースくらい裾が長かったので、ズボンを履かなくても全く問題は無かった。


  ソニーお嬢様も普段着だけど、もともとワンピースやツーピースを普段着にしていて、その上からニットのカーディガンをはおるだけでちゃんとした格好になるのって狡いよね。夕食の時間だという事で、食堂に行ってみると、3賢者様の他に奥様達だろうか3人の女性がお席についていらした。キロロ様と司法長官のエメル公爵のお二人の奥様達はそれなりの年齢のリッチ族みたいだったけれど、ドスカ侯爵の奥様はレブナント族で、明らかに年齢がお若い。まあ、お若いと言っても見た目30歳位かな?


  冥界では、レブナント族とリッチ族は外見上大きな違いがあり、身体ががっしりしていて戦闘系がレブナント族、痩せていていて目が落ち込んで魔道士系がリッチ族だったんだけど、この世界では少し違うみたい。でも、明らかにスレンダーで小型なのがリッチ族、ナイスバディなのがレブナント族となっているみたい。そう言えばソニーお嬢様もナイスバディだったし、ボニカちゃんも私より大きいし。


  夕食はコースではなく、ミートパイと具沢山クリームスープだけの家庭料理だった。ドスカ団長の奥様が、皆に取り分けてくれていたけど、料理も彼女が作ったんだって。宮廷シェフがいるんだけど、行事がない時は彼女が作ることにしているんだって。因みに、いちばんの得意料理は、ローストビーフですって。うー、食べてみたい。

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