第2部第201話 マロニーは小学4年生その6
(11月25日です。)
今日は、学校がお休みだ。バーカス君とボニカちゃんの3人で魔物狩りに行くことにしている。今日は、ボニカちゃんもいるから、近場でチョチョイと狩るだけにしよう。ホーンラビットやドスボアあたりを狙おうと思っている。
午前9時、東門の前で待ち合わせだ。私とボニカちゃんが行ったら、既にバーカス君が待っていた。バーカス君、この前のようなフルアーマーではなく、軽鎧に子供用のショートソードだ。ボニカちゃんも一緒と聞いて、ご両親に今日はそれほど危険ではないと判断して貰ったのだろう。まあ、危険はないはずだけど。
東門を出て街道をまっすぐに行く。11月だけど今日は日差しが暖かい。ハンス辺境伯領に行き来する旅人や行商の人たちも多いようだ。途中から街道の右に分かれる道があった。隣村に行く道だ。村には森を抜けていくのだが、最近魔物が出ているとドンキさんが言っていた。私達は、その魔物を討伐しに来たのだ。開けた場所から森の中に入る。先頭は私。バーカス君にボニカちゃんと言う隊列を組んでいる。あ、鹿がいる。雌鹿のようだが、少し小ぶりだ。はぐれ鹿かな。ボニカちゃんに弓の準備をさせる。バーカス君が剣を抜いてっ準備する。あ、でも動かないでね。私も背中から矢を3本取り出して弓につがえておく。ボニカちゃんに先に撃たせるつもりだ。鹿までの距離は約40m、モニカちゃんの弓でも十分に射程範囲だ。
モニカちゃんが弓を引き絞る。鹿の背中のやや上を狙わせる。矢の射線を予想すると、何となく当たりそうだ。
シュパッ!
矢が放たれた。ゆっくりと山なりに打たれた矢が鹿のお腹辺りに突き刺さった。まあ刺さっただけですが。ピョンとはねた鹿が方向変換して逃げ出そうとする。その瞬間、私の放った矢が3本、鹿の首元を射抜いている。それでも10m位は逃げたかもしれないが、ドウッと倒れてしまった。
「バーカス君!」
私が、声をかけると、それまで射線の妨害にならないようにしゃがんでいたバーカス君が、気が付いたように立ち上がって鹿の方に走り始めた。あ、ショートソードを抜いたまま走っている。あれでは転んだ時、自分の剣で怪我をしてしまう。後で注意をしておこう。バーカス君、鹿の背中側から近づいて、前脚の付け根あたりの急所に剣を突き刺した。うん、これで狩猟完了だ。これからの処理は私の仕事だ。弓をしまい、空間収納からコテツを取り出して解体作業の始まりだ。まず首の頸動脈を切り裂く。そのまま足にロープを巻きつけ、そのロープを高い枝にかけて鹿を引き上げる。今日は3人がかりだ。何とか引き上げた鹿の首の頸動脈から血液が流れ落ちてくる。ボニカちゃんとバーカス君に向こうに行っているように言うと、このまま見ていたいと言う。まあ、仕方がない。お腹から皮を剥ぎ、膨らんでいる腹部に剣を差し込んで上下に切り裂く。内臓がベチャベチャっと落ちて来た。後は、足の腿とか脇腹の美味しい部位を剣で切り取る。後は、全体を骨から切り外して解体終了だ。皮は畳んで空間収納へ入れる。内臓から肝臓だけを切り分け空間収納へ。後は、適当に肉と骨を切り分けて、肉だけを空間収納にしまってしまう。残骸は、土の中に埋めてお終いだ。今日は、狩ったばかりなので余り美味しくないかもしれない。本当は2~3日置いて熟成させた方が美味しいんだけど。でも、今日のディナーは鹿料理だね。
さあ、今日の目標とは違ったけれど、狩第1号はうまく行った。後は、魔物ですか?もう少し森の中に入って行くと魔物がいる筈。でも、何か様子がおかしい。また鹿がいると思ったら鹿の彫像だった。こんな森の奥に置いて、何の役に立つのだろう。そう言えば、冥界の宮殿にも神々の彫像が並べられていたわね。でも、ここは森の中だし。あれ、あれって熊?熊の彫像?でも、これって絶対におかしいんですけど。
微かな気配を感じる。私が先頭なのは変わらないが、バーカス君とボニカちゃんには、もっと離れるように指示を出しておいた。50mは離れたろうか。これなら魔物の攻撃を不用意に受ける事はないだろう。私だけ、気配を消しながら20mまで接近して魔物の正体が判明した。鳥だ。でかいニワトリだ。頭の高さは、私よりも高い。ニワトリのような頭だが、トサカが何本ものツノのようになっている。私は、足の付け根を狙って二連射して撃ち抜く。ニワトリモドキはドウッと横倒しに倒れたが、首を回してこちらを見ている。一瞬、そいつの目が青白く光ったが、私の周りで何かがぶつかる音がしただけで何も起こらない。何だろう。分からない事は気にしないようにしよう。急いでニワトリモドキに近づき翼を切り落とす。もう飛んで逃げることもできないだろう。私は、ボニカちゃん達を呼んだ。嘴や足の届かない安全な背中からの攻撃を指示する。
それから殲滅ショーが始まった。ボニカちゃんのヘナチョコ矢が背中にプス!バーカス君のヘロヘロ剣が背中からブシュ!
プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!プス!ブシュ!
最後は、いたるところ切り傷だらけのハリネズミのようになったトリモドキが、懇願するような目で私を見ていたので、コテツを取り出し。一刀の元、首を刎ねてあげた。トリモドキの肉も美味しいかも知れないが、あの哀れでつぶらな目を思い出すと食べる気がしない。頭と翼は回収しておいたが、後は捨てよう。魔石だけ取り出してから埋めることにした。鳥の目が光った時、私の『状態異常無効』スキルが自動で発動していたらしいのだが、勿論、そんなこと私が知っている訳が無かった。
帰り道では、あの彫像が無くなっていた。出来が良かったので、帰りに持って帰ろうと思っていたのに。だーれ、持って行ったの?
もう、大したものがいなかった。ホーンラビットの群れが襲って来たが、私の『鉄ビシ』の餌食だった。3匹位までならボニカちゃん達に任せても良かったが、流石に10匹以上だと手伝わない訳にはいかない。ボニカちゃんも、一生懸命、矢を射っていたし、バーカス君も、とどめを差していた。ホーンラビットも魔石があるのだが、小さいし大してお金にならないので、簡単に血抜きをしてから空間収納に放り込んでおく。
さあ、帰ろうか。
街に戻ったら、丁度お昼だった。クレープ屋さんに行ってクレープを3人で食べたんだけど、相変わらず美味しかった。飲み物はホットミルクね。もうそろそろ、屋外の屋台での買い食いは辛くなって来たわね。でもちゃんとしたレストランは子供にとって入りにくいし。
素材屋さんに行ったら、結構お客さんが来ていた。柄の悪そうな人もいたけど、一番柄の悪そうな人は、この店の店長だった。皆、素材を売るか、今、注文の出ている素材の依頼書を見ている。素材の欲しい人は、素材屋さんに買い取り注文を出すんだって。それで腕に自信のある人が素材をゲットして、この店に売りにくるの。素材屋さんは、買値の2割を手数料と鑑定料として依頼人から貰うんだって。なんか冒険者ギルドみたい。行った事ないけど。
私の番が来たので、一つずつカウンターに並べたの。最初は、鹿の肉だ。自分達で食べる分は除いて20キロくらいかな。銀貨2枚だった。次にホーンラビット11匹だ。血抜きをしていて丸ごとだったため、1匹大銅貨2枚で、計銀貨2枚と大銅貨2枚になった。予想より少し多いのでうれしい。最後に、あのニワトリモドキの頭と翼だ。頭はスープ位にはなるかも知れないわね。翼は羽毛布団の素材程度ね。そう思ってカウンターの上に並べた。
それまでガヤガヤしていた店内がシーンとしてしまった。あれ、どうしたの。何か、やってしまいました?
「お、お嬢ちゃん、こ、これどうした?」
「え、東の村に行く森にいたんで買ったんですけど。やっぱり、引き取って貰えませんか。」
頭と翼だけだと価値ゼロかも知れないと、ちょっとがっかりしながら答えた。
「いや、そういう問題じゃなくって、これ、お嬢ちゃん達だけで狩ったのかい?」
「ええ、ほとんどボニカちゃんとバーカス君の練習相手だったんですけど。」
「え、練習相手? これが? お嬢ちゃん、これ何だか知ってるのかい?」
「えーと、ニワトリモドキ!」
お店の中の人達、一斉に大きなため息をついていた。どうやら完全に外してしまったらしい。
「いいかい、こいつは『コカトリス』っていう魔物だ。目から光が出ていなかったかい。その光を見た奴は石になってしまうんだ。」
私だって『コカトリス』位知っている。大型の鳥のような恰好をしていて、頭が赤くって、角みたいなトサカが頭から首にかけて付いていて、って、あれ、これ、頭の色以外すべて一致しているかな。というか冥界図書館の魔物図鑑って結構いい加減に書かれていることが多かった気がするんですが。あ、でもどうしよう。『コカトリス』が絶滅危惧種に指定されていたら、私、駄目な子認定されてしまうわ。どうしよう。
「あのう、もういいです。帰ります。これ、持って帰りますから、見なかったことにして下さい。」
「な、なにを言っているんだ。こいつは、あの森に住み着いて通りがかった旅人や村人を石に変えていたんだ。村では、石にされた村人たちを持って帰って大切に保管しているんだぞ。元に戻すには、コカトリスの呪いを解くために討伐しなければいけないので、今、領主様が討伐部隊を編制していることを知らないのかい。」
「ええ、知りません。」
ここは、はっきり言おう。ドンキさんが言っていた魔物って『コカトリス』のことだったのか。それなら早く言ってくれればいいのに。
「ということは、これ、買取は無しってなりますよね。」
「当たり前じゃあねえか。領主様に内緒で買い取ったら、俺の首が飛んでしまうよ。」
「ちなみに、もしこれを売ったら幾ら位ですか?」
「うーん、俺も今まで買い取ったことはねえが、魔物の上位種だ。希少価値を考えても水竜以下ってことはねえと思うぜ。」
え、と言うことは金貨120枚以上?こんなスープの出汁にしかならないものが、そんなに価値があるなんて。この世界の相場って全然分からない。
知らないうちに大変なことになっています。




