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第2部第199話 マロニーは小学4年生その4

小学校の授業が始まります。

(11月13日です。)

  朝5時30分に起きて、裏庭に行く。いつもの通り『弓』と『投げビシ』の練習をしてから、『丸太木刀』の千本素振りは300本だけにしておいて、コテツを使った形の練習を繰り返してみる。正しい振りとは何だろう。昨日バーカス君の言った事が気になる。上段からの面打ち。これ一つとっても、振りかぶった時の腕の位置、手首の返し、足の位置、全てに気配りをしてみる。振り下ろす時だって、ただ素早いだけではダメだ。剣の重さは意識するが、自分で振っていなければならない。そして、相手の頭を切り裂くためには、ただ振り下ろすだけでは駄目で、前に押すか手前に引かなければいけない。そして止めようと思った時に止める。止まる瞬間までは最大速度を維持する。物理法則を無視した動き、それが正しい振りなのだろうか。


  一の形を繰り返す。何度も繰り返す。いや、まだだ。何十回も繰り返す。裏庭の地面に足が擦った跡がついていく。手が痛い。きっとマメができている。一旦、稽古を中止して手の平をケアする。うん、大丈夫。更に形を繰り返す。段々、周りが気にならなくなる。剣に意識を集中だ。力が剣に集まってくる。振り抜く気持ちと止めの動作が一体になった。


    ボシュ!


  あれ!何?何かが飛んでった。目ではよく見えなかったが、確かに剣の先から何かが放たれた気がした。それから何回か振ってみたが、その時以降、二度とそんな事は無かった。あれって、一体何だろう。


  コテツで形の練習をする時、鞘を腰のベルトに挿すことにした。素早く抜き払い素早く納刀する。そう言う方もあると言う事をドンキさんに教わったからだ。達人になると、一瞬で抜くと同時に相手を切り納めてしまうそうだ。そう言う動作をする時、剣の反りが非常に都合が良い。全てが円の運動になっているからだ。直刀の幅の広いロングソードでは出来ない動きだ。楕円形の鞘の断面に嵌められている鯉口の形も、そう言う動きを意識して作られている様だ。うん、かなり分かってきた気がする。


  学校に行くと、この前の誘拐事件のことが話題になっていた。伯爵家で預かっている令嬢が誘拐されるなど合ってはならないことで箝口令が敷かれていたのだが、人の目は誤魔化せない様だ。あの悪タレ3人組が突然いなくなったのだ。噂にならない訳がない。皆さん私に真相を聞いてくるが、メイドの私などが答えられる訳がない。


  「知らない。」、「分からない。」、「答えられない。」


  これの繰り返しだ。ボニカちゃんには、遠慮して聞かないみたいだ。彼女は、伯爵家の縁者で、失礼があってはならないし、貴族の女性が誘拐されたなどと言うのは、本人に責任はない事でも醜聞には間違いない。結婚前の貴族女子には一点の疑いも有ってはならないのだ。クラスの男子達は、有る事無い事を言っているみたいだ。


  「もう生娘ではないだろう。」


  「嫁には、貰いたくないな。」


  酷い。皆には聞こえないだろうが、私の聴覚は人並み以上なので、ハッキリと聞こえた。でも、ここで騒いでも、ボニカちゃんに良いことなど一つもない。悔しいけど、ここは黙っていよう。


  授業が始まった。先生が誘拐事件について、保護者を集めて説明会をするそうだ。生徒が犯行に加担していたことや、その背景などについて説明して保護者達の不安を取り除くのが目的だそうだ。私は、手を上げて発言を求めた。


  「マロニー君、何かね?」


  「その席で、ボニカちゃんとバーカス君が、誘拐されて拘束されただけで、他の被害が何も無かった事も説明して貰えませんか。」


  「いや、私たちは目撃していないし。知らない事を説明は出来ないのだが。」


  「いえ、私も見ていますし、バーカス君の証言も有るかと思います。」


  先生は、黙ってしまった。明確に反論できるだけの証跡もないし、伯爵家の食客となっている私が言うのだ。直ちに反対はできないはずだ。


  「あー、分かった。その件については校長と相談して決める事にする。」


  これで、話しは終わった。それから授業が始まった。算数と国語は全く問題がない。理科も、冥王図書館読んだ理科図鑑に書いてある事ばかりだった。私の最も不得意教科は社会だった。特に領地持ち貴族の名前と場所が分からない。冥界でも貴族制度はあったが、この世界の貴族制度は複雑だ。貴族の内、最低位は士爵だ。これは騎士が叙されることから騎士爵とも呼ばれる。士爵は原則相続できないし、領地もないのが普通だ。次が準男爵だ。これは騎士以外のものが、領地無しで叙されるもので、伯爵以上の者が授与する事ができるが、世襲できないし領地もないのが普通だ。但し大地主が、名誉を得るためだけに叙爵される場合があり、その場合は限定的ではあるが領地が持てる様になる。


  次は男爵で、ここから正式の貴族になる。世襲が認められ、宿舎又は領地を与えられと共に爵位は国王陛下からの授与となるのだ。領地を持った場合は、徴税権と司法権を持つ様になる。


  男爵の一つ上が子爵で、当然に領地があるが、領都から離れている場合が多いので、両都に居住する者が多いのである。


  次は、伯爵で領地も広く、治安維持のための騎士団を持つことが許されている。又、準男爵以下の叙爵権限も持っている。まあ伯爵位からが上級貴族に属している。


  辺境伯は、伯爵という名は付いていても、その地位は侯爵以上とされている。本来、領地の広さに応じて編成される騎士団の他に国境警備のための騎士団を別に持つことが許されており、その経費は、王家への上納金額に含まれているのだ。どうして伯爵位なのかというと、侯爵とすると余りにも強大になりすぎるからと言う政治的観点からである。


  侯爵は伯爵と権限は変わらない。伯爵の中でも、王家への功績が抜群であった者が叙せられるのだが、陞爵に応じて王家への上納金額とか騎士数などが引き上げられるので辞退する伯爵もいるそうだ。唯一違うのは、侯爵麾下の貴族達を指揮することができるのだ。但し戦時に限ってなのだが。平時では、パーティーの時、上席に座れることくらいかな。


  公爵は、よく分からない。一説によると、王家の血族や姻戚関係にある者とされているそうだが、冥界では全く違うし、この世界でも地這うようだ。


  そして、問題は学校の授業で男爵領以上の全ての領地と名前を覚えなければならないことだ。それも分家など名前が一緒だし。絶対に無理だって。周りを見たって侯爵でギブしているし。あと、王国史も難解だ。3000年も前の神話から始まって、現代史の300年、人の名前と立場、政策なんか興味ないし。


  一番好きな科目は、料理ね。得意だし、お美味しいし。メイド歴80年の腕の発揮どころよ。それとお裁縫。上級生になるとドレスを作るらしいけど、今はシャツとかスカートを作っているの。私は、皆の半分くらいの時間で終わっちゃうから、後はできない子達に教えたり、手伝ったり、手伝ったり。まあ、下手な子って、いくら教えても下手だし。私が手伝った方が早く終わるし。本当は、男子達みたいに剣術や格闘技をやってみたいんだけど、淑女はそう言う事をしてはいけないんだって。


  今日の午後は、いつもと違って男女一緒の合同授業だった。何だと思ったら『魔法実習』だって。初めて受ける授業だけど、皆も今日が初めてなんだって。レブナント族は、大体10歳位で魔力が芽生えて来るらしいの。それからは魔法適性に応じて訓練をするんだけど、今日は、その適性を調べる授業なんだって。


  特別教室では、見たことのない人が教壇に立っていた。王立魔法学院を卒業した魔道士で、今は生活魔石の生産所で働いているんだって。見た感じ60歳くらいの女性だった。


  「今日は、皆さんの魔法特性を調べます。今から配るのは魔杖、ワンドとも言います。1人1本ずつ持って下さい。」


  そう言って、50センチ位の白っぽい棒を配っていた。へえ、これがワンドか。棒の片側は太く丸くなっていて、持ち易い様になっている。反対側は細くなっているが、やはり先端は丸く削られていた。冥界図書館でみたオーケストラの指揮者がもっているタクトみたい。


  魔道士の先生は、黒板に呪文を書いていった。火の呪文らしい。


  「これは、火魔法の呪文です。ワンドを前に伸ばして、この呪文を読んで下さい。それでは、5人ずつ前に出てやってみて下さい。」


  えー、大丈夫?生徒の位置と黒板の位置って5m位しかないんだけど。最初の5人が並んで呪文を詠唱する。


  「「「「「紅蓮なる火を司るものよ。その力を我に示せ。ファイア」」」」」


  冥界図書館の蔵書で『サルでもできる詠唱魔法』の一番最初に書いてある火魔法呪文だ。私は、メイド魔法以外使う必要がないと言われて、使ったことないんだけど、こんな簡単な呪文、覚えるなって言われたって覚えちゃうよ。


  私、顔が引き攣っていたんだけど、その心配は杞憂だったわ。5人のうち1人だけが、ポションと小さな火が灯っただけ。その子は列から抜けて、今度は『流れ落ちる水』と、最初だけ変わって『ウオーター』、これは僅かに床を濡らした2人が抜け、次の『ウインドウ』で1人、最後はバケツに入った砂に向けて『サンド』だったけど変化無し。最後の女の子は、魔法適性無しとされてしまった。可哀想に泣き出してしまった。お友達が慰めていたけど、魔法の属性って4属性だけかしら。


  ボニカちゃんは、風属性の適性があったみたい。ホッとした顔をしている。良かったね。皆の適性検査が進んでいるんだけど、私だけ呼ばれない。あれ、私ってハブられてる?結局、私の検査はさせて貰えなかったの。聞いたら、人間族の魔力がどれ位有るのか分からないので、危険は犯せないそうだ。まあ、いいけど。どうせメイド魔法の適性なんか調べられないでしょうし。先輩メイドなんか空間収納以外に、お化粧魔法とかお掃除魔法なんか使っていたけど、私には早いって使わせてくれなかったの。お陰で寒い冬だって凍えながら雑巾掛けをさせられたわ。でも一番辛かったのは水汲みね。先輩達は井戸から桶一杯の水を何杯も浮かせて運んでいたのに、私なんか、1杯ずつ手に持って運ぶのよ。空間収納に入れると、他の品物が駄目になるって使わせてくれないし。あれって、絶対に虐めよね。でも、あの物体浮遊魔法、どうやるんだろう。

メイド魔法は奥が深いですが、ゴロタの世界の『魔法』と『スキル』がごちゃごちゃになっています。

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