第2部第196話 マロニーは小学4年生その1
いよいよ、マロニーちゃんはJSになります。最強のJSです。
(11月8日です。)
今日、ボニカちゃんと一緒にブレナガン高等学院附属小学校に初登校だ。領主館から子供の足で30分程度の場所にある。小学校から高校までの一貫校だ。大学は王都にしか無いそうだ。
ブレナガン市の貴族や大商人の師弟は、皆この学校に通うと言うか、この学校しかない。通常のグール人や魔人族は、学校には通わず近所の塾に行ったり奉公先で読み書きを覚えるのだ。
冥界にも、キチンとした学校はないが、皆、超長命なので、長い間に通常の知識は皆学習してしまう。私も簡単なの読み書きを先輩に習っただけで、後は図書館に通って覚えた記憶がある。
学校には、伯爵家で揃えてくれた制服を着てゆく。冬服なので紺色のセーラー服にエンジのニットセーターだ。チェックのスカートの下は紺色のブルマーを履いている。教材が入っているランドセルを背中に背負って持っていく。弓やコテツなどは空間収納の中だ。学校に到着すると、ボニカちゃんは、自分の教室4年A組に向かった。私は、1階にある校長室に行くことになっている。校長室のドアをノックすると、『どうぞ。』と返事があったので、ドアを開けて中に入った。室内はかなり広く、会議スペースも十分にあるようだ。
私から自己紹介する。
「今日からお世話になります。マロニーと言います。人間族です。」
校長先生は、女性のレブナント人だ。
「あらあら、ご丁寧に有難うね。私は校長のキサナドと言うの。宜しくね。ボニカちゃんと一緒に暮らしているのね。仲良くしてあげてね。担任のジェファーソン先生が迎えに来ているから、一緒にクラスに行ってちょうだいね。」
「はい、有難うございます。」
本当は、カーテシーを決めたかったけど、ランドセルを背負っているので、頭を下げて一礼するだけにした。ドアを開けると、グール人の男の人が待っていてくれた。黒髪をオールバックにして銀縁眼鏡、顎の尖った神経質そうな先生だった。
私を見ても何も言わずに、先に歩き出した。何かが気に入らないみたい。まあ、私自身は気にならないからいいけど。
クラスは3つあって、A組がレブナント人、B組とC組がグール人のクラスになっている。校舎は3階建てで、3階は5、6年生、2階が3、4年生。1階は1、2年生のクラスになっていた。
4年A組は、校舎真ん中の階段を上がった直ぐのところにあった。先生が扉を開けると、生徒の誰かが
「起立。」
と号令をかけてくれた。ガタガタッと椅子を押し退けて生徒が立ち上がる音がしている。先生が、教壇に立つと、『礼』と号令が掛けられたが、生徒は頭を下げて礼をしているが、先生は立っているだけだ。『着席』の号令で、皆、一斉に座る。
「えー、皆に転入生を紹介する。人間族のマロニー君だ。仲良くするように。」
それだけ言うと、こちらをチラッと見る。挨拶しろと言うことなんだろう。
「今日からみんなと一緒にお勉強をすることになりましたマラニーです。人間族です。今まで、ずっとメイドをやっていましたので、学校に通うのは初めてです。色々教えて下さい。よろしくお願いします。」
まあ、入りはこんなもんでしょう。誰かが手をあげている。
「はい、人間族って何ですか。」
先生は、首を傾げている。先生でも良く分からないらしいのだ。先生が、目線で答えろと言っている。仕方がない、答えることにしたわ。
「人間族と言うのは、リッチ族やレブナント族それにグール族の元祖、原始の生物と言われています。その昔、『名前を呼んではいけない神』が、この世界の人間達を、長命で能力に優れた者に変えてくれたのです。現在、人間族の記憶を持たれているのは王都におられる3賢人様だけと言われております。」
先生が吃驚していた。このような知識は、この世界でも極一部にしか知られていないのですから。
「そうするとマロニーは、昔の人なんですか?」
「いいえ、この国の東の果ての更にその向こう、荒野と呼ばれる地の先に人間界に繋がるところがあり、私はそこから来たのです。」
少し嘘が混じっているが、まあ、これ位大丈夫でしょう。私の席は、窓際の一番前だった。クラスで私が一番小さいみたい。まあ、直ぐに大きくなるから良いけど。
直ぐにお勉強が始まったんだけど、内容はかなり幼いものだったわ。算数なんか、まだ九九をやっているの。あのう、九九って数を足していくんじゃあ無いんですけど。この世界では、3かける9は、3を9回足していくのよ。絶対に間違えるから。それで、2桁の掛け算なんか絶対に無理だから。
お昼はお弁当なんだけど、このクラスの子は、家のメイドが教室に出来立てのお弁当を持ってくるみたい。勿論、私とボニカちゃんは、朝、シェフが作ったお弁当を空間収納に入れているから、直ぐに取り出せるし、スープだって温かいままよ。2人で向き合ってお弁当を食べていると、背の高い女の子が寄って来て、『一緒に食べよう。』と言ってくれたの。この人、確か号令をかけていた子ね。クララさんだったっけ。
「ええ、嬉しいですわ。ご一緒できて。」
私もメイド歴が長いので、お貴族様用の言葉使いも出来ましてよ。オーホホホ!
「有難う、マロニー様はどのお方に仕えていらしたの?」
「この国では分からないと思いますが、『ドラキュウラ公爵』様にお仕えしておりました。」
「まあ公爵家にお勤めしていらっしゃったのですかご実家の爵位は如何かしら。」
うん、この国では公爵家や王家に勤めるには、メイドと言えども貴族出身でなければいけない仕来りがあるみたい。
「はい、私の国でも、順位1位、つまり侯爵や伯爵相当の血統がなければ、メイドと言えどもお側に仕えることは許されませんでした。私自身は叙爵されておりませんでしたが、家名を名乗るのはお許し下さい。」
まあ、これ位なら良いかな。でも、それを聞いていたボニカちゃん、お顔が真っ青になってしまっていた。ボニカちゃん、大丈夫。この国では、私、貴族じゃないから。
午後の授業は、実技が中心で、男子は剣術か格闘技、女子は料理か裁縫だった。私、お裁縫も得意なの。メイド歴80年ですから。今日は、エプロンにアップリケをつける授業だったけど、まつり縫いでチョチョイと仕上げてしまったわ。教室の外では、男子が団体対抗戦をしていた。グール人の子を相手に戦っているんだけど、基礎体力が劣っているのかグール人達は防戦一方だった。あれっていじめになんないの?
授業が終わって帰り支度をしているとバーカス君が迎えに来た。
「マロニーちゃん、一緒に帰ろう。」
バーカス君、腰に木刀を挿している。一応騎士爵以上の子弟は帯刀を許されているけど。2年生じゃあ、ちょっと無理があるみたい。
「おい、馬鹿バーカス、今日は女と一緒に帰るのかよ。」
上級生のグール人3人がからかって来た。バーカス君、いじめられ体質は変わらないのね。
「え、マロニーちゃんは、僕の師匠だから、一緒に帰るんだよ。ねえ。」
「ほう、先生ね。メイドの仕事を習ってるのか?」
「違うよ。剣術を習うんだ。この木刀だってマロニーちゃんから貰ったんだから。」
「何だよ、そんな木刀。俺が折ってやる。」
バーカス君の木刀を取り上げようとした。もうそろそろ良いかな。
「あのう、あなた達、弱い者いじめは辞めた方がよろしくてよ。」
「うるさい。メイド女は黙っていろ。」
「まあ、黙っている訳には参りませんのよ。師匠としての立場が有りますから。」
「メイド女が、何を教えられんだよ。」
「少なくても、あなたが持っている剣よりも役に立つ剣術ですわ。」
男の腰には、ショート・ソードが提げられている。きっと騎士の子息なのだろう。何年生か知らないが、私よりも大きいし、バーカス君じゃあ、太刀打ち出来ないかもしれないわね。
「だったらバーカス君と試合をしてみたらいかがかしら。私が何を教えているか分かりますわよ。」
これには、バーカス君が吃驚していた。木刀の素振りこそまともになって来たが、立ち合いなんか何も教わっていないのだから、この反応も当然だろう。私達は、武道修練場に向かった。試合は、木刀による1対1の対戦で、有効打が当たった段階で勝敗が決まることにした。向こうは腕に覚えがあるのか、余裕の態度だ。対するバーカス君、緊張で顔が真っ青だ。
立ち合い線に立つ前にバーカス君に秘策を耳打ちする。
「バーカス君、相手は必ずあなたに向かって突進してくるわ。左に一歩避けて相手の右腕を打って。絶対勝てるから。」
緊張したまま、頷くバーカス君。さあ、私の秘策を授けましょう。私は、内緒で『身体強化』をちょっとだけ、かけてやる。あまり強力にすると相手の腕を砕いてしまうので、ちょっとにしておいたの。後は見守るだけね。試合の審判は、私がすることになった。さあ試合開始だ。お互いが試合開始線に立ち、木刀を構える。
「始め!」
私の声で、お互いが動き始める。バーカス君、怖いのかやや下がってしまう。それを見た相手は、大きく振りかぶりながら飛び込んで来て、バーカス君の頭部を討ち据えようとする。バーカス君は、私から言われた様に左に半歩動いて相手の右小手を打ち据えたが、私以外にはその動きは見えなかっただろう。相手は、溜まらずに木刀を落としてしまった。あれ、きっと骨が折れたと思うんですけど。腕を抑えて泣き出してしまった。仲間の男達は、何か叫びながら逃げていった。勝ったバーカス君も、吃驚して立ち竦んでいる。私は、『身体強化』を解除するとともに、地面に転がって泣き叫んでいる子の右腕を『治癒』してあげた。痛みが無くなったその子は、、慌てて逃げ出してしまった。
振り返るとバーカス君、泣き出していた。
「僕、僕・・・」
恐怖から解放され感激のあまり泣き出したのだろう。ボニカちゃんが優しくハグをしていた。




