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第2部第193話 マロニーの冒険その11

マロニーちゃんは、攻撃魔法が使えません?だから、弓や剣にこだわっています。

(11月5日です。)

  ここはロブ子爵家の執務室。ロブ子爵と奥様が、子飼いの密偵から報告を受けていた。勿論、今日の森での出来事についてだが。その内容は驚くべきものだった。


  最初、息子のバーカスから森の魔物退治に行きたいと言われた時は、『何を馬鹿なことを言っているんだ。8歳の子供が魔物退治なんて聞いたことが無い。』と相手にしなかったが、同行者が、あの伯爵家に世話になっているマロニー嬢と聞いて吃驚した。息子が良からぬ者たちに絡まれているのを助けて貰った事は聞いていたが、魔物退治を一緒に行くほどの仲とは思わなかったのだ。


  ロブ子爵にとってバーカスは不祥の息子である。たった1人の息子だと言うことで、甘やかし過ぎた事もあるが、性格も捻くれてしまって、友達が1人もいなかったのだ。それが、今、この街の注目の的であるマロニー嬢と付き合っているなんて、これは上手くいけば超優良物件が手に入るかも知れない。多産で知られる人間族の女性とレブナントなら、多くの子を授かるかも知れないのだ。それで、魔物狩りのことは承諾したのだが、万一何かがあったら取り返しが付かないので、密偵としてだけでなく腕も超一流と言われるロブ家3人衆に秘匿の護衛を頼んだのだ。そして、バーカスは無事帰還したが、森での出来事はロブ子爵にとって驚くことばかりだった。


  「それで、猪を一撃の矢で仕留めたのか?」


  「御意。」


  「それで最大の敵、ホーンベアはどの様に?」


  「は、弓の2射で行動不能に。最後は、バーカス様と2人でトドメを。」


  「待て、待て。あのホーンベアだぞ。騎士10人でやっと倒せる魔物だぞ。それを10歳の女の子が、弓だけで仕留めたのか?」


  「御意。」


  「分かった。そのホーンベアは幼体だったのであろう。仔熊じゃな。」


  「いえ、体長3m以上もある災害級と認定されてもおかしくない魔物でした。」


  「それから?」


  「あと、兎やヤマドリは百発百中でした。」


  「例の『投げビシ』は使わなかったのか?」


  「はい、全て弓のみでした。」


  「その弓は、特別な魔弓だったのか?」


  「いえ、騎士が使う様な普通の弓でした。」


  「フーン、そうか。いや、いや。待て、待て。普通の弓?それでは、大人の男性騎士が使う様な弓を10歳の少女が使っていたのか?」


  「は!その様に見えました。」


  ロブ子爵は、混乱する頭の中で、息子のバーカスが成長したことを心から喜んでいた。やはり親バカな子爵だった。






  次の日、ブレナガン市は、魔物討伐の話で持ち切りだった。体長3mを超える魔物が森に現れたのだ。それだけでも10人編成の騎士隊を3個隊以上出さなければ安全な討伐は難しいのに、それを10歳の女の子が弓だけで討伐したと言うのだ。その証拠は、特有の魔石と、大きな傷がない毛皮が全てを物語っていた。また、報酬として金貨3枚以上を手にしたことも噂になっていた。グール人の平均月収2カ月分を10歳の女の子が1日で手にしたのだ。腕に自信のある者は、それなら俺もと考えてしまうのも無理はない。この事がきっかけとなって、森で多くの犠牲が出た事は別の話である。


  さらに皆を驚かせたのは、8歳のロブ家のバカ息子が彼女の助手をした事だ。明らかに軟弱で傲慢なバーカスが、どうやったら魔物討伐なんかに参加出来るのだろうか。皆、街始まって以来の不可思議現象に首を捻るばかりだった。






  そして、この日の早朝、私がいつもの様に弓の練習をしていたら、伯爵家の騎士さん達が総出で見学に来ていた。私の弓の稽古を見たいらしいのだ。見てても大して面白くないのにと思ったが、とりま集中が大切だ。矢を3本左手に持ち、その内の1本を弓につがえる。これからはスピード勝負だ。大きく深呼吸して矢を放つ。的は1つだけだ。


    ヒュンヒュンヒュン!!!


    パスパスパス!!!


  一瞬にして3射が終わり、全射黒点の真ん中だ。騎士団たちが拍手をしている。最近は、素で弓をかなり引ける様になった。『身体強化』を使うと、確かに楽だが、あの筋肉が悲鳴を上げる感覚が癖になってしまった様だ。


  次に、的を3枚にして同じように射つ。さっきよりは少し間が開くが、それでも瞬き一つ程度も間が開くだけだ。本当は、一度に3本の矢を射って、3つの的に当てたいのだが、それほどのスキルもないので、現状、これで我慢しよう。何回か射ってみて、どうしても威力不足を感じてしまう。腕が短く、弦を引く距離が短いだけに、矢に与える推進力が不足してしまうのだ。もっと威力がある弓が欲しい。あ、そうだ。今度リッカーさんに相談してみよう。


  弓を100射してから、次は『投げビシ』の練習だ。これも100投してから、今度は素振りだ。丸太木刀で千本素振り。最後の100本は、前後にジャンプしながらの速素振りだ。流石に、全て終わると息が上がるが、もう直ぐ食事時間だ。その前にシャワーを浴びないと。練習場に一礼して、屋敷に戻ろうとしたら、ドンキさん達が身動きもせずにこちらを見ている。どうしたのかな。ニコッと笑って誤魔化そうとしたら、


  「笑って誤魔化すな。なんだ?今の異常な稽古は?」


  怒鳴られてしまった。えーっと、ドンキさんですよね。毎日、千本素振りをしろと言ったの。まあ、最近は素振りの速度も上がって、40分程度で振り終わってしまうんですけど。


  朝食の時、ブレナガン伯爵から、もう少しここに滞在してくれないかと言われた。昨日の魔物退治の話が伝わって来て、まだまだ魔物の脅威が去っていない現状のこの国では、少しでも強い者を抱え込みたいのが領主としての偽りのない気持ちだろう。私としても、ゴロタ帝国に早く行っても、直ぐにゴロタ陛下のお側に使える事も出来ないだろうし。でも、幼女好きと言う事なんだからこの姿になった訳だし、旬を過ぎないうちに会う必要があると思うんだけど。でも、冬は寒いし、もう1〜2カ月位滞在していても良いかな。


  「ところで、マロニー嬢は、学校はどうしているのかな?」


  「学校に行った事はありませんが、先輩のメイドの方達には色々教わったので、一般的な常識や教養・知識は備えております。」


  「うむ、そうであろうな。実はお願いがあるのじゃ。」


  あれ、これって長期滞在の交換条件なの?何だろう。面倒が無ければ良いんだけど。


  「何でございましょうか?」


  「妻の実家では、妻以外の子がいないため、今回、商家から養女を貰うことになったのじゃ。しかもハンス市内の商家から貰ったものじゃから、こちらの学校に馴染めなくてな。それで、年回りも同じことから、学友ということで暫く様子を見て貰いたいのじゃ。」


  きた〜!面倒が来ました。私は、特にコミュ障ということは無いけど、子供の世界って、どうも馴染めなくって。まあ80歳なんだから無理無いんだけど。でもここまで聞いて断るのもなあ!よし、ここは笑って誤魔化そうと。


  「私のような浅学非才の者に務まるとも思えません。このお話は、私には身に余る光栄と思いますが・・・」


  「おお!引き受けてくれるか。有難い。実はな、その子には、もうこちらに来て貰っておるのじゃ。早速、会ってもらえるかの。」


  聞けって!他人の話はきちんと聞きましょうよ。私、引き受けるなんて、一言も言っていませんですけど。朝食後、応接間で待っていると、見知らぬご婦人と、私と同い年位の女の子が部屋に入って来た。ご婦人は、ユーノウ男爵家の奥様で、一緒の子が幼女として来た女の子だろう。私は、立ち上がって奥様へカーテシをしながら自己紹介をした。


  「はじめまして。私は、伯爵家にお世話になっているマロニーと申します。」


  「ご丁寧に有難うございます。私は、ユーノウ男爵家のエメルと言います。この子は、我が家の娘で、ボニカと言います。さあボニカご挨拶は?」


  ボニカちゃん奥様の後ろに隠れて挨拶も出来ないみたい。これって、コミュ障?ねえ、コミュ障なの?


  「奥様、大丈夫ですよ。ボニカ嬢も緊張しているでしょうから。」


  「あらら、マロニー嬢はしっかりしていらっしゃるのね。お年は10歳とお聞きしたんですけど。」


  「はい、ボニカ嬢も同い年とお聞きしておりますが、ボニカちゃん、宜しくね。」


  ボニカちゃんに対して、ありったけの笑顔を投げつけてやる。別に魔法でも何でも無いので、特に変化は無いんだけど。結局、ボニカちゃんは私と一緒の部屋ということで、今よりもっと大きな部屋に移ってベッドも2つ、並べて置いて貰った。後、私の制服とか教科書などは明日中に準備してくれる事になった。ああ、まさか80歳で小学校に入るとは思わなかったわ。







  エメル奥様は午前中に帰られてしまったので、ボニカちゃんと2人だけになってしまった。私、今日はリッカーさんの所に行きたかったので、ボニカちゃんと一緒に出かけることにしたの。貴族街を出た所で、ボニカちゃん、周囲をキョロキョロし始めた。きっと、この街をよく見た事が無いのね。取り敢えず、お昼は、お気に入りのスイーツ屋さんに行ってみる。ここのパンケーキとクレープは、町一番の味ね。席に座ると直ぐに注文を取りに来たので、私はイチゴクレープとメロンソーダ、ボニカちゃんはパンケーキとオレンジジュースを注文した。


  ボニカちゃん、ようやくポツポツと話し始めたけど、まだ仲良しになるほどでは無いわね。でも女の子にとってスイーツは世界最強の共通語ね。お口に入れた時は、誰でも幸せそうな顔になるもの。お店を出てから、鍛冶町に向かう。リッカーさんの店に行くと、直ぐにリッカーさんが出て来てくれた。


  「おい、お嬢ちゃん、ショート・ソードはまだ時間がかかるぜ。もうちょっと待ってくれ。」


  「いえ、今日は違う用件なのです。実は、もっと強力な弓が欲しくって。」


  「はあ?弓か。そう言えば、昨日大活躍したらしいな。ここら辺でも噂になってるぜ。あ、弓な。それなら、この鍛冶町のはずれにある『エルフィー弓具店』と言う店に行ってみな。気に入った弓が有るかもな。」


  「有難う御座います。」


  私は、直ぐにその店に行ってみた。その店は直ぐに見つかった。店の軒先に大きな弓が飾ってあったんだもの。店の中に入ると色んな弓やボウガン、それに矢が所狭しと並んでいる。


  「すみませーん。」


  私は、奥の方に声をかけて店の人が出てくるのを待っていた。

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