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第2部第188話 マロニーの冒険その6

マロニーちゃん、ずっと男物のパンツをはいていました。

(10月27日です。マロニー視点が続きます。)

  今、私はソニーお嬢様と一緒に馬車に乗っている。お嬢様お付きのメイドであるグール人のルルという娘と一緒だ。ソニーお嬢様は、今、14歳だそうだ。ルルさんは18歳だけど、見た感じ20歳過ぎに見える。ソニーお嬢様は、リッチ族であるブレナガン伯爵とレブナント族であるお母さまとの間に生まれたが、レブナント族からリッチ族が生まれることはないそうで、必然的にソニーお嬢様もレブナント族となっているそうだ。まあ、見た目は全く分からないけど。リッチ族とレブナント族の大きな違いは魔力量だそうで、レブナント族は、魔力量が少ない代わりに体力が優れている者が多いそうだ。まあ、どうでもよいけれど。


  ソニーお嬢様は、ハンス市からのお帰りだそうで、ハンス市にいる辺境伯の養子になる方との婚約前のご挨拶をしに行ってきたのだ。もちろん、その養子になる方がブレナガン家に来るのだが、一応、ハンス辺境伯の養子になっていただいて箔を付けると言う事らしい。元々はハンス市の大商家の長男なのだが、この前の魔物襲撃事件で、大きく損失を抱えたらしく、ブレナガン家に婿入りすると言うことで、余裕のあるブレナガン伯爵から融資を受けるらしいのだ。


  ソニーお嬢様は、まだ結婚したくないらしいのだが、親の決めた縁談に正面から反対はできないし、子供ができにくいレブナント族にとっても、血族の維持は最重要課題だ。若いうちに結婚して、後継者を産むチャンスを増やすのが、この世界の常識となっているらしい。子供など、地面からボゴッと生まれてくる冥界での常識は、世界の非常識らしい。マロニー自身も、ご主人様の血の一滴を与えられた肉の塊から生まれたと言われているが、その肉の塊が何だったのかは教えてもらっていない。とにかく、真祖たるご主人様の第一世代眷属として生まれたことから、ヴァンパイア一族の中でも高位な地位を与えられているのである。ただ、メイドになっているのは、ご主人様の趣味らしいのだが、その点については特に異論はなかった。


  馬車の中では、いろいろとお話しされていたが、まあ、馬車の旅は、ゆっくりではあるが歩かなくて済むので、黙って聞いていることにした。そして、今日の宿泊はこの先にある中規模の村のホテルになると言う事だった。また宿泊を断られるのかと思い、今日の寝床をどうしようか考えていたら、ソニーお嬢様から『特に用事がなければ、ブレナガン市まで同行してもらえないか。』との申し入れがあった。もちろん、その間の宿泊費用はお嬢様が負担するという破格の条件だった。反対する理由など全くないどころか、ぜひ、お願いしたい。


  今日の宿泊予定であるヨッヘン村には、夕方前には到着した。ホテルは、村の規模からしたら立派なホテルであったが、あいにく、貴賓室以外には3部屋しか空いていないということだったので、私は、ルルさんと一緒の部屋ということになった。ソニーお嬢様が一緒の部屋にと言っていたが、『平民と貴族が、一緒の部屋に泊まるわけには行かない。』とルルさんに言われてあきらめたようだ。でも、食事はソニーお嬢様と一緒と言うことになり、この世界に来て初めて普通の料理を食べることになった。スープと肉料理が別であり、野菜とフルーツのサラダや真っ白なパン、それにバターにチーズにベリージャムと皆、美味しかった。食後のスイーツがないのが物足りなかったが、それは諦めて、お茶を楽しむことにした。ルルさんは、ずっとお嬢様の後ろに立ち続け、お茶を入れたり、食器を横にずらしたりとお世話をしていた。私も、ご主人様にお世話をしていた時のことを思い出してしまった。


  夕食後、お嬢様の部屋でお茶を飲みながらのお話をしている間に、ルルさんは警護の皆さんと食事をしていたようで、私が部屋に戻っても、まだルルさんは部屋に戻っていなかった。私は、先にシャワーを浴びることにした。この部屋にはお風呂がなく、シャワーだけだったが、珍しいことにお湯の出るシャワーだった。私は、髪の毛と身体を簡単に洗うと、下着のシャツとパンツ、それと靴下を洗濯することにした。洗濯石鹸はなかったが、水洗いをしながら綺麗になるイメージで擦ると、石鹸を使ったみたいに綺麗になるのだ。洗濯を終えると、温かい風が吹き出すイメージで手をかざして乾燥させる。あっという間に乾いたので、シャツとパンツをはいてシャワー室を出ると、ルルさんがメイド服をハンガーにかけていた。小じわを手で伸ばしながら、ブラシで埃を落している。シャワー室から出てきた私を見て、


  「あなた、なんて下着をつけているの?」


  え、普通の下着ですけど。10歳児なのでブラジャーはいらないけれど、灰色のTシャツに白色の半ズボン型のパンツだ。全部、あの村で調達したものだけど、何かおかしいかな。そう言えば、ルルさんは、ブラジャーを付けているのは当然だけど、シャツは薄い生地の肩紐付きのやつだし、パンツも絹地のような素材の三角形のものだ。私の着ているものと大分違うのはすぐに分かった。


  「えーと、シャツにパンツ。」


  「それって、男の子用じゃない。ほら、パンツの前に切れ目が入っているじゃない。あ、気が付かなかったの?」


  でも、人に見せるものじゃないし。


  「あなた、他の下着、持ってないの?」


  「これだけ。」


  「あきれた。今度、一緒に買いに行きましょうね。そう言えば、ずっと、あのワンピースを着ているけど、ほかの着替えはあるの。」


  「あれだけ。」


  「ああ、あなたもメイド、いえメイド見習いでしょうけど、メイドをやっていたなら、服ぐらい持っていたでしょう。大体、メイド服、どこにやったのよ。」


  「捨てた。」


  「はあ、メイド服はメイドの誇りよ。それを捨てるなんて。あきれた。」


  それから、いろいろと服についての指導が始まった。まあ、お互い、下着姿のままなので、あまり締まらないけれど。それから、ルルさんにいろいろ聞かれてしまった。どこから来たのとか、どこに行くのとか。特に、何故メイドを辞めて旅をしているのか聞かれた。


  「メイドは旅に出るから、仕方なく辞めたの。」


  「えー、勿体ない。メイドになるのは激戦区なのよ。特に私のように、伯爵家で領主様のメイドなんて、普通、なれないわ。私の時なんか20人以上の中から選ばれたんだから。まあ、私の実家が騎士爵家だったから、何とか受かったんだけど。」


  そう言えば、冥界でもメイド、特に冥王様付きのメイドは特別職だった。そのため真祖ヴァンパイアの第一世代である私達がメイドに選ばれているの。男性の第一世代達は、皆、侯爵や伯爵という爵位を持っている。先輩メイドからは、『本当なら私達だって上級貴族になれるんだけどメイドが侯爵閣下じゃあおかしいでしょう。だから、辞退しているのよ。』と言われたことを覚えている。


  「ねえ、あなたのご主人様ってお貴族様なの。それとも大商人様なの。」


  「あ、確か、『公爵』だって聞いたことがある。でも、詳しくは知らないの。」


  「えー、公爵様?公爵様と言ったらこの国でも、3賢人様のうちのお二人しか叙爵されていないのよ。すごいのね。それなのに何故辞めてしまったのよ。」


  うーん、冥界でも公爵様はお二人しかいらっしゃらなかったけど、別に爵位が偉いのではなく、ご主人様の血をどれほど濃く受け継いでいるかが大切なの。私達第一世代は、『真祖』であるご主人様から直接、血を頂いているので、ご主人様に近い能力を得ることができているんだけど。そう言えば、先輩メイドから、私は、何かの肉の塊にご主人様が手首を切って血を注いで造ってくれたって聞いたわ。何の肉かは聞かなかったけど。第1世代の貴族から作られていった傍流のヴァンパイア達って、どんどん血が薄くなってしまって、玉座の間に入れないヴァンパイアなんか、もう、ご主人様の血が何かも知らないのじゃあないかしら。


  「まあ、メイドを辞めてしまったのは仕方がないとして、とにかく、ブレナガンについたら、服を買う事。私も一緒に行ってあげるから、可愛らしい服を買うのよ。あなた、お金持っているの?」


  お金は、あの娼館で入手した銀貨4枚と、野盗のボスから奪った財布の中に入っているのだけだけど、あの財布、かなりの重さだったから、結構、入っているんじゃあないかな。後で、調べてみようっと。


  それで、ルルさん、妙にハイテンションになってしまっているけど、もう眠たいので、早く寝ましょうよ。






  次の日、朝早く目が覚めたので、まず空間収納にしまっている例の財布を抱いてみた。皮の袋の中にずっしり入っている。中身を出してみると、金貨が27枚、銀貨が32枚、大銅貨が16枚、後は銅貨が少しだった。鉄貨は入っていなかった。


  昨日、フロントでこの部屋の宿泊料金が幾らか聞いていたけど、1人大銅貨9枚と言われていた。と言う事は、銀貨1枚で1泊と考えると、300泊以上出来るみたい。でも、子供一人で泊まれないから、やはり困っていることには変わりは無いわね。お財布をしまってから、身支度を整えて村の中を散歩することにした。まあ、下着のシャツの上からワンピースを被るだけなんだけど。このワンピース、白い上着と一体となった形なので、着るのにとっても便利。それに、襟だけ外して洗えるし。


  散歩していて気が付いたんだけど、この村は街道にある宿場町かと思ったら、周囲の畑を耕作したり家畜を飼ったりしている農村でもあった。そこそこ大きい村だったが、今、動き始めている人は農家の人が多かった。グール人と魔人族が半々位だろうか。両種族が仲が悪いと言うことはなさそうだった。そろって農機具を担いで農地に向かっている。今の時期だと秋の収穫が終わって、冬野菜の植え付けや柵造りだろうか。


  村をブラブラしていると、村はずれの方から、トンテンカン、トンテンカンと金属音がする。行ってみると案の定、『村の鍛冶屋』だった。こんなに朝早くから仕事なのは、作業を依頼している村の人達が農家の方々だからだろう。朝、農具を修理に出して、帰りに受け取るのだろう。あ、そう言えば、あの剣を見てもらおうかな。この前、狼を切ってから放りっぱなしにしていたし。とりあえず、槌を打っているおじさんに声をかけてみよう。


  「おはようございます。おじさん、今、いいですか?」


  おじさん、何回か槌を打ってから、手を止めてこちらを見てくれた。鉄が焼けている間は槌を止められないのだろう。


  「あのう、私の持っている剣を見てもらいたいんですけど。」


  「え、剣って、何も持っていないじゃねえか。」


  「これなんですけど。」


  私は、空間収納から、ショート・ソードを鞘付きのまま取り出した。そう言えば、私自身、このショート・ソードをじっくり見たことがなかった。鞘は、白色の粒々が表面を覆っている革製で、抉りと鯉口のところが金製のアラベスク模様が彫金されている。柄は、今度は黒い粒々模様の革で覆って、白色の糸を編み込んだ紐が滑り止めになるように巻かれている。柄の左右には緑色の石がはめ込まれていた。柄頭なんかも金色で、やはり彫金で何かの蔓のような模様になっていた。鍔は、黒い金属製で、金で亀のマークがはめ込まれていた。あれ、これって結構高級品なの?


  おじさん、何もないところから剣が出てきたのを見て驚いていたけど、剣そのものを見て、さらに驚いていた。でも、何事も無かったように剣を受け取ると、いろいろと拵えを見てから、おもむろに剣を抜いた。刃体をじっと見つめたり、振ってみたり。それで、太陽の光に透かして見ながら、


  「お嬢ちゃん、最近、何か切ったかい。あ、あれだな。狼を切ったろう。それも結構な数を。」


  このおじさん、凄い。どうして分かったのだろう。私が、頷くと、


  「獣を切ったら、必ず血油を拭き取っておかねえと。そのまま閉まっちゃうと、鞘の中で固まって、抜けなくなっちまうぞ。」


  そうなんだ。知らなかった。でも、あの時は、直ぐに剣を仕舞いたかったから、ゆっくり拭いている暇なんか無かったし。でも、それから剣の事をすっかり忘れていた私もいけないんだけど。


  「ほら、見てみろ。」


  「まず、こうやって血糊を拭き取るんだ。」


  おじさん、ザラザラした紙で、固まった血糊をこそげ落としてくれた。それから刃体を朝日に当てて、刀身にうっすらと浮かんでいる油の模様を見せてくれる。


  「ここまでこびり付いていれば、洗濯石で洗い流さなくっちゃならねえ。」


  そう言いながら、水の中で洗濯石を使ってくれた。最後に、綺麗な布で水気を拭き取って終わりだった。


  おじさんは、刀身を色々調べていたけど、


  「お嬢ちゃん、この剣、あんたのかい?」


  「うん。ご主人様から貰ったの。」


  「これはだいぶ古いな。刃こぼれも酷えし。だが、この状態でも、金貨100枚以上はするぜ。特に拵えがいい。白水竜の皮なんか、もう手に入らねえぞ。」


  私は、白水竜なんて知らないけど、金貨100枚と言う値段に、内心『ヤッター!』と思ってしまった。でも、ぐっと我慢をして、


  「刃こぼれ、治りますか?」


  「いや、これは純度の高いミスリルという金属で出来ているんで、ここの道具では治せねえんだ。領都で腕の良い鍛冶屋に頼みな。まあ、金貨3枚は取られるだろうけどな。」


  「誰か、紹介して頂けませんか?」


  「うーん、なら領都の鍛冶町にあるリッカーと言う武道具屋に行ってみな。そこのオヤジは、俺の師匠だからよ。面倒見てくれるぜ。ヨッヘン村のコテツからの紹介だって言うんだぜ。」


  そう言いながら、剣を返してくれた。手入れ代を払おうとしたら、良い物を見せてくれたんでサービスだと言って受け取ってくれなかった。コテツさん、とっても良い人だ。





  その頃、ハンス市の騎士団駐屯地では、大変な問題が持ち上がっていた。グラナダ少佐と一緒に行った魔物被害調査団のうち12名が、グール族で無くなってしまったのだ。何か若くなっているし、肌の色が、嫌にピンクがかっているなあと思っていたら、剣の稽古で直ぐに疲れるわ、剣のキレが無くなるわと異常な状態が続いたのだ。あまりにも変なので、治癒師に診てもらったり、体調回復ポーションを飲ませたりとしてみたが変化がなかった。最後にレベルの高い魔道士に診て貰って驚いた。種族が、グール族から人間族に変わっていると言われたのだ。あの短命種の人間族に。本人達は、体力はなくなる、寿命は短くなると何一つ良いことが無い。何故、こんな呪いにかかってしまったのか謎だったが、取り敢えず騎士団王都本部に通報することにした。

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