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第2部第184話 マロニーの冒険その2

マロニーちゃんは、チートではありません。ただ、最強の吸血鬼の眷属なだけです。

(10月21日です。マロニー視点です。)

  昨日、私は村に調査に来た騎士団の隊長であるグラナダさんと一緒に村長の屋敷に泊まることになった。私が一昨日泊まった屋敷が村長の屋敷だったらしい。村長の家の中から、現金や宝石、貴重品などはすべて回収されていた。聞いたところでは、このように誰もいなくなった村や町では、そこにある財産はすべて国庫に回収されるのが法の定めだそうだ。それを聞いた私は、持っていたショートソードをそっと空間収納にしまうことにしたのだった。


  グラナダさんは、レブナントと言う種族だそうだが、冥界にあふれているレブナントとは大分違う感じがした。また、騎士さん達は、みんなグールだと言うが、あの冥界に溢れる程いるグールとは違う種族なのかなと思ってしまう。その証拠に、普通にパンとスープで食事をしているので吃驚してしまう。冥界のグールは、主に生肉を主食にしている。流石に人間の肉は手に入らないので、野良の魔獣を狩って料理しているみたいだ。


  グラナダさんから聞いたところによると、この国はティタン大魔王国といい、ここはその国の北東部にあるハンス辺境伯領の端らしい。突然現れた魔物の大群に襲われたが、幸いなことにゴロタ帝国の軍隊が応援に来てくれたので、領内の半分以上の街や村落は生き延びたらしいとのことだった。私は、『ゴロタ帝国』という名前を聞いただけで、胸が締め付けられる気がしたが、そのことは黙っていることにした。昨日の夜から、村の外では荼毘に付す作業で、煙が村中を漂っていたが、今日の午後になって、ようやくその作業が終わったらしいのだ。今日、もう一泊してから、領都であるハンス市に戻ることにするそうだ。


  騎士さん達は、馬に乗ったり歩いたりして進軍しているそうだが、マロニーは小さいので、糧食を運ぶ荷馬車に乗せてもらうことになった。その日の夜、グラナダさんと一緒にお風呂に入って、私が女の子であることがばれてしまったが、髪の毛を頭の後ろで丸めていたけど、伸ばすと背中まであるので、どう見ても男の子には見えないと思うのだが。グラナダさんは、私の着ている服を見て男の子と判断したらしい。お城でメイドをしていた時は、作業の邪魔になるからと頭の後ろでお団子にするのがしきたりだったから、何も思わなかったけど、この世界ではどうやら違うみたいだ。


  グラナダさんは、お風呂から上がると、村長の家を漁って、私に似合いそうな服を探し出してくれた。ピンク色のワンピースに白色のシャツで、ニットの靴下と皮のサンダルだ。まあ、活動しにくいけれども、男の子の服よりマシかと思い着ることにした。


  髪の毛は、後ろで二つに分けて、赤いリボンで根元を結ぶことにした。いわゆるツイン・テールだけど、私が非番の時に町に出て買い物をするときにする髪型だ。まあ、非番といっても月に何回かあるかないかだったけれども。それに買い物といってもほとんどが先輩たちの物ばかりで、たまに自分の物を買おうとしても、お金が足りなかったり、先輩に邪魔をされて買えないときの方が多かったんだけど。


  それよりも、この日はグラナダさんが食事を準備したんだけれど、はっきり言って料理と言うのが怖くなるようなものだった。肉と野菜を煮ただけのスープなんだけど、どうして、こんな味になるのか不思議なほどの料理だった。塩と砂糖を間違えたとかのレベルではない。肉も野菜も下ごしらえをしていないし、塩を適量入れるだけで良いのに、胡椒や辛子がスープの上に浮いているし、辛いからと言って砂糖で辛さをごまかすのは辞めて下さい。それに、冷蔵庫にしまっていなかった生肉って、普通、食べませんよね。煮れば大丈夫って、料理から逸脱している哲学です。


  私は、黒パンとミルクで済ませたんだけど、驚いたことにグラナダさん、そのスープを完食していた。食後、大量に余ったスープを隊員の方達に振舞おうとしたんだけど、隊員の方たち全員が既に既に食事を終えていると言ったり、姿をくらましていた。うん、絶対にそうなるだろうね。






  次の日、騎士団は、満載の荷馬車を連れて領都に向け出発した。私は、荷馬車の御者席に座らせられていったのだが、縦や横の揺れが酷くて、途中で気持ちが悪くなってしまった。御者さんにお願いして、降ろしてもらい、馬車の横を歩くことにした。まあ、ほかの騎士さん達も歩いているので、それほど早い速度ではなかったんだけど、大人の足に平気で付いていく私を見て、グラナダさんが心配そうに駆け寄って来た。でも、私にとっては、決して無理な速度ではないし、この速度なら1日中でも歩けると思うんですけど。現に、荒野を歩いているときは、この倍の速度だったような気がするの。


  今日は野営になったので、私はグラナダさんのテントで一緒に寝ることになった。その前の料理の時、私が、地面に手を当てて土を盛り上げて簡易コンロを作り、それから空間収納から取り出した鍋をかけて、今日の夕食になる食材を刻んで入れて、お水を入れて煮込み始めたの。その辺から集めた枯れ木に火を付けるのも手をかざして簡単に着火させていたし、村長さんのお宅から持ってきた塩と胡椒それと幾つかの香草を混ぜてコトコト煮込んでいったら、あたりに美味しそうな匂いが立ち込めてきた。


  その間に、黒パンを薄く切って、別のお皿にミルクと一緒に入れて、砂糖を加えておいたの。簡単なミルクがゆなんだけど、スープに入れて食べるより絶対に美味しいはず。でも、私の料理の手際と手をかざして火を灯したりするところを見て、グラナダさんが不思議そうな顔をしていた。


  「ねえ、マロニーちゃん、あなた、魔法を幾つ使えるの?」


  え、意味が分からないんですけど。魔法って幾つもあるのかな。冥界では、魔法は使えるか使えないかしか区分がないんですけど。それに冥界では、メイド魔法の空間収納しか使ったことないし。私が、黙っていると、


  「だって、マロニーちゃん、土魔法に火魔法、それに珍しい空間魔法も使っていたわよね。それって3つも適性があるってことでしょう。」


  「うーん、良く分からない。私って、普通だと思うんだけど。」


  「もしかして、人間族ってみんなそうなの。それって、3賢者並みの事なのよ。」


  グラナダさんの言う『3賢者』って良く分からないけど、人間族もどうなのか知らない。だって、ついこの前まで、私、バンパイアだったし。


  結局、私の作ったスープは、好評につき他の騎士さん達も喜んで食べて貰ったの。中には、『俺と結婚してくれ。』という騎士さんもいたけど、こんな子供みたいな私に結婚を申し込むなんてどうかと思うんだけど。


  領都までは、2つの村と1つの町を通るらしいのだけど、野営もするので、これから5日間もかかるみたい。みんなもっと早く歩けばいいのにと思うんだけど、今の速度が限界みたい。1つの村を過ぎた翌日、深い森に差し掛かった時、何か変な気配がしたの。というか、これって獣の匂い?かなり強い匂いなんだけど、この強さって数が多いってことの筈。私、荷馬車の御者さんに教えてあげたの。


  「ねえ、森の中から変な匂いがするんですけど。」


  「え、マロニーちゃん、なんも匂わないけど。」


  あ、この御者さんには分からないんだ。私は、走って前のグラナダさんの所まで行き、もう一度教えてあげた。


  「グラナダさん、この先の森の中に何か獣たちが一杯いるみたいよ。」


  「え、そう?わかったわ。全隊止まれ。」


  グラナダさん、右手を高く上げて部隊を止めたの。


  「斥候、前の森の中の安全を確認!他の者は抜刀、円陣を組め。」


  グラナダさんの指揮により、2騎の騎士さんが馬を前の森に走らせる。そして、残りの騎士さん達が、グラナダさんを中心にして丸く陣を組み始めた。その時、森の中から狼の遠吠えが聞こえてきた。そうしたらあちらこちらから、同じような遠吠えが聞こえてくる。どうやら、こちらの動きに応じて、奴らも位置を変えているみたいだ。私は、狼の本物を見たことはないが、知識としては、肉食の犬のような獣で、数が多い場合には脅威になると言うことは知っている。聞こえてくる遠吠えの数から40頭位はいそうだ。


  「グラナダさん、40はいるようですよ。」


  「え、そんなに。マロニーちゃん、どうしてそんなことまで分かるの。」


  「だって、いっぱい遠吠えの声が聞こえるんですもの。皆、ちょっとずつ声が違うし。」


  「それって、絶対におかしいと思うけど、まあ、いいわ。皆、狼どもの数が多いようだ。油断するな。弓隊、用意。」


  弓を持っている騎士さん達が矢を番える。いつでも引き絞れるように準備しているのだろう。他の騎士さん達は、槍や剣を縦の向こうに伸ばしている。森の方から、2騎の騎士さん達が走って戻ってくる。


  「報告、前方に大量の狼を発見、その数30匹以上。」


  報告を聞いている間に、もう一人の騎士さんが馬から転げ落ちる。森の中から追って来た狼に襲い掛かられたらしい。3頭の狼が、転げ落ちた騎士さんの足や腕にかみつく。騎士さん、悲鳴を上げながら逃げようとするが、喉元に喰らい付いている狼の口元から鮮血がほとばしっている。もう駄目だろう。弓隊から矢が何本も打たれるが、巧みに避けられてしまう。円陣を組んだ騎士さん達は動かない。下手に陣形を崩して前に出たら、狼たちの餌食になってしまうことが分かっているのだ。他の狼たちも姿を現す。やはり40頭以上いるようだ。私達から20m位離れている。すぐには襲ってこない。隙を狙っているのだ。彼らは、私達がいつまでもこの陣形を保っていられないことを知っているのだ。食事もとらなければいけないし、休憩だって取らなければいけない。特に夜目の効く彼らは、夜になってから徐々にこちらの戦力を削っていけばよいのだ。


  このままではジリ貧だ。私は、近くに転がっている石を拾って、狼の群れを見る。ひときわ大きな狼が、群れの後ろにいる。きっとあれがボス狼なのだろう。数匹の狼が前にいるが、密集しているわけではないので、射線が通らない訳ではない。私は、荷馬車の上に上がってから、そのボス狼に向けて石を思いっきり投げた。


    ヒューーーーーーーーーー! ベキッ!


    キャイーーーン!


  ボス狼の眉間に命中した。頭から血しぶきをあげながら、ボス狼がその場に転倒する。他の狼たちが吃驚して、ボス狼のそばから離れている。本能的に危険から遠ざかりたいという行動をとってしまうようだ。ボス狼は、倒れたまま動かない。おそらく脳震盪を起こしているのだろう。私は、1個の石しかもっていなかったので、続けての攻撃ができないでいた。その時、グレナダ産の指示が飛んだ。


  「敵のボスをやっつけたぞ。今がチャンスだ。弓隊は連射、歩兵は楔形体型で前進、騎馬隊は両側面から攻撃。」


  あっという間に攻撃態勢を作り上げていく。しかし、荷馬車が無防備だ。私は、荷馬車から降りて、空間収納からショート・ソードを取り出した。初めての村で村長宅から貰ったものだ。あれ、貰ったんだっけ。まあ、もう私のものだけど。


  ギラリと抜いたショート・ソードが銀色の陽光を跳ね返している。前方では、混戦が続いている。騎士1人で狼1匹なら大丈夫だろうが、狼が2頭になると騎士3人でなければ対応ができないと冥界図書館で読んだことがある。冥界図書館では、人間界、魔界そして冥界の事象について記述された本が膨大にある。研究職や専門職もおり、長い時間をかけて研究した成果を記述しているので、図書量も膨大なものとなっている。私は、王宮に勤務するメイドと言う立場のため、少ない非番の時に時間が許す限り、図書館で本を読むのが好きだった。そんな知識が、今、役に立っている。


 

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