第2部第181話 第二次神魔戦争その12
(10月14日です。)
ボラード北軍事空港は、前回の戦争のときに急遽造成されたもので、滑走路も3000m級のものが1本しかない。それに格納庫も簡易的な物しかなく、爆弾等を保管する弾薬庫も保管する弾薬はそれほど多くはない。最も致命的なことは給油のためのタンク及び給油装置がないと言う事だ。しかし、航空基地らしい場所と言えばここにしかないので、攻撃拠点の前線基地として使用することは仕方がないだろう。
今日、午前5時、クラウディアやサラ総司令官、ホリゾン大佐それとモンド王国から派遣されているダイキ総司令官らとともに、ボラード北軍事空港に転移した。同空港には、昨日までにゴロタ帝国から転移ゲートを通ってきた、『B2改天山』24機が駐機されている。この機体は、後退デルタ翼で垂直尾翼も水平尾翼もなく、艶消しの黒い塗装がされていた。この塗料は電波を吸収する特殊塗料だとクラウディアが説明してくれたが、全く興味がなかったので、無視することにした。しかし、この機体は翼の揚力によっても離着陸できるが、王都のような狭い場所では、機体の8か所に埋められている『飛空石』を魔力コントロールして垂直離着陸するようになっているのだ。思えば、普通の馬車の重量を軽くするために始めた飛空石の利用がここまで発展するなんて、シルフさん、何を考えているんですか?
パイロット、爆撃手、無線通信種、火器管制手など1機に6名が搭乗しているが、全員が騎士団の作戦会議室に集まって来た。全員アンドロイドなので、クラウドからのネットワークリンクにより、作戦の詳細について全員がダウンロード済みなので打ち合わせなど必要ないが、クラウディアのこだわりで、作戦概要についてのブリーフィングが始まった。最初に僕の挨拶だが、アンドロイドに挨拶ってどうすればよいのか分からない。クラウディアが、念話で『敵魔物見ゆとの警報に接し、爆撃部隊はただちに出動これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ。』と言えと伝えてきた。何を意味しているのか全く分からなかったが、お題目のとおり発言した。アンドロイドのパイロット達は目を光らせて感動していたようだが、意味が分かっているのだろうか。
出撃は、5時30分で、爆撃開始は6時の予定だ。B2には1機あたり通常の500ポンド爆弾80発が搭載されている。爆弾だけで、1機あたり18トンにもなる。機体の重量を加えると100トン近い重量だが、飛空石8個の威力は、まったく問題なく機体を浮かばせていく。本当は、滑走路を使って通常離陸をしたいのだが、現在、滑走路は駐機場と化しているので仕方がない。機体整備や爆弾等の火器搭載担当それに誘導員等も滑走路の脇で手に持った帽子を振って見送っている。いや、皆さん、ヘルメットを被っているのに、その帽子、どこから持ってきたのですか?どうやらクラウディアからそうするようにと言われ、カーキ色の帽子を渡されていたそうだ。司令官達は、挙手の敬礼をし続けて見送っていた。『B-2』は、高度200mでメインエンジン4基に火が入り、轟音とともに東の空に向かって飛んでいく。まだ朝早く空気が冷えているため、ジェットエンジンの噴射校から白い水蒸気が噴き出している。
爆撃機3機がデルタ状の編隊となり8編隊が横に並んで飛び去って行く。すべての機の発進を見送った後で、僕とクラウディアは『F35B改ライトニングⅢ』に搭乗し、爆撃機の後を追うことにした。攻撃には加わらないが、戦況を監視するためだ。滑走路脇に駐機していた機体は、誘導員の合図に従って滑走路の端に移動していく。さあ、発進だ。垂直離陸もできるのだが、たまには通常の離陸も練習しないと忘れてしまうので、あえて滑走路を使用するのだ。
爆撃地点は、王都から600キロ、巡航速度でも30分で到着するだろう。僕の『F35B』は、高度8000mまで上昇してから水平飛行に移ったが、10分ほど水平飛行しただけで、前方に黒煙が上がっているのが見えた。おそらく爆撃の煙だろう。そのまま、煙の上がっている場所の上空まで行くと、おびただしい数の魔物が地上を埋め尽くしており、その上から『B2改天山爆撃機』がバラバラと爆弾をばらまいているのが見えた。いわゆる絨毯爆撃だ。魔物はかなり横に広がっていたが、その中心部が1キロ程の幅で煙の下だった。おそらく、普通の魔獣タイプの魔物だったら生き残る魔物はいないだろう。しかし、ケルベロスやサイクロプス或いはキメラなどの再生能力の高い魔物なら、爆弾の破片を浴びた程度では、損傷部位を即修復してしまうだろう。さすがに爆発の中心点から半径10mの範囲では、肉片も残らない程散らばってしまうので再生はできないが、さすがに次々と投下される爆弾の数が多く、再生が間に合わずに死に至る魔物たちが圧倒的に多い。
爆撃は、午前7時00分には終了していた。1920発の爆弾すべてが投下され、現場には無数の小さなクレーターができていた。ざっと見には10000匹近くの魔物が殲滅されたようだ。クラウディアが機外に取り付けたモニターカメラの画像から残存する魔物の数をカウントしている。彼女にとって画像解析など超高速処理能力からすれば児戯に等しいのだろう。
「現在、19056匹の魔物が残っています。大型特殊個体としては、キメラが16体、ヒュドラが9体、大型ドラゴンが3体確認されました。」
大型ドラゴンが、どのような魔物が興味があったので、高度を下げて接近してみる。それは、体長20m位のトカゲのような形で羽は生えていない。緑色の鱗におおわれており、背中には幅広のサボテンの葉のような背びれが一列に並んでいる。四本の足であるいているが、首がやや長く、頭がぐるりと周囲を見渡せるようだ。そいつが僕達の乗っている『F35B』に気が付いたみたいだ。ホバリング中の機体に向かって口を向けてきた。口の中が赤く燃えている。ブレスだろうか?突然、炎がこちらに向かってきた。しかし、高度300mくらいの高さで、その炎は消失してしまった。魔物にしては高度300mまでブレスを噴くことができるのは大したものだが、ワイちゃんやバイオレットさん達のブレスに比べると玩具のようなブレスだ。しかし、水平に噴かれた場合の射程距離が分からないので、陸上部隊は、最初にこのドラゴンを殲滅することにしよう。キメラやヒドラの噴くブレスの威力は、以前に対戦していたので、ある程度は分かっている。これで地上部隊の攻撃方法が決まったようだ。
爆撃を終えた『B-2』は、ボラード北軍事空港に帰還していく。陸上部隊と接敵する前に、もう一度爆撃をする予定だ。次々と着陸してきた『B-2』は、滑走路端に設置されている転移ゲートの中に入っていく。そこは、帝国のタイタン空港内の空軍専用エリアに直結しているのだ。帝国側で給油及び爆弾の架装をして後、またこちら側に戻ってくる予定だ。
結局、13時00分、第2回目の攻撃が始まった。搭乗員達は全員アンドロイドなので休憩をとる必要がないことが強みだ。今回、魔物の群れの後方に位置している特殊大型個体を中心に爆撃してもらう。高度1000mからの爆撃なので、向こう側からのブレスは全くとどかない。前回は高度2000mからの爆撃だったのだが、今回は精密爆撃をするので高度を半分にしたのだ。
爆弾投下から14秒少々で着弾する。その間に、時速400キロで飛行する機体から自由落下する爆弾は、空気抵抗もあるので、約600m前方までずれてしまう。そのため、風速、気圧等を考慮した目標地点への最適投下ポイントをおしえてくれるのだが、フェーズドアレイレーダー併用の高性能照準装置では、爆撃目標ポイントを照準カメラでとらえてロックオンスイッチを押すだけだ。あとは、自動で爆撃を開始してくれる。固定された地形物なら、あらかじめマッピング上でポイントを指定しておくだけで、あとは照準行為さえ不要だ。
より正確な爆撃を行いたい場合には、フルオート誘導ミサイルを使用すればよいのだが、このミサイルは『B-2』の翼下に4発ハンギングできるが、空気抵抗が大きく航続距離も短くなってしまうので、通常は爆弾倉に8発搭載するのが一般的だ。今回は、それほどの精密性は必要ないので、今回はしようしていない。
第2回目爆撃では、特殊個体に大ダメージを与えたが、殲滅できたのは、キメラ9体、ヒュドラ3体、ドラゴン1体だけだったようだ。
次の日、午前8時00分、陸上部隊が接敵した。シェルナブール市から東に500キロの地点だ。最初に、30両の自走多連装ロケット砲『M270』の227ミリロケット弾360発が火を噴く。敵の上空1000mに到達したロケット弾は、そこでキャニスターが小爆発によって分解し、中の多数の子爆弾を地上の魔物たちの上にばら撒かれる。これらの子爆弾の爆発によって200m×100m程度の範囲の魔物たちが少なからざる傷を負い、頭部や重要器官に直撃を受けた魔物は、即死してしまう。その後、50両の『10式戦車』と200両の『87式六輪装甲車』を戦闘にして徒歩部隊が侵攻していく。
熊や虎、狼などから変異した魔獣達は全く相手にならずに殲滅されていく。オークやオーガ、それとサイクロプスやケルベロスなども、ほとんどが殲滅されてしまった。特に『87式六輪装甲車』の上に架装されている『M134ミニガン』から毎分2000発の速度で発射される7.62ミリ弾の威力はすさまじく、頭や胴体に当たった瞬間、消し飛んでしまうほどだ。その後ろから歩いて哨戒に当たっている歩兵は、手に持ったM16A1アサルトライフルの活躍する機会はほとんどなかった。キメラやヒュドラ、大型ドラゴンに対しては、500m以内には接近せず、『10式戦車』の120ミリ弾の集中攻撃により、跡形もなく消し飛んでしまった。何となく素材がもったいない気がしたが、もう冒険者モードのことはわすれることにした。まあ、上空1000mからの監視映像を見ている僕達には、文句を言う資格など無いのだけれど。
こうして、午後5時00分、すべての戦闘が終了した。あ、そういえば北方戦線と南方戦線の事をわすれていたが、クラウディアからはロケット砲の集中砲火でほとんどの敵は殲滅、お昼過ぎには、敵影が見えなくなったとの報告を受けていたそうである。
これって、戦争なのかしら。




