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第61話 入国審査とゲール総督

国境の谷を渡り、今日はいよいよ入国審査です。現代のようにVISA不要とか、持ち物検査のみでOKという制度はありません。基本的に、鎖国に近い環境です。

(6月17日です。)

  城砦町ビッツの城門が開くのは午前8時、それまでに城門前に到着するには、野営地を1時間前には出発しなければならない。


  僕は、日の出前に起きるが、どうも、女性陣は朝が弱いようだ。そんなに起きるのが辛いのなら、夜は早く寝ればいいのに、あの夜のセレモニーに1時間位かけているのだから訳が分からない。大体、セレモニーに参加していないノエルは早く寝ればいいのに、いつまでも寝袋の中でモゾモゾして、エーデル姫なんか、必ず変な声を出しているんだから。


  それはともかく。今日は、心を鬼にして、午前5時半には、全員を起こした。もう、朝食の準備は終わっているし、今日は、一番良いミニスカを着る予定なので、お化粧も万全にすると言っていた。


  朝食が終わり、洗い物をして、テント等をしまってから、僕も、貴族服を着る。帯剣はベルの剣だけだ。予定よりちょっと遅れたが、漸く出発できた。今日は、イフちゃんは剣の中だ。身分証明書もないし、入国許可もないから、当然だ。御者さんも、イフちゃんがいないことに特に驚かなかった。僕達の行動を見ていると、常識が通用しそうにないからだ。


  城砦町ビッツの東側にある城門前に到着する。ここで、サン・ダンベル市から一緒だった馬車とはお別れだ。御者さんに、心付けを渡して別れた。城門に並んでいる人はいなかった。僕達は、5人一緒に脇の平民用の門から中に入ろうとして、門番に注意された。貴族は、正門から、平民はこの門から、そして奴隷は奴隷門から入るようにと。


  このパーティで奴隷はいないし、純然たる平民は、ノエルだけなので、どうしようか迷っていると、シェルさんの腕をつかんで、奴隷門の方に連れて行こうとする。僕は、その門番の腕をつかんで、ちょっと力を込めた。腕が悲鳴を上げた。


  門番達の他に、城門詰めの部隊も出てきた。僕は、門番を部隊の方に投げ捨てた。部隊の一部は、投げ付けられた男を受け止められずに尻餅をついている。部隊の中に、弓矢をつがえている者もいるが、僕は、全く気にしない。その場で逃げもせず立ち尽くしている僕達を見て、不審に思った部隊長が近寄ってきた。


  「そのエルフは、奴隷ではないのか?」


  僕は首を横に振って、シェルさんの首を指さす。そこには、奴隷の証の首輪が無かった。それを見て納得した部隊長は、


  「それでは、王国の貴族様はどなたですか?」


  と聞いてきたので、3人が手を挙げた。エルフも貴族と知って吃驚していたが、着ている服装も最上級の物だし、持っているバックも、帝国内では超高額で取引されているブランド物だという事がすぐ分かったので、一礼して正門から入って貰った。


  クレスタさんとノエルは、隣の平民用の門から入ったが、直ぐ隣だったので何の問題も無く通過した。部隊長は、それを見て部隊を引き上げさせ、僕に再度、礼をして去っていった。なかなか礼儀正しい人だ。


  入国管理事務所は、門を入ったすぐのところにあり、その脇の門を通らないと城内には入れないようになっている。一般市民は、そのまま、その門から城内に入るのだろう。


  僕達は、管理事務所に入っていったところ、広いカウンターがあって、職員が4人、椅子に座っていた。上から、受付、仮入国、通行税そして審査という札が下がっていた。


  僕達は、受付に許可証と身分証明書を提示した。ノエル以外は冒険者証だったが。


  僕の冒険者証が『A』ランク、シェルさんとクレスタさんの冒険者証が『B』ランクであることに驚き、エーデル姫の職業が『王族』となっていることに更に驚いた職員が、席を立って後ろの方に走っていった。


  奥には、小部屋があり、『所長』の札が表示されていたが、中年の小太りの男性が慌てた様子で出てきた。


  所長は、5人を見て声を失った。帝国では絶対に見ることのできないミニスカート。それを着ているのがすべて若くてきれいな女性、そして10歳位の美少年、武器を持っているのは、この美少年だけで、後は高級そうなバッグを持っているだけ。


  所長は、王国の王族の中に、『エーデルワイス第二王女』という貴人がいることは知っていたし、輝くようなプラチナブロンドも、情報通りである。何より、この冒険者証は、帝国でも共通様式で、虚偽記載が出来ない仕組みになっている。


  所長は、帝国臣民であるから、王女に対して臣下の礼を取る必要は無いが、下手をすると外交問題になるかも知れず、どうしたら良いか分からない。このような場合は、帝国府から派遣されている駐在武官総督に相談するのが一番と、至急、使いを出した。そして、僕達を上等な応接間に案内して休んでもらうことにした。


  しばらく待っていると、ゲール駐在武官総督が騎馬でやって来た。


  『ゲール駐在武官総督は、帝国軍大佐で、まだ若いので、『将軍』間違い無しと言われているエリートだ。私みたいな初級3等認証官とは位が違う。』


  平素から、そう思っている所長は、総督にすべてを任せようと思っていた。駐在武官総督は、所長が預かっている冒険者証と入国許可証を見て、対応策を考えていた。


  『このメンバーの目的は何だろう。我が帝国の視察か?それとも軍備等の調査?いずれにしても、現在、我が国と王国の間に敵対する事案は無い筈だ。まず、入国の目的を聞こう。』


  駐在武官総督は、応接室に入っていった。当然、僕達の服装に驚くとともに、新鮮な感覚を覚えた。自由で活発な服装、こういう服装が帝国内でも着れるようになれば、この国ももっと良くなるのだが。


  「良くいらっしゃいました。エーデルワイス王女殿下、ゴロタ子爵、アスコット男爵。私は、このビッツを監督する駐在武官総督のゲールと申します。以後、お見知りおきを。」


  と、言って深いお辞儀をした。僕達も立って自己紹介をした。当然、僕の場合は、シェルさんが代行した。シェルさんとクレスタさん、ノエルは、自己紹介のとき、ミニスカートの裾をつまんで少し上げてカーテシをしたが、ノエルのスカートは極端に短いため、パンツが見えそうだった。


  ゲール総督は、ちょっとドキドキしてしまった。


  お互いにソファに座り、入国の目的について、質問されたので、正直に、隣国のグリーンフォレスト連合公国に行くための通過である旨の説明をした。また、帝国内でもギルドに立ち寄って討伐等をしたいので、ご許可を貰いたいと申し入れた。ゲール総督は、考えた。


  『この状況をうまく処理できれば、帝国内上層部の評価も上がり、目的も達成しやすくなる。どうしようか。』


  「分かりました。王女殿下ご一行の今後の我が帝国内での行動につきましては、検討させていただきたく、まずは、本日は、市内で1泊して頂きたい。誠に失礼ながら、当方が指定する宿舎にご宿泊願います。」


  質問は、終わった。入国許可証と身分証明書を返して貰い、事務所の反対側出入り口から市内に入った。






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  市内は、王国の城塞都市と何ら変わらなかった。住民の殆どが軍人かお役人、後はその人達を相手に商売をする人たち。ただ、王国と大きく違うのは獣人等の亜人が殆どいないことだった。いたとしても、首輪をされている奴隷だった。この街でゴロタ達は、目立った。今日は、女性達全員、銀色に光るシルクのミニスカートで、真っ白なつば広帽子、その帽子には真っ赤なバラのレリーフのリボンが巻かれている。ノエル以外は、白のレースの手袋をしていた。


  それに比べて、帝国の女性は地味だった。男性相手に商売をしているだろうと思う女性も、黒のロングスカートに黒の帽子、色が着いても紺色くらいまでだった。お化粧も薄く、この国の女性に対する価値観が分かるような気がする。


  指定されたホテルは、3階建ての立派なホテルだった。キングサイズのツインがあるか確認したが、無かったので、ダブルの部屋に追加の簡易ベッド、それにツインを1部屋頼んだ。いつもの通りだ。それから、両替所の場所を聞いたら、ホテル内で両替をしているという。さすが、国境の町だけのことはある。


  両替所に行って、金貨2枚、大銀貨5枚、銀貨10枚、大銅貨10枚、銅貨100枚を両替した。貨幣価値は全く同じなのは、両通貨とも、協定により金、銀、銅の含有量を同一にしているからだ。しかし、他国の通過では、使えない店もあるので、手数料を払っても両替した方が便が良いのだ。


  両替手数料は、総額の2%だった。部屋に行ってから、女性陣は、普段着のミニスカートに着替えて、出かけることにした。高級バッグはイフちゃんに預けておく。僕も貴族服からチロリアン風の平民服に着替え、帯剣だけして出かけた。


  街中を見物して歩くと、なかなか面白かった。服装だけでなく、軍人の動作が、王国とは全く違うのだ。というか、よくそれで歩けるなと思うくらいカチッとしているのだ。二人以上で歩くときは、必ず縦隊で歩き、バラバラに歩くことはしない。曲がる時にも一旦立ち止まり、向きを変えてから歩き始めるのだ。きっと、そう歩くように教育されているのだろう。


  もう、お昼過ぎなので、レストランに入ろうとしたら、嫌な看板が目についた。


  『亜人、お断り。』


  え、エルフも亜人だったよな。という事は、シェルさん、この店には入れないのか。でも、一応入って確認してみよう。クレスタさんが。


  クレスタさんが、入って確認したら、原則、駄目だが、奥の個室で良かったらOKとの事だった。店内は落ち着いた雰囲気で、なかなか良い店だった。シェルさん達のミニスカ姿に、他のお客さん達は驚いていた。ある家族連れは、子供の目をふさいで見せないようにしている。


  お昼は、季節の野菜のリゾットとニンニクパスタにした。普通に美味しかった。

相変わらず、礼儀正しい方達です。このゲール総督、これからどんな活躍をするのかな?

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