第2部第180話 第二次神魔戦争その11
(10月3日です。)
今日の夕方、ゴロタ帝国から派遣されてきた文部科学省の初等中等局長と、ティタン国統治領内に設置する小学校及び中学校について意見交換をした。元アンデッドであった人間族の子供たちは極端に少ないが、その反面、魔人族及びゴブリン族の子供達は極端に多いのだ。すべての子供達に質の高い教養・知識を与えるためにはかなりの数の学校が必要となる。本来なら、1学級30名程度の児童数にしたいのだが、これから新校舎を建築するとして、どんなに急いでも半年以上かかってしまう。それでも、校庭とか児童遊具それに図書館の蔵書など絶対的に間に合わないものもあるが、後者ができ次第、どんどん入学させていきたい。そのため、1学級40名のクラスにしなければならないだろう。1学年4クラス、それが6学年だから24教室が必要になる。あと、体育館も絶対に必要だ。中学校は、今の子供達に小学校卒業程度の学力のある子がそれほどいないだろうから、それほど急ぐことはないだろう。そして、新しい教育指導要領に沿って教育ができ、さらに新体制にふさわしい教師を採用しなければならない。この統治領で賄えなければ、ゴロタ帝国から応援派遣を貰わなければならない。ここでの単身生活は苦労するだろうから、単身赴任手当をしっかりと予算建てしていかなければならない。
そういう内容の話をしながら、細かなところを詰めていたところ、執事長のグレンさんが会議室に入って来た。ティタン大魔王国の竜騎士の方が使者として面会を求めてきているそうだ。何だろう。急ぎの使者さんらしいので、応接間に通してもらった。局長さんには、明日から各区長さんと一緒に市内を視察してもらうようにお願いして帰ってもらった。
応接間に入ると、使者さんは、ソファに座らず立ったまま待っていてくれた。どうやら、使者の人は用件が済むまでは立ったままでいるのが礼儀らしいのだ。それだけ、急いでいますという意思表示でもあるらしい。僕は、使者さんの口上を聞いた。
「我が国の賢人であり、最高指導者であらせられるキロロ公爵閣下から書状を扱ってまいりました。この場でご一読され、ご返事をお願いします。」
僕は、厳重に封緘されている手紙を受け取り、内容を呼んで驚いた。ティタン大魔王国が魔物の群れに襲われているらしいのだ。この大陸の東部は荒野と砂漠になっており、さらにその向こうは前人未到の大地となっているらしい。荒野は、1年中、強い風が吹き荒れ、草木もほとんど育たない荒れ果てた大地である。そんな荒野が1400キロほど続いた先は、1年十ほとんど雨の降らない砂漠となっており、昼間は摂氏50度以上にもなるのに、夜はマイナス10度以下まで冷え込む生物がほとんど生きていけない環境で、そんな砂漠が何百キロも続いているそうだ。その先が海なのか山岳なのかは、誰も言ったことがないので分からないそうだ。この世界には、宇宙人の『アン』と『ドゥー』が乗っている宇宙船もないし、監視衛星もない。そのためこの星の大陸がどのようになっているかはよく分からないのだ。
うーん、少し困った。今、シェル達は、統治領中を旅行している。といっても、『B2改天山旅客機』で各市町村を回り、そこのレブナント族やグール族の人達を人間にしているのだ。本当はフランちゃんとシェルだけでいいのだが、エーデル以下は、この世界の美味しい物を食べ歩き、珍しい物を買いあさっているだけなのだが。もうそろそろ、あちらの世界に帰って貰いたいのだが、『本来、夫と一緒にいるのが妻の務めなのですから。』と言われると何も言えなくなってしまった。
仕方がないので、僕とクラウディアの二人で、『F35ーB改ライトニングⅢ』に搭乗して王都に向かうことにした。本当は、シェルナブール市とエーデル市の郊外に4000m級の滑走路を持つ空港を作りたいのだが、まず学校それから診療所の建設が先なので、空港の建設は余裕ができてからとなる。さらに都市間交通としての鉄道も、現在、ようやく路線計画に沿った測量を始めたばかりだし、当面は魔石で走らせるとして、ゆくゆくは架線を敷設して電車を走らせるつもりだ。そのための発電所候補地も探さなくては。
話がそれたが、そういう訳で、僕達は、夕方遅くに王都の中心部に貼る王城内の晩餐会場においてワーキング・ディナーをしている。同席者は、勿論、キロロ宰相ら3賢人と伯爵以上の方々だ。その中には、僕がハイ・ボラード市、いまのシェルナブール市から追い出した貴族もいたが、もともと王都には屋敷を持っていたし、王都でもそれなりの重職を担っているようだ。というか、彼らを人間族に戻すことができるキー・パーソンである僕に恨まれてはチャンスを逃してしまいかねないことから、素直に僕の話を聞いている。
現在の戦況については、ドスカ騎士団長が大まかなところを説明してから、参謀本部の参謀長と言う方が細かな説明を始めた。この方は、ミライト伯爵というレブナント族の方で、銀髪で目が切れ長のイケメン男性だ。彼の話は、非常に分かりやすく、また今後の方針もしっかりしているようだった。
魔物は、東の荒野から突然、リシアル辺境伯領に侵攻してきたそうだ。魔物の種類は殆どが魔獣らしい。また、ドラゴンの目撃証言もあるそうだ。その数は何と3万以上、最東端の城砦都市であるファーイース町が壊滅したのが7日前、街の防衛騎士と辺境伯麾下の男爵は、街とともに討ち死に、男爵夫人と子息は早々に町を抜け出していたので助かったが、現在、こちらに向かっている最中なので詳細は不明だそうだ。
高速通信網を使って、次々に寄せられている情報によれば、魔物たちの進行速度は1日に60キロ程だそうだ。と言うことは、すでにティタン大魔王国の東端から400キロ程度は浸食されているということになる。その間にあるのは、辺境伯の領都である人口2万人のリシアル市とその周辺の2市4町9村が壊滅したおそれがある。また、東北部の侯爵領や南東部の伯爵領も、連絡が途絶えているのでダメかも知れない。魔物の主戦力は中央突破してくる約2万匹、それと北部と南部を侵攻しているそれぞれ5千近い魔物が観測されており、それらが一斉に王都に向かっているとのことだった。
現在、王都から約600キロ程のベルり伯爵領において王国騎士団3000名が阻止戦を張っているが、情報によれば、明日の夕方までは持たないだろうとのことだった。王都には、まだ2000名の近衛騎士団が残っているが、先の大戦でかなりの損害を被っており、即応戦力としては、その半分と言う事である。現在、北部及び南部それとゴロタ帝国領との境界線までの貴族達に騎士の派遣をお願いしているが、ようやく王都に到着し始めた段階で、武器・食料の補給等はこれからという状況らしい。と言うことは、現在、魔物と戦う有効な手段はないと言う事なのだろうか。
ドスカ騎士団長が、額から大きな汗を垂らしながら、『現在、打てる手はすべて打ってこの程度の戦力しかありません。』と詫びていた。まあ、大幅な戦力ダウンを招いた主因は僕にあるので、あまり文句は言えないが、こんな状況では王都の守備どころか国民を守ることさえできないのではないだろうか。
クラウディアが、ゴロタ帝国側からの支援部隊について説明を始めた。ドスカ騎士団長や王城勤務の貴族の方々は、以前からクラウディアのことを知っていたので黙って聞いていたが、初めてクラウディアを見た他の貴族達は、どうみても12~13歳程度の魔人族少女であるクラウディアが話し始めたのに吃驚しているようだった。
「現在の状況は良く分かりました。この国の危機的状況について、皆様のお気持ちを考えると一刻も早く有効な戦力を投入して事態を改善したいと考えていることでしょう。我がゴロタ帝国が、隣国の危難を傍観することなく人道的立場で国民の生命・身体及び財産の保護に向かうことについては、ここに臨席しているゴロタ皇帝陛下も了承済みの事でございます。一刻も早く、敵に対する攻撃を始めるべきでしょうが、私達にも準備もあります。」
クラウディアは、『異次元空間』から、妙な機械を出してきた。その機械をテーブルに置いて、スイッチを入れると、機械の真ん中から光の束が飛び出してきて、テーブルの上10センチ位の所にティタン大魔王国の地図が現れた。以前、王都爆撃及び威嚇飛行をしている際に、航空測量をしていたデータを元に作成しておいたものをホログラフ投影機により立体化しているのだ。
「今、敵の主力は、ここベルリ市の東40キロ程度のところにあると思われます。魔物の先遣隊がベルリ市の街壁を攻略中ですが、明日の昼間では持つものとのご説明でした。しかし、明日の夕方には市内への侵入が成功、市民達の虐殺及び捕食により、市は壊滅してしまうものと思われます。もちろん、派遣戦闘中の王国騎士団3000名も全滅するとの想定ですが。」
皆、沈痛な顔を浮かべている。
「そこで、皆様に朗報をお知らせしましょう。明日、ロクマルマルをもって、我が帝国空軍の爆撃部隊24機が、敵の中心部を攻撃します。さらに、南北に展開している魔物の両翼部隊に関しては、我が帝国の機動部隊戦車30両ずつが突撃を開始するでしょう。そして夕方には、我が帝国陸軍の精鋭徒歩部隊3000名が東部戦線に投入されます。これをもって、明後日夕方イチナナマルマルには敵の殲滅を終了する予定です。」
この会場にいる者達は一様に驚きの声を上げるとともに、本当にそんなことができるのかと不思議がっていた。
「ただし、この作戦には大きなマイナス要因があります。敵の背後にドラゴンがいた場合、通常兵器では太刀打ちできないことが予想されます。エンシェントドラゴンと呼ばれる古龍種だった場合には、我々の武器は役に立たないでしょう。でも、その際にはゴロタ皇帝陛下に直接出陣頂き、敵を撃退していただく予定です。その場合、味方部隊の撤退後に最終決戦となるので、しばらく時間がかかるかも知れません。」
ある貴族が質問のために立ち上がった。
「あのう、そのような恐ろしいドラゴンに勝つことができるのでしょうか。」
質問者の意図は良く分かる。エンシェントドラゴンは、国家災害級の魔物だ。かつて何度も国が滅んだ経験を持つ人間族にとって、正面からは向かうだけで滅亡の危機を迎えるような存在に対抗できるなど信じられないのだろう。
「その危惧は当然だと思います。はっきり言って、今までエンシェントドラゴンと正面切って戦ったことはゴロタ皇帝陛下とてありません。しかし、戦わなければならないのです。そこに躊躇している余裕などありません。皆様も心を一つにして、国民のため、家族のために戦おうではありませんか。」
会場は、拍手に包まれ、そのご簡素だかそれなりに美味しい食事が出された。もちろんアルコール類は一切出なかった。




