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第2部第178話 第二次神魔戦争その9

(10月1日です。ゴブリン王子のラザニア君視点です。)

  僕は、2週間前から、ここ、セント・ゴロタ市にある帝国大学付属小学校に通っている。大きな小学校で、1学年8クラスもあり、1クラス20人ほどの生徒がいる。生徒の殆どは人間族で、学年に何人かの獣人と、エルフそれと魔人族の子がいるが、ゴブリン族は一人もいなかった。後で知ったのだが、この世界では、ゴブリンは言葉も喋れない低級な魔物であり、人間を襲って食べたりすることもあるとのことだった。もちろん、僕は人間なんか食べたことも無いし、人間と争ったことも無い。グールやレブナントそれに魔人族の冒険者達と遭遇することがあっても、戦闘になる前に逃げてしまうので何とか今まで生き延びてこれたのだ。


  ゴブリン族の特色として、極端に低い身長があげられる。父上はエルフの血を引いているので身長が180センチ近くあるが、他のゴブリンは大人の男の人でも150センチ以下だ。女の人達は120~140センチ位しかない。僕は、母上がエルフ族だったので、10歳だが155センチ位あり、人間族の男の子とはそれほど変わらない身長がある。ただ、耳が長く、褐色の髪の毛と、下の犬歯が長く伸びているので、やはり人間とはかなり見た目が違うみたいだ。


  僕のクラスには、虎人の女の子が一人いるだけで、後は皆人間族だった。転入の挨拶の時、僕が『ゴブリン族の王子』であると自己紹介をしたら、皆、ものすごく引いていたんだ。まあ、事実だからしょうがないけど、誰かが、


  「俺らを食わないでくれよ。」


  とふざけて言っていた。


  「僕はみんなと仲良くしたいし、人間を食べたことはないよ。」


  と説明したんだけど、何となく皆が僕を避けているような気がしたんだ。僕は、母上から基本的な数の数え方や計算の仕方、文字の読み書きは習っていたんだけど、元の世界の魔人語はとても難しくて、なかなか理解できなかったんだ。話したり聞いたりは、ゴロタ陛下から賜った首輪型翻訳機で何とかなったんだけど、文字を書いたり読んだりするのがすごく不得意だった。迎賓館『チューダ宮殿』では、専属の家庭教師を付けて貰っているが、学校で朗読の場面になると、緊張してうまく読めなくなってしまうのだ。


  それでも何とか授業をこなしていたんだけど、お昼休みになると、生徒会委員長のキティちゃんが一緒にお昼を食べようと誘いに来るんだ。妹のマルリと一緒に食べていたんだけど、最初のうちは慣れない学校だし、キティちゃんしか頼れる人がいなかったので3人で食堂に行って食べていたんだ。でも、そのうち、うちの男子生徒達が、それを見て僕をからかい始めたんだ。


  「女と一緒でなければ飯も食えないラザニア、弱虫ラザニア。」


  僕は、そんなことを言われると、胸がキューッてなってしまって、何も話せなくなってしまうんだ。キティちゃんがきつく叱ってくれるんだけど、そうすると、後で、またからかわれるんだ。それで最近、なるべくキティちゃんと一緒にならないように、お昼休みになるとトイレに隠れることにしているんだ。お昼休みが終わるころに食堂に行って、残っているパンとチーズだけ貰って、急いで食べてから教室に戻るんだけど、この前、僕がそうしていることがキティちゃんにばれてしまったんだ。


  キティちゃんは、どうしてそんなことをするのか僕に問いただすんだけど、僕もうまく答えられなくって、黙っていたんだ。そうしたらキティちゃん、だんだん怒ってきて『もう知らない。ラザニア君となんか一緒にご飯食べない。』って言って6年のクラスに帰って行ったんだ。僕は、とても悲しい気持ちになって涙がポロポロ出て来たけど、じっと我慢をしていたんだ。


  今日のお昼も、みんなから少し遅れて一人で食堂に行ったんだ。キティちゃんはマルリと一緒に座っていたけど、僕を見ても『フン!』と横を向いたまま、僕の方を無視していたんだ。僕は、物凄く悲しかったけど、我慢して、トレイにパンとバターとチーズ、それにベーコンと野菜のいためたお皿とお肉のスープを載せて、どこか一人で座れる席を探していたんだ。席を探すのに夢中で、あまり前を見ていなかったら、急に足が何かに引っ掛かってドタンと転んでしまったんだ。スープからお野菜からみんな床にばらまいてしまったんだけど、振り向いたらクラスメイトの男の子が足を出していて、その足をさすりながら『痛えじゃないか。ちゃんと前を見て歩けよな。』と僕に注意していたんだ。僕は、前を見ていなかったのは事実だし、『ごめんなさい。』って誤ったんだけど、その子は立ち上がって、僕の背中に足を乗せて、『ごめんなさいだけじゃあ許せないんだよ。ゴブリン野郎が。』と言ってきたんだ。僕は、何も言い返せなくって黙っていたんだけど、その子は、もっと僕を強く踏みつけて来たんだ。僕は、亀のように丸くなって我慢していたら、急に、


  スパーーーーーーン!


  ていう音がしたんだ。何かなと思ったら、キティちゃんが校内履きをもって、その男の頬っぺたをひっぱたいたみたい。キティちゃん、ちっとも大きくなくって、年だって僕より半年くらい下なのに、大きな男の子に向かっていくなんて。


  「あんたね、今のちゃんと見ていたわよ。わざと足をかけたでしょう。」


  「な、なにを言ってるんだ。証拠はあるのか、証拠は。証拠がなければ処罰されないってお父さんが言っていたぞ。」


  「フーン、あなたのお父さん、どこで何をしているの?私が校長先生と皇帝陛下にきちんと報告しておいてあげるから。」


  キティちゃんって、この学校では超有名人なんだって。育ての親はゴロタ皇帝陛下だし、本当は小学4年生なのに、飛び級でずっと6年生だし。それにずっと生徒会委員長をしているんで、校長先生なんかにもきちんと意見ができるって聞いていたんだ。僕から見ると、雲の上のような女の子なんだ。


  「それにねえ、あなた、さっき、この子の事『ゴブリン野郎』って言わなかった。この国の憲法はね、種族による差別を禁止しているのよ。罰則だってあるんだから。どうするの、あなた、お父さんと一緒に牢屋に入るの。」


  キティちゃん、凄い。そんな難しい法律まで知っているんだ。でも、今にも泣きだしそうな男の子の顔を見たら可哀そうになってしまって。


  「あの、キティちゃん、ぼ、僕、平気だから。それに前を見ていなかった僕もいけなかったんだから。」


  「フン、あなた、そんなんだから苛められるのよ。男なんだから、ガツンと言ってやりなさいよ。」


  え、苛められているの?それは、あんまり仲良くはないけど、殴られたり、何かを隠されたりしていないし。苛められてはいないと思うんだけど。でも、キティちゃんが言うのならば、そうかも知れない。でも、だからと言って、僕にはどうしようもできないと思うんだけど。父上からは、絶対に人間と喧嘩してはいけないって言われているし。父上は、僕達の世界では人間族や真人族とゴブリン族が仲良く暮らす世界になるのだから、この世界で人間族と仲良くできなければ、どこに行っても仲良くなんかできないぞって言われているし。


  「僕、苛められていないよ。この子とも友達だよ。」


  僕は、この子の名前を知らないし、あまり話したことも無いけど、クラスメイトは皆友達だって先生が言っていたし。僕は、それから黙って掃除用具入れの所に行ってバケツとモップをもって、こぼしたスープや野菜なんかを掃除したんだ。キティちゃんも手伝ってくれたんだけど、小さな声で、ボソッと


  「弱虫!」


  って言ったのがはっきり聞こえてしまった。僕は、とても恥ずかしくなったんだけど、何も言い返せなくて、黙って掃除を続けたんだ。もう、お昼休み時間が無くなってしまったんで、結局、この日は何も食べなかったんだけど、元の世界で森を逃げ回っているときなんか、1日中、全然食べられない時もあったので平気だけど。教室に戻ったら、さっきの子が何人かの男の子たちとニヤニヤ笑いながら僕の方を見ているんだ。何だろう。何か用かな。


  午後の授業が終わって帰ろうとしたら、さっきの男の子たちに呼び止められたんだ。本当は、キティちゃんとマルリの3人で一緒に帰る予定だったんだけど、キティちゃんに会いたくなくって男の子達のお話を聞くことにしたんだ。そうしたら、今日は一緒に帰ろうっていうんだ。学校から『チューダ宮殿』までは、3キロ位だけど、途中にあまり民家などはないので、この子達とは帰る方向が違うような気がしたんだけど、せっかく誘ってくれたんだから、断っても悪いかなと思って、一緒に帰ることにしたんだ。


  その男の子たちは、いつも通いなれているのか大通りをまっすぐ行って、街で一番大きな通りにある雑貨屋さんへ向かったんだ。この店は母上と何度か来たことがあるんだけど、勉強道具から母上が使う化粧品までなんでもそろっているお店なんだ。ファンシーショップっていうらしいんだけど、店の中は物凄い数のお客さんでいっぱいだった。その男の子は、僕のランドセルを降ろさせて、蓋を開けておくようにっていうんだ。僕は、言われるとおりにランドセルを両手でもって、上の蓋を開けていたら、男の子達は次々といろいろな物を僕のランドセルに入れ始めたんだ。僕の周りには体の大きな子が立っていて、お店の人には見つからないようにしていたみたい。


  僕は、きっと後でお金を払うんだろうなと思っていたら、最後に蓋をきちんと締めてから、『黙ってお店を出ろ。』て言われたの。僕は、その時、初めて、こう言う意事って、やっちゃいけない事なんだって思っていたんだけど、僕の両脇から、男の子2人が腕を抱えてお店を出ようとするんだ。


  「何も買わないんだから、もう帰ろうぜ。」


  って、いかにも帰りたがらない僕を無理やり帰らせようとしているような演技をしながらお店を出てしまったんだ。僕は、お金なんか持っていなかったけど、このままでは絶対にいけないと思って、両脇の男の子の腕を振り払って、お店に戻ろうとしたんだ。そうしてお店の方を向いたとたん、そこには知らないおじさんが立っていたんだ。他の男の子達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまったが、僕は、預かっている品物を返さなければいけないので、そのおじさんの脇をすり抜けてお店の方に向かおうとしたんだ。


  「ぼうず、そのランドセルの中身を見せてくれるかい?」


  え、このおじさん、誰?どうしてランドセルの中身を見せなくっちゃいけないのかな。


  「えーと、この中には、まだお金を払っていないお店のものがあるので、これから返さなければいけないんですが。」


  「フーン、どうやって返すんだね。」


  「それは、お店の人に言って返すに決まっているじゃあないですか。」


  「そう、そうなんだ。じゃあ、おじさんがお店の人の所まで連れて行ってあげるよ。」


  あ、この人、顔が怖いけど、きっといい人なんだ。僕は、おじさんに付いていって、またお店に戻って行った。でも、店員さんが立っているカウンターの所を通り過ぎて、その奥の扉を開けて入って行ったんだ。僕にも入るように手招きしている。こういう店の奥には偉い人がいるって母上から聞いていたから、きっとこのおじさんも偉い人なんだろうな。


  部屋に入ると、椅子に座らせられて、テーブルの上にランドセルの中身を全部出すようにって言われたんだ。仕方がないので、このお店の商品と、学校の教科書、ノート、筆入れそれに音楽用のハーモニカなんかを出したんだ。そのおじさん、お店の物をチェックしながら、いろいろメモしていたんだ。しばらくしてから、


  「えーと、坊主、どこに住んでいるんだ?」


  本当は、ゴーレシア王国の王都にあるお屋敷に住んでいるんだけど、今はこの街の『チューダ城』に住んでいるので、そういう風に説明したんだ。詳しい住所は知らないんだけど。おじさん、少しびっくりしていたんだけど、


  「と言うことは、お母さんは、お城でメイドか賄いをやっているのかな。坊やの名前は何て言うんだい。」


  僕のことが『坊主』から『坊や』に変わった。それから、僕の名前や学校、クラスなど詳しく聞かれたので僕は全部、きちんと話したんだ。あと、今日、一緒に来た子達のことも聞かれたけど、同じクラスだとは話したんだけど、名前は聞いていないので知らないと答えたら、なんか物凄い哀れそうな目で見られてしまった。


  最後に、僕はエルフ族の子かと聞かれたんで、『ゴブリン族』だとキチンと説明したんだけど、もっと哀れそうな顔をされてしまった。後で知ったんだけど、この世界で人間の女性がゴブリン族の子供を産むことがあるらしい。でも、それって襲われたからだって言っていたけど、どういう意味かよくわからなかった。

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