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第2部第173話 第二次神魔戦争その4

(9月14日です。)

  午前2時、キロロ宰相が『あのお方』に祈りをささげていた時、突然、後ろから声をかけられた。


  「キロロはん。何をお祈りしておるんでっか?」


  キロロ宰相は吃驚して振り返ると、『あのお方』が、いつもと変わらぬ姿で立っていた。黒いマントを羽織り、真っ黒な頭髪をペッタンコに撫でつけている。左目には黒色のガラスのハマったモノクルを付けていて、右目は、白目部分が真っ赤に血走っているが、瞳は明るい空色だった。鼻は極端な鷲鼻だが、とがった顎と対比がとれているようだ。耳は、エルフのようにとがっているが、一番の特徴は、頭の両方から伸びているヤギのような黒色の角だろう。マントの下は、真っ白な貴族服であり、つま先のとがった黒色の革靴を履いている。右手には、大きなダイヤモンドがついているステッキを持っている。


  キロロ宰相は、その場で土下座をし、頭を床に擦り付けながら、口上を述べ始めた。


  「尊き御方には、ご尊顔を拝し奉り、私のような下賤の者に御声をおかけくださり、恐悦至極にございます。今、しばらくは私の言葉でお耳汚しなられることをお許しくだされば、無上の喜びに存じます。」


  「ああ、ああ。そんなことはどうでもよいでっせ。ところで、大分困っているようでんな。」


  この男にはキロロが何故困っているのかすぐに分かった。心の中を呼んでいるわけではない。キロロの強い念が、人間界の地下深くにいたこの男の心に響いてきたのだ。すぐに魔界に転移してきたら、キロロが神殿で祈り続けていたと言う訳だ。この謁見の間は、最初から玉座を置いていたわけではない。本来は、魔人族達が大魔王に祈りをささげる間だったのだが、人間族がこの世界を支配するようになってから、この部屋を玉座の間、謁見の間としたのだ。まあ、ここの玉座に座ったのは、この男だけだったのだが。


  「それで、用件ってこの世界にいるあいつの件でっか?」


  キロロは、顔を上げる事なく床に額を付けながら、質問に答えている。


  「は、はい!その通りで御座います。何故、お分かりで。」


  「彼奴の気配がプンプンしているんで、直ぐに分かりましたがな!」


  「あ、あのう。あの男は何者なのでしょうか?」


  「あいつでっか?あいつは太鼓の昔から、ワテらの邪魔をしくさって、あいつの世界ではなく、暫くじっとしていたんでっせ!」


  「あの者は、それほどの者なのですか?」


  「そうやなあ、こっちでは『大魔王』、上の世界では『世界を統べる者』と呼ばれておったわ。」


  「や、やはり『大魔王』でしたか。そ、それで、あの者に対抗するためにはどうしたら宜しいのでしょうか。」


  「はあ?どうしたらって、どうしたいんや?」


  「可能であれば、この世界から立ち去って貰えれば・・・」


  「それは無理でんな。あいつがホンマの力を出したら、この世界が無くなるわ。ワテだって、そんな事は無理ですわ。まあ、仲良くなりいな。そのために、ちょっとだけ手助けしたるわ。」


  「て、手助けでございますか。それは、どのような?」


  「それは内緒でんな。あいつが手助けせざるを得ないような事が起きるんや。楽しみにしといてえな。」


  「そ、それとお願いがあります。」


  「なんや?言うてみい。」


  「我々アンデッドは、現在、衰退の一途でして。このままでは、遠からず滅亡してしまうのでは無いかと危惧しております。」


  「ああ、それはそうやろ。あんたはんらは、本当の意味でのアンデッドではおまへんのや。生きながらアンデッドになるなんて有り得ません。そやから、あんたさんらは、地位と長生きする人間に似た者なんやで。」


  「は、はい。それは分かっておりました。しかし、子供が出来にくく、そのためドンドン仲間が少なくなってしまって。」


  「ああ、それはあんたらの仕様というもんでんな。解決するには、また人間に戻るこっちゃな。」


  「に、人間にですか。しかし、そのような大魔法、私達には使えないのですが。」


  「それはそうやろ。あんたはんらが、アンデッドモドキになった時、人間に戻る力は失われてしもうたんや。」


  「そ、そ、その力とは?」


  「うん、ワテも持ってないで。『聖なる力』でんな。人間の世界では結構ある力でっせ。」


  「聖なる力ですか?」


  「そうや、あいつに頼んでみな。ごっつうエグいおなごがおりまっせ。あ、あいつが気が付くんで、これでサイナラや。また、いつかな。ごきげんよう。」


  何をされたのか、キロロ宰相は、そのまま意識が飛んでしまった。







  キロロ宰相が王城内の警護の者に発見されたのは、翌朝、宰相の姿が見えないと騒ぎになって、近衛騎士達が場内を隈なく探し始めてからだった。玉座の裏、少し見つけにくいところに、熟睡していたところを発見されたのだった。


  キロロ宰相は、玉座の間であった事を二人の賢者に伝えた。人間に戻れる方法がある。その事が衝撃的だった。自分達は、真の意味でのアンデッドではないという事は、誰からも言われなかったが皆知っている事だった。無限に生きる訳でなく、子供が出来にくいとなれば、種として存続できない事は誰でもが理解していた。最初はリッチばかりだった貴族達も、今では半数以上が中位種のレブナントに替わっていた。魔人族やゴブリン族は、次々と赤ん坊を作り続けているので、この世界そのものが子供を作る事を拒否しているのではないと言う事が分かってしまう。


  研究職のリッチに解決策を模索させたが、全く手がかりを得る事が出来なかったのである。魔人族やエルフ族を相手にしてみても、全くの徒労であったことから種族的問題であると言う結論に至ったのだ。一人の女性アンデッドが生涯に産む子供の数は、平均0.2人、と言う事は、5組の夫婦で1人の子供しか産めない。高位の貴族なら大勢の女性を側室に持ちなんとか跡継ぎを得ることもできるだろうが、普通の貴族や商人、兵士にはそのような事は無理である。しかし、人間族に戻れば、また元のように自由に子供が作れるのだ。


  問題は、皆が人間族に戻ることを希望するかどうかだ。これは、皆の意見を聞く必要があるだろう。だが、もし皆が人間族に戻ることになったとして、あの忌々しいゴロタ皇帝に頼まなければならなくなることだった。キロロは、自分一人だけでは結論を出すわけにはいかないので、エメル司法長官とドスカ騎士団長の意見も聞かなければならないと思ったのである。




  その日の午後、急遽二人と会談を行うことにした。二人とも、公務が忙しいが、キロロの至急の相談事ということで、時間を作って内閣府の宰相執務室に集まってくれた。いつもなら5人ほどいる事務官も人払いをして、3人だけでの会談とした。キロロが最初にすべてを話して二人の意見を聞いた。


  「と言う訳じゃが、エメルはどう思う。」


  「ウーン、よく分らぬが、儂らは300年以上生きているのじゃ。今、人間にもどったら、その時点で寿命でしんでしまうのではないかな。」


  「そうかも知れぬ。しかし、私はそれでも良いと思っているのじゃ。このままでは私らアンデッド、いや元人間族達は間違いなく滅亡してしまうのだしな。どうじゃ、ドスカの考えは?」


  「儂は、あまり頭が良くないのではっきりとは分からんが、もうアンデッドの支配は終わる気がする。というか、この国はゴロタ帝国に合併されるか属国となってしまうだろう。その時、儂ら元人間族は今のような権限を持つことは許されないだろう。ゴロタ皇帝は、種族間の優劣を嫌って折るようなので、平等で平和な世の中になるのなら、人間に戻っても良い気がする。のじゃが。」


  「ドスカは、養子を取っているが、人間に戻ることに反対されたらどうするのじゃ。」


  「分からん、人間に戻ることなど考えたこともないわ。儂は、人間だったころは孤児院で過ごしていて、良い思い出はなかったがあの頃に戻れと言われてものう。」


  「いや、人間に戻っても騎士団長の地位は変わらないじゃろう。ただし、高齢のために養子殿に代替わりするかも知れんがの。」


  「あいつだって、もう80過ぎじゃ。人間になると使い物になるかどうか分らんぞ。」


  3人の話し合いは夕食時間を過ぎても続いていたが、結局、一度、ゴロタ皇帝陛下に相談してみることにした。相談は、キロロ宰相自らが行うということで、飛竜騎士に飛んでもらって面会の日程調整をしてもらうことにした。この世界は、太古の昔、人間族と魔人族が仲良く暮らしていたという記録もある。ゴブリン族、エルフ族そして伝説のドワーフ族、その5族が仲良く暮らす世界があったなど信じられなかったが、もしかすると、そういう世界が本当に来るのかも知れない。それこそ理想の社会なのだろうが、専制と迫害の歴史が長かったために、どうにも現実感が感じられないキロロ宰相だった。


  キロロ宰相は、レブナント族の官房長官を呼んで、当面の間の宰相代行を依頼するとともに、自分は、しばらくの間留守にすると申し伝えた。ハイ・ボラード市へ使者を出す際に、自分も一緒にハイ・ボラード市に行ってみようと思ったのだ。そこでゴロタ皇帝陛下の統治がどのようなものか自分の目で直接見ることにした。3日間も視察したら戻るつもりだったが、その間は官房長官に任せても大丈夫だろう。キロロ宰相は、すぐにエメル司法長官とドスカ騎士団長にその旨の親書をしたため、係りの者に配達を依頼しておいた。


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