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第2部第166話 王都への道 その13

(7月13日です。あるモンド兵の視点です。)

  私は、モンド王国騎士団の中尉だ。一応、準男爵で王都の騎士団で小隊長をしている。今回、我が国と親密な関係にある『神聖ゴロタ帝国』のゴロタ皇帝陛下よりの要請により、我が騎士団から200名の騎士が異世界の魔人族の国に派遣されることになった。7月7日、突然、招集がかかったのだが、甲冑不要、弓矢不要、それに剣まで不要と言われた。普段着と下着だけ準備して騎士団本部への集合を言い渡されたのだ。


  集まったのは、上はダイキ騎士団大将から、下は爵位のない下士官までだ。貴族位にある者は、夏用の貴族服を着ていたが、下士官たちは頭からかぶるだけの簡略服にサンダルという姿だ。剣も不要と言われたが、貴族たるもの剣を携行しない訳にもいかないので、ショートソードだけ腰に下げている。このショートソードは、我が家に伝わる家宝で、全体は鋼製だが刃の部分のみミスリル銀が使われている所謂ハイブリッド剣だ。これだけの剣を持っている者は、私達のような下級貴族ではそれほどいないだろう。


  騎士団本部から、王城に向かい、王城の中の庭に整列していたところ、モンド国王陛下から今回の派遣に対する慰労のお言葉があった。その後、ダイキ大将や参謀、中隊長の紹介があったところで各部隊の編制が始まった。私は、第3中隊第2小隊の小隊長となり、小隊員は11名だ。時間的にも午後になっていたので、今日は、このまま解散かと思っていたら、これから出発だそうだ。え、部隊の糧食や装備も何もないのにどうやって出発するのかと思ったら、王城の中庭の端に小さな門が作られていた。あの門をくぐるように言われ、戦闘部隊から門に向かったが、驚いたことに門をくぐると同時に兵士達が消えていく。私は見たことがなかったが、あれが『転移門』と言うのだろう。


  私達の部隊も、無事転移を終了した。転移先は大きなお屋敷の前庭だったが、私達の部隊200名が並んでも余裕のあるほど広い庭だ。皆が転移を終えると、魔人族の少女が私達に支給される武器や軍服を支給してくれた。一人一人、少女の前に行き、所属、階級、名前、身長、体重を言うと、空間から大きな袋に入った軍服と見たこともない機械をいくつか渡してくれる。あと、大型ナイフも渡してもらったが、どんな金属でできているのだろうか。黒くてギザギザの刃体なのだが、とても軽く、革のケースに入れて腰に下げるらしい。


  軍服に着替えてから、装備品の装備についてかなり小さな兵士から説明を受ける。キチンと魔人族の言葉を喋っているのだが、見た感じ、人間らしさを感じない。というか、皆同じ顔をしていて、口を開かずに喋っているのだ。魔人族の少女から、この兵士達は『アンドロイド兵』というらしいのだ。どうやらゴーレムと同様に作られた人造人間らしい。


  軍服を着るのは、特に問題はなかったが、問題は装備品だ。すべての兵士に支給された機械のうち、大きくて長いのは『M16アサルトライフル』というらしい。断層と言うものに黄銅製の細長い弾薬を込めて装填するだけで、1キロ先の兵も狙撃できる弓のようなものになるらしい。それと、右腰には革製のケースに入った『シグP320』という軽量の機械だ。これもグリップの男装に弾薬を装填して、相手に向けて引き金を引いて弾丸を発射する者らしいが、その練習は明日以降にするそうだ。


  あと、手りゅう弾という丸い金属や色々な装備品が渡されたが、士官と兵士では支給品が違うみたいで、私には双眼鏡という遠視のできる眼鏡と小さな無線機あと腕に巻く時計や応急手当セットなどだった。すべての装備を携行し、私服は支給されたものが入っていた袋に入れて、部隊は、今日の駐屯地に出発した。


  駐屯地は市街地から外にでた郊外にあるらしいのだが、街壁をでてみて驚いた。あの魔物のゴブリンが大勢いたのだ。案内のアンドロイド兵が、『このゴブリン達は魔物ではありません。』と説明してくれたが、どう見ても魔物にしか見えない。しかし、彼らは、私達をじっと見ているだけで、決して襲ってきたりはしないので、きっと魔物と言うよりも亜人としてのゴブリンなのだろう。


  私達の駐屯地は、そのゴブリンの居住区よりも外の街道脇にあった。既に必要なテントが張られていて、兵士は8人用、士官は2人用のテントだった。私用のテントは、同じ中隊の小隊長と一緒だった。この小隊長は男爵家の息子さんで、まだ叙爵されていないとのことだった。驚いたことに、夏だというのにテントの中は涼しくなっており、冷房用の魔石がセットされているとのことだった。生活用とはいえ、冷房用の魔石は高級品なので、すべてのテントに必要数がセットされていると聞いただけで、この派遣には一体いくら金がかかっているのか心配になる。


  驚いたのは、それだけではない。食事は、食事用の巨大なテントの中で食べるのだが、魔人族の女性たちが賄いをしてくれている。それに食材も肉、野菜、果物と豊富であり、また主食のパンも真っ白でフワフワの丸いパンだった。このパンなら、モンド王国の平均的なパンの倍の値段はするだろう。飲み物も、アルコール類はなかったが果汁水や牛乳などお好みで飲み放題だ。さらに、食後、時間指定されていたが風呂まであり、男性用と女性用に分かれていたが、女性兵士は悲鳴のような嬌声を挙げていた。行軍の際の入浴など、考えられなかったので、こんな待遇など信じられないとのことだった。さすがに風呂だけは士官も兵士も一緒だったが、全く問題はなかった。この日の就寝については、哨戒の不寝番は不要だった。睡眠をとる必要のないアンドロイド兵が部隊の周囲を紹介してくれていたのだ。





  次の日、武器の使用方法についてレクチャーを受けてから、さっそく実写になった。ライフル組と拳銃組に分かれて交互に訓練をするのだが、私は射撃の素養があるのか、ほとんどの弾丸が黒点の中だった。さすがにライフルの連射モードでは、大きく外したが、『3点射モード』では、2発は黒点の中だった。最後に手りゅう弾の投擲訓練だったが、私は、40m以上投擲することができた。中には10m位しか投げられない者もおり、指導教官から遮蔽物のないところでは投げないようにと注意されていた。この、手りゅう弾、爆発威力はすさまじく、爆発地点の地面には大きく穴が開いていたのには、驚きと言うよりも恐怖を感じてしまった。


  あとは、無線機の使い方や通話用語などを覚えて本日の訓練は終了だった。あのう、まだお昼前なんですが。今日のお昼は、市街の食堂を利用するようにと言われ、一人3000ギル相当の現地通貨3000ピコを支給された。アルコールさえ飲まなければランチなら使いきれないだろうと言われた。


  市内に入るに当たって、ナイフ以外の武器の携行は禁止された。いつもショートソードを腰に下げていたので、何か寂しいが仕方がない。テントが一緒の中尉、名前はウラルと言うらしいが、彼と一緒に行くことにした。街壁の城門は開けっ放しになっており、アンドロイド兵が何人か立っていたが、私達に対しては誰何もせずに通してくれた。駐屯地に向かうときにも思ったが、街壁の城門から入ったすぐは、魔人族の居住区になっているが、スラム以下の居住環境のようだ。小さい、古い、汚い木造家屋が密集しており、通りには襤褸をまとっている魔人族の子供たちが私達のことをじっと見つめていた。魔人族の大人達はどこかで働いているのだろうが、この居住区では商店もなく働く場所など無いように見えた。街の中心部に向かうと、また街壁があり、その中はグール人や裕福そうな魔人族が暮らしているようだ。また、大きな商店も並んでおり、当然にピンキリではあるがレストランもあった。


  グール人は、我々の世界ではアンデッドの魔物なのだが、ここでは普通の市民として暮らしているみたいだ。肌の色は灰色に近い褐色で、瞳が開ききっているのが特徴だ。しかし、他の特徴は人間族と変わらず、普通に活動をしている。元の世界では、グール人は我々を食べる『食人屍』として忌み嫌われていたが、この世界ではもちろん、死肉など食べない。普通にレストランで食事をしていた。




  そのような訓練生活を重ねていたところ、本日、私の小隊に特別任務が与えられた。我々の主戦場となる北部方面の敵情視察が任務だ。北部方面は、もともとはゴブリン族の王国だったらしいのだが、今は、『ティタン大魔王国』が占領しているらしい。私は、『大魔王国』と聞いたとき、我々魔人族が、大魔王と争っていて良いのかと思ったが、どうやら、今の大魔王国には大魔王はいないらしい。というか、街の魔人族に聞いたところ、ゴロタ皇帝陛下こそ大魔王が降臨された『現人神』だそうだ。そういえば、ゴロタ皇帝陛下の頭には黒い角が2本生えていたが、あれはどう見ても作り物ではなさそうだった。


  まあ、大魔王と争うのでなければ、我々としても何ら憂いはない。兵として命令を達成するだけである。調査は、私を指揮官とした小隊編成だ。貴族ではないが年配の少尉が1名、下士官として准尉が1名と曹長が1名、あとは伍長と兵卒が8名だ。兵卒はかなり若く、最年少は14歳だそうだ。女性兵士も3名程いたが、初めての遠征軍ということでかなり緊張しているようだった。まあ、14歳の坊やも緊張で唇が真っ白だったが。調査場所である北部方面の森林地帯までは、大きな飛行機で行くことになった。我が国にも先年、飛行場ができ、北の大陸との交易が始まったので、飛行機そのものが珍しいわけではないが、今回、クラウディア嬢が準備された飛行機は、今まで見たことがない姿をしていた。主翼の左右には大きな風車がついており、主翼そのものが90度に角度を変えて、ゆっくりとまっすぐ飛び上がるのだ。エンジン音も、ジェットエンジンのような音ではなく、お腹に響くような低音が断続的に聞こえ来る。機体の後部ゲートが開いて我々が乗り込んでいったが、機内はかなり狭く感じられた。そのまま、離陸をしてから、北に進路をとって北部方面に向かっていった。


  調査期間は3日間で、今回、飛行機が着陸した場所に3日後の正午に迎えに来てくれるそうだ。今回の調査に関して、見たままの風景をクラウディア嬢に送ることのできる魔道具、リモート・カメラと言うらしいが、それと上空の飛行機に着陸位置を知らせる信号弾を渡されている。


  早速、伍長を斥候に出して、部隊を森の中に進ませる。森と言っても、歩くのが困難になるほどの密集ではないが、手入れが全くされていない森のようで、下草が伸び放題に伸びて、歩きにくいし、また、夏場の事もあり、虫の多さには閉口した。特に、蚊が固まって飛んでいるところでは、目や鼻、口にかが飛び込んできて、慌てて手で払いのけるのに懸命になってしまう。


  しばらく森を進んでいくと、先行の斥候から無線で情報が入ってくる。


  「ピー、こちらオメガ、オメガ。アルファ、聞こえますか?」


  「こちらアルファ、よく聞こえます。何かありましたか?」


  「魔物を発見、対象はイノシシ型のブル・ファンゴ。現在、2頭が食事中。」


  ブル・ファンゴは、難易度はそれほど高くないが、分厚い脂肪が邪魔をして致命傷を与えるのが難しい魔物だ。位置を確認して、我々が到着するまで待機するように命じた。約300m先で対象を発見した。しきりに木の根元を掘り返している。きっと芋類でも見つけたのだろう。このまま通り過ぎても良かったが、初めての戦闘だ。兵士達に経験させるのも良いだろうと、攻撃指示を出した。皆、ゆっくりとライフルのスライドを引いて、薬室に初弾を送り込む。部隊戦闘にいた女性兵士と14歳の少年兵に、攻撃を命じた。木陰から狙いを定めている。ブル・ファンゴの急所は眉間と胸の脇にある心臓だ。眉間は位置的に狙えないので、心臓を狙うことにしたようだ。女性兵士が、左手で3本指を立てた。3つ数えたら攻撃開始と言う事だ。指が折られていく。3本の指が折りたたまれたと同時に、『M16アサルトライフル』から5.56ミリ弾が発射されていく。距離が近いこともあり、全弾命中だ。ブル・ファンゴは反撃することもなく一瞬で射殺されてしまった。


  この日は、あとホーン・ラビットやサラマンダ・ボアなどを討伐して終えた。サラマンダ・ボアは、名前こそサラマンダと付いているが、火を噴くことはなく、体表の模様が真っ赤な炎のようなので、この名前がついているらしい。すべての魔物は食用となるのだが、女性兵士3人は、サラマンダ・ボアを決して口にすることはなかった。





  次の日の夕方、森の奥までかなり進んだ気がしたが、そこで奇妙な生き物に遭遇した。身長は140センチ位の二足歩行をする生物だが、全身を幅の広い葉で包まれていて、頭にはツタで作ったリングをはめている。きっとあのリングで、体に巻いている葉を落ちないように抑えているのだろう。その生物は、我々を認めるとその場で反転し、脱兎のごとく逃げて行ったが、その際、身にまとった葉が何枚か外れてしまい、薄緑色の肌が露見してしまった。作戦情報によれば、この森には野生のゴブリン族がいるとのことだったが、あの生物が、そのゴブリンなのだろうか。


  我々は、ゆっくりとそのゴブリンの後を追う。斥候を3名に増員して、かなりの広範囲でゴブリンの探索を行っていたところ、左方担当の斥候から、ゴブリンの集落を発見したとの連絡があった。近くまで寄ってみると、確かに集落があった。樹上に、葉で覆った小さな小屋のようなものが幾つかあり、地面では小さなゴブリンが2人、地面を掘り返して遊んでいる。私は、ゆっくりと姿を現すと、その2人は何やら叫んだ後、木の上まで器用に登って行った。樹上を見ると、母親らしいゴブリンが弓を構えてこちらを狙っている。


  私は、両手をあげて害意のないことを示し、今日、狩猟したブル・ファンゴの後ろ脚を示した。我々の今日の夕食にしようと持ち歩いていたのだが、こうなったら彼女達へのプレゼントだ。私は、ゆっくりとしゃべり始めた。


  「我々は、あなた達に危害を加えない。これはあなた達へのプレゼントだ。」


  その女性は、弓の弦を緩めはしたが、決して降ろすことはなく、じっと私達をにらみつけている。ここには、女性1人と子供2人しかいないのだろうか。私は、じっと女性を見続けていた。後ろの方では、1名、『M16』の照準を女性に向けているが、殺気が感じられないことから、用心のために狙っているだけなのだろう。


  20分位したら、ようやく、女性は弓矢の構えを解いて、樹上から話しかけてきた。


  「あなた達、誰?何しに来た?」


  古代魔人語だ。この国の標準語で、モンド王国では、小学校の時から教養として学んでいる言葉だ。私は、先ほど話したことをもう一度、古代魔人語で話した。それと、旧ゴーレシア王国復興のために、ほかの世界から派遣されてきたことも説明した。話しながら、その女性がブル・ファンゴの肉をチラチラ見ていることに気が付き、そっと地面に置いて、少し下がったところに座り込んだ。この集落は、彼女と夫の4人家族のほかに、両親、弟夫婦の3家族で暮らしているそうだ。夫と両親、弟夫婦は食料を採集しに行っているらしいが、もうすぐ帰ってくるらしいそうだ。


  夕暮れ近くなって、皆が帰って来た。その時、私達はのんびりと車座になって座っていたが、2名は、離れた木の陰から、様子を伺っていた。何かあったら、我々を応援するためだ。一番長老らしい男性が、私達に敵意がないことを理解してくれた。また、旧ゴーレシア王国復興について、興味を示してくれた。ただ、東の旧王都にいるティタン王国軍は、かなり強いらしく、自分たちの武器では全く歯が立たないとあきらめたような口調で説明してくれた。


  私達は、この後部隊に戻るが、近いうちに侵攻を始める。その際、森の案内をしてくれないかと頼んだら、彼女の夫が承知してくれた。ただ、彼らも奴隷狩りや強い魔物から逃げ回っているので、いつまでもここにいるわけには行かないとのことだった。それでは、3家族ごと、ハイ・ボラード市まで保護することにし、侵攻の際は、男性陣で森を案内してくれるということになった。うん、これで任務終了だ。さすがに敵情視察まではできなかったが、有力な協力者を手にすることができたのだ。

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