第2部第165話 王都への道 その12
(7月11日です。クラウディア視点です。)
クラウディアの搭乗する『F35改ライトニングⅢ』は、2時間少々でグレート・ティタン市の上空に到着した。広い王城の前庭に垂直着陸をしたが、ここでは誰にも遠慮くする必要がないので、ジェットエンジン噴射を下向きにして停止状態から徐々に降下を始めた。無事にランディングを終了したところでキャノピーを開け、ヘルメットとシートベルトを外す。ヘルメットは、頭の角が邪魔にならないようにふくらみを持たせている物だ。飛行服のまま、タラップを降りると、すでに王国騎士団50名位が機体の周りを取り囲んでいた。私は、異次元クロークからMP5を取り出し、左脇に抱えたまま、騎士団で一番偉そうな鎧をつけているレブナント種に声をかけた。
「私は、神聖ゴロタ帝国のゴロタ皇帝陛下より親書を預かって来た者です。3賢人の方々にお目通りを願いたいのですが。」
この国を支配している3人のハイ・リッチ達が『3賢人』と呼ばれているか知らないが、そう言っておけば角は立たないだろう。間違っても『ハイ・リッチの3人』とは言えないだろうから。私が声をかけた騎士が返答をした。
「3賢人とは、キロロ公爵閣下、エメル公爵閣下そしてドスカ侯爵閣下の事であろうか。」
「その通りですわ。よろしくお取次ぎをお願いします。」
「何の用だ。それと、その『親書』とやらを預からせてもらいたい。」
「あら、この国では他国の元首からの親書を一介の王城警備騎士が受け取るのですか?普通は、国の元首か、それに代わる者が受け取るのですが。」
「魔人風情が生意気を言うな。そもそもお前がゴロタ皇帝の正式な使者がどうかも分からぬではないか。」
「そう来ますか。それなら、この飛行機で分からせてあげましょうか。」
そう言って、踵を返して期待に乗り込もうとしたところ、慌てた様子で
「待て、待て。分かった。分かったから。とりあえず、こちらに参られよ。」
彼も、以前に『F35』または『B2』の威力を目にしたのだろう。今回、念のために350キロ爆弾4発を搭載してきたので、全弾投下をすれば王城は跡形もなく消滅してしまうだろう。騎士達に案内されて王城内に向かうが、用心のため、『F35』の機体は、いったん異次元空間に収納しておくことにした。
王城内は、1階が大広間と小会議室が並んでいて、2階に国王陛下との謁見の間があった。もちろん、現在、国王陛下は不在なので謁見の間はスルーされ、その奥の閣僚会議室に案内された。大きな会議用テーブルの向こうにハイ・リッチ3人が横並びで座っていて、長い長辺の反対側に私が一人で座った。真ん中のハイ・リッチ、たしか宰相のキロロ公爵だったが、彼が最初に発言した。
「ゴロタ帝国では、魔人族の女が皇帝陛下の使者を務めるのか。そちの国の貴族達はどうした。」
貴族達を追放したことは、とっくに承知しているくせに白々しく聞いてくる。もちろん、そんな質問に答える気もない。用件だけを言うことにした。
「ゴロタ皇帝陛下は、現ゴーレシア王国の現状を憂いておいでです。彼の国が言われもなく蹂躙され、国民が専制と隷従を強いられ、塗炭の苦しみを背負うていること。また、罪もない国民が、奴隷として各地に拉致されていることを防ぐため、ゴーレシア王国領土の回復を望んでおられます。ここにゴロタ陛下の親書があります。内容は、今、私が申しあげたとおりの事が書かれております。」
内容は、私が起案してゴロタ陛下の裁可を得た物なので、誤りようがなかった。私は、親書をお付きの文官に渡して、確認してもらった。3人は、内容を確認したのち、私に対して質問してきた。
「ここに書かれている領土の割譲を断ればどうなる。」
「現在、帰国とは停戦状態となっておりますが、締結された停戦条約は無効となり、再び干戈を交えることとなるでしょう。もちろん、元ゴーレシア王国領土内に駐屯している貴国軍及び領主や支配者達も排除いたします。」
彼らにとって、彼の地を手放すことは、奴隷としてのゴブリンを入手することができなくなるだけの損失のはずだ。他の有益な資源など無く、大規模な農耕をするにも、森を切り拓くだけの労力と資金に見合った収益など見込めないだろうし。それに比較して、ゴロタ帝国側では現在、満足に仕事もないスラムのゴブリン種族に対して先祖の地に帰って開拓をしてもらうこともできるし、また、高い技術力によりノーザン山脈を開発して貴重な鉱物資源を採掘することもできるかも知れない。
それに戦争になっても、我が国の主要戦力はアンドロイド兵なので、人的資源の損耗はほとんどない。また、高性能爆弾や焼夷弾等の広域戦略兵器により、相手方に対しては多大な損害を与えることができるので、戦争期間も短くて済むだろう。
結局、回答は王国側で検討後に文書ですることになり、回答文書は王国側の竜騎士が帝国に送達してくれることになった。私は、用件も済んだので、帰国することになったが、騎士達に囲まれ、後ろからは文官達がゾロゾロと付いてきていた。着陸した前庭まで出ると、外周部に大勢の人たちが囲んでいた。『F35』が着陸する姿を見た市民達が、物珍しもあって集まってしまったのだろう。衛士隊が一生懸命整理をしていたが、少しでも近くで見たいという人の圧力を抑えきれずに、徐々に迫ってきている状態だった。
私の周りの騎士さん達には、少しスペースを開けて貰い、異次元クロークから『F35』を取り出した。皇帝陛下専用機なので、迷彩塗装もなく銀色に輝くきれいな機体だ。オートでタラップを伸ばすとともにキャノピーを開ける。タラップを昇って操縦席に搭乗すると、ヘルメットを被り、シートベルトをしてから、キャノピーを閉じた。各種機器により離陸前点検をしたのち、エンジンに火を入れた。『キュンキュンキュン』という機械音の後、爆音とともにジェットエンジンが起動した。そのまま、離陸態勢に入り、ゆっくりと上昇を始める。地面に吹き付けられたジェットエンジンからの熱波を、周囲で見物していた騎士達に浴びせながら高度200mまで上昇する。遠く離れたところで旋回飛行中の竜騎士が操るワイバーンがいたが、構うことなく機首を45度以上に上げて急上昇をする。アフターバーナーを添加したジェットエンジンは、物凄い速度で上昇を始めた。地上では、圧縮された燃焼ガスが急激に燃焼する衝撃波が爆音となって聞こえていたことだろう。
高度2000mまで一気に上昇し、機首を西北西に向けて帰途に就いた。マッハ0.9の巡航速度まではあっと言う間に達してしまったことから、竜騎士の乗るワイバーン達はついてくることができないだろう。帰りは、偏西風に逆らって飛行したので、2時間以上かかってしまったが夕方前にはハイ・ボラード市の上空に到着した。ホバリング状態になってから、ジェットエンジンをオフにして飛空石の力を制御しながらゆっくりと高度を下げて行った。
ほぼ無音状態で着陸してから、お屋敷に向かうと、ゴロタ陛下が玄関前まで迎えに来ていた。私はシルフさんと意識が同じであることから、ゴロタ陛下に対する気持ちも全く同じであったし、今までシルフさんがしてきた行為も私の記憶として存在している。ゴロタ陛下が、右手を差し出して私に握手をしようとしてきたので、私は、握手をせずにゴロタ陛下に抱き着いてハグをしてあげた。ゴロタ陛下、ちょっと吃驚していたようだが、慌てて私を体から引き離していた。この屋敷には、しばらくシェルさんがいないので、この期間中にゴロタ陛下と親しくお付き合いしようと思っていたのだが、かなり難しいかも知れないと考え直すことにした。
モンド王国から派遣されていたダイキ総司令官を交えて、今後の戦略について打ち合わせをした。モンドからの派遣部隊は、あくまでも士官として各部隊の指揮に当たってもらい、直接の戦闘はアンドロイド兵に任せてもらうことになった。ティタン大魔王国が素直に領土を割譲してくれるとも思えなかったので、戦闘突入を踏まえて部隊準備をお願いした。相手方の戦力規模が分からないが、森林を舞台にするとなると局地戦が想定されることから、戦車などの大型兵器は使いにくい。どうしても徒歩部隊がメインにならざるを得ないだろう。また、制圧後、森林はゴーレシア王国の重要インフラになるので、あまり戦火の被害を広げたくない。あれ、結構難しい戦闘になるかも知れない。
会議後、アンドロイド兵の編成を考えてみた。ゴロタ皇帝陛下やダイキ総司令官は夕食となるが、食事をする必要のない私は、その間も今回想定される戦闘を何百通りもシミュレートしてみる。
徒歩部隊として、1個小隊12名、1個中隊は3個小隊で中隊長以下40名。衛生兵と通信兵を3名付けると1個中隊43名になる。小隊長3名と中隊長はモンド兵から徴用するとして、あとは全てアンドロイド兵だ。現在、ほとんどのアンドロイド兵は狙撃特化型であるが、戦闘環境が森林であることから、装備は短機関銃と短剣がメインになるだろうし、大型のグール兵を相手に近接戦闘の体術も必要になるだろう。短剣の剣術及び徒手の体術については、ゴロタ陛下のスキルをトレースしていたので既にアンドロイド用に改修済みである。すべてのアンドロイド兵にインストールするためには、結構な時間がかかりそうであった。
大隊は4個中隊と戦術指揮小隊12名、それと大隊長及び伝令、騎手それと通信兵などで190名、それに予備としての遊撃班が20名程必要であろう。総勢210名が大隊編成となる。そして4個大隊で1個連隊として、連隊長や幕僚を入れると900名の編成となるだろう。
現場のマッピングと、ゴロタ帝国軍の侵攻順路から旧ゴーレシア王国の東部が主要戦線となるだろうが、大きく南北の4方面に分けて、各方面に4個連隊を投入する予定である。連隊長の指揮本部を含めると3700名が1個師団となり方面部隊となるわけだ。輸送・兵站部隊まで編制すると、4方面部隊として約15000名で北部戦線部隊となる予定だ。そのほかに、ハイ・ボラード市の東部の暫定国境線を防備する部隊が3000名程必要となることから、現有の部隊勢力では人員・装備ともに圧倒的に不足している。
ゴロタ帝国本国から予備兵力も含めて徴兵しなければならない。現在、国防軍正規兵として5000名のアンドロイド兵がいるが、3000名を国境警備と隊舎警備等必要最低限兵士を残留させると2000名しか派遣できない。ボラード領内に駐屯しているアンドロイド兵が3000名だから、あと10000名のアンドロイド兵を徴用しなければならない。
仕方がないので、鉱山労働者や土木作業員及び各領土内において単純労働作業に従事しているアンドロイド達10000名を臨時兵士として徴用することにした。兵士達の軍服や装備する武器・弾薬については十分な備蓄があるのですぐに準備できるが、各アンドロイド達に戦闘スキルをインストールしなければならない。ワイヤレスによりインストールするのだが、通信速度を考慮しても、すべてのアンドロイド兵に対してインスト終了するのは、最短でも1カ月はかかるだろう。それから、戦闘訓練をして実践の感覚をメモリーしてもらい、それから戦闘となるわけだ。
戦力の分散投入は、作戦としては最低だが、とりあえず1個中隊のみ準備でき次第、北部戦線に投入してみよう。現場においての問題点等を確認するためだ。この中隊の指揮官にはモンド王国から派遣されていた中尉殿にお願いしてみることにした。




