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第2部第156話 王都への道 その3

(4月20日です。)

  今日の午後、シルフとともに、王都に独立宣言書を届けに行くことにした。まだ、ハイ・ボラード市を追放された貴族達が王都に到着はしていないだろうが、伝書鳩等で反乱の報告位は入っているかもしれない。しかし、きちんと届け出た方がよいだろうということになったのだ。実際、王都とは交易もあり、一般居住区の人達の中には、王都に親戚があったり、あるいは王都の本社から単身赴任をしている人達もいるのだから、独立後も人的、物的交流があるはずだ。


  と言う訳で、外交ルールに従って独立宣言書の送達をすることになったが、閣僚等もいないことから、僕が直接、王都まで出向くことになったのだ。宣言書は、当然、シルフが作成したもので、高級な羊皮紙に絶対に消えないインクで書かれ、しっかりと神聖ゴロタ帝国の国璽印が押された正式なものだった。それを金箔をはった桐の箱に収め、紫色の紐で結ばれて、封蝋には、龍と剣と盾の帝国紋章が押されている。王都までは、航空路線が無いので皇帝専用機『F35改ライトニングⅢ』で往復することにした。もちろん、前座の操縦席にはシルフが登場を僕は後座の火器管制席に登場する。ボラード侯爵邸跡は、『土魔法』で聖地をして固めているので、垂直離陸の際のジェット噴射でも耐えられるようになっている。区長さん達が見学に来ていたが、未塗装のミスリルとジュラルミンのハイブリッド製機体は、午後の日差しを浴びてきらきらと光っていた。


  屋敷から出てきた僕達の飛行服を見て、皆、目を丸くしていたが、登場後、エンジンが始動され、垂直に上昇していく姿を、耳を抑えながら見上げている区長さん達には、一体何が起きているのか理解できないだろうと思う。そして、それはこれから行く王都グレート・タイタン市でも同様だろう。


  ハイ・ボラード市からグレート・タイタン市までは、直線で1200キロ、ゆっくり飛行しても1時間の行程だ。本当に、あっという間に到着してしまった。高度を200m位まで下げ、市内上空を巡行して、王城の真上まで来た。王城は、かなりの大きさがあり、幸いなことに中庭もかなり広くとられていた。僕達の乗ったライトニングは、騎士たちが訓練をしている中庭に垂直着陸をした。騎士達は、轟音を立てて高度を下げてきたライトニングを見て、すぐに戦闘態勢をとり、一部の騎士はクロスボウを向けている。また、長槍や戦斧を構えている者もいるが、状況把握ができないようで、すぐに攻撃は仕掛けてこないようだ。


  キャノピーが開き、僕とシルフがタラップから降りる。ゆっくりと騎士団の方に向かい、指揮官と思われる人に手招きをする。しかし、すぐに近づいてくれるわけもなく、


  「お前たちは何者だ。その機械はなんだ。」


  と大声で誰何されてしまった。まあ、普通、そうですよね。シルフがヘルメットを脱ぎ、スタスタとその指揮官の所へ向かって歩いていく。身長150センチ位の超絶美少女だ。見たこともないような飛行服を着ていても、すぐに切り掛かるようなことはしないようだ。指揮官の前まで近づいたシルフは、手にした金色の箱を指揮官に渡す。


  「これを行政責任者の方にお渡しください。内容は、ハイ・ボラード市の『独立宣言書』です。」


  そう伝えると、首を少し曲げてにっこりと微笑み、そのままクルリと回れ右をしてこちらに戻って来た。もう、要件は済んでしまった。僕とシルフは、そのままライトニングに搭乗し、ハイ・ボラード市に戻ることにした。





  ティタン大魔王国王都グレート・タイタン市の中心にある旧大魔王城、現在の行政・司法そして軍政の中心となっている。その中でも、謁見の間の奥にある重要閣僚室には3人のハイ・リッチが集まっていた。


    行政の責任者で、統括総理のボンテ・サイロン・キロロ公爵


    司法の責任者で、司法長官のバンデン・ブリース・エメル公爵


    軍事の責任者で、王国騎士団長のヘンメル・ギアス・ドスカ侯爵


  の3人だ。彼ら3人は、それぞれに専用の机に並んで座っており、その前には、各省庁の閣僚が2列になって座っている。3人の後方には、一段高くなった玉座があるが、現在は、分厚いカーテンに囲まれている。というか、今の閣僚たちは、そのカーテンが開かれたところを見たことがない。それほど、現政権は何事もなく運営できていたのだ。各閣僚も、リッチ達であり、侯爵に叙せられている者達ばかりだった。司会は、総理官房長のマローリ伯爵だ。彼は、閣僚達の後ろの事務官席の最上席に座っていて、司会進行をしている。


  「以上が、今から3日前に届いたハイ・ボラード市の上席執行官ジェイン伯爵からの伝書鳩による至急報で、領主のボラード侯爵はゴロタなる者により殲滅され、ジェイン伯爵らは同市からの立ち退きを要求されてしまったようです。」


  「次に、本日、王都に飛来した未確認飛行物体及び同物体に乗っていた者からの親書について、ヘネット軍事上級参謀から説明があります。」


  マローリ官房長からの説明は、驚くべき内容だったが、先ほどのF35 飛来のショックの方が大きく、誰も騒ぐことはなかった。しかし、ヘネット上級参謀からの説明は、驚くべきものであった。今日、飛来した物体は、上昇してからあっという間に西の空に見えなくなってしまったことから、時速1000キロ以上で飛行していると思われとのことだったのだ。空の王者ワイバーンでさえ、時速300キロ程度であり、とんでもない速さだ。ということは、騎士団のワイバーン飛空隊でも追跡はできないということになるのだ。


  それから、信書についての説明があった。本来なら、外交担当大臣が説明すべきだが、宣戦布告書に準ずる書類と言うことで、騎士団の次席であるヘネット上級参謀が発表した。内容は、ハイ・ボラード市を含むボラード侯爵統治領をすべて神聖ゴロタ帝国の直轄統治領とするという内容であった。王国は、4月30日までに同意の意思表示をするように求められ、それが無き場合は異議があるものとみなし、4月30日をもって、ティタン大魔王国とは戦闘状態に入るという内容だった。


  信書の内容は、当然に呑めるような内容ではなく、戦争になるのは間違いないところだ。しかし、ゴロタ帝国なる国の存在も知らなければ、今日、飛来した物体も何なのかわからない。また、ハイ・ボラード市に駐屯しているだろう敵部隊の規模も分からないと、わからないことばかりだった。何より、今日、飛来した物体から降りてきた者達は、魔人族でもグールやレブナントでもない。彼らは、一体、何者なのだろうか。そこまで議論した段階で、閣僚席の末端に座っていた老人が手を挙げた。彼は、王国上級学院院長のダンテルフだった。


  「某の研究によると、彼らの風体から、人間族、つまり我が世界では300年前に絶滅したとされる種族と思われます。彼らについては、長い間、研究されてきましたが、この世界には存在せず、たまに異世界から漂流してくることのみが確認されています。最近では、18年前に、男女2名が東の海辺で確認されておりますが、その後、いずれかに居なくなったとのことでした。」


  「なんと、人間族ですか。魔人族や魔族と戦った、神の姿をした種族でしたかな。」


  キロロ公爵は、この世界では失われた種族、人間族について少しばかりの知識を披露した。体力はグール人に及ばず、魔力はレブナントに及ばない脆弱な種族、しかし、道具を生み出す能力に優れ、その科学力で圧倒的武力を誇ったと言われている。今日見た空飛ぶ物体も彼らの科学力で作成したのだろうか。しかし、今はそんなことを考えている時ではない。


  「お、おほん。それでは、かの者達と戦争になった場合、現在、我が騎士団は何人の兵士を集めることができますかな。」


  「は、現在、王国騎士団の首都防衛部隊は3000人、周辺の駐屯地から招集したとして、最大12000人かと。」


  「何を言っとる。すべての貴族の領地に派遣している騎士たちを集めるのじゃ。貴族の領地は自分たちで守れと伝えてやれ。」


  「は、ドスカ団長の仰られるように招集しますと、30000人は集まるかと。あと、義勇兵を募ると20000人は集まるものと思われます。それ以上は、武器、防具の調達が間に合いませんので、無理かと思われます。」


  常設の部隊は、どこでもそんなものだろう。あとは、全国にばらまいている王国兵士達を集めるとして、その日数は30日以上かかるだろう。これから直ちに準備をするとしても、開戦は5月20日以降、降雨などで移動に手間をかけると6月初旬になるかも知れない。


  「魔人族やグール人から徴兵はできないのか。」


  「はあ、今は作付け時期ですので、今、若い男子を徴兵でとられると、今年の秋の収穫が激減する恐れがあります。今の時期の徴兵は無謀かと。」


  15歳以上35歳未満の男子を徴兵するとして、20万人は集まるだろうか、時期が悪すぎる。通常の戦争は、そういう事を加味して収穫が終わった秋以降行うのが一般的だ。しかし、そうも言っていられない。キロロ総理は、これから始まる戦争の経費をどうやって調達するか、物資の補給はどこの省庁でやれるのかなど色々考えていたが、すぐには名案が浮かばなかった。


  「ドスカ騎士団長、とりあえず敵情偵察ということで、飛空隊の派遣をお願いできませんか。あと、官房長、危機管理室調査班を至急ハイ・ボラードに派遣してくれ。」


  まずは、敵の実態把握。これは何を為すにしても鉄板だ。『危機管理室』の室長は総理が兼任しているが、次長は、総理の同郷の者で、財務相に就任した時からの子飼いの者だ。この会議の内容も、絶対に盗聴しているはずだ。何とか、ハイ・ボラード市に諜報員を潜り込ませる必要があるだろう。

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