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第2部第153話 恐怖の街 その8

(4月15日です。)

  昨日の区長との会合で、当分の間、貴族街への立ち入りを禁止させてもらった。この際だとばかりに、貴族街に入り込んでの略奪を禁止するためだ。もちろん、スラム街から一般区への立ち入りも必要最低限とさせてもらった。清掃や、一般グール人の店で働いているスラム街の人達もいるからだ。あと、ゴロタ帝国の国防軍予備隊から1500人程をハイ・ボラード市郊外に駐屯させるとともに、帝国内の各地方警察本部から警察官1000名を緊急派遣してもらう。国防軍は、糧食車、寝台車ともに充実しているし、エアコン付きの大型テントもあるので、1カ月や2カ月の駐留など問題はないが、警察官はそうはいかない。市内のホテル、旅館あと臨時の民泊などで対応を取ってもらう。もちろん、宿泊及び食費はきちんと支払うこととしている。


  国防軍は、3日後に派遣準備が完了するそうだが、警察官は、全国から招集しているので、2週間はかかるそうだ。国防軍の指揮官は、ダンヒル国防軍統括本部司令官来たがっていたが、とりあえず陸軍統幕長が派遣軍総司令官になってもらう。警察官派遣部隊の指揮官は、ダーツ警察庁長官が陣頭指揮で来ることになってしまった。まあ、警察庁長官が帝国で直接治安維持にあたることはないので大丈夫だろう。派遣事務については、カノッサダレス宰相と帝国常駐のシルフに任せているので、大丈夫だろう。と思う。きっと。


  今日は、ホテルでゆっくりとモーニングを取ったが、モーニングセットをわざわざ部屋までサービスしてくれた。それも支配人自らが。昨日からの様子で、僕がこの街の新しい首長になることが分かったのだろう。このホテルで最高のサービスをしてくれているみたいだ。まあ、サービスには対価があることは知っているが、モーニングのルームサービスなど、大したことはないだろう。あれ、どうしてもサービス料金のことが気になるのは生来の貧乏性が抜けないのだろうか。






  正午前に、貴族街の西門前に行く。アンドロイド兵による機甲部隊が勢ぞろいしていた。さあ、向こうがどう出るのか。イフちゃんからの情報によると、300人近くの騎士団が西門を開けた先に待機しているらしい。武装は、重装騎士が80名、軽鎧騎士が250名、弩弓兵士が20名、あとローブを羽織った魔法騎士が20名ほどだそうだ。王国騎士団以外に貴族たちの私兵も参加しているみたいだ。何名かの兵士が門の上の物見台に上がってこちらを偵察している。うん、完全に平和的な解決を拒否しているみたいだ。


  境界の鐘が正午を知らせる。と同時に、高い城壁越しに弓が打たれてきた。放物線を描いて、部隊の上に降りかかってきた。兵士達はアンドロイド兵なので、死ぬことはないが戦闘能力が損なわれてもいけないので、歩兵部隊は、あらかじめ射程外に退避させている。戦車や装甲車の上に打たれてくる矢は、『カンカンカン』と情けない音を出して跳ね返されている。そのうち、


  シュボーン、シュボーン!


  という音とともに火球が打たれてきた。ファイアボールだ。大きさがかなり大きいことから、個人が放つ単発のファイアボールではなく、大きな魔法陣と複数の詠唱者による大規模魔法なのだろう。戦車や装甲車はある程度熱耐性があるが、爆発の程度によっては、周囲の一般住宅に被害が及ぼす恐れがある。僕は、右手を挙げて、風の斬撃を生じさせ、ファイアボールを遥か上空まで吹き飛ばした。どれくらいの高さだろうか、空に大きな爆発が生じた。まるで花火のようだ。シェルが、『綺麗ね。』と、とても戦闘中とは思えない感想をつぶやいている。


  100m位後ろに退避していた歩兵隊から、M224-60ミリ迫撃砲による攻撃が始まった。しかし、装填されているロケット弾は、通常の榴弾ではなく、弾頭が硬質ゴム製であり、また、炸薬も少なくして着弾時の対人殺傷能力を低く抑えてあるとのことだった。しかし、硬質ゴムとはいえ、爆発によりかなりの速度で飛散するので、まともにあたってしまうと痣どころでは済まない威力があるそうだ。甲冑を装備していても、衝撃で飛ばされたり、鎧が大きく凹む位の打撃を受けてしまう。そんな迫撃砲を100発近く撃ち込んだところで、場内からの攻撃はやんでしまった。


  数台の10式戦車の主砲が火を噴く。44口径120ミリ滑空砲からまっすぐ城門に命中して、轟音とともに、分厚い木製の城門は、大きな穴をあけて崩れ落ちてしまった。1台の10式戦車が、砲身を後ろにして、前進を始める。車両の前方にはショベルのようなパーツが取り付けられている。そのショベルが城門であった瓦礫を押し出している。44トン1200馬力の戦車のパワーに城門だったものははいともたやすく向こう側に押し込まれてしまった。城門の向こう側には、多くの兵士が倒れ、うめき声を上げている。アンドロイド兵が、倒れている兵士たちを抱え上げ、道路の両脇に片づけている。中には、無傷の者もいるようで、アンドロイド兵に切り掛かろうとする者もいるが、後続のアンドロイド兵のM16から発射されるゴム弾により無力化されている。先頭戦車に積載されている拡声器からシルフの声が流れた。


  「王国騎士団の皆様、皆様は立派に戦いました。これ以上の戦闘は無駄です。これからの戦闘は、実弾による戦闘となります。実弾の威力をご覧ください。」


  10式戦車の砲身が、元侯爵邸のあった場所に向けて火を噴いた。今度は、実弾だ。大きな爆発音と噴煙が上がるのが見えた。まだ立っていた騎士達は、それを見て武器を捨てた。まあ、戦車の圧倒的迫力を間近に見て戦意を失わない者がいたとしたら、その者の精神状態を疑ってしまうだろう。騎士団のずっと後方には、高級そうな甲冑を着た一団がいた。中には、甲冑で覆われた馬に乗馬している者もいる。彼らは、この街の貴族達だろう。別に戦闘に参加するつもりなど無く、身の安全を守るために甲冑を着ているのだろう。彼らは、その場でしゃがみ込んでしまった。屋敷に逃げ込んでも、圧倒的な戦力により、屋敷ごと灰燼にされてしまうことは、昨日の侯爵邸の惨状を見ても明らかだからだ。一人の貴族がこちらに近づいてくる。そばには、従者と思われる者が2人付き添っている。兜は投げ捨て、剣は帯びていない。先頭の戦車の前まで来たところで、立ち止まった。


  「あー。儂じゃ。ジェインじゃ。降伏する。もう戦わない。えーと、ゴロタ殿、いや大魔王様と話がしたい。お願いじゃ。話をしてくれ。」


  「ジェイン伯爵閣下、了解しました。それではイチヨンマルマルに停戦交渉をいたします。交渉場所は、行政庁舎でよろしいでしょうか。」


  「うむ、わかった。では、その時刻に。」


  こうして、一人の死者も出さずにハイ・ボラード市の武装勢力を制圧することができた。




  午後2時からの話し合いには、貴族側代表としてジェイン伯爵ともう一人の伯爵、それと子爵3名が参加していた。王国騎士団の責任者は、騎士団少佐のベイン男爵で、まだ鎧は着ていたが帯剣はしていなかった。住民側の代表は、一般居住区の区長代表ウルマティスさんと魔人街の代表カルクさんだ。ジェイン伯爵は、スラム街の魔人と同席していることに顔をしかめていたが、無視することにした。シルフが口を開いた。


  「最初に、この街及び元ボラード侯爵の領地は、神聖ゴロタ帝国の属領、いわゆる統治領とします。これは、この国の西端からこの地までのすべてのエリアとします。」


  これは、しょうがないだろう。このエリアで僕達に対抗できるだけの武装勢力が無いので、誰も文句が言えない。


  「次に、ジェイン伯爵以下皆様の爵位ははく奪となります。ただし、この領地を出られるならば、そのまま王国貴族としての爵位を継続していただいて構いません。なお、当然のことながら、統治領内の皆様の領地についても没収とさせていただきます。」


  顔を蒼くしている貴族達を代表して、ジェイン伯爵が口を開いた。


  「この街の屋敷や財産はどうなるのじゃ。」


  「はい、この街のお屋敷は、すべてゴロタ皇帝陛下の所有となります。継続して住まわれる場合は、広さやお屋敷のレベルに応じた賃料を支払っていただきます。不動産以外の財産は、生活に必要と認められる最低限の物以外は没収となります。後ほど、帝国の徴税官吏が査定にまいりますのでご協力ください。また、金融資産につきましては、凍結といたしますので、内容を吟味して凍結解除されるまでは、引き出しができなくなりますのでご承知おきください。」


  「そ、それでは、我々はどうやって暮らして行けというのだ。家令や使用人、それに馬などの世話に莫大な経費が掛かっているのだ。」


  「それは、皆様でお考え下さい。皆様が、そのまま統治領を脱出される場合には、移転費用として1000デリスをお渡しします。あ、それからジェイン伯爵邸は、将来的にゴロタ皇帝陛下の別邸としますので、ジェイン伯爵は、明後日までにお屋敷を明け渡してください。その後の居住先については、最高級ホテルのスイートルームを1週間予約していますので、そこにお住まいください。使用人達についてはそのまま継続雇用する予定です。なお、お屋敷にはすでにアンドロイド兵が派遣されており、資産の隠匿がされないように監視しておりますので、ご了承ください。」


  本当は、他の貴族邸も帝国からの派遣部隊等の幹部公舎にするつもりなので、すべての使用人を解雇するつもりはないが、それも使用人のレベル次第となる予定だ。もちろん、貴族の愛人やいかがわしい奉仕をするメイドなどは、即解雇をするつもりだ。


  「次に王国騎士団の方々にお願いします。本日の戦闘で負傷された方々のうち、治療が難しい方達については当方でも治療をいたしますので、ご連絡ください。治療が済み次第、大変申し訳ありませんが、領都から離れていただくようお願いします。このまま滞在を続ける場合は、武装解除となり、すべての権限がなくなりますのでご承知おき下さい。」


  「了解した。」


  ベイン男爵は、憮然とした態度で応答した。王都へ向けての出立は、1週間後となった。また、この街出身の騎士の中で何名かは、この街に残りたいとのことだったので、騎士としてでなければ構わないということにした。


  「次に、この街の治安につきまして、帝国本土から支援部隊が来るまでの間、一般居住区及び魔人族居住区については自警団を編成していただき、自治をお願いします。アンドロイド兵も巡回しますが、暴行や窃盗、放火等の表見的な犯罪以外については、自警団での対応をお願いします。なお、アンドロイド兵は、簡単な単語しか発生できませんので、話しかけれても対応が難しいものと思います。」


  この説明は、少し間違っている。アンドロイド兵は、すべてマザーコンピュータにクラウドでリンクしているので、高度な判断および会話もできるが、あえて、住民との折衝は消極的にしているのだ。アンドロイド兵を単なるゴーレムと思い油断してくれた方が、今後の治世に対して便が良いのでそういうことにしているのだ。


  これで、停戦協議が終了した。さあ、次は、ティタン大魔王国の王都に行って、施政官へ、独立宣言を受諾してもらうとしよう。

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