表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
601/753

第2部第152話 恐怖の街 その7

(4月14日です。)

  ビジョン伯爵が黙り込んでしまった。きっと、この人間は、大ウソつきか気が狂っているんだろうと思っているのかも知れない。


  「この国は、もともとティタン大魔王が1000年前に建国したとお聞きしました。神魔戦争で災厄の神を下し、この地に魔人の王国をお作りになったと聞いております。しかし、大魔王様がお隠れになった後、この世界を冥界の王が制服したとのこと。私達は、奪われた国を返しに貰いに来たのです。」


  シルフさん、恥ずかしいから辞めて下さい。


  「いえ、私達だって、最初から事を荒立てる気持ちなどありませんでしたの。でも、この地を収めるボラード侯爵が魔人の一家を襲い、いったん支払った慰謝料を取り返したと聞き、ゴロタさんがお仕置きをしたのですわ。まあ、わが国でも当然に死刑ですけどね。」


  シェルが、いつものタカビーな調子で説明していた。うん、事実ですけど、何も犯行を素直に認めなくても良いと思うんですが。


  「貴様、よくも抜け抜けと。この街には、まだ300名近くの王国騎士団が駐留しているし、各貴族邸にも私兵が何十人かいるんだぞ。貴様のようなペテン師など、儂の雇っている警備の者で十分じゃ。えーい、お前、何をしている。早く警備を呼んで来い。」


  ビジョン伯爵は、近くの執事を怒鳴りつけていた。


  「あらあら、戦闘になるのなら、私達はいったん帰らせてもらいますわ。準備を整えてから、明日の正午に、またお伺いしますのでそれまでに、このまま戦闘をするか、あきらめてこの街から退去するかを決めてくださいね。」


  僕達は、顔を赤くしているビジョン伯爵と、反対に顔が青ざめている男爵を無視して、伯爵邸をでていくことにした。どこからか、執事服に軽鎧を装備した男たちが現れてきたが、僕が『威嚇』でにらみつけると、そのまま道をお開けてくれた。うん、先ほどのシルフの一斉射撃を見ているらしく、切り掛かってくる者はいなかった。



  その日の夕方、貴族街の中から、王国騎士団が出てこないように各通行門の外側に、アンドロイド兵士1個大隊600体を配置した。東側に300、西側に300体ずつだ。機甲部隊も戦車18台、装甲車32台を別部隊として配置している。一般居住区の公園広場にゲートを広げ、次々と『転移』させている。


  それから、自立飛行式滞空偵察機『スカイレンジャー』を6機飛行させている。2機ずつ3交代だ。電池が切れるまでの約1時間、監視カメラからの映像が送られてくるらしいのだ。当然、専門の操作アンドロイドが電池パックの交換や通信制御等を行っている。これで、24時間、貴族街の動向が把握できるわけだ。


  僕とシェルは、ホテルに戻ると、他の一般客は誰もいなかった。きっと、混乱を避けて街から出て行ったのだろう。支配人が、僕達を見つけると駆け寄ってきて、


  「ゴロタ様、今朝のことはお許しください。当ホテルとしても他のお客様もいらっしゃったの、仕方なく王国騎士団に通報したのです。決して、ゴロタ様達に反抗しようとしたわけではありません。」


  グール人の支配人は、汗をかきながら説明していた。まあ、別に通報されたからと言って困ることなど何もないので、まったく気にしていないことを伝えてから、今日の夕食は何かを聞いて置いた。今日は海鮮料理を主体にシェフが腕を振るうそうだ。うん、楽しみにしておこう。


  あと、一般居住区の責任者がいたら、このホテルまで来てもらうように伝えてもらうことにした。特に、この居住区の人達に恨みがあるわけではないので、明日から始まる戦闘のことについて教えておこうと思ったのだ。


  部屋に戻って、簡単にシャワーを浴びてのんびりとしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。支配人が呼びに来たのだ。階下に降りると、グール人の紳士然とした人達10人ほどが、階下のロビーに集まっていた。僕は、支配人にレストランで打ち合わせをするから、人数分の紅茶セットをお願いした。


  レストランの一番奥にテーブルをいくつかくっ付けて会議用のセッティングをしてもらった。それぞれに座ってもらい、僕とシェルそしてシルフは角のスペースに並んで座った。早速、グール人の一人が僕に自己紹介をしてくれた。


  「お初にお目にかかります。私は、この街の第1平民区の区長をしている『ウルマティス』と申します。平民区の区長連合の統括もしております。」


  「初めまして、僕はゴロタ、この人は、僕の妻のシェル、そしてそちらの女の子は僕の従者のシルフです。」


  僕とシェルは貴族服を着ているが、シルフは戦闘服と軍属キャップをかぶっている。さすがに自動小銃は携行していないが、拳銃と軍用ナイフは帯革に装着しているので、明らかに戦闘態勢に入っているということがわかる。


  「あのう、ゴロタ殿にお聞きしたいのですが、『大魔王』であるということで間違いないのでしょうか?」


  シルフが答える。


  「ええ、間違いありません。何なら、証拠をお見せしましょうか?」


  え、シルフさん、僕に何をさせたいのですか。シルフが『念話』で伝えてきた。この場で、大魔王の姿に変身してくれと言うのだ。大魔王の姿というと、角と蝙蝠翼なのだろうが、あまり人に見せるものでもないんだけど。仕方がないので、椅子から立ち上がり、窓際に立って、変身のイメージを思い浮かべる。頭から角が生えてくる感覚、そして背中から翼が生えてくる感覚がする。頭の角は何も問題がないが、背中の翼は、どういう仕組みか分からないが、上着の背中を突き抜けて広がっているようだ。背広に穴が開いているはずなのだが、翼を引っ込めた際には、上着は何ともなっていない。不思議だ。


  僕の変身した姿を見て、皆は、椅子から立ち上がり、その場で土下座を始めた。ウルマティスさんが、震える声で僕に話しかけた。


  「大魔王様であることを疑った私達をお許しください。本日、この世界の真の王である大魔王様のご尊顔を拝し奉り恐悦至極にございます。私達、グールなどの賤しき種族が大魔王様のお目を汚すことなど、万死に値しますが、平にご容赦願います。」


  この人達は何を言っているのだろう。僕は、別に大魔王の姿になれるけど、別にグール人達に恨みがあるわけではないし、この街をここまで発展させたのもこの人たちなのだから。シェルが高ビーな声で、


  「皆様のお気持ちはよくわかりましたわ。ゴロタさんは、決して皆様を悪しく扱うつもりはありません事よ。オホホホホ・・・・。」


  僕は、頭が痛くなってきたが、とりあえず、角と翼を納めて、元の椅子に座った。みんなにも座ってもらう。ちょうど、紅茶セットが出てきたが、魔人族のウエイトレスさん達は、手が震えていた。目の前で大魔王の顕現を目にしたのだ。畏怖と驚愕で、震えを抑えられないのだろう。


  とりあえず、紅茶を飲み、一緒に出てきたマカロン風のお菓子をポリポリと食べておく。これからの話し合いはシルフに任せている。


  「皆様にお伝えしたいことがあります。明日、正午から私たちの部隊は、貴族街に侵攻します。王国騎士団とは戦闘になるかもしれません。皆様の中で、王国騎士団または貴族街のジェイン伯爵以下の貴族達と合流して戦闘に参加される方以外の方は、貴族街には入られない方がよいかと思います。また、ご家族、ご親戚あるいはご友人で貴族街に住まわれている方達には、今日中に貴族街をでられることをお勧めします。現在、貴族街の東門及び西門には、ゴロタ帝国国防軍のアンドロイド兵が展開していますが、王国騎士団や貴族が雇用している私兵以外の出入りは自由ですので。」


  「あのう、アンドロイド兵とは、あの広場に出てきた変わった格好をした兵士さん達でしょうか。」


  「はい、現在、600名の歩兵と200名の機甲部隊兵士を人間界のゴロタ帝国から『転移』させております。」


  「え、800名もですか?」


  「ええ、これは明日の戦闘用ですが、最終的には、人間界から最大動員をかけるつもりです。」


  「最終と言いますと・・・。」


  「もちろん、王都侵略に決まっているではありませんか。」


  「王都ですか。と言うことは、王国騎士団20000名と戦うつもりなのでしょうか?」


  「王国騎士団が何名なのかは分かりませんが、おそらく一瞬で片が付くのではと思います。」


  ウルマティスさんは、こんな坊やみたいな青年と少女たちが強大な軍事力を持っているということを信じられないようだったが、先ほど見た大魔王の姿を思い出して、これ以上反論はできないようだった。


  「あのう、私達は、これからどうなるのでしょうか?」


  「基本的には何も変わりません。皆様は高度な教育を受けていて、街の行政にはなくてはならない存在ですので、現任務を続行していただきます。もちろん、今後の皆様の給与は、このゴロタ陛下が支払うことになりますが、将来的には、この街及び周辺集落からの年貢や税金ですべて賄うつもりです。」


  「はあ、あのう、私達は区長の仕事以外にも自分で商売をしたりしているんですが、それはどうなるんでしょうか。」


  「その営業が違法でなければ、なんら問題ありません。続行していただくつもりです。ただし、いくつかの条件を守っていただく必要があります。」


  「その条件とは・・・・。」


  シルフは、『異次元空間』から、ゴロタ帝国の憲法全文が印刷されているリーフレットを取り出した。すべて、グレーテル語で書かれているが、不思議なことに、この世界の言葉と文字はグレーテル語と同じなので、彼らはすぐに読み始めた。読みながら、隣同士で何やら話し始めている。理解が及ばないところがあるのだろう。シルフが簡単に説明する。


  「この憲法を直ちに公布するつもりはありません。でも、この憲法の趣旨で、絶対に犯してはならない事項があります。」


  シルフが幾つかの絶対的遵守事項を述べ始めた。


  ・すべての人種は平等であり、人種による貴賤の別はない。


  ・奴隷制度は認めない。すべての奴隷は自由に働く権利を有する。


  ・すべての人は法律によらなければ罰せられない。また、証拠がなければ有罪とされない。


  ・12歳以下の者は、等しく勉学の機会を与えられ、労働に従事させてはならない。


  ・15歳未満の者を性風俗の職業に従事させてはならない。


  ・年貢の歩合、税金の率は収入の5割を超えてはならない。


  あと、いろいろだが、シルフの一言一言に、皆は感心したり、深いため息をつくばかりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ