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第2部第151話 恐怖の街 その6

(4月14日です。)

  ハイ・ボラード市の独立のための第1回打ち合わせが終わった。これから貴族街の制圧部隊を編成しなければならない。この街は、人口8万人の大規模都市だが、貴族街には僅か800人のレブナント貴族が居住している。また、一般住居街には2万人近いグールやレブナントが居住している。行政、司法の中枢は、このアンデッド種達が占めているのだ。彼等が魔人種のために働いてくれたなろ特に文句はないが、どうもそうではないらしいのだ。


  権力の座にある者は、トップがいなくなったとしても、やすやすと権力を移譲してなどくれない。過去の歴史が物語っている。いつも、圧倒的な武力により権力中枢の者たちを退陣させているのだ。今回の場合、魔人族の戦力など無いに等しいので、貴族たちがそのまますんなりと市の施政権を渡すなど考えられない。それに、ボラード侯爵の上には、ティタン大魔王国の統治者である『名前を呼んではいけない者』が君臨しているそうだが、国民のほとんどは、その姿を見たことはないそうだ。王都にある大魔王城には、3人のハイ・リッチが司法、行政及び軍事を統括しているそうだ。それで国政の方針などは3人の合議制で決めているが、最終的には冥界に行って『名前の呼んではいけない者』の裁可を得ているらしいのだ。この国の統治機構を何とかしないことには、いくらハイ・ボラード市が独立しても『蟷螂の斧』となってしまうだろう。


  何はともあれ、300名近くいる王国騎士団と800人の貴族達をこの街から追放しなければならない。僕は、これから侯爵亡き後の貴族街に行くことにした。特に戦闘をするつもりはないが、相手の出方次第だろう。シルフは、この街の貴族を追放した後は、モンド王国から平和維持部隊の派遣を要請すると言っていた。あくまでも平和維持部隊として、治安維持と王国側からの攻撃を防ぐのが目的だそうだ。モンド王国は、魔人族の国なのでこの国でもきっとうまくやってくれるだろう。


  シェルとシルフを連れて、貴族街に向かうことにした。一般街は、魔人族のクーデターの噂が流れているのか、大きな荷物を馬車や荷車に積むグール人達で非常に混雑していた。裕福な魔人族達は、今までグール人やレブナント人の配下のようなことをしていたので、スラム街の魔人族達に仕返しされるのではないかと不安そうな様子だった。


  シルフが、拡声器を出してセッティングして、大きな音量で説明を始めた。


  「グール人の皆さま、それと一般居住区にお住まいの魔人族の皆さま、私たちは、人間界から来たものです。今朝、ボラード侯爵邸を殲滅したのは、こちらにいらっしゃるゴロタ大魔王様です。大魔王様は、皆様の安全をお約束しております。これからは、グール人やレブナント人、魔人すべての人種は平等で同一の権利を持っていることをお約束いたします。また、報復による虐殺や強奪等を犯すものは厳罰に処します。」


  いつの間にか手に持った『MP5』を上空に向けて連射した。すさまじい射撃音に驚いた人々は、その場で跪いてしまった。なかにはズボンを濡らしている者もいた。


  「後ほど、人間界からゴーレム兵部隊及び魔人族の王国部隊がまいります。それまでは、なるべく自宅から出られないようにお願いします。」


  シルフは、ゲートを開き、ゴーレム兵を中から呼び寄せた。約1000名のゴーレム兵だ。全員、M16自動小銃を手にしている。シルフの目が怪しく光っている。何かの信号だろうか。光が消えた時、1000名のゴーレム兵は5人1組になって一般居住区に散会していった。一部はスラム街と一般居住区の境にある門に警戒に行っている。この隙にスラム街の者が入り込んで、暴動、略奪、殺人、強姦その他の犯罪を未然に防止するためだ。


  住民の様子を見てみると、さっきに比べてかなり落ち着いたようだ。うん、これなら大丈夫だろう。さあ、次は貴族街だ。






  貴族街と一般居住区との境の門は、固く閉ざされていた。門の上の城壁上には弓矢を構えた王国騎士が何人か見張りをしていた。僕達が門に近づいていくと、上から声が掛けられた。


  「止まれ、お前たちはなんだ。エルフと、あと、お前は角がないな。あ、もしかして人間か?」


  僕達は、当然角など無いので、魔人族ではないということはすぐに分かったようだ。僕は、そのまま『飛翔』で城壁の上の騎士と同じ位置まで上昇し、話しかけた。


  「僕達は、この中の貴族達に話をしに来ました。門を開けてください。」


  別に、これくらいの門など開けてもらわなくても、存在そのものを消滅させることもできるが、あとで門を再建築するのも煩わしいので開けてもらうのが一番だろう。しばらくすると、ゆっくりと門があいた。中に入っていくと、ここも避難しようとする住民達で喧騒のさなかだった。僕は、門番をしていた王国騎士団の方に、現在、この街の最上位貴族のことを聞いた。ボラード侯爵の麾下には伯爵が4名、子爵が16名、男爵が74名いるそうだ。準男爵以下は、この貴族街に屋敷を持つことは許されないらしいのだ。伯爵3人のうちでも、最も最古参でこの街の行政長官をしているビジョン伯爵の家の場所を聞いたら、本来の伯爵邸は侯爵邸の爆破の巻き添えを食って半壊してしまったので、現在は、息子の男爵邸に避難しているそうだ。その男爵邸は、ここから目と鼻の先らしいので、さっそくお邪魔することにした。


  男爵邸といっても、かなり大きな屋敷で、庭も広く、門には、王国騎士団の兵士が4名配置されていた。伯爵に面会を求めると、門の外でしばらく待たされてしまった。まあ、いいけど。警戒するのは仕方がない。この国には人間族は圧倒的に少ないのだ。


  門がゆっくり開くと、中には10名以上の王国騎士団の兵士がおり、皆、抜剣していたり、槍を構えていた。このままでは、拘束されてしまいそうだったので、剣の刃と槍の穂先に高温の小火球を当てて溶かしてしまった。小さくても温度が3000度以上だ。通常の鋼では一瞬で気化してしまう。剣を持っている者は、柄を持ち切れずに落としてしまっている。


  「僕は戦いに来たのではないです。話し合いに来たのです。」


  騎士さん達は脂汗を流しながらジリジリ下がっている。今まで見たこともない魔法を使う人間に、言いしれない恐怖を感じているのだろう。僕達は、兵士達にはあまり気を遣わずに、どんどん屋敷の正面玄関の方に向かっていく。玄関前には、10人位のグール人やレブナント人がいたが、きっと、あのレブナント人がこの屋敷の主一族なのだろう。貴族服を着ているレブナントは、結構若そうだったので、彼がこの屋敷の主、ビジョン男爵のはずだ。伯爵は出ていないみたいだった。執事服を着ているグール人が、剣を抜いて警告してきた。


  「止まれ、貴様、何の用があってここに来た。ここは恐れ多くもビジョン伯爵閣下の仮在所であるぞ。」


  「僕は、ゴロタ。ビジョン伯爵閣下に話があってきました。」


  「要件を言え、要件を。」


  「今朝の侯爵邸爆発に関してのご相談にまいりました。」


  「貴様が侯爵邸を爆破したのか?」


  僕は、その質問には答えなかった。その沈黙が肯定したことになったのか、やにわにその執事さんが切り掛かって来た。鋭い剣筋だ。かなり腕が立つようだ。でも武器を持っていない一般人に対して問答無用で切り掛かるのもどうかと思うのですが。もちろん、僕は避けることもせずに放置していた。彼の剣は確実に僕の頭頂部から首にかけて切り下すほどの勢いだったが、『蒼き盾』の自動発動により、完全に跳ね返してしまった。彼にとっては、固い岩に切り掛かったような感触だったろう。


  その瞬間、シルフのMP5が火を噴いた。


    ダダダッ!!!


  三点掃射だ。執事さんの胸とお腹に全弾命中した。周りにいた人達は何が起きたのかわからないまま、その場ですくんでしまった。銃器の威力に慣れていれば、しゃがみ込んだりするのだが、初めての経験なのだろう。音に吃驚してはいても、弾丸が撃ち込まれているという事実を認識することができないのだろう。


  「フリーズ、動くと、その執事さんと同じ目に合いますよ。」


  シルフのかわいらしい声で警告を発していた。


  シェルが、倒れて意識のない執事さんに『治癒』をかけている。至近距離で貫通したので、体内に残留している弾丸が無かったことは不幸中の幸いだった。あっという間に出血がとまり、損傷した臓器も治癒されたようだ。さすがに意識は戻らなかったが、もう安心だろう。


  それまでの僕達の行為を見ていたレブナント人の方が声を上げた。


  「き、君達は僕達を殺しに来たのではないのですか。」


  うん、とっても気の弱そうな声だ。レブナントでも武術に優れたものと魔術に優れた者に分かれ、この男爵さんは、武術はからっきしのような感じだった。


  「もちろんですわ。私たちは、文化と芸術を愛する人間界から来たのですから。」


  また、シェルが訳の分からないことを言い始めている。男爵は、初めて声を出したシェルを見て、顔を赤らめている。うん、この世界でもシェルは美形だからね。


  「そ、それでは中に入っていただきますが、その黒い火を噴く武器は仕舞っていただけませんか。」


  シルフは、『異次元空間』を開けて、『MP5』を収納したが、代わりに『グロック42』を取り出して右手に持っている。全長15センチ、.380ACP弾6発を装填できる超小型自動拳銃だ。シルフの小さな手で持っても小さいのがわかる位であり、まさかこれが武器だなどとは思わないだろう。


  屋敷の中に入ると、荷物をまとめいる最中だった。若いレブナントのご婦人がメイドたちに細かな支持をしていたので、きっと男爵夫人なのだろう。伯爵閣下は、奥の応接室にいるということであり、男爵の案内で奥に向かう。応接室内には初老のレブナント貴族が一人用ソファに座っており、火のついていない葉巻を加えていた。僕は、部屋に入るとすぐに、一礼をしたが、シェルとシルフは特に挨拶はしなかった。伯爵から、そのまま座ってよい旨の合図があったので、対面の3人掛けソファに座って、とりあえず伯爵の様子を伺った。


  沈黙が続いた。メイドが紅茶を持って来てくれたが、誰も口をつけなかった。僕も何が入っているか分からないので、とりあえず口をつけないようにしていた。我慢仕切れずに伯爵から口を開いた。


  「お前たちは大魔王の使徒か何かか?」


  「いえ、ゴロタ様は大魔王その人です。」


  シルフが、即答した。あ、僕って『大魔王』確定ですか。

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