表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
599/753

第2部第150話 恐怖の街 その5

(4月14日です。)

  朝、僕はホテルのベッドの中で目覚めた。隣には寝巻に着替えているリアちゃんが寝ていた。チリチリになっていた髪の毛もきれいに伸びている。窓の外が騒がしい。僕は、ベッドから起き上がり、外を見てみると魔人族の人達がホテルの前に大勢集まっているようだ。部屋のドアがノックされた。ドアを開けると、ホテルの支配人とボーイ数人が立っていた。


  「おはようございます。何か、御用でしょうか?」


  支配人は、吹き出る汗をハンカチで拭きながら、


  「おはようございます。あのう、お客様を魔王様だといって魔人族の人達がホテルの前に集まっているのですが・・・」


  シェルもガウンを羽織って出てきた。事情を説明していないが、僕のベッドにリアちゃんが寝ていたので、ある程度は事情を察したようだ。


  「支配人、ゴロタさんは朝食も摂っていないのですよ。モーニングセット3人前を部屋まで運んできて頂戴。それから表の人達には、あとで行くから、ルイズさんの家の前で待っているように伝えてください。」


  「は、はい。あのう・・・・」


  返事はしてくれたが、まだ何か言いたそうだった。


  「ほかに、何か用でも?」


  「え、昨日の夜、ボラード侯爵閣下のお屋敷が爆発してなくなってしまったのですが、それと何か関係があるのでしょうか?」


  「はあ、私たちは、ずっと部屋にいたのよ。それはあなたが一番よく知っているでしょう。」


  「あ、そ、そうですよね。お客様は、部屋から出ていかなかったですものね。」


  とても苦しい言い訳だが、とりあえず否定してくれた。うん、それではゆっくりお風呂にでもはいりますか。先に僕がお風呂に入る。昨日も入ったのだが、火事の煙や煤を浴びたみたいで、体がきな臭くなっているようだ。リアちゃんはまだ眠っているので、起きてからシェルと一緒にお風呂に入って貰おう。


  シェルに事情を話して、リアちゃんが起きるのを待った。あんなに酷い火傷をしたのに、今はスヤスヤ眠っている。結局、今日、ルイズさん達の埋葬が終わったらリアちゃんをゴロタ帝国まで連れて帰る事にした。白龍城で育ててもいいが、将来のことを考えるとフミさんが運営する孤児院に預けるのが一番いいだろう。などと話していたら、リアちゃんが目を覚ました。辺りをキョロキョロしている。ここが何処かわからないのだろう。


  「ママンは?お姉ちゃんはどこ?」


  もう目には涙が溢れてきていた。シェルが、リアちゃんの小さな肩を抱いて、


  「リアちゃん、お父さんとお母さんそれとミレムちゃんは、お空の星になってしまったの。リアちゃんは、もう会えないのよ。」


  「やだ。ママンに会いたいの。ママンはどこ?」


  もう、どうしようもなかった。そのうち、ルームサービスがモーニングセットを持ってきた。オートミールとスクランブルエッグそれにフルーツサラダだ。蜂蜜入りのホットミルクもあったので、とりあえずリアちゃんに飲ませて落ち着かせる。リアちゃん、泣きながら飲み始めたが、甘いミルクが気に入ったらしく、一気に飲み切ってしまった。それから、オートミールを食べ始めた。うん、これで少しは大丈夫かもしれない。


  僕は、ミルクだけ飲んで、装備を整え、ホテルを出ていく。向かうのはルイズさんの自宅前だ。ホテルからは、僕の足で歩いて30分位だ。一般住宅エリアと魔人族のスラムエリアを仕切っている門は開け放たれたままになっている。昨日、侯爵邸が何者かに攻撃されたことから、市中の兵士たち全員が他の貴族たちの警備のために招集されているらしいのだ。道理で、今朝、大勢の魔人族の人達がホテルの前に集まっていたはずだ。


  ルイズさんの家の前には、100人位の魔人族の人達がいた。老若男女いろいろだ。彼らは、僕を見つけると、その場で土下座をし始めた。あれ、どうしたのだろう。僕、何かやらかしてしまいましたか?


  一人の老人が、顔を上げて、


  「大魔王様、私達を救い、この世界が魔人たちが幸せに暮らせるようにするために降臨なされたのでしょうか?」


  あ、僕を『大魔王』と勘違いしているみたい。それ、違いますから。


  「あのう、僕、『大魔王』ではありませんけど。」


  「何を仰るのですか。昨日、何人もの者が、大魔王様が空に飛びあがっていくのを見ています。その後、すぐに侯爵邸の方で大爆発があり、侯爵邸が跡形もなくなくなってしまったではないですか。魔王神が降臨された大魔王様でなければ誰がそのようなことできるのでしょうか。」


  ああ、これからは、僕はここで大魔王として扱われてしまうのですね。逃げるわけには行かないんでしょうか。


  「あのう、それで僕に何をしてもらいたいのですか。」


  「いや、特にはありません。私たちを見守っていただきたいだけです。」


  「あのう、もうそろそろ、その土下座、止めて貰えませんか。それと、あなた様のお名前は?」


  「おお、これは失礼しました。私は、この魔人街の長をさせていただいています『カルク』と申します。以後、お見知りおきを。」


  うーん、ちょっと困ってしまった。僕は、リアちゃんを連れて人間界に行き、リアちゃんがちゃんと暮らせるように手配をしてから、こちらに戻ってくるつもりだった。それから、この国の王都を目指そうかと思っていたのに。でも、カルクさん、僕は何もしなくていいと言ってくれているんだから、大丈夫なのかな。


  「えーと、カルクさんと何人かの方々、僕と一緒にホテルまで行きましょう。そこで今後のことを話し合いましょう。」


  僕一人では、決められないので、シェルの力を借りることにしよう。あと、シルフにも来てもらうことした。それから、僕一人だけ先にホテルに戻り、支配人にレストランの一部を会議用に借りることをお願いした。部屋に戻ると、シェルがリアちゃんに着せる服を選んでいた。幼児用の服は手持ちになかったので、一番小さな服を出してあげていたんだけど、それでも5~7歳児用なので、リアちゃんにはかなり大きいようだ。僕は、念話でシルフを呼び出した。


  『シルフ、シルフ。聞こえるかい?』


  『はい、マスター。何でしょうか。』


  『ゲートを開くから、こちらの世界に来てくれないか。それと4歳位の女の子の服も下着も含めて何着か持って来て。』


  『了解しました。』


  これで、シルフが来たら、少し安心だ。シェルには、さっきのやり取りについて説明したけど、『ああ、また始まったのね。』というあきれ顔をされてしまった。リアちゃんは、寂しそうに窓の外を見ていた。急に一人ぼっちになってしまったのだ。悲しくなって当たり前だ。僕は、チョコレートやキャラメルを出してあげたんだけど、シェルが嫌な顔をしていた。あまり甘い物ばかり上げると虫歯になるからとマリアちゃんには少ししかあげていないことを思い出してしまった。


  シルフから連絡が来た。準備ができたそうだ。僕は、白龍城の居間とホテルの部屋をゲートで結んだ。すぐにシルフが入ってきたが、続いてフミさんとフランちゃんまで入ってきた。リアちゃんの様子を見るためだそうだ。フランちゃんがリアちゃんの健康状態を見てくれた。少し、栄養状態が悪いところがあるが、外傷もなく健康な部類だそうだ。また、フミさんがいろいろとリアちゃんに質問している。両親のことや姉の事、お友達のことなどだ。フミさんがこの子は、年齢相応の言語能力があり、また自我もきちんと持っていると判断したそうだ。僕には、何のことか良く分からないが、子供の事ならフミさんに任せておけば大丈夫そうだ。


  「さあ、リアちゃん、これからおばさんと一緒にお城に行きましょうね。お城には美味しいお菓子やおもちゃもいっぱいあるし、お友達もいるわよ。」


  そういいながら、リアちゃんの手を引いてゲートをくぐって行った。一緒にフランちゃんも戻って行った。その際、僕にキスをすることも忘れていなかった。


  ドアがノックされ、ホテルの支配人が、『皆様が下にお集まりです。』と知らせてくれた。さあ、3人で下に降りますか。あ、その前にシェルの付け角を外し、僕の角も引っ込めておいた。僕達が人間(?)であることを皆に知らせるためだ。


  階下のレストランに行くと、10人位の魔人達が座っていた。僕達が現れると一斉に立ち上がって迎えてくれた。まあ、帝国では慣れているからいいんですけど。皆は、僕達に角がないことを見て、少し驚いていたが、昨日の姿を見られているので、なんでもありと思われているのか、それほどの動揺もなかった。カルクさんが、


  「やはり『大魔王』様だったのですね。伝承によれば、大魔王様は自由に角や翼を出し入れできるとのことでした。」


  え、そうなんですか。まあ、自由に出し入れできますけれど。シェルが皆に話し始めた。


  「皆さん、ご覧のとおり、私たちは魔人族ではありません。ゴロタさんは、人間族で私はエルフ族、ここにいるシルフはゴーレム族です。」


  ゴーレム族という種族があるのかどうかわからないが、アンドロイドも基本はゴーレムの一種に間違いないのだろうから黙っている。


  「そして、私達はこの世界の者ではありません。この世界とは異なる人間界からまいりました。人間界では、ゴロタさんは皇帝陛下を務めていらっしゃいます。」


  『人間界』と『皇帝陛下』と言うワードに魔人族の皆さま、激しく反応していた。中には、椅子から降りて土下座をしようとする者まで現れた。それを制して、シェルが言葉を続ける。


  「ここで皆様に提案があります。ボラード侯爵が誅殺された今、ここハイ・ボラード市を皆さん魔人族さん達の統治領にしたらいかがでしょうか。」


  これには、皆も顔を見合わせている。そんなことができるのだろうかと言う顔だ。


  「この街の王国騎士団は、300名足らずです。また、貴族街の警備に当たっている私兵もそれほど多くありません。先頭になれば一瞬で殲滅できるでしょう。」


  「いや、私達はそれほど強くありません。それに武器もありませんし。」


  ここで、シルフが口を開く。


  「武器なら、皆様に必要な数だけ支給できます。しかし、皆様に戦ってもらう予定はありません。私達3人だけで王国騎士団や私兵たちを制圧いたします。そう、時間的には今日中に可能です。」


  僕がいくら魔王だって言っても、300名以上いる王国騎士団や警備の私兵を、たった3人で殲滅できるなんて信じられないという顔をしていた。


  レストランの入り口付近で、僕たちの会議を盗み聞きしていたホテルの支配人が慌てて外に出ていくのが見えた。きっと王国騎士団の駐屯所に通報に行ったのだろう。クーデターを企図している魔人達がいると・・・。


  シルフが、言葉を続ける。


  「最終的には、皆様が決めることです。この街を魔人族が統治する『自由自治区』にするかどうか。勿論、ゴロタ皇帝陛下は皆さんの後ろ盾となることを約束します。人間界の皇帝として。またこの世界の『魔王』として。」


  最後の言葉で、皆はどよめいた。僕が、人間であると明らかにしたので、昨日見た魔王の姿は見間違いだったのかと不安になっていたらしいのだ。


  「あのう、私達で統治って、どういうことでしょうか?大魔王様が治めていただけないのですか?」


  「はい、大魔王は皆様の象徴として存在し、その権能は皆様の総意に基づきます。詳しいことは、この街を完全に制圧してから決めましょう。」


  それからシルフと皆で情報交換が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ