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第2部第145話 闇の軍団その7

(4月3日です。)

  夕食まで、少し時間があるので、街を散策してみる。ホテルを出て、通りを挟んだ所に鉄製のフェンスがグルリと回されているお屋敷があった。あれが代官屋敷なのだろう。もう少し、下町、つまり南の方に行って見る。通りに面していろいろなお店が並んでいたが、素材買取店があった。人間界では冒険者ギルドが魔石やドロップ品などの貴重品の買取をしており、よほど大きな都市にでも行かない限り素材買取店いわゆる古物店など無かったが、ここでは、普通にあるようだ。中に入ってみると、まるで冒険者ギルドのようだった。冒険依頼書こそないが、素材買取カウンターがあり、レストランが併設されている。ちょうど、素材集めの者が街に帰ってくる時間とぶつかったのか、素材買取カウンターは結構混んでいた。それでも、買取受付の魔人族の女の子はテキパキと処理しているので、それほど列が長いわけではないようだ。


  僕は、真ん中の列に並んでみた。見ていると、買取受付カウンターでは、素材の鑑定のみをしているみたいで、素材名と測定重量を書いた紙を渡しているだけだった。その紙を持って、両替所で現金と替えているみたいだ。うん、とても合理的だ。僕の番が来たので、魔石を幾つか出してみた。ホーンベアとケルベロスの魔石を10個程、それとレブナントの魔石を1個だけ混ぜておいた。受付の女の子は、貴重な魔石をゾロゾロ出したことに吃驚していたが、最後にレブナントの魔石を見て、眉を顰め、それだけを取り分けてから、残りの魔石の種類と重量を記載した紙を渡してくれた。レブナントの魔石は、僕の方に返してくれてから、『両替を終えたら、その魔石を持って奥の応接室に来てください。』と言われた。なるほど、鑑定はしっかりしているみたいだ。


  結局、魔石は全部で672万デリスで買い取って貰うことになった。それから応接室に行って見ると、メイドさんみたいな魔人族の女性が室内に案内してくれた。紅茶を飲みながら暫く待っていると、さっきの受付の子とは違うグールの男性とレブナント兵士2人が部屋に入ってきた。グールの人は、『ブライアン』という名前で、この都市の職員で『治安担当次長』という役職らしい。まあ、警察署長という立場なのだろう。


  ブライアン次長の話では、どうやら僕の出したレブナントの魔石のことについて聞きたいらしい。あのレブナントの魔石は、元の世界のアメリア大陸で入手したものなので、この世界の物ではないのだが、貴族であるレブナント族の魔石そのものが、この世界では入手不可能らしいのだ。レブナントはアンデッドだから、生命のもととなる魔石が体内にあるはずだが、どうやらこの世界では事情が違うらしいのだ。というか、レブナントもグールも長命種ではあっても不死ではないらしいのだ。子供を作ることもできるし、老衰で死ぬこともあるらしい。勿論、死んでも魔石が残ることなど無い。


  しかし、魔石鑑定で『レブナントの魔石』という結果が出たことから、その入手経路について尋問を受けることになったしまった。僕は、あきらめて元の世界から転移してきたことを正直に話した。勿論、僕が人間?であることは秘密にしている。この世界では、元の世界とは色々な場所でつながっており、転移者も珍しくないらしいのだが、先日の教会での騒動についても質問された。当然、僕は知らないことにして惚けている。何も正直に話すことはない。太古の昔、この世界でもレブナントやリッチも魔石を体内に持っていたらしいのだが、今、この世界では魔石を体内に持っている者は正常な意識をなくしてしまうらしいのだ。魔石の生成条件は不明だが、そのような症状を呈したリッチ達は外科的手術で魔石を取り除くのだが、手術の成功率は極めて低く、殆ど不治の病扱いだそうだ。


  結局、僕の嫌疑は晴れたようで、無事に解放されたようだが、身分証明書を持っていないことから、魔人族管理局の出張所で身分証明書を発行して貰うことになった。係員から出張所への道と犯罪経歴証明書を貰って出頭することになった。途中で、宝石店にいたシェルと合流し、一緒に行くことにした。出張所は歩いて30分位の所にあり、中は物凄く混んでいた。出生届や婚姻届けそれに住居変更やいろいろな証明書の申請など、よくこんなに魔人族が集まったと思うほどだ。ゴロタ帝国では、この辺はかなり緩やかで出生や死亡それに婚姻は教会で登録することになっているし、住居も働く際に届ければ良いことになっている。生まれてから、同じ街や村で暮らす分には身分証明書など必要なく、他の都市へ移動する際に初めて領主や長の証明書を貰うようになっているのだ。結局、僕とシェルが身分登録するのに2時間以上待つことになってしまった。


  届け出そのものは簡単で、名前と生年月日を書類に記載して、右手を機械の上のガラス板に当てるだけだ。生年月日はグレーテル暦で記載したが、この世界のティタン暦では645年となるみたいだ。きっと国王がこの国を創立したのだ645年前なのだろう。魔人族は、準貴族にならなければ氏を名乗ることがないので、ゴロタとシェルと言う名前が証明書に記載されていた。もうパイン君達は救助したので、この世界には用は無いのだが、折角来たのだから少し観光でもしてから帰ろうかと思った。取り敢えず、王都まで行って見ようと思うのだが、その前に、教会の奥に設置されているゲートを破壊しておく必要がある。あのゲートがある限り、アメリア大陸の開発地域に魔界との接点があって、人間狩りの被害が発生する恐れがあるからだ。今日は、一旦、ホテルに戻り、深夜、ゲートの場所まで『空間転移』すればいいだろう。


  シェルは、さっき買ったブルーダイヤの指輪を左の薬指に嵌めて、ニコニコしている。絶対に無駄遣いだと思うのだが、文句など言える訳がない。まあ、経済的に困っているわけないのでいいけど。昔、宿代が勿体ないと言って、ツインの部屋ではなくダブルの部屋にした頃のしみったれ根性はどこに行ってしまったのだろうか。


  その日の夜、というか次の日になってから、教会の中のゲートの前に転移した。ゲートの前には、レブナント兵が2名警戒していたが、僕の姿を見る前に『威嚇』の力で意識を刈り取ってしまう。そのままイフクロークの中に収納してから、ゲートに向けて『ベルの剣』を向ける。力を込めると、ベルの剣から『熱球』が生まれて来た。このまま放射すると大爆発を起こすのだが、そっとゲートの前に浮かばせておいた。赤白色に輝く20センチほどの小さな火球は、ジッと浮かんでいる。火球のこちら側にシールドを張っておいてから、教会の外の目立たないところまで『空間転移』した。それから、先ほどの火球に遠隔でエネルギーを注ぎ始める。臨界に達した火球は、大爆発を起こしたが、ゲート方向には猛烈なエネルギーを放射するが、教会内部の方にはシールドで阻まれてそれほどの被害はない筈だ。それでも、教会の外にいても轟音と振動が伝わってきたので、かなりのダメージがあったかも知れない。まあ、それはしょうがないと言う事にして、イフクロークから気を失ったままのレブナント兵2名を地面に転がしてから、ホテルに戻ることにした。


  翌朝、この街を出る前に教会の近くまで行って見ると、立ち入り禁止の作が張られていてかなりの数のレブナント兵が警備をしていた。遠目にも教会の上半分が黒ずんでいるようだ。きっと火災が発生してしまったのだろう。しかし、シールドが無かったら教会の上半分が消失してしまっただろうから、これ位の被害で良かったと思って貰いたいものだ。まあ、誰も知らないだろうけど。僕達は、そっと街をでることにして、東側の城門に向かう事にした。ホテルの人から、王都へ向かうには東側の城門て前にある停車場から乗り合い竜車が出ているそうだ。竜車は、レッサーアースドラゴンという地竜が曳く馬車で、8人乗りの大きなものだ。地竜は肉食だが、3日間位は飲まず食わずでも平気だということで、馬丁も同乗せず御者と助手の2名で操竜している。また、警備でお王国兵士4名が騎乗用のランド・ドラゴンに乗っている。竜車1台に4人の警備兵が決まりらしい。相乗りの乗客は、レブナントの夫婦が2名とグールの親子が3人、それと僕達だ。魔人族が旅行するのは極めて珍しいらしいのだが、その理由は旅費が極めて高額な事らしい。この竜車が向かっているボラード侯爵領の領都までの乗車賃は1人60万デリスもするのだ。勿論、途中の宿泊費や食費は自分持ちだ。


  同乗していたレブナント夫婦のうち、男性の方が、僕達を見て少し顔をしかめていたが、身なりとシェルの指輪そして僕の右腰に提げている『ベルの剣』を見て、直ぐに顔つきを変えた。この男性レブナントさんは、王国兵士を退役して、夫婦で王国旅行に行く途中らしいのだ。退役するときに準男爵から名誉男爵に叙爵されており、退職金と年金で悠々自適の生活らしい。レブナント兵は、任官とともに従爵になり、階級に応じて令爵、準男爵と叙爵されていくので、このレブナントさんはかなりお偉いさんだったのだろう。グール親子は未だ若い夫婦で、子供も5~6歳位の女の子だ。いままで、この街に赴任されていたが、領都に帰れることになったそうだ。僕は、ポケットの中から取り出すフリをしてイフクロークからチョコレートを取り出して女の子に上げたら、初めて見るらしく少し怖がっていた。僕は、異世界から転移してきたことを話すと、ご両親も納得したみたいで、礼を言ってくれた。女の子は、チョコレートを一口食べたら、その美味しさに吃驚したのか、あっという間に食べてしまった。両親も食べたそうにしていたので、僕は、更に2枚取り出して、母親とレブナントの奥さんに1枚ずつ差し上げることにした。これで竜車内の良好な人間関係が構築できたようで、和やかに旅が進んで行った。


  地竜は、馬よりも力が強く、走る速度も速いのだが、舗装路ではないので、馬車並みの時速20キロ程度で走行できた。しかし馬と違って、走り続けることが可能で途中の休憩が必要ないため、1日に7時間は走行できたので、領都までは、2泊3日のの予定だ。途中には宿場町が整備されており、野営する必要は無かった。宿場町は、宿屋が2~3軒とお土産物屋、食堂があるだけの小さなもので、お土産物やも塩や干し肉なども売っている旅の用品店みたいなものだった。そして4月12日、僕達は領都であるハイ・ボラード市に到着した。

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