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第2部第144話 闇の軍団その6

(4月3日です。)

  今日、これから『ティタン大魔王国』に行くことにした。セレンちゃんの入学式が終ってから、新年度に伴う帝国行事が目白押しでなかなか旅出ることができなかったのだ。中でも新年度に各省庁の統括事務官と統括政務官の認証は欠かすことが出来ない政治日程で、大臣が指名した者が揃って謁見の間に来て、僕から認証書を交付されるのだ。特に、統括政務官は、省庁勤務者でなくても人格・識見が卓越していれば事務能力などは問われない。その代わり、大臣に代わって政治的判断をすることがあり、重要なポストだ。まあ、シルフが決めた制度だから僕に意見など無いけれど。


  それでティタン大魔王国に行く日が今日まで伸びてしまったのだ。お昼ご飯を食べてから、シェルが僕の部屋にきた。向こうの国に行く準備をする。準備と言っても、シェルの頭に偽りの角を付けてあげるだけだ。あらかじめ、シェルに希望の形を聞いておいたので、そのように『錬成』してあげるだけだった。シェルの希望は、薄茶色の羊タイプの角だったが、紫色の髪とよくマッチしている。耳はエルフのままだったので、魔人とエルフの間のハーフエルフと言う感じだ。シルフは、自分で頭部を改造してくっつけたようだ。最初、金色の角をつけていたので、却下してやった。今は、メタリックブラックの牛タイプの角を付けている。僕も、自分の角を顕現させておいた。これで魔人族3人の完成だ。


  僕の部屋から『ゲート』を使ってティタン大魔王国に転移する。郊外の人目につかない場所を選んで置いた。そのまま町に入って行った。城門はあったが、レブナント兵とただの棒をもっているだけの魔人が立っているだけで、ノーチェックだった。まあ、どこから見ても魔人だし、荷物ももっていないので不審点はないのだろう。ただ、シェルの着ている冒険者服が普通の魔人が着ているものに比べて上等すぎるようで、ジロジロと見られていたことが気になった。


  僕達は、そのまま例の百貨店に行ってシェル達の服装を整えることにした。この世界では、冒険者という職業がないせいか冒険者服と言うものがなかった。仕方がないので、それに近いような服装を探したが、農作業用の木綿の服しか見つからず、仕方がないのでそれを買って着替えさせたのだが、とても不満そうだった。まあ、仕方がない。百貨店の並びの商店街を見て歩いたが、大した商店は無かった。しかし宝石店を見つけたシェルがどうしても中を見たいというので、しょうがなく中に入ることにした。店の中にいるお客さんの殆どはグールやレブナント達で魔人族は店員の他にはほんのわずかしかいない。


  店員は、僕達を見て、少し嫌な顔をしていた。まあ、僕達みたいに若い魔人が大金を持っているわけないので、お客さん扱いをしたくないのだろう。僕は、何も言わずに立っているだけだったが、シェルは商品棚の中の宝石を見て歩いた。そして何かが気になったのか、店員に声を掛けてしまった。


  「すみません、この指輪見せてください。」


  見ると、1カラット以上ありそうなブルーダイヤの指輪だ。僕の位置からは値段が見えないが、きっと高級品なのだろう。店員は、いかにも胡散臭げにシェルを見て、


  「この指輪は、当店での最高級品で7800万デリスですが、お買い上げになるのですか?」


  「ええ、気に入ったらいただくわ。」


  あのう、シェルさん、それって8000万ギル以上しますよ。今、現金の持ち合わせがないのですが。そう思っていたら、店員さんが冷たい声で、


  「ですが、ご購入できるお金を持っていない人にはお店出来ないのですが。」


  と言われた。シェルが、チラと僕を見るのでしょうがない。僕は、リチャード・ブレイン金融会社の100万デリス金融小切手1枚を見せて証拠金とし、残りのお金は両替店で交換してくることにした。店員さんは、目を大きく見開いていたが、ハッと気が付いたように営業スマイルになり、白い手袋をしてショーケースから指輪を出してくれた。指輪のサイズはシェルには少し大きいようだったが、綺麗な青色が気に入ったらしく、即決で買う事にしたようだ。僕は、百貨店の中にあるリチャード・ブレイン金融会社の店頭で、帝国金貨100枚を金融小切手に変えて貰ってから直ぐに宝石店に戻った。シェルとシルフを店の中に残していたので気が焦ってしまっていた。このまま放置していると、店内の宝石を全てお買い上げしてしまうかもしれないからだ。僕の心配は杞憂に終わったようで、シェル達は奥の特別応接室でお茶を飲んでいた。知らないグールの男の人が接客していたが、どうやらこの店の店長のようだ。僕は、100万デリス券を77枚渡して指輪を受け取った。シェルが直ぐに嵌めるかと思ったら、見もしないで『あなた、しまっておいて。』と言うだけだった。今まで、こういう状況でどれくらいの宝石や毛皮、バッグをかわされたことか。まあ、お金は使いきれないほどあるからいいんですけど。


  店を出てからは、当てもなくブラブラしている。取り敢えず、今日の宿泊先を決めなければいけない。それと情報収集だ。ホテルは直ぐに見つかった。ブラック・ホーン・ホテルと言う名前のホテルだ。ホテルの看板に金色の星が2つ付いていた。この星の数がホテルのランクを示しているらしい。最高で3つの星らしいので、星2つは中くらいのポジション化と思ったら、普通は星などついていないというか、評価対象外らしいのだ。1つでも星が付けば、一流の証らしい。へえ、取り敢えずは行って見よう。


  僕達3人がホテルに入ったら、ドアマンがドアを開けてくれた。ドアマンは魔人族だったので僕達に対する差別は無いようだった。しかし、ホテルのフロントはそうはいかなかった。フロントは女性のグールだ。そう言えば、グールなどはアンデッドなのだから、もともと生きていた時の種族特性を持っている筈だ。しかし、この世界のグールは、人間族の姿をしている。と言う事は、元は人間族なのだろうか。そうすると、その起源種はどのようにこの世界でアンデッドとなってしまったのだろうか。基本的にアンデッドは生殖能力がないはずなので、女性のアンデッドは非常に珍しい気がする。


  フロントの女性グールは、営業スマイルを浮かべながら僕達に尋ねて来た。


  「いらっしゃいませ。ブラック・ホーン・ホテルへようこそ。本日は、当ホテルへどのようなご用件でしょうか。」


  農作業用の服を着たシェルと地味な作業委を着ている僕達に対して、ぜったいに宿泊客だとは思っていないような口ぶりだった。


  「泊まりたいんですけど。」


  シェルが言うと、少し引き攣った感じで、


  「当ホテルは2つ星ホテルでして、御一泊5デリス以上の部屋しかございませんが。」


  「ふーん、スイートルームは空いているの?」


  「へ?スイートですか?はあ、空いておりますが。」


  「なら、その部屋をお願いしますね。2泊でいいわ。」


  最近、スイート以外泊まらないようですが、ツインで十分だと思うんですけど。そう思ってしまったが、当然、何も言わないで黙っているだけだった。


  「そ、それでは御一泊35万デリスですが、内金をいただけないでしょうか。」


  僕は、直ぐに70万デリスの金融小切手を出して支払ってしまった。ボーイが部屋に案内してくれたが、ボーイは魔人族だった。どうやら、この国では基本的に肉体作業などは魔人族が、知的作業はグール以上のアンデッドがするみたいだ。部屋に入ると、僕はそのボーイに5000ピコのチップをあげて、少し情報収集をしてみた。最近、いなくなった魔人族の子供達の事だ。そのボーイさん、さすがホテルマン、色々と知っているみたいだった。話によると、不思議なことにいなくなる子供達は必ず3人兄弟姉妹以上だそうだ。長男、次男などの区別はないが、1人息子や娘がいなくなることは無いそうだ。あと、いなくなるのは、必ず自分の部屋で一人で寝ているときらしいのだ。そのため、最近、3人兄弟の子供達は、決して一人では寝ないらしいのだ。しかし、夜中にトイレに行って帰って来なかったり、一人で部屋に残ってしまった時にいなくなってしまったりと、かなりホラーな設定だ。基本的な事を聞いたが、この世界は、大魔王がお隠れになり、『永遠の天使クロノ』様が地上に降臨されてからレブナントやグール達が大量に発生し、魔人国連合と戦争になったが、攻撃を受けても死ぬことのないレブナント将校やグール兵と、最上級魔導士のリッチの攻撃に、大魔王がいなくなった後の魔人族では太刀打ちできないまま、殲滅されてしまったらしいのだ。敗戦後、非戦闘魔人族のみ生きることが許され、奴隷同然の扱いで長い間暮らしてきたらしい。奴隷の証の隷属の首輪もないが、アンデッドに逆らう事は許されず、それでも最低限の収入を得ることは出来るようだ。


  これは噂だが、魔人族の子供達がいなくなったのはアンデッド達の食糧とされるためであり、3人兄弟以上の子女が狙われるのは、種族を絶やさないための知恵のようなものだと言い伝えられているそうだ。あと、この街はボラード侯爵領の最北端の街ブレバタ市と言うそうで、代官のバイロ1等子爵が統治しているとの事だった。子爵以上はリッチ族しかなれないそうだ。リッチと言っても、先祖が骨だけのアンデッドだったと言うだけで、普通に血肉がついているし、食事もするそうだ。ただ、リッチが死んだと言う話は聞いたことがないので、普通に長命種の種族となっているのだろう。


  しかし、何か怪しい。アンデッドの中でもリッチ級以上の魔力を持ち、かつ絶対的な肉体的優位を持っている種族、バンパイア族の話が出て来ないのだ。この世界が冥界から侵略されていたならバンパイア族がいてもおかしくない。これは、もう少し調査する必要があるかも知れない。

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