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第2部第141話 闇の軍団その3

(たぶん3月30日です。)

  この世界は、4つの並行世界があるらしい。僕達のいる人間界、神々や精霊のいる天上界、それと魔王が統べる魔界と災厄の神の中でも超災厄の神、天上界から追放されるように降りてきて創造した冥界。基本的に魔界は死人から生じるアンデッド以外の魔物が生きる世界だが、アンデッドも普通に生まれる。しかし、どうやら魔界でのアンデッドは人間界でのアンデッドと違い出来がいいみたいだ。というか超普通だ。これは信じられないが、出自が死んだ人間や魔物とは思えない。冥界は行ったことがないので、どんなのか良く分からないが、人が死んで魂になったら行く世界と言う事位の知識しかない。まあ、あまり興味はないけど。


  そんなんで、グール兵士さん達から逃げた僕は、街の中を東に西にと走り回って、追跡の手を逃れている。途中、いろんな種族の人達とあった。一番多いのは魔人という種族で、モンド王国で見た人達とよく似ている。頭に牛や山羊、羊のような角が生えている。それだけが変わっている点で、手の指もきちんと5本あるし、肌の色や身長も人間と大差ない。驚いたのは、魔人以外にも魔物が普通に街中を歩いている事だ。ゴブリンやオーク、それにオーガなど清潔そうな服を着ているし、中には馬車に乗っている魔物もいた。人間界では、人を襲って食べてしまうような魔物まで、普通に暮らしているようだ。レストランや屋台もあり、ゴブリンがお金を払って屋台の肉刺しを飼っているのには目が点になってしまった。


  そんなことに関心している場合ではない。グール兵士達がしつこく追いかけてくるのだ。僕は、裏路地に入って兵士達をやり過ごすことにした。人間界ではグールなんか殲滅対象だが、この世界では治安維持に頑張っているみたいだし、状況もしらずにやたらに殺しまくるほど性格が悪くないので。


  裏路地の大きな木箱の陰に隠れていたら、近くの家の裏口のドアが開いて、誰かが手招きしてくれた。見ると若い女の人のようだ。いつまでも逃げ回る訳にも行かず、ここは親切に甘えることにしよう。


  そこは、かなり小さな家だった。入った所はキッチンで、表には食堂兼居間になっている。ダイニングテーブルと小さなソファが置かれていたが、後は暖炉があるので家具は置けないようだ。この辺は、かなり寒いので、部屋を狭くして暖房の燃料を節約するのが普通らしい。家の中は薄暗いのは、窓に分厚いカーテンを閉めているからだ。僕を手招きした女の子は、魔神族の女の子で紫色のおかっぱ頭には灰色というか銀色に近い羊角が生えていた。肌の色は、透明感のある白色で、水色の瞳が可愛らしい。どことなくドミノちゃんに似ていると感じたのは、魔人の特徴について良くわかっていないせいかも知れない。


  「有難う。」


  取り敢えずお礼を言うと、吃驚したような顔をしていた。何か不味いことを言ったかなと思ったら、


  「言葉、分かるの?」


  「うん、グレーテル語なら。」


  「グレーテル語?何、それ?今、話しているのは魔人語じゃない。人間ならエイプ語じゃない?」


  僕は『エイプ語』って知らないけど、この子が話しているのは確かにグレーテル語だ。先程のレブナント兵が話していたのも、その前のリッチが話していたのもグレーテル語だった。



  「ところで貴方、名前は?それにどこから来たの?」


  「僕は『ゴロタ』、遠い人間界から来た。」


  僕を匿ってくれた女の子はデルタと言う名前で、今、16歳だそうだ。近くの食堂で働いているのだが、昼の仕事が終わって夜勤務の前の休憩時間に自宅に戻る途中、兵士に追われている僕を見て、興味を持ったらしいのだ。兵士に追われているので、犯罪者とは思わなかったのか、聞いてみると、この世界ではレブナントやグールなどのアンデッドが力を持っており、自分達魔人族は彼らに使役される立場だそうだ。後、ゴブリンやオークなどの魔物達は、鉱山や漁などの危険でキツい仕事のみしか就労できない半奴隷のような扱いだそうだ。それでも、この世界では、知能があり亜人種と認定され市民権を有しているとの事だった。この世界で市民権を得ているのは、魔人とエルフ、ドワーフ、ゴブリン、オーク、オーガ、ハーピーだそうだ。いわゆる2足歩行ができる魔物が亜人と一緒に市民権を得ているらしい。しかしサイクロプスなどの巨人族は知能はあるが市民権は与えられないので、巨人族だけの集落を作っているらしいのだ。


  リッチなどのアンデッド種は、支配階級とされ、その昔、冥界から侵略して来たそうだ。と言うか、魔界の創造者である大魔王が焼失してしまった後で、冥界の王の覇権軍としてそのまま、魔界軍に取って代わったらしいのだ。それでも、アンデット達は魔界の民を餌として喰らう事なく共存して来たとの事だった。しかし、それなら教会の地下牢に投獄されていた魔人達は何だったのだろう。どうも、今の話には隠された真実があるような気がする。


  夕方にはデルタさんは仕事に行くそうだが、その前に妹が学校から帰って来た。妹さんは、アナザちゃんと言い、今、11歳だそうだ。アナザちゃんも人間族と話したことがなく、少し興奮していた。デルタさんの両親は、夕方には帰ってくるが、夕食の準備はデルタさんがすることになっているそうだ。匿って貰ったお礼に、今日の夕飯は僕が準備すると申し入れたら、人間の作る料理は食べたことがないけど大丈夫と聞いて来た。料理には自信があると答えると、食材は棚に入っているからと教えてくれた。


  デルタさんが出かけた後、夕食の準備を始める。アナザちゃんは、学校の宿題をしながら僕の方をチラチラと見ている。僕が何を作るか気になるのだろう。食材棚の中を見てみたが、干し肉と魚の干物、それと小麦粉と黒パン、ジャガイモがあるだけだった。僕は、アナザちゃんから見えないようにしてイフクロークから食材を出した。牛肉のブロックとタマネギ、ニンジン、マッシュルームだ。あと、バターとミルクも出しておく。調味料は、塩があるだけだったので、胡椒と砂糖それに蜂蜜をだしておく。最後に10種類以上のスパイスの混ぜ合わせたもの、いわゆるカレー粉を準備する。大きめのお鍋を竈門にかけて、火魔石をセットする。竈の脇に細い薪が置いてあるところを見ると、火魔石は使っていないようだ。しかし、火魔石の方が火力の調整が簡単なので、今回は火魔石を使う事にする。温まった鍋にタップリのバターを入れ、適当に切った牛肉と具材を入れて炒める。塩胡椒で味を調えてから、カレー粉をまぶして軽く炒める。その後に水を足していって適当な量になったところで、更にカレー粉を加える。小麦粉をミルクで溶かしたものを加えてとろみを出しておく。後は、暫く弱火で温めると出来上がりだ。あと、バターを混ぜた小麦粉を練ってパン生地を作っておく。楕円形で平らなパン生地には、ふっくらとなるように膨らまし粉とイースト菌を混ぜておく。後は、食べる直前にフライパンで平らなパンを焼くだけだ。夕日が落ちて暗くなってきたので、ライティングで部屋を明るくしたら、アナザちゃんが吃驚していた。


  「ゴロタお兄ちゃん、魔法使い?」


  「まあ、魔法は使えるけど魔法使いじゃないよ。」


  「フーン、ゴロタお兄ちゃん、お仕事はなあに?」


  「うーん、冒険者かな。」


  「冒険者って何?」


  「森や洞窟で悪い魔物をやっつける人かな。」


  「悪い魔物って何?」


  「アナザちゃんやデルタちゃん達を食べてしまったりする魔物だよ。」


  「フーン、あの教会にいる人達もそうかな?」


  「どうだろう。アナザちゃんのお友達で、だれか食べられたの?」


  「ううん、でも去年、アナザのお友達のラインちゃんが教会に行ってから帰って来なかったの。天国に行ったんだって。」


  あれ、それってもしかして生贄?これは、誰かに詳しく聞く必要があるようだ。家の中じゅうカレーのいい匂いで一杯になった頃、ご両親が帰ってきた。父親のマトロさんは、近くの皮革工場で革製品の原料を作っているらしい。母親のエブリさんは、貴族外のレブナントのお屋敷で下働きをしているようだ。この街ではレブナント以上の種族は、皆、貴族扱いだそうだ。そしてグールは貴族の家令として働くか、貴族が経営する店や工場の管理者をしているそうだ。あのレブナント兵達も、皆、爵位を持っているとのことだった。


  この世界の爵位は人間界の爵位に近いが、一番低位の爵位は従爵と言うらしい。その上は令爵、準男爵となり、男爵以上は人間界と同じらしい。兵士は、人間界の騎士達と同じで従爵などの下級貴族がなるらしいのだ。大型魔物の討伐の際は、魔人や巨人族を軍属として使役するらしいのだが、命の危険がある割には給与も安く、なり手が無いらしい。しかし、公爵の命令がでると、逆らう事も出来ずに招集に応じなければならないそうだ。


  マトロさんは、魔人族としては若い方なのだろうが、寿命が150年以上ある魔人族は、エルフと同様、見た目では年齢が分からない。でも、落ち着いた感じの紳士だった。エブリさんも、デルタさんと姉妹と言ってもおかしくない位若い感じだ。でも、きっと30歳以上なんだろうなと思うが、直接聞くわけにはいかない。僕は、マトロさん達に挨拶をすると、話はデルタさんから聞いていたらしく、歓迎してくれた。早速、夕食の支度をする。フライパンでパンを焼きながら、お皿にカレーを盛る。牛肉タップリのカレーだ。焼きあがったパンをちぎってカレーに付けて食べるのだ。きっと初めて食べるカレーだろうからあまり辛くならないように気を付けていたが、エブリさんなどは、一口食べて目を丸くしていた。うん、好評のようだ。楽しい食事が終り、洗い物はエブリさんとアナザちゃんがしてくれた。マトロさんは、お茶を飲みながら僕がこの世界に来た経緯を聞いていた。僕は、人間界で仲間がさらわれたことや、次元のトンネルを超えてこの世界に来たことなどを話したが、僕が、人間界で皇帝だと言う事は内緒にしておいた。


  結局、この日はこの家に泊ることにしたが、かなり小さな家のため、僕はアナザちゃんのベッドで寝ることになり、アナザちゃんはデルタさんと一緒のベッドで寝ることになった。しかし、僕は身長190センチもあるので、さすがにアナザちゃんのベッドではかなり小さく、両足がベッドからはみ出しながら寝ることになってしまった。まあ、部屋の温度を25度に保っていたので、寒くは無かったけど。しかし、僕のベッドのすぐ隣にデルタさんのベッドがあるので、デルタさん、緊張していつまでも眠れなかったようだ。

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