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第57話 サン・ダンベル市 出発前夜

 いよいよ、明日は帝国へ向けて、サン・ダンベル市を出発します。その前にやることが一杯です。

(6月4日です。)

  僕達は、領都出発の挨拶をしにダンベル辺境伯邸に行った。


  ダンベル辺境伯は、応接室に案内してくれて、帝国を旅行する際の注意事項について、教えてくれた。ヘンデル帝国までは、領都を出ると、一つの村と、一つの町があるだけで、後は、何もない。これは、帝国が侵攻してきた時の防備のためでもあるのだそうだ。


  まず、帝国では、身分証明のない、12歳以上の亜人は直ちに奴隷として扱われる事。


  次に、入国許可の無い者は、1週間の仮入国許可を貰い、その後、帝国の入国管理事務所で審査を受けるが、手数料が高く、払えない場合は、労役を科して徴収する事になっている。


  入国許可は、帝国と接しているランドルフ町にある領事館で発行して貰う事になるが、至急、発行するように公式の依頼状を渡すので、町の代官を通じて手続きをするようにとの事だった。


  また、辺境伯の証明書も渡しておくので、領事に渡すようにする事。


  帝国には、貴族制度はなく、帝国認証官制度と言うものがあるそうだ。認証官は初級認証官と上級認証官に別れており、その中も1等から5等に分かれている。


  上級職は、功労により昇格出来るが、初級職は、全て昇格試験による事とされている。


  初級1等になれば、上級への昇級試験を受ける事が出来るが、過去に合格した例は無いみたいだ。上級認証官は、最初から上級認証官の資格で任官するそうなので、どこかの国のキャリア制度みたいだ。


  通常、1等官というと初級1等官であり、上級職採用試験に受かると、最初から郡長官以上の役職に就くので、余り市民とは接点がないみたいだ。



  等級により、就ける職種が決まっているみたいで、窓口業務などは、役所単独で実施する一般採用事務官がやっている。


  15歳になると、奴隷以外は誰でも受けることができる登用試験が有るが、亜人種が受かった事はないそうだ。


  初級と上級の認証官登用試験に合格すると、2年間の認証官育成初級学校に全員が入学する。上級認証官候補生も一緒だ。上級職の場合は、2年間の教養期間終了後、2年間の群長官勤務で勤務成績優秀者は、3年間の上級学校に進学する。


  上級認証官候補のうち、初級学校の成績が悪いと、初級認証官として再採用となるが、そのような例もないそうだ。


  ヘンデル帝国には帝国憲法と言うものがあり、帝国臣民の権利義務が定められているが、これは帝国臣民の資格を有している者のみに当てはめられている。外国人旅行者は、これに準じた、『外国人行動基準に違反した場合の措置基準』通称、『外国人措置基準』と呼ばれている国内法で規制されている。


  ダンベル辺境伯から、『初めての外国人措置基準』という本を渡され、


  「1冊、あげるので、よく読んでおくように。」


  と言われた。ノエルは、13歳なので身分証明書を持っていない。そのため、旅行証明書を発行してもらうことになった。これは、絶対に無くしてはいけないそうだ。証明書を持っていないと、亜人の血が入っているかどうか調べるための収容所に入れられる。一旦、入れられると、出てくるのに1年以上掛かるみたいだ。


  帝国には、騎士団と言う者が存在せず、帝国軍が編成されている。帝国軍人は、士官学校に入るか、初級認証官になって、幹部候補生として入隊すれば、将校になれる。一般兵は、18歳から始まる徴兵制度により2年間の軍務に就くそうだ。衛士は、帝都の衛士本部勤務者以外は全て初級認証官で、独自の昇任制度を採用しているとのことだった。


  冒険者ギルドは、帝立冒険者ギルドがあり、ほぼ王国の制度と一緒だが、ギルドマスターは、臨時採用の認証官とされている。まあ、冒険者上がりだから、認証官試験に合格するわけないのだろう。


  帝国臣民は、納税額により1級市民から3級市民に区分けされている。本来の身分制度ではないが、1級市民の中には特権階級であると誤解する市民もおり、気を付けて対応するようにと言われた。


  帝国は、基本的に軍事国家であり、上級認証官のトップよりも軍の将軍の方が皇帝に近い席に座る事が多いそうだ。宰相も、軍に暗殺される事があり、上級認証官と言えども、自分の命は大事なので、軍の意向を無視した外交、内政が出来ない状況だ。そのため、軍の意向通りに政治が決定する事が多い。


  皇帝は、15代続く世襲制だが、最近は、政治的な決定は軍と内政部の合議体で決める事が多い。


  説明を聞いている途中、僕は眠ってしまった。シェルさんは、一度、行った事があるはずなのに、何も知らなかったようだ。


  クレスタさんは、お国が帝国と親密なので、国内にも帝国の認証官が外交官として赴任しており、帝国の国情に一番、詳しかった。


  ノエルは、人間種だが、収容所に入れられると言われてから、真剣に聞き始めた。


  エーデル姫は、全く興味が無さそうだった。自分が拘束されたら、王国と戦争になってしまう。そんな事は絶対に無いから、大丈夫と思っているようだ。相変わらず、お気楽天使姫だった。


  真剣に聞いていたのは、クレスタさんだけだった。クレスタさん、後で詳しく教えてください。


  辺境伯のレクチャーは半日以上に及んだ。本当に、忙しいのにありがとうございます。


  僕は、もしシェルさん達に何かあったら、絶対に救い出すし、怪我以上の事があったら、必ず報復するつもりだったので、辺境伯のレクチャー中、眠ってしまったが、決して聞きたくなかった訳ではないんです。辺境伯閣下、ごめんなさい。


  辺境伯は、非常に心配していた。本当に大丈夫だろうか。心配なのは僕達のことではない。あの帝国が心配らしい。もし、帝国が無くなったら、自分の仕事も無くなってしまうのではないかと。4大精霊様、どうか帝国にご加護を。


  この辺境伯も、結構、残念な方のようだった。


  代行から必要な書類を貰って、お屋敷を出たら、昼食には遅い時間だった。少し歩くと、後ろから騎士団長さんが追い掛けてきた。用件は、僕達に自分の部隊の若い騎士に稽古を付けて頂きたいとの事だった。まだ、昼食を食べてないと言うと、隊でカレーを作っているので、よかったらどうぞ、と勧められた。


  カレーと聞いて、断るわけもなく、皆でお邪魔させて貰った。騎士団のカレーは、豚肉がたっぷり入ってバカうまだった。毎週、金曜日にはカレーを作っているそうだ。そういえば、今日は金曜日だっけ。


  食後、訓練場で稽古をすることになった。今日、非番の隊員は50人以上いるそうだが、稽古を付けて貰うのは10人に選抜された騎士のようだ。最初は、若く小柄な隊員だった。僕は、エーデル姫に最初の方の稽古をお願いした。


  エーデル姫の事は、既に隊員達も知っており、緊張が走ったが、可愛らしいミニスカ姿で、ニッコリ笑うエーデル姫に誰もが心をなごませるのだった。あざとい!


  相手の隊員は、顔を真っ赤にしていたが、エーデル姫が、木剣をスッと構えると、目付きが変わった。打ち込めない。半身のエーデル姫が、木剣の陰に隠れて見えなくなった。打つ間が分からないまま、闇雲に打ち込んでいったら、急にエーデル姫が、横に立っており、軽く小手を打たれた。


    「それまで!」


  審判の声が響いた。騎士さん達は、驚いた。エーデル姫の動きが分からなかったからだ。次も、同じだった。横の動きを防ぐために、横払いで打ってみたが、カツンと軽い音がして受けられたと思ったら、自分の胴が払われていた。


  それから3人、全く勝負にならずにエーデルの稽古は終わった。もう、騎士団の皆さんは、エーデルの動きではなく、スカートの裾だけを見続け、捲れそうになると、「オオー!」と、声を上げていた。何をしているんだ、君達は!


  続いて、僕が立った。左手には、長さ90センチの木刀を持っている。僕は、普段、短剣を使っているが、長剣が苦手な訳ではない。長剣と短剣の区別は、刃体の長さが60センチあるかないかで決まるらしい。しかし、長剣といっても、明鏡止水流の大剣に比べれば軽く短い剣だ。明鏡止水流の大剣は、長さが1.5m以上、刃体の幅が15センチ以上もあるのだ。


  僕は、仕切り線に立つと、ゆっくりと左片手で剣を構えた。僕が消えた。いや、本当に消えた訳ではないが、気配が無くなったのだ。そこに立っているのに、気を付けないと、僕の存在が見えなくなってしまうのだ。


  相手は困った。剣の動きも分からない。何も見えない空間に打ち込んでみたが、瞬間、僕は後ろに立っていて、右手の親指が痺れていた。


  シェルさんが説明してくれた。


  「今のは、完全に己の気配を消し、相手の『起こり』に合わせて、親指を切り飛ばす技、明鏡止水流『雨月』でした。」


  いや、そんな技無いから。初めて聞いたし。しかし、僕は黙っていた。稽古は、これで終わった。これでは、稽古にならないので中止したのだ。


  最後に、僕が明鏡止水流の型を披露した。少し恥ずかしかったが、『ベルの剣』を抜くと、恥ずかしさは消えた。静かに左中段片手持ちの構えになり、前に踏み出しての面打ち。剣が架空の相手の面を切り下げた時、剣から赤い光が迸った。全部で12の型を終えたとき、騎士さんの内、何人かは、激しく嘔吐し、殆どの者は、少し漏らしていた。静まり返る訓練場。シェルさん達は、もう夕食の事を考えている。


  僕は、『ベルの剣』を納刀した。カチンと鯉口が乾いた音を鳴らすと、訓練場に歓声が鳴り響いた。気が付くと、騎士さんの殆どの方と、ダンベル辺境伯も含めて事務の方々まで見物に来ていた。若い事務の女性は、立っていられなくなって、しゃがみこんでいた。


  辺境伯は、僕が、我が国民であった事に感謝していた。それと、帝国への心配がさらに強まったらしい。本当に帝国は、大丈夫かな?


  辺境伯の心配は的中するのだが、それは後の話です。





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  明日からの必要な買い出しを終え、夕食までまだ少し時間があったので、僕は、郊外に出掛けることにした。門の衛士さんとは顔見知りになっていたので、僕の顔を見ると直ぐに出してくれた。


  僕は、走って森まで行き、鹿や猪を狩った。鹿は、身体が小さいが雌の鹿を狩った。夕方近くなったので、狩るのは止めて、少し、小分けにしたロース肉以外は、召喚したワイちゃんにプレゼントした。


  当分、会えない気がしたのだ。ワイちゃんは大喜びして、お土産を足に持ち、持ちきれない分は、口に加えて持って帰った。どうしても持ちきれない分は、自分で食べたのは当然である。


  帰りに、鹿のお肉の一部を衛士さんに分けて上げたら、とても喜ばれた。


  その夜は、久し振りに、シェルさんと一緒のベッドで寝た。狭かったが、我慢していると、シェルさんが僕の手を取って来た。ノエルが隣で寝ているのに、何をする気ですか?


  暫くして、シェルさんが深い眠りについた後、僕は、そっとベッドを抜け出した。手を洗っていたら、ノエルが起き出してきて、立ったまま、シェルさんと同じことをしてきた。


  ノエルちゃん、あなた、まだ13歳でしょ。僕は、あきらめて、ノエルの好きなようにさせていた。

  シェルさん達とは、新しい展開が始まりました。これから、ゴロタはどうなるのでしょうか?

もう、ヒロインは、増えないのでしょうか?

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