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第2部第134話 東海岸を目指します。その13

(3月10日です。)

  『紅き剣』が、魔障シールドごとリッチの身体を切り離し、聖なる光で包み込んでやる。流石に、再生の闇エネルギーも、その力を失ってしまったようだ。しかし、放置しておくと再生してしまう可能性もあるので、『聖なる光』に包まれたままのリッチの胸にベルの剣を突き立て、魔石を取り出す。大きな魔石だ。黒曜石に似ているが、もちろん黒曜石では無い。闇属性の魔石だ。別に欲しいわけではなかったが、魔石を失った魔物は、魔力を蓄積することができないので、再生することが出来なくなるのだ。魔力は、この星では濃い、薄いの差はあってもどこにでもある。シルフの話では、液体、個体、気体のいずれにも属さないが確かに存在するものらしい。僕は、それ以上聞くと眠くなってしまうので、詳しくは聞かなかったが、とにかく魔物は体内の魔石が魔力の貯蔵庫になっており、魔力が満ちている場所で吸収した魔力を貯蔵し、体内にめぐり回らせているらしい。人間種が魔力を貯蔵するのは、魔石ではなく体内の細胞一つ一つに宿らせているらしいのだ。うーん、良く分からない。


  とにかく、これでリッチが再生することは無くなった。さあ、次は、敵の総大将、バンパイアロードだ。しかし、周辺に気配はない。僕は、精神を集中して、少しでもおかしな魔力の動きがないかを探ってみた。しばらく静寂の時間が流れている。その時、イフちゃんの『念話』が飛んできた。


  『ゴロタよ。逃げろ!』


  何が何だか分からないが、僕は、『瞬動』で北へ10m位移動してから、飛び上がった。その時、違和感に気が付いた。上空だ。空に大きな星が光っている。いや、光っているのではない。燃えているのだ。遥か上空から物凄いスピードで僕のいた場所目がけて落ちてくる。直径10m以上もある大きな炎だ。音も凄い。『ゴー!』と空気を切り裂くような音だ。僕は、北の上空へ向かって高速飛行を開始する。駄目だ、間に合わない。僕は、シェル達が待機している場所へ『空間転移』をするとキャンプ地全体を『蒼き盾』のシールドでドーム状に遮蔽した。同時に、地響きとともに熱風が襲ってきた。地面から受ける衝撃で身体が浮き上がりそうだ。南の空が赤く燃えている。これは、1度だけ見たことがある大魔法『メテオ』だ。遥か上空、空気が無くなるほどの上空に星を生成し、目的地まで落下させる。空気抵抗がないため、物凄い速度まで加速して、その後成層圏に突入すると空気との摩擦熱により、星そのものが太陽のような光と熱を持つ。そのまま地上に激突することもあるし、燃え尽きてエネルギーだけが地上を焼き払う事もある。それは術者の能力と術のタイミングにより決定されるようだ。いずれにしても地上部では大ダメージを受けてしまう。今回の場合は、数mの岩が地上に激突したのだろう。100キロ位離れていても、この衝撃波だ。地上にある者は、すべて焼き払われたか、存在を失ってしまったと予想できる。はるか遠く、南の空が赤くなっている。僕は、『蒼き盾』のシールドを消してから、シェルの方を振り向いた。シェルは小刻みに震えていた。セレンちゃんとゲル二ちゃんは気を失っている。何かにぶつかったと言う事はないので、あの衝撃のショックで気を失ったのだろう。


  地上は草1本生えていない焼け野原となっている。衝突地点に近づいていくと、大きなキノコ雲が立ち上っていて、その下には直径5キロ位の穴が開いている。深さは大したことはないが、それでも500m位の深さはあるだろう。穴の奥底には、煙でよく見えないが、マグマが蠢いている。こんな極大級魔法を使える魔物がいるなんて信じられない。シルフはバンパイアロードだと言うが、もっと上位の魔物ではないだろうか。


  そう、あの『名前を呼んではいけない男』だ。あの男は、元は天使、それも創造の神の右側に侍ることが許されていた『大天使長』だったらしい。その頃は、『明けの明星』とか『光を掲げる者』と呼ばれていたらしいのだが、最高の権威と力を与えられたその男はそれにうぬぼれてしまった。自分は神をも超越できるのではないかと考えたらしいのだ。そして彼は同調する天使達を集めて天上界で叛乱を起こした。その災厄は地上にまで及び、人間界における最初の災厄となったのは、今から3000年以上前の出来事だ。はっきりとは覚えてはいないが、何故か戦ったような気がする。ここ、アメリア大陸のクルス教の『預言者』は、その男と兄弟だったという説もあるが分かる訳が無かった。


  あの男は、ここで何をしたかったのだろうか。こんな辺鄙な大陸の端っこでリッチを率いたとしても、人間がいないのだ。得るものなど何もないだろうに。まあ、これでいなくなったのははっきりした。さあ、明日からまた東へ向かおう。あ、その前に、今日の夕飯を作らなくっちゃ。今日は、去年の聖夜に食べたケーキの予備をカットしてデザートにしよう。今日の戦いの御褒美だ。






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  それから10日後、僕達は小高い丘の上に立っていた。目の前には3キロほどの陸地が続き、その先は海だ。北の方から広い川が伸びてきて、入り江になっている湾に流れ込んでいる。湾の向こう側は、南北に細長い島のようになっているが、南の方で陸地につながっているので、半島のようなものだろう。


  ここには海辺の住民が暮らしているようで、木造の家が点在していた。人々の来ている服などは、ゲル二ちゃんが着ていたような貫頭衣で、頭に鳥の羽を付けているのも同じだった。浜辺まで行くと、丸太を削った船が何艘も係留されていた。湾内は波も静かなので、こんな船でも沈むことは無いのだろう。十数人の人々が、今日の獲物を仕分けしていた。かなり大漁のようだった。人々が僕達を不思議そうに見ていた。来ている服、立派な竜車、それに従えている地トカゲ。どれをとっても個々の文化にはないものだろう。


  「こんにちは、皆さん、何を取っているんですか?」


  シェルがニコニコしながら聞いている。うん、こういうところはシェルは遠慮がない。若い男の子が、顔を真っ赤にして


  「ボ、ボラだよ。」


  と教えてくれた。まあ、見た所ボラのようだ。驚いたことに、ここでは網を使って漁をしているみたいだ。それもかなりしっかり作られている。素材は何だろう。白い糸だが、キラキラ光っている。あ、あれは絹だ。ここでは絹の糸で網を作っているみたいだ。絹は、糸の素材としてはとても強く、これだけの太い糸を使ったら、ちょっとやそっとでは破れないだろう。そう言えば、丘の南側には桑畑が広がっていた。きっと養蚕と製糸も個々の主要産業なのだろう。網の中には、ボラ以外にもスズキや鯛なども入っている。今日は、魚料理にしよう。漁師さんに言って何匹か分けて貰った。お金を払うのか、物々交換か分からなかったが、銅貨150枚を要求された。え、お金が通用するのかなと思ったら、ここの村は、海岸沿いに航海してくる交易船で、色々な交易をしているそうだ。交易相手は獣人だそうなので、きっと中央アメリア王国の交易船が立ち寄っているのだろう。


  魚を買ってから、海の方を見ていて、何か変なものを見つけた。海の中から、何かが伸びている。よく分からないが、人間の右手のようだ。手に何かを持っている。何だろう。『遠見』スキルを使って拡大視したら、青銅製の腕のオブジェだ。手に持っているのは松明のようなものだ。きっと古代文明の遺跡だろう。鉄製だったらとっくに錆び切ってしまい形を維持できなかったのだろうが、青銅製だったので朽ちることなく残っているのだろう。しかし、あれが腕だと言う事は、胴体は海の中に沈んでいるんだろうか。今度、調べてみよう。


  今日の宿泊は、この浜辺の近くに野営しよう。そう思っていたら、一人の女性が近づいて来た。年齢は20歳位だろうか。黒目がパッチリした美人さんだった。


  「皆さんは、今日はどこに泊まるのですか?良かったら、うちの旅館を使って貰いませんか?」


  え、旅館があるんですか。でも、そんな大きな建物は見えなかったんですが。しかし、その娘さんが案内してくれたのは、ちゃんとした旅館だった。ただ、部屋が建物の中になく、松林の中に点在するバンガローが客室となっているのだ。食事は、母屋のレストランで食べるのだが、バンガローは、リビングと2階に寝室が2つあり、驚いたことにはシャワーもあり、なかなか快適そうだった。食事込みの宿泊料金は、大人1人銀貨2枚、子供は銀貨1枚と大銅貨2枚、竜車を引いていた地トカゲは、1匹あたり大銅貨3枚で世話をしてくれる。夕食の時間になると、さっきの娘さんが食堂に案内してくれた。


  料理は、魚料理がメインだったが、テーブルの脇に簡易コンロを置いて、鍋にたっぷりの油を入れて温めている。竹串に刺した魚介類を衣にまぶしてあげるのだが、天ぷらとは違う料理のようだ。揚げたての串をソースに付けてから食べるのだが、ソースを入れている壺には、『二度付け厳禁』という訳の分からない言葉が書いてあった。一度付けたら、もう一度付けてはいけないらしいのだが、お皿の上に乗せて、そこにソースをかけて食べたらいいのに、何故こんな面倒な食べ方をするのか理解できなかった。


  料理は、素晴らしい味だった。サザエとアワビの身を薄く切って、アワビのワタと醤油を混ぜたものに付けて食べる料理は、生の貝なのに濃厚で幾らでも食べられる。セレンちゃん、目の色を変えて食べている。よほど好きなのだろう。ゲル二ちゃんは、生の貝は駄目なようだった。


  ゲル二ちゃん用には、牛肉の表面をサッと炙ってからスライスした生のお肉が出てきたが、これはゲル二ちゃん、わき目も振らずに食べている。こうして素材を生で食べるのって、新鮮な素材をつかっているから大丈夫なので良い子は真似をしないように。そう言おうと思っていたら、シェルが度の強そうなアルコールをグイグイ飲んでいる。あのう、それ以上飲むと大変なことになりますよ。レストランの人に聞いたら、トウモロコシから作るお酒とサボテンの球茎から作ったお酒を混ぜたもので、火が付きそうな位強いお酒だそうだ。誰ですか、こんなお酒を持ってきたのは。

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