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第2部第133話 東海岸を目指します。その12

(3月10日です。)

  リッチを放置しておくのも気持ちが悪いので、夜まで待つことにした。シルフが、変な機械を出してきた。大きさは1m位だが、十字型の4本足がついていて全ての足にプロペラが付いている。


  「自立飛行型偵察用ドローンです。」


  シルフが説明しようとしていたが、完全スルーをして、探査はシルフに任せて夕食の準備を始める。今日は、お米と魚介類を一緒に煮込んだパエリアにする。


  材料は、


  ①いか、白身魚の切り身


  ②玉ねぎ、にんじん、セロリ、トマトの煮込んだもの、にんにく2片


  ③有頭えび、殻付きあさり


  後は米や調味料だ。大きなフライパンに、いかとみじん切りの野菜を入れて、オリーブオイルでじっくり炒める。イカは焦げ目がうまみの元になるので、あまり触らずに両面をじっくり焼いてから野菜を入れるのだ。玉ねぎが飴色になったら、つぶしたトマト煮を加えて更に煮詰める。フライパンに水分がなくなったら、残りの魚介と水、塩、サフランを加え、煮立ったら魚介を取り出す。


  えびを取り出すときは熱いので、いったん火を消して、素手でえびの頭をギュッと押して、えびのみそをスープに加えるのもテクニックの一つだが、火傷をするので良い子は真似をしないように。エビの香りのするスープに、米をサラサラとふり入れ、強火で5分炊き、さらに弱火にして12分かけて炊き上げる。仕上げに10~20秒ほど強火にかけておこげを作っておく。米のでんぷん質、魚介のゼラチン質が溶け出し、表面にうっすら膜がはってきて、縁がチリチリと鍋肌からはがれてきたら、強火にしておこげを作るのだ。


  最後に、フライパンに魚介を戻し入れ、レモンとイタリアンパセリを飾って出来上がりだ。


  まあ、和の国の『おじや』という料理のおしゃれバージョンだが、かなり美味しい。セレンちゃんは、とても気に入ってくれてお替りをしていた。シェルも気に入っていたが、お肉系も欲しいと我儘を言っている。まあ、そんな要望はスルーしようかと思ったが、作り置きのビーフシチューを温めなおして出してあげた。セレンちゃんにも出そうかと聞いたが、首を横に振っていた。セレンちゃん、平素は本当に食が細いので、今日、お替りをしたのはよっぽど気に入っていたのだろう。食後のデザートは、栗のムースをケーキスポンジの上に乗せたものだ。ケーキの中にも甘く似た栗のかけらを挟んでいる。シェルが、お替りが欲しいと言ってきたが、『これ以上食べたら太るよ。』と言ったらあきらめたようだ。


  テントの中には寝袋が3つ、一つは僕とシェル又はセレンちゃん用だ。シェルとセレンちゃんは交代交代で僕と一緒に寝ている。ゲルニちゃん用の寝袋も準備しているのだが、シェルかセレンちゃんと一緒に寝袋の中に潜り込んでいる。結局、いつも寝袋が1つ余っているのだ。シルフは、テントの外、竜車の屋根の上で何やら機械を操作している。大きなムカデのようなものが付いた棒を立てている。その棒は、根元の機械でゆっくりと回転しているのだ。その機会に手を振れていると、探査ドローンの映像が分かるらしい。そう言う時のシルフの目は赤や青、緑に光っていて少し気持ちが悪かった。探査用ドローンは、暗い所でも生物が発する熱を探知できるみたいで、リッチと言えども魔エネルギーを消費して生きて?いるので、必ず反応があるそうだ。


  深夜2時、シルフが僕に『念話』を送ってきた。というか、思考を静的エネルギーに変えて僕に転送しているだけなのだが。


  『ゴロタ様、発見しました。ここより5時の方向、距離43キロです。』


  僕は、シェルを起こさないようにそっと寝袋の中から出て、ズボンと上着を着る。『ベルの剣』や『オロチの刀』は、イフクロークの中だ。イフちゃんに、現場に行って貰うようにお願いする。イフちゃんとは、思念共有ができるので、イフちゃんが見ているものは僕も一緒に見ることができるのだ。夜の冷気の中、大きく深呼吸をする。体の細胞一つ一つが活性化してくるのを感じる。イフちゃんがリッチを発見したようだ。立地は、草原の中の大きな木の根元にいた。この辺には、墓地や戦跡がないので、リッチやゾンビを作り出すことが出来ない。さっきのリッチ達は一体どこから来たのだろうか?


  リッチは高位魔法使いが変異したものなので、浮遊や転移等の高レベル魔法を使える者も多い。と言うことは、これから先、中央アメリアの戦場跡に行って、大量にリッチを創出する可能性もあると言うことだ。やはり今のうちに殲滅しておこう。


  僕は、リッチ達が潜んでいる大木の近くに転移した。気配を完全に消しているので、リッチ達に気づかれることは無いだろう。闇の瘴気を纏っているリッチたちは、夜の暗闇の中で発見するのは困難だが、僕には関係なかった。『夜目』スキルと『探知』スキルで、奴らの存在ははっきりと認識できる。全部で8体、随分いるようだ。中でも魔力量が半端ない者が1体紛れている。明らかに他のリッチとは異なる。単に高位な魔法使いだったと言うレベルではない。奴は、人ならざる者、人を超越した者だった可能性がある。そう、神の領域に近い闇の使徒だ。デーモン、それも爵位を持っているデーモンロードか、デーモンジェネラル以上の存在だろう。何故、そんな高位な者が、こんな何もない所にいるのだろうか。


  そいつが、こちらを見ていた。完全に気配を消していたはずなのに気付かれてしまった。リッチが浮遊しながら近づいてくる。さすがに7体のリッチは急上昇してから、急降下で接近してくる。夜空に高速で移動されると非常にとらえにくい。と思った瞬間、僕の直ぐ右脇で大爆発が起きた。無詠唱、無動作のファイアボムだ。それも飛んでくるのではない。突然、何もないところが爆発するのだ。僕の周りを『蒼き盾』が囲んでくれて衝撃とエネルギー放射を防いでくれたが、僕の後方50m位の地面が燃え上がっている。と思ったら、次々と僕の周りで爆発が起きている。集中攻撃を受けているのだ。『蒼き盾』が完全に防いでくれている筈なのに、身体の周りが熱くなってきた。あまりの熱エネルギーの多さに、さすがの『蒼き盾』も微妙に熱を通している。こんな経験は初めてだった。僕は、この場でじっとしているわけにも行かず、そのまま『オロチの刀』を抜いて、飛び上がった。リッチが浮遊している100m位の高さまで上昇して、その場で静止した。目の前のリッチは、目が全くなく、骸骨のような顔の目の部分が少しくぼんでいるだけだった。


  そのリッチは、背中から茨の枝を伸ばしてきた。10本以上の枝がウネウネと僕の方に伸びてくる。『蒼き盾』のシールドごと僕を拘束する。と同時に他のリッチが僕の真上にアイスランスを浮かばせている。勿論、僕の方へ向けてだ。かなり大きいアイスランスだ。これほどの大きいアイスランスなど見たこともない。僕は、茨の枝で拘束されながら、上のアイスランスの傍に高エネルギー球を発生させた。アイスランスが僕目がけて降下を始めたが、その途中で溶けてしまって水蒸気になってしまった。まあ、直ぐに飛行機雲のような伸びている雲になったのだけれど。


    バチーン!


  後方から、電撃の衝撃が走った。『痛い!』と思った瞬間、僕は、50m位右に空間移動をした。さすがに背中への攻撃では、僕の意識は皆無なので、『蒼き盾』の防御能力のみでは完全に無傷とはいかないようだ。僕は、あきらめて『オロチの刀』を納め、左手に『紅き剣』を握った。サイズは大剣レベル。属性は勿論『火』属性だ。遥か向こうでは、イフちゃんが『地獄の業火』を浴びせているが、リッチの何重もの瘴気のシールドにより跳ね返されている。あれ、これって少し不味いかな。まだ最強の奴は何もしていない。いや、何かしている。イフちゃんが『念話』で教えてくれた。


  『あ奴は、バンパイアロードだ。このリッチどもに魔力を注入している。そのため、奴らは最大級の魔法を連発できるのだ。』


  なるほど、リッチが最大級魔法を連発するなど、国家レベルで消滅してしまう。このまま放置すると、この大陸まで形が変わってしまう。僕は、無駄かも知れないけれど、『紅き剣』に力を込めて、バンパイアロードに向けての斬撃を放った。しかし、バンパイアロードは、手の平で僕の斬撃を食い止めている。闇のシールドが次々と破壊されているが、同じ速度で生成されているので効果が無くなっているようだ。これではキリが無い。


  まず、僕に次々と魔法攻撃を仕掛けてくるリッチをなんとかしなければならない。僕は、全ての攻撃を跳ね返しながら一番近いリッチに近づいていく。そいつは、真黒な目を見開いて、腰の剣を抜き放った。闇の黒い瘴気を纏っている大きな剣を振り降ろしてきた。僕は、身体をわずかに右によけてから『紅き剣』を右から左に払った。『ズボッ!』と鈍い音を立てて、リッチは上下二つに分かれたが、倒れることもなく、その場に立ち尽くしている。切り口からウニョウニョと黒い何かが出てきて、上下が繋がってしまった。左右からリッチが切りかかってきた。『瞬動』で上に移動して躱すとともに『聖なる力』を込めた雨を降らせてやった。しかし兜に鎧で身を固めているリッチにはあまり効果がないが、動きを押さえるのには効果があるようだった。リッチ達は、雨から逃れるように、下がり始めて来た。


  僕は『紅き剣』を頭上高く掲げ、力を込めていく。自分の体内からエネルギーが『紅き剣』に流れていくのを感じた。『紅き剣』は、平素は赤く光っているのだが、それが黄色に近い色になり、青みがかった色になり、最後は白い光の剣になって行った。刃体の長さは3m近くもある。そのまま、リッチ達の頭上に振り降ろしてやる。刃体が、まっしぐらに飛んでいき、リッチの真上で方向変換をして真下に落ちていく。ゆっくりした速度で落下していったが、リッチの群れの中央付近の地面に深く突き刺さってしまった。


  『紅き剣』の刃体は、通常の鉱石由来ではなく、エネルギーの物質化によるものらしいので、地面程度の硬度では全く影響力をうけることはない、それ地面に突き刺さったくらいでは抜けなくなる恐れはない。しかし、差しっぱなしにして刃体から熱を放射する。地面が紅く光り始めた。リッチ達の足下にも広がって行く。リッチが逃げ出そうとしたが、『ズボッ!』とリッチの足が真っ赤に溶けた大地の中にはまり込んだ。その刹那、自分が嵌らないように注意しながら全てのリッチを殲滅した。

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