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第2部第127話 東海岸を目指します。その6

(2月22日です。)

  今日は、1日、市内観光の予定だったが、急遽ヘビ退治になってしまった。シェルは、蛇皮のバッグなどは好きだが、ヘビそのものは嫌いだそうだ。あのニョロニョロ感とチロチロ出す二又に分かれている舌がダメらしい。蛇は、獲物を噛まずに飲み込むので、大柄の鳥人種を丸呑みするとなると、かなり大きいのだろう。


  シェルは、討伐をパスして、セレンちゃんとお留守番だ。二人でお買い物に行くと言っていた。僕は、隊長さん達と討伐に出発した。衛士隊の皆さんは、腕を大きく広げて樹上の発射台から助走をつけて飛び上がっていく。そのまま滑空に映るのだが、手には翼のような形をした器具をつけている。脇の下だけでは、浮力が足りないので、翼を延長しているのだ。それにより滑空距離が飛躍的に伸びるとともに、上昇気流に乗って高度を稼ぐこともできるようだ。お尻には長い尾羽が付いており、方向やバランスを取るのに使っているようだった。僕は、当然に『飛翔』スキルを使用して、彼らの後をついていく。今日は、市の南側を探索するそうだ。昨日の大蛇の擦った跡が南に伸びていたからだ。しかし、かなり深い森で、迷彩模様の大蛇を探すのは至難の業だ。案の定、1時間以上探索しても見つからなかった。もう衛士隊の皆さんはクタクタのようだった。一度の滑空で空中にいるのは長くても10分程度だ。


  地上に降り立つ度に、高い木の上に登って風を読んで飛び降りるのだ。木の上では助走が出来ないので、5m位は落下してしまうので、その分、高く登らなければならないようだ。


  一旦休憩を取ることにしたが、僕は、飛空石を20個位取り出して、バードリッチさんに渡した。鳥人種は、本来魔的存在なので浮遊の魔力を少なからず持っている。しかし、それは羽ばたいたり滑空する時に自然に消費されるもので、『浮遊』と『飛翔』のスキルはないので、自力で飛び上がることはできないようだ。僕は、飛空石を皆に渡してあげた。バードリッチ体調が、


  「こ、これは・・・、あの失われたと言われている『飛空石』ではないですか?」


  「はい、そうです。僕が作りました。」


  「つ、作ったあ?!」


  飛空石は、適当な無属性の魔石に『飛翔スキル』の力を注ぎながら、『錬成』で力を閉じ込めることで作れる。ただ、二つともレアスキルなので、普通は作れる者はいないのだろう。詳しいことは説明せずに、使い方を教えてやる。特別の技術はいらない。飛空石に魔力を流し込む事によって、飛空石に触れている物質が浮き上がるのだ。彼らは飛行のやり方は理解しているのだ。浮かび上がる事が出来さえすれば、鳥のように飛ぶことが出来るだろう。


  それからは、いっきに南下を始めた。彼らは、飛空石の力で高度100m位まで浮上し、それからは翼を使って滑空するのだ。一度の飛行で1000m以上進むこともできるようだった。しかし、ターゲットの大蛇はなかなか見つからなかった。蛇の特性として、地面の穴や木の牟婁に隠れて、獲物が近づくのを待ち、空腹になったら夜間、餌を探しに這い出てくるのだ。しかも、昨日、1人の鳥人を食べているので、今頃は満腹で、膨らんだお腹の中の獲物が消化されるのをじっと待っている状態なのだろう。僕は、イフちゃんと手分けをして大蛇の気配を探すことにした。僅かな気配でも、感知さえできれば、その気配を手繰って行って大蛇の巣を探し当てることが出来るはずだ。


  探査を初めて1時間位立っただろうか。イフちゃんから『念話』が届いた。大きな樹の根元の穴が怪しいというのだ。僕は、バードリッチさんにそのことを伝えて、二人でその大木の傍まで飛行していった。その木は、大きなセコイアの木で、根元に露出している太い根の脇に大きな穴が開いていた。大蛇の姿は見えないが、確かに中から生臭い匂いが漂っている。バードリッチさんは、懐から信号筒を出して、空中高く狼煙を打ち上げた。空中で爆発するとき、大きな音もだすので、遠くからでも位置が確認できる狼煙だった。


  次々と衛士さん達が集まってきた。1名の衛士さんが、松明に火を付け穴の中に投げ入れた。穴の中が一瞬明るくなり、奥の方に、松明の光を反射する真っ赤な目が二つ見えた。松明の火は、直ぐに消えてしまい、穴の中から大蛇の頭が出て来た。大蛇は、そのまま頭を持ち上げて、地上部に全身が出て来た。これは大きい。人間を一呑みにする位だ。大きいと思っていたが、僕の想像をはるかに超えていた。頭だけでも2m位あり、胴周りも3m位だろうか。長さに至っては、絶対に15mは超えているだろう。衛士さん達が、次々と弓で攻撃するのだが、大蛇の硬い鱗に阻まれ、1本の矢も突き刺さらなかった。大蛇は、チロチロと紫色の下を出していたが、一番近くにいた衛士さんに向かって、舌を伸ばし、紫色の液体を吐きかけた。液体を掛けられた衛士さんは、その場にもんどりうって倒れてしまった。あの液体は、きっと猛毒なのだろう。あっという間に、衛士さんは死んでしまったようだ。


  衛士さん達の中から、槍部隊が攻めていった。大きな盾で、毒液攻撃を防ぎながら、3mもある槍を正面に構えて進んで行く。至近距離まで接近すると、両手で思いっきり槍を突き刺そうとするのだが、やはり硬い鱗に阻まれ、槍の穂先がポッキリと折れてしまった。僕は、大蛇の口の中にファイア・ボールを撃ちこむ。大蛇は、慌てて口を閉じようとしたが、完全に後手だった。鈍い破裂音の後、大蛇の頭は消滅していた。というか、大蛇の胴体を取り巻くように頭の破片が散乱している。しかし、大蛇はまだ死んでいないようだった。頭が無いのに、ウネウネと胴体をくねらせている。衛士隊の皆さんが、剣を抜いて頭のない大蛇に襲い掛かって行く。どういう訳か知らないが、大蛇から流れ出ている血液も紫色の混じった赤色で、きっと毒血液なのだろう。その液体は浴びないようにしながら、大蛇に切りかかって行く衛士さん達だったが、なかなか決め手に欠けているようだ。僕は、ゆっくりと『オロチの刀』を抜き、大蛇の胴体を2m置きに『斬撃』を飛ばしていく。切り離された大蛇の身体は、流石にそれ以上動き続けることが出来ずに沈黙してしまった。ぷっくらと膨らんだお腹を切り裂くと、昨日、食べられてしまった衛士さんだった。顔が溶けているのは、消化液が強力なのだろう。


  僕は、バードリッチさんに頭を貰ってよいか尋ねた。ここでは冒険者ギルドもないので、討伐でのドロップ品や魔物の身体の一部を引き取ってくれる店も無いのだが、これだけ大きな大蛇の頭だ。きっと高額で引き取ってくれるはずだ。大蛇の頭をイフクロークに収納した後、シェルのために皮を剥ごうとしたが、その前に、大蛇の身体一面に張り付いている鱗を剥がすことにした。鋼鉄の矢や槍を弾き飛ばすのだ。きっと超高硬度の鱗なのだろう。大きさにしても縦30センチ、横15センチはある。僕は、200枚位回収してから、今度は大蛇の皮を剥ぎ始めた。これは、シェルへのプレゼントだ。薄黄色の地色に黒色と緑色の大きな斑紋の入った皮だ。帝都にできた『ハナコ・モリ』セント・ゴロタ店に持ち込んだらいいバッグを作ってくれるだろう。


  巣穴の中は、異様な匂いがしていたが、隊員2名が松明をかざしながら中に入って行った。暫くしてから、直径50センチはあるだろう大きな卵を抱えて出て来た。あの大蛇が産んだのだろう。と言う事は、今、解体されている大蛇はメスで、この近くにオスもいると言う事だ。しかし、イフちゃんから、森が深いため、他の大蛇の匂いや気配は分からないと言われた。僕も、探してみたが、やはりいないようだった。大蛇の切り身は、毒血液が垂れなくなってから衛士さん達が背中に背負って、徒歩で運ぶことになった。と言っても、この深い森の中を下草をかき分けながら進むのはかなり骨の折れることだ。僕は、衛士隊本部の前にゲートを開き、皆で『空間転移』をすることにした。


  バードリッチさんは、今回の御礼がしたいと言ってくれたが、大蛇の頭を貰ったので、これ以上は要らないと断ることにした。鳥人達の間には、通貨と言う概念がなく、卵の殻や羽毛にそれぞれ価値が付けられているのだ。バードリッチさんは、直ぐに気が付いたらしく、衛士隊の奥の方から、小さな皮の袋を出してきた。中は、緑色の宝石と金の粒だった。あまり大きなものではなかったが、彼らにしては精いっぱいの気持ちなのだろう。これは、シェルが喜びそうなので、遠慮なく貰う事にした。


  もう、夕方近くだったので、軽く食事をすることにしたら、バードリッチさんが、是非、ご馳走させてくれと言ってくれた。そう言えば、この街のグルメは何か分からなかったので、お付き合いさせてもらった。衛士隊の幹部の方々3名と共に、近くのレストランに行ったが、そこは、牛の舌を料理する専門店だった。店の名前は『いのすけ』という変わった名前だった。牛の舌が食べられることは知っていたが、あまり食べることは無かったので、どんな物かたべることにした。シェル達に『念話』で、このレストランに来るように連絡した。


  店の中で暫く待っていたら、シェルとセレンちゃんがやってきた。僕は、牛の舌がこんなに美味しいとは知らなかった。炭火であぶってから、レモン汁や醤油だれに付けて食べるのだが、ヒレ肉やロース肉とは違った風味の肉だった。これならいくらでも食べられそうだった。シェルは、焼きあがる端からガツガツ食べていたが、地元のサボテンの実から作られたお酒もガンガン飲んでいる。セレンちゃんは、サボテンの真っ赤な実に開けた穴にストローを入れた飲み物を飲んでいた。シェルさん、これ以上飲むと、酔っ払いますよとおもっていたら、時すでに遅く、ろれつの回らない口調で、バードリッチさんに対し、今回の討伐報酬の少なさに文句を言っていた。


  バードリッチさん、ごめんなさい。




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