表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
574/753

第2部第125話 東海岸を目指します。その4

(2月12日です。)

  ビラさんの親戚の村は、『ヨークタウン』と言う村だった。特に行政区域がある訳ではないので、自分達で自由に名前をつけているらしい。家屋が200戸位のところを見ると、子沢山の兎人だとしても、人口1200人位だろうか。あの魔物の数からしたら、2日分位の食料だったかも知れない。


  僕は、イフちゃんに先に行ってもらって、魔物の気配の元を辿って貰った。暫くするとイフちゃんから、思念が届いた。村から60キロ位の場所の、大きな杉の木の根元に開いた穴が根源らしい。そこに直接転移しても良かったが、途中に魔物が残っている可能性があるので、駆け足と転移を繰り返しながら進んでいく。最初は、周辺の魔物の気配を探りながら走る。周囲に居なくなれば、500m位転移して、また走り始める。こうして走って、ゴブリンやオークを絵殲滅して行った。彼らは、足が遅いため魔物本隊から取り残された、いわゆる『はぐれ』達だった。しかし数が多い。まあ、放っておいても、餌が少ない上に野獣に襲われて淘汰されていくだtろうが、集団が大きくなると脅威となるので、今のうちに殲滅しておく。森の樹木を伐採したく無かったので、熱エネルギー弾を10数発発射して、木立の間を誘導する。物陰や地面に穴を掘って隠れている者も100%命中だ。ただし威力を絞っているので、頭が吹き飛んだり、胴体に大きな穴が開く程度だ。


  あっという間に洞窟の入り口前に到着した。穴の中から強い瘴気が溢れて来ている。このまま放置しておけば、また大量発生してしまうだろう。僕は、イフちゃんに『地獄の業火』をお願いした。イフちゃんは、最深部に超高熱の『地獄の業火』を炸裂した。穴の出入り口から真っ赤な焔が噴き出て来た。おそらく下級魔物ならば、骨も残らずに溶解しているはずだ。確認していないが、リッチなどの高位魔物ならシールドで防いでいるかも知らないが、溶岩のような洞窟の中では、いつまでも防いでいられないだろう。


  穴から噴き出ている焔が収まってから、僕は『聖なる光』を穴の奥深くに放った。青白い光が穴から漏れ出ている。これで穴の中の魔障エネルギーが消滅したはずだ。リッチなどは、生存の根源を失ってしまっただろう。


  最後の仕上げは、穴の中を土魔法で塞いでしまうことだ。通常のダンジョンのように、冒険者ギルドが近くにあれば、存在価値もあるのだが、この穴のように放置せざるを得ない場合は、埋めてしまうのが一番だ。大量の土砂を穴の中で生成し、穴の奥の細部まで埋めた後、厚さ5m以上の岩盤で穴の出入り口を塞いでしまう。これで措置は終了だ。


  野営地に戻ってから、ラビさん達の処遇について相談した。北の集落に戻る案もあったが、治安が悪く、常に狼人などの野盗に怯えながら暮らしていかなければならない。それでも夫がいたので、なんとか生きて来れたが、夫がいない今、これからどうして良いか分からないと言ってた。


  ラビさんは、まだ若いしビットちゃんだって、頭が良いんだからきちんと学校に行かせるべきだ。シェルが、いい働き口があると言っている。ちょっと不安になったが、ハッシュシティのエリーさんの店だ。あの店って、娼館ではないが、兎人の女の子がギリギリのレオタードを来てお客さんんにお酒を飲ませる店だったような気がしたのですけど。でもラビさん、物凄く興味を持っているみたい。兎人は、生きていくことが難しい種族の特性か、種の保存に関し異様なほど積極的なのだ。まあ、あれが好きな人が多いと言うことなんですけど。







  次の日、僕とラビさんは、ハッシュ市のラビット亭本店に行ってみる。この店は、15歳未満は立ち入り禁止の店なので、ビットちゃんは連れて行けない。久しぶりに行ってみて驚いた。店長のエリーさんは、赤いロングスカートに黒のブラジャーだけなのだが、赤いロングスカートは、腰までのスリットが入っていて、レースの下着が見えている。店で働いているホステスの女の子達の着ているレオタードも、股の切れ込みが激しく、ギリギリ隠していると言う感じだった。この店は、お触り厳禁で、会話とお酒を楽しむだけの店だ。店の女の子との店外デートは、1時間5000ギルを店に払えば自由だし、店外デートでの収入は100%女の子の収入になるらしいのだ。


  エリーさんは、ラビット亭の他に、過激サービスがある『濡れた兎』店も有り、あと娼館等に娼婦を派遣する置き屋も経営しているそうだ。かなり儲けているはずなので、エリーさんが店に立たなくても良いはずなんだけど、好きなので立っているそうだ。


  ラビさん、物凄く興味を示している。エリーさんがの話を聞きながら、目がとろんとして来ている。あ、欲情モードに入っているようだ。貴女、ご主人が亡くなってから、未だ喪が開けてないでしょう。しかし、兎人の常識では、配偶者が亡くなった瞬間に、次の配偶者を決めることも多いらしいのだ。それに兎人などの獣人は、基本的に異種間の交雑はないので、人間相手には避妊の必要がないそうだ。そのことも兎人が人気の高い理由らしい。


  言葉の問題はあったが、お客さんが色々教えてくれるから問題ないとのことだった。結局、今晩からフロアの片付けなどで入ってもらう事になり、店の母子寮に入ることまで決まってしまった。


  ラビさんは、その母子寮の掃除をしているので、ビットちゃんを連れてくる事になった。僕は、野営地に戻り、ラビさん達の荷物を持って、ビットちゃんと一緒に母子寮の前に転移した。荷物といっても、トランク2つだけだったし。僕はラビさんに旦那さんの遺骨の入った箱と、当分の生活費として200万ギル、つまり金貨2枚を渡しておいた。ラビさんは、泣きながらお礼を言い、僕に抱きいついて来た。普通のハグのつもりだったのに、キスをして来て、それも濃厚なキスだった。それだけではなく、僕の手を取って自分の股間に導こうとしたので、思いっきり突き放して、そのまま野営地に転移してしまった。危なかった。兎人さん、どうして皆ああなんだろう。


  僕達は、一旦進路を北に取り、東西横断の街道まで戻る事にした。街道といっても、踏み分け道に近く、舗装もなければ宿場町もない。点在する集落も、少ない旅人が宿泊する設備もなかった。旅人は、村人の家の客間に寝かしてもらうか、村の集会所の一角に泊まる位だ。勿論、風呂などない。と言うか、この時期、水浴びもできないので獣人特有の匂いが強い場合が殆どだ。人間族の旅行者など殆どいないので、誰も気にしないようだった。


  東へ向かって大きな山の麓に着いた。南北に連なる山々を越えるのは、かなり大変そうだ。まあ、山登りセットがあるから登れないことはないけど。絶対にシェルが、途中で抱っこしろとわがままを言うに決まっている。山の麓には、木樵小屋がいくつか点在していて、雑木を切り倒して、冬場の燃料にしているのだろう。木樵は熊人が多かった。あの険しい山から思い薪を背負って降りてくるには、屈強な肉体と体力が必要だ。獣人の中でも熊人は適任だろう。しかし、周辺の集落で消費する燃料などたかが知れている。冬の間は、暖房用の薪を売り歩き、春から秋にかけては鹿や猪などを狩猟して生活しているのだ。


  僕達は、そんな木樵一家の小屋に一晩お世話になった。ご主人に、明日から山越えをするといったら、女子供を連れて、そんな軽装備だと死にに行くような者だと言われた。それにこれからは雪崩も多くなるし、『冬の精霊』達が悪さをするから、やめたほうがいいと言われた。『冬の精霊』とは、この辺の言い伝えらしいのだが、冬山で遭難すると『冬の精霊』が怒っているからだと言うのだ。それが本当だとしても、僕は氷の精霊『フェンリル』と盟約を結んでいるのできっと大丈夫だろう。


  翌朝、熊人一家には、1泊のお礼として、塩や砂糖などの調味料と鮭の干物を1年分プレゼントした。まあ60匹位だけど。さあ、これから山登りだ。






  山と言っても、森を抜けていくと突然、高い崖が目の前に現れた。凄い高さだ。1000m近くありそうだ。崖の天辺は、雲や霧に隠れてよく見えなかった。


  この崖を登るのは、シェルやセレンちゃんには難しいので、しょうがない。まず竜車を地トカゲごとイフクロークに収納し、右手にセレンちゃん、左手でシェルの手を握り、そのままゆっくりと浮遊する。雲を突き抜けたところは、平原になっていた。地平線の向こうまで続く平原だ。その先に、かなり高い山が連なっている。崖の上は大地のようになっており、その大地の中に、もっと高い山があるのだ。山は、雪で真っ白だし、平原だって、銀世界になっていた。


  崖の上に着地した僕達が目にしたのは、雪の中に作られている雪の家だった。半円形のドームのようになっていて、ドームの側には、大きな鹿が半分雪に埋もれながら、雪を掻き分けて草を食べていた。僕達は、1件の家を訪ねてみると、中には鹿の毛皮を何重にも重ね着している犬人の家族だった。今の季節、この集落を訪ねる人など、皆無らしく、主人が驚いていた。夏場は、あの崖に作られている登山道があり、1日がかりで登ってくるらしいのだが、今の季節は雪に閉ざされ、登ってくるのは不可能らしいのだ。


  冬の間だけでも、崖の下で暮らせば良いと思うのだが、秋までに蓄えた食料があるので、大丈夫なのだそうだ。まあ、それぞれの生活があるのだろう。


  この高原はビアナ高原と言い、東の果ての山までは、犬人か猫人が集落を作っているらしい。大型野獣がいないので、鹿や猪、兎などの草食獣が大繁殖しているらしいのだ。僕達は、まだ陽も高かったので、早々にお暇をして、東を目指して出発することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ