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第2部第124話 東海岸を目指します。その3

(2月3日の夜です。)

  あのあと、サンフラン市の孤児院前にゲートを繋ぎ、犬人の子達4人を連れて転移してきた。院長先生は、孤児院の奥の一軒家に住んでいたが、僕達が訪ねて来たと聞いて、わざわざ奥から出て来てくれた。皆で孤児院の中に入る。真冬だと言うのに、暖炉の火が赤々と燃えて、孤児院全体が温かかった。院長先生は、子供達を見て、直ぐに理解したようで、今日の当直の専制に4人を頼んでくれた。僕は、今後のこともあるので、金貨4枚、つまり400万ギルを渡して、当座の運営費にしてくれるようにお願いした。


  犬人の子達は、並んで僕にお礼を言ってくれたが、その前にズボンを履き替えましょうね。


  元の場所に戻ったら、既に昼食の後片付けは終わっていた。勿論、シェルやシルフがやる訳が無かった。ウサギ人のお母さんがやってくれたのだ。ウサギ人のお母さんは、ラビさんと言い、今、21歳だそうだ。女の子はビットちゃんと言い、今、8歳だそうだ。え、と言う事は、ラビさん、ビットちゃんを13歳で産んだんですか。ウサギ人としては、普通のことだそうだ。


  今日の野営地は、狼人達の遺体が転がっている所から南へ10キロほど進んだところだった。大きな楡の木の根元にテントを2つ張って、野営の準備だ。冬だけど、身体に狼人の血が付いているような気がしたので、お風呂を沸かすことにした。さすがに洗濯石だけでは気持ちが悪い。最初にシェルが入り、次にラビさん親子に風呂に入って貰う。僕は、食事のための枯れ木を集めに森の奥に入って行く。枯れ木は雪の下に埋もれているが、必要な分だけ『念動』で掘り起こす。熱エネルギーを当てて乾燥させると立派な焚き木になる。集め終わったところで、野営地に戻ると、シェルとシルフが暇そうにしている。ラビさんは、ビットちゃんがお風呂から上がって眠たそうだったので、テントの中で寝かせているそうだ。今は、セレンちゃんがお風呂に入っている。


  僕は、料理の前にお風呂に入ることにして、取り敢えず、調理台の上に食材を並べる。今日の夕食は、小エビのクリームパスタにした。ラビさん達の大好物のリンゴをデザートにした。飲み物は、100%オレンジジュースだ。あと、もうそろそろ季節が終るフレッシュオレンジも準備した。新鮮なオレンジを食べやすいサイズに切ってお皿に乗せていく。パスタを茹でるのは食べる直前にするので、この段階で、一旦、準備を終了しお風呂に入ることにした。セレンちゃんが、僕と一緒にもう一度入ると言っている。それを聞いてビットちゃんまで『私も』と言い始めた。シェルとラビさんが『メッ!』をしていたが、ラビさん、迫力がありませんよ。


  テントは、二つ貼ったが、ラビさん達も一緒のテントで眠ると言うのだ。ビットちゃんが、セレンちゃんだけ狡いと言って、グズるらしいのだ。しょうがないので、皆んなで一緒に寝る事にしたが、セレンちゃんは、僕と一緒の寝袋で寝ることだけは譲らなかったので、ラビさんとビットちゃん、セレンちゃんと僕、そしてシェルの順番で眠る事にした。シェルは、物凄く不満そうだったが仕方がない。我慢して貰うしかなかった。


  次の日から、5人の旅が始まった。別に意識しているわけでは無いが、僕の旅の仲間は、いつもハーレムパーティーになってしまう。


  まあ、セレンちゃんとラビさん親子は、全く戦闘力にならないので、冒険者パーティーにはならないが。竜車の手綱をセレンちゃんに任せていたら、ビットちゃんも『やってみたい。』と言い始めた。


  『ダメなの。これ、セレンの仕事。』


  セレンちゃん、涙ぐみながら言っている。セレンちゃん、貴女は200歳のお姉さんなんだからと言おうとしたが、セレンちゃんの長い睫毛からポタポタ垂れる涙を見て何も言えなくなってしまった。


  御者台の上で、セレンちゃんに『九九』を教える。五の段までは言えるのだが、六の段からは怪しかった。『六七、四十六』と言ってしまう。何度かやっているうちに、ビットちゃんが、『九九』を言い始めた。完璧だ。一の段から九の段までつかえることなくサラサラ言えた。セレンちゃん、黙って下を向いてしまった。涙がポタリと垂れて来た。ビットちゃんは、学校に行っていないが、村の大人達から、読み書きを習っていたそうだ。セレンちゃんは、ダンジョン暮らしが長かったし、文字や言葉も習ったことはない。幾ら300歳以上と言っても、知能程度は小学校1年生並みだ。


  「セレンちゃん、セレンちゃんも頑張ったよね。」


  僕は、セレンちゃんの頭を優しく撫でてあげた。ビットちゃんが悔しそうにしていたが、そこは我慢して貰おう。


  それからは、『九九』の練習と、グレーテル語の練習だ。人間の世界に来たのが、去年の5月だ。それからずっとアメリア語の中で暮らしていたし、首輪翻訳機のお陰で不自由は無かったが、1月10日から行っている小学校ではそうはいかない。翻訳首輪を外して、グレーテル語学級の授業を受ける事になっている。でも学校に通学したのは、たった3週間だけで、今、僕達と一緒に冒険旅行をしていては、キチンとした勉強なんかできないだろう。結局、学校には新学期から1年生として再入学する事にし、それまでは僕とシェルがしっかり教えないと。まあ、セレンちゃんとは、きっと長い長い付き合いになるのだろう。


  今までの旅の同行者と違い、セレンちゃんとは期せずして隷従の契約を結んでしまったので、離れ離れになることが我慢できないのだろう。他の妻達も、セレンちゃんの素性を知ってしまったみたいなので、特に不平は無いようだ。


  セイレーンが成熟した女性になることはないのだろうか。元々、魔力によって変身しているから姿形を自由に変えられそうに思うのだが、どうもそうでは無いらしいのだ。今までのダンジョンのセイレーンの中にも幼女から老婆までいて、それぞれに消滅するまで、その外観が変わることはないのかもしれない。天上界の神々がずっと同じ年齢なのと同じ理由だろう。


  ラビさんの親戚の森には、ここから6日の行程だった。暖かくは無かったが、雪は積もっていなかった。山間から強く吹き下ろす南風は乾燥していて、骨の芯まで凍えるほど冷たかった。そんな中、ラビさんの親戚の村は廃墟になっていた。兎人の体臭のほか魔物の匂いが残っている。この匂いは、オーガだ。オーガ以外にも何か匂っている。腐肉の匂いだ。食人鬼グールらしい。グールは、オーガと同じように人の屍肉を喰らうが、オーガと違うのは、ほぼ不滅だと言うことだ。手足は勿論、首を落としても、繋げておけば再生してしまう。オーガと違い、野良のグールは殆どいない。ダンジョンか墓地に縛られているはずだ。ただ一つの例外は、魔物の大量発生、スタンビードだ。


  ラビさん達は、自分の叔母さんの家に行き、誰もいないことを確認していた。家の中は、何かが暴れたように荒れていて、血痕が至る所に付着している。きっと、この家の中で逃げ惑う被害者を追い回し、殺し、喰ったのだろう。ラビさんとビットちゃんは、呆然としていた。もう、身寄りは無いらしい。


  魔物達の残留臭の強さから、村が襲われたのは2〜3日前位だ。東の方から強い匂いがしてくる。と言うことは、魔物達が沸いた場所は村の西にある可能性が高い。取り敢えず、今の危険を排除するために東に追いかける事にした。僕は、そのまま上空に浮上していく。高度2000mまで浮上してから、東に進路を取る。音速まで加速して飛行したところ、10分程度で魔物の群れに追いついた。上空から見ると、500m四方位に魔物が広がっている。先頭集団は、足の速いファングウルフ達だ。その後ろには身体能力の優れているオーガ達だ。ファングウルフの速度について行っている。最後尾は地トカゲに乗ったグールだ。鞍も手綱もない地トカゲに跨り、長い首を掴んでコントロールしている。


  僕は、『紅き剣』を顕現させ、魔物の群れに向けて振り下ろした。無数の火球が空中に生じ、群れに降りそぞく。火球が地面に衝突すると大爆発が起きるのだが、上空から見ていると間段なく爆発しているようだった。爆炎と硝煙そして粉塵量が物凄く、あの中で生き続けることは不可能だろう。


  暫く様子を見ていて、動く物が無いことを確認してから、皆のところへ戻った。流石に100キロ以上離れている為、この地点では、噴煙も爆発音も届かなかった。


  シェル達のところに戻ってから、今日の野営の準備をする。流石に、ビラさんの親戚の家に泊ま流わけには行かないので、村の外に設営した。シェルに、ビラさん達のことを頼んで、僕一人で、西に向かう事にした。

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