第55話 これって かなりチートで オーバーキル?
社交界デビュー、うまく行くのでしょうか。晩餐会が終わると、魔物の討伐となりますが、ゴロタは自分の本当の戦力を把握していません。
(5月24日です。)
辺境伯邸の玄関大ホールは、レセプション会場にもなっていたようだ。
麾下の貴族を全員呼び、あと領都内の有力商人、教会の主だった司教に司祭、辺境伯騎士団の団長以下幹部の方、そして領内の各行政機関の長と領都内行政区の区長が勢ぞろいしている。そのご婦人方やご令息、ご令嬢がそれぞれ参加されているので、300人以上はいるようだった。
僕は、右腕でエーデル姫、左腕でシェルさんと腕を組んで、ゆっくりと入っていく。
後ろから、クレスタさんとノエルが不満そうに付いて来るが、正式に婚約していないので、しょうがない。
辺境伯閣下ご夫妻が、僕達を出迎えてくれ、ホール内を一緒に回ってくれた。
コースはあらかじめ決められているようで、僕は、辺境伯について回って、立ち止まって紹介されるとニコリと笑ってうなずいている。
話に応じるのは、エーデル姫とシェルさんの役目である。二人と腕を組んでいることを聞かれると、二人が婚約者であることを告げて納得してもらった。そのたびに、後ろで顔を引きつらせているクレスタさんとノエルの視線を感じる僕であった。
紹介の中で、騎士団長のノーマン団長閣下から、明日、一緒にノース村まで同行するとの話を聞いた。総勢200名の騎士団を連れて来るそうだ。ここは、辺境の地、隣国との防衛の最前線だ。200名の騎士は、常に常備しているそうだ。
一旦、事があると、農民、商人からも徴兵し、3万人の兵力を編成できるそうだ。そのため、毎年、収穫が終わってから1か月間、軍事訓練をして戦力の保持に当たっているそうだ。
ノーマン団長は、40歳位の意思の強そうな武人という印象を受けた。すごく頼もしい。でも、200名の騎士さん達が全滅したらどうしようかと思ってしまった。
そこで、『明日の騎士団の皆さんは、聖水を1本ずつ持って来て貰いたい。』とシェルさんを通じてお願いした。
200本もの聖水は、在庫が無いらしく、これからすぐに準備しても明日の朝までかかるそうだ。教会の幹部の皆さま、ごめんなさい。でも、明日、たった1回でも、助かるチャンスがあるのなら、無理しても準備するべきだと思う僕だった。
晩餐会は、滞りなく進んでいく。女性陣は、それぞれの年齢層に応じた女性達に囲まれている。他の男性貴族様達も話しかけたいらしいが、シェルさんの勲章と貴族章が邪魔をしているみたいだ。
ご婦人方や娘さん達は、クレスタさん達の着ている服に凄く興味を示した。大胆に短いスカートが、とても足を綺麗に見せているし、つばの広い帽子が気品と可愛らしさを表現している。そのような服は、王都ではやっているのかとか、どこに売っているのかとか、まあ女性らしい話題です。
ノエルの周りには、社交界デビューしたばかりの女の子たちが集まっている。ノエルが平民と分かると、『そんな短いスカートを履いて、恥ずかしくないのか。』とか、『パンツが見えたらどうするの。』とか意地悪な質問があったが、その言葉の裏に羨望と憧れがあるのを見透かしたノエルは、ニコニコ笑いながら対応していた。
そのうち、遠くで見ていた男の子が近づいてきて、ノエルに踊ってくれるように申し込んでこんできた。
ホテルで、シェルさんが簡単なレッスンをしてくれたが、基本、男子のリードで踊っていれば良いと言っていた。
向かい合って、カーテシをしてから腕を組んでダンスを始めた。踊りながら、その子が、『とてもきれいな黒髪だ。』とか、『素敵な服装だ。』とか褒めてくれたので、顔が赤くなったが、さっきまで話をしていた女子達が、凄い目で睨んでいたので、あまり喜んだ振りをしないように気を付けた。後で聞いたら、その子は辺境伯の長男で、将来の辺境伯になる方だと聞いた。なるほどと思ったノエルだった。
クレスタさんは、独身男子に囲まれ始めた。ほぼ、争奪戦の様相だった。クレスタさんは、16歳まで、南の大陸の貴族社会で暮らしていたので、彼らの気持ちも良く分かる。親の決めた相手と結婚しなければならない人達だから、せめて独身の間だけでも好きな女性と恋をしたい。
そんな気持ちは、決して不純とは思えなかった。実際、今、自分を取り囲んでいる男子たちは、いかにも純情そうな子達ばかりで、ニッコリと微笑むと、顔を真っ赤にして視線を下に向けてしまう。まるで、ゴロタ君を大きくしたみたいだ。
でも、残念なことに、『今日の私は、決してお持ち帰りできないのよ。』と教えてあげたい。なぜならゴロタ君がいるんだから。いつになるか分からないけど、絶対、ゴロタ君を実家の両親に合わせてやるわ。それは絶対なんだから。そう思ったクレスタさんでした。
晩餐会は、盛会のうちに終わった。その後、騎士団の幹部の方達と打ち合わせした。
ノース村では、絶対に、先走らない事。最初の攻撃は僕達に任せてもらいたい事。もし、住民が誰もいなかったら、つまり皆死んでいたら、村ごと殲滅するので、500m以上離れて貰いたい事などを話した。
団長達は吃驚していた。この坊やは何を言っているんだろう。村を殲滅するから、500m以上離れろと。そんな馬鹿な。人間にそんなことができる訳ないのに。
しかし、僕は、言うべきことは伝えたと思い、それ以上は黙っていた。
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(5月25日です。)
翌日、午前10時に部隊は出発した。騎士団は、馬に騎乗し、僕達は馬車に乗って、ノース村に向かった。午後2時、ノース村に到着した。途中、簡単な昼食休憩を取ったので、村まで4時間もかかってしまった。
部隊は、馬を纏めて繋ぎ止めてから、6個小隊に分けた徒歩部隊で待機した。
僕達は、前衛にイフちゃん、そして僕、中堅にシェルさんとクレスタさん、後衛にノエルという隊形だ。
実は、ワイちゃんも召喚して村の後ろの方に隠れているようにお願いしている。当然、竜の形でだ。ワイちゃんは、事前に村を偵察していた。
『ワイちゃん、何かあった?』
『うん、村に生存者はいないよ。ゾンビとグールのアンデッド達、それとレッサーデーモンなどの低級連中が一杯いる。中に強力な思念を持っているのが1人いるけど、こいつがボスかな。』
これだけ、詳しい状況説明を貰うと助かる。最初は、どちらに頼もうか悩んだが、ワイちゃんに頼むことにした。
『ワイちゃん、上空からゾンビどもを焼き払ってくれるかな。』
『いいよー。』
突然、全長30m以上ある黒龍が村の背後から現れたので、騎士団は、敵の使徒かと思って、戦闘態勢に入った。後ろの馬たちが逃げようと大騒ぎをしている。しかし、その瞬間、皆は唖然とした。黒龍が村を焼き払い始めたのだ。上空100m位から吐き出す『炎のブレス』、家の土壁でさえ真っ赤になって崩れ落ちるのが見える。
僕が、騎士団に向かって手を振っている。もっと下がってと。現在は、村から200m位の距離だ。騎士団は、隊形を解いてそれぞれ騎乗し、急いで、約束通りの距離を保つため、300mほど下がった。都合よく、そこは小高い丘になっていたので、丘の上で状況を視察する。
黒龍が僕達の傍に舞い降りた。と、同時に真っ赤に燃える人型をしたものが、村の上空を飛び回り、時々炎をまき散らしている。500m離れていても熱が伝わってくる。あの炎は、伝説の『地獄の猛火』なのか。そうするとあの炎に包まれている異形は『イフリート』、ああ、生きている間に、『黒龍』と『イフリート』共に見ることが出来るなど、末代までの伝承となるだろう。
『イフリート』が人の姿になって、僕のところに戻ったら、次はクレスタさんが『レイン』を唱えた。真っ赤に熱した家屋や固形物に急に水がかかったのである。あの水蒸気爆発が起きた。
ドゴゴゴゴゴーン!!!!
物凄い爆発で、全ての物が瓦解した。衝撃波は、騎士団のところまで到達し、何十人も吹き飛ばされ転倒している。しかし、幸いにも衝撃が弱まっていたので、怪我はなかった。いや、何人かは、転倒した際に小石に頭をぶつけてしまっていた。
僕達は、シールドを張っていたので、全く損傷はなかった。
すべて瓦礫となったあとから、ボロボロになった人型の物が立ち上がった。顔も体も焼けただれて、何だったのか分からなくなっている。
『オマエハ ナニモノダ?コノヨウナコトガ デキルニンゲンガ イルハズガナイ。』
片言の念話が飛んでくる。こいつがきっとバンパイア・ロードなのだろう。これだけ、高位だと、太陽の光を浴びても、ある程度は我慢できるのかも知れない。わずかばかり煙が燻っていた。
「シェルさん、頼みます。」
シェルさんは、聖水を口に含むと、弓に矢をつがえる。すでに身体強化は終わって真っ赤に光っている。矢じりに聖水を吹きかける。矢じりから聖水が垂れているまま、矢を放った。
ヒューーーン!
3本の矢が、バンパイア・ロードの両目と心臓を射抜く。黒く燃え上がっているのが分かる。
ウギャア!!
ほぼ、致命傷を与えたと思ったが、バンパイア・ロードは背中から黒い羽を生じさせ、逃げようとした。
「「ファイア・ボール」」
ノエルとエーデル姫の魔法が、同時にさく裂した。広げた羽が燃え尽きた。もう、飛べない。バンパイア・ロードは、心臓に刺さった矢を片手で抜いた。聖水の力が足りなかったようだ。それにしても、しつこい位にタフだ。
僕は、『瞬動』でバンパイア・ロードに接近すると、『ベルの剣』に一瞬で大量の『聖』属性魔力を流し込んだ。白く光り輝く剣、この剣を鍔元までめり込むような勢いで、バンパイア・ロードの心臓を貫いた。
バンパイア・ロードの背中から突き出た『ベルの剣』、その周りから黒い『瘴気』が噴出している。
そして、すべては灰になった。
僕は、剣を納め、皆の無事を確認した。バンパイア・ロードのいた場所には、真っ黒な魔石が転がっていた。それを拾い上げ、元の位置に戻ろうとしたら、イフちゃんが重大な事を教えてくれた。
「ゴロタよ。この前のように、瘴気で結界を作っている場所を見つけたぞ。」
僕は、騎士団の人達を呼んだ。すでにワイちゃんは山に帰っている。騎士団の人達は、馬に騎乗して、土埃を上げながら、近づいてきた。僕は、団長さん達に一緒に来るようにお願いした。シェルさんを通じて。
イフちゃんの後について行ったが、イフちゃんが、伝説の『イフリート』だと思っている団長さん達は、イフちゃんの姿に非常な違和感を感じている。
イフちゃんは、今、10歳位の女の子で、可愛い顔(僕そっくりなのだが)をしていて、真っ白なワンピースにつば広の麦わら帽子を被っている。赤い靴をはいて、村の瓦礫の上をピョンピョン歩く姿をみていると、何か、別の世界にいるような気になってしまうからだ。
瓦礫の向こう、村のはずれの方に、それはあった。
『瘴気』の結界、その結界に、無理やりトンネルをこじ開けると、200人以上の村人が出てきた。
完全にチートでオーバーキルだったようです。バンパイア・ロード弱かったですね。本当は、王都レベルを壊滅できるだけの実力があったのですが、戦いをさせてもらいませんでした。これでも、ゴロタの極大魔法は使っていません。