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第2部第119話 南北戦争その5

(1月15日です。)

  今日、僕達はウサ国の王都『サンフラン市』に侵攻を開始した。固く閉ざされた城門は、30式戦車の120ミリ砲3発で粉々になってしまった。市民達は避難しているのか、昼だと言うのに人影が無かった。そのまま進んで行くと、散発的に狙撃されたが、30式戦車の分厚い装甲により、全く被害が出なかった。狙撃手がいたであろう建物は、直後に30式の120ミリ砲の直撃を受けるか、6輪装甲車の20ミリバルカン砲の攻撃を受けて、その形をとどめていることが出来なかった。


  そのまま、大通りを進んで、街の中心部に向かう。王城が見えて来た。周囲を濠で囲まれ、城門に入る跳ね橋はあげられていた。シルフが、非戦闘員が逃げるのには十分すぎる時間を与えたので、王城を直接攻撃しても良いのではと進言してくれたが、僕にはある考えがあった。


  部隊には、待機を命じておいて、僕は、そのまま浮遊で地上30mまで浮かび上がった。ふわふわと王城の中に向かって行く。城壁の狙撃用窓から僕を狙って『M16A1』が狙撃してくるが、僕の『蒼き盾』が完全に防いでくれる。僕は、指鉄砲を狙撃してきた穴に向かって発射する。直径10センチ位のエネルギー弾が穴の中に入って行く。中で、急激にエネルギーが膨張する。城壁に大きな穴が空いてしまったが、気にしないことにしよう。そのまま、城内まで飛翔し、中庭の中央に着地した。周囲をドラゴニュート兵が囲み、皆、小銃を構えていた。この小銃、シルフが作成したミニチュアの『M16』によく似ている。というか、まったく同一だ。なぜ、彼らが、持っているのだろう。


  魔人族の1人が進み出て来た。彼が『魔王』かと思ったら、どうやら違うらしい。彼が話しかけて来た。言葉は、かなりなまっていたが、アメリア語のようだ。


  「あなたは、大魔法使い様ですか?」


  うーん!少し違う気がするが、人によっては僕は大魔法使いなんだろう。一般的な魔法使いでは、空を飛翔することなどできないだろうから、そう思っても仕方がない。僕が黙っていると、


  「あなた達の鉄の馬、いやトム様は『戦車』と言っていたが、あの戦車は、濠が邪魔をして、この城に入ることは出来ない筈です。どうですか。和平交渉をしたいのですが。」


  「うん、いいよ。でも、獣人達を殺したものを連れて来て。」


  相手は、顔が引きつってきた。当然、この戦争の首謀者は自称『魔王』に間違いないからだ。相手は、一旦、引き下がることにした。暫く待っていると、一人の人間族が出て来た。変わった服装をしていると思ったら、我がアンドロイド兵が来ているものとよく似ていることに気が付いた。上は緑色の半袖Tシャツだが、ズボンが迷彩模様のものだ。


  「お前は、人間か?」


  失礼な聞き方だ。しかし、訛りのあるグレーテル語なので、変に懐かしさを覚えた。彼の答えは、『イエス』でもあり、『ノー』でもあった。僕が黙っていると、


  「これだけの銃に囲まれて怖くはないのか?」


  これは簡単だ。答えは『ノー』だ。僕は、軽く首を横に振りながら


  「怖くない。」


  とグレーテル語で答えた。相手は、自分の言葉で答えてくれたので吃驚していたようだ。


  「お前は、アメリカ人か?」


  「いや、違う。」


  アメリカと言う言葉には記憶があった。異次元世界に転移したとき、たしかあの世界には『アメリカ合衆国』という国があったようだ。


  「あの戦車はどうしたのだ。やはり、この国に転移してきたのか?」


  「いや、違う。作った。」


  「作っただと?バカを言うな。この世界には、そんな技術は無いぞ。大体、燃料はどうしているんだ。」


  「石油を精製して作る。」


  「な、精製?ど、どうやって精製しているんだ。」


  これは、分からない。シルフと精製工場で働いている技術者しか知らない。しかし、この男、完全にこの世界を馬鹿にしているみたいだ。まあ、あまり相手にしないようにしよう。大体、この男、自己紹介もないままに、自分の聞きたいことだけを喋るなど、常識の無い奴だ。他に、もっとまともな奴はいないのか?


  一人の魔人が、部隊の壁を割って出て来た。偉そうなマントを羽織っているので、きっと、この男が『大魔王』なのだろう。いや、それにしては若そうだ。『大魔王』と言うくらいだから、もっと年配の者だろうと思っていたのだが、どう見ても20代後半位か、もしかすると僕と同い年位かも知れない。その男が口を開いた。


  「私は、大魔王『ギブリン』だ。あなたのお名前は。」


  かなり訛りのあるアメリア語だ。しかし、聞き取れない訳ではない。僕は、静かに、


  「僕の名前はゴロタ。この星の裏からやってきた。」


  とアメリア語で返事をした。人間族の男が、横から口をはさんで来た。


  「星の裏だと。どうやって来たんだ。この星の裏とは、一帯、どこの国の事だ。」


  僕は、この男の物の言いように少しイラっと来てしまった。


  「うるさい。」


  『威嚇』により、黙らせてやった。一体、この男は何なのだ。この男が異世界から来たという男なのか。常識を知らない男だ。男は、その場に立ち尽くしている。勿論、ズボンの前の方は夥しく濡れていた。


  あ、シルフが転移してやってきた。僕のいる所には、シルフは自由に転移できる。僕のエネルギーをしっかりと使ってだが。僕と、大魔王との間に光のゲートが開き、シルフが通り抜けて来たのだ。シルフは、大魔王に対して、綺麗なカーテシ風の挨拶をした。戦闘服に戦闘ズボンだから、エア・カーテシなのだが。シルフが転移してきたことで、周囲の兵士達からは驚きの声が上がっている。さすがに、かなりの高位魔術師でも、空間転移は困難だと聞いたことがある。空間転移に必要なのは、魔力よりもエネルギーだ。時空間をゆがめるだけのエネルギーを必要とするのだ。まあ、どうでもいい事なのだけど。


  「大魔王様、私は『シルフ』と申します。こちらのゴロタ皇帝陛下の秘書をしておりますの。オホホ。」


  シルフの気持ちの悪い笑い声が中庭に響き渡った。シルフは、構わずに続けている。


  「今日、こちらにお伺いしたのは、侵攻軍をそのまま北のカナン王国まで撤退して貰うためです。現在、王都北の荒野に駐屯していることは把握済みです。既に10000名程が喪失されていますので、残り10000の兵を撤退していただけるのでしたら、私達もこの国から撤退しましょう。あ、このウサ国は、どなたかに治めて貰いますが、ゴロタ帝国の信託統治領とさせていただきます。」


  ギブ大魔王は、チラッとトムの方を見たが、トムは放心状態で役に立たない状態だった。


  「あ、そちらの異世界から転移してきた人間種は、当方で預からせてもらいます。色々聞きたいことがありますので。」


  トムが何をして来たかは、イチローさん達から聞いている。王城の中にハーレムを作っているらしいのだ。しかもウサギ人や猫人の幼女を拉致してきて、欲求を満たしているとの情報も入ってきている。勿論、ギブも、黙認していたので同罪だが、今、ギブを殺害すれば北のカナン王国を治める者がいなくなってしまう。それは非常にまずい。ここウサ王国は、カナン王国と中央アメリア王国両国の協議により、国の運営を進めていけば良い。


  しかし、この国を責める際に行った獣人達に対する陵虐は許せない。特に、幼女を肉欲の対象にするなど、許すわけにはいかなかった。しかし、今、トムを消滅させても良いのだが、自分のしてきたことをキチンと反省して貰ってから処刑させて貰おう。シルフが、停戦条件を幾つか申し出た。


  1.軍隊を撤収させるとともに『M16A1』及び『M114/155mm榴弾砲』、あと『FIM-43レッドアイ』自動追尾ロケットも押収する。


  2.ドラゴニュート兵は、武装解除して北の国に行くか、この地に残るかを選択させる。今までの兵役報酬は、カナン王国で負担すること。


  3.軍属の獣人達には、正当な報酬を支払い開放すること。かつて政権中枢にいた者等は、復職させること。


  4.大魔王ギブリン殿は、今後、大魔王としてふさわしい行動をとること。統治で困ったことがあったら、神聖ゴロタ帝国南アメリア統治領に連絡すること。


  5.ウサ王国は、統治者を国民が選ぶこと。選択方法については、シルフと相談すること。


  この条件は、どれも難しい者ではない。しかし、あまり政治に携わったことのないギブにはかなり難題に思えた。絶対に、上手くやって行く自信が無い。ギブは、思いきって僕に声を掛けて来た。


  「あのう、これから我が国は非常に困難な状況になると思うのです。そのう、我が国、いえ、カナン王国をゴロタ皇帝陛下の属国として貰えないでしょうか?」


  うーん、困った。これ以上、領土は広げたくない。というか、南と北を一変に統治する大変さは、グレーテル大陸で十分に体感している。季節的要因が真逆な環境を克服するための施策を同時にしていかなければならないのだ。距離的な問題は、『ゲート』があるので、何とかなるだろうが・・・・・。北のカナン王国は、きっとあまり豊かな国とは思えない。長く冷たい冬のため、また、冷たい極地からの風のために農作物も豊穣とはいかないだろう。そんな国を統治するのは、手間がかかるばかりで、それに見合った収益など見込めないだろう。そう思っていたら、シルフが爆弾発言をした。


  「分かりました。そう言う事なら、カナン王国を『神聖ゴロタ帝国カナン統治領』といたします。でもそのためには、条約を結び交換文書を取り交わさなければなりません。準備に少々時間を要しますので、正式な併合は、今年の4月1日にしますが、よろしいでしょうか?」



  あのう、シルフさん、何かお考えがあってそう言っているんですよね。後で、シルフが、『カナン王国は山岳地帯が多く、有望な鉱山がいくつか確認されているので、統治に要する費用など問題にならないほどの収益が見込まれる。』と言っていた。うん、さすがシルフだ。抜け目がない。

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