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第2部第117話 南北戦争その3

(1月10日です。)

  戦闘が始まってから、今日で6日、僕達は、敵の王都であるサンフラン市が一望できる丘の上にいた。王都侵攻の前に、和平交渉をしたかったのだ。


  ここまで来るのに、各都市を撃破していったが、戦闘らしい戦闘は殆ど無かった。南侵してきた部隊が、敵軍の主力だったみたいで、各都市には守備隊さえもいなかった。僕達が静かに市内に進行していくと、ドラゴニュートの一般市民は、恐怖と興味に溢れた目で僕達を見ていた。まあ、ドラゴニュートの目は、人間種やけもの種とは異なった目なので、はっきりとは分からなかったが。


  驚いたことに、各都市や町村には、まだけもの系の獣人が大勢いた。しかし、皆、ドラゴニュートのために働く下級層の者達ばかりだ。中には、隷従の首輪をしている奴隷もいたが、奴隷もそうでない者も等しく、ドラゴニュートに迫害されていたようだ。今、この国の政治体形に手を出すわけにはいかない。僕達は、極力、市民とは接点を持たないように、都市は素通りしていったが、僕達を見つめるけもの系獣人の女の子の目が忘れられなかった。


  各都市には、何人かの魔人がいたらしいのだが、僕達が侵攻する前に、北へ潰走する部隊と共に逃げてしまったようだ。


  サンフラン市は、かなり大きな都市だ。海に面しているが、広大な敷地で、周囲を小高い丘に囲まれていて、天然の要害のようだ。海に面して大きな港が見える。おそらく沿岸の各都市を回る外洋船が停泊するのだろう。大型帆船も2隻停泊している。


  サンフラン市の中心に、高い尖塔が目立つ城が建っている。あれが王城だろう。あそこに魔人族の王、自分を『魔王』と自称している男がいるのだろう。このまま王城を砲撃しても良いが、この距離では戦車砲の射程外だ。空爆も、王城のみをピンポイントで爆撃するには『B2改ー天山』の高高度からの爆撃では難しい。それに王城内にいるのは、殆どが非戦闘員の筈だ。なるべくなら非戦闘員に犠牲は出したくない。


  結局、部隊はこのまま王都に入り、王城に向かうことにした。






  ウサ王国王都サンフラン市の王城内では騒然としていた。東の小高い丘の上に敵の部隊が迫ってきたのだ。兎人や羊人の文官や女官達は王城脱出のための荷物整理に右往左往していた。王城警備のドラゴニュート達は、緊張した面持ちで部隊長の指示を聞いていた。


  ウサ王国の国王は魔人だった。3年前まではライオン人がこの国の正当な国王だったが、奇妙な武器を持った魔人が攻めてきて、あっという間に王都を制圧してしまったのだ。


  その時、国民に多くの犠牲者が出たが、昔ながらの槍と弓しか持っていない国王軍は無力だった。魔人族は、国王を始め政府の中枢にいた者達を悉く処刑した。小さな王女殿下まで城壁の上から突き落として殺したらしいのだ。これは、僕があらかじめ潜入させておいたイチローさんからの情報だった。僕は、このまま王都に侵攻しようかどうか悩んでいた。








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  サンフラン市の王城内の奥では、魔人のギブが、部下の将軍達と今後の事について話し合っていた。戦うか、このまま逃げようかについてだ。


  ギブは、5年前までは、北のカナン王国の猟師に過ぎなかった。弓矢で鹿や猪を飼っていたのだが、ある時、大きな楡の木の側に、見た事もない家が建っているのを見つけたのだ。形は半円形の屋根と壁が一体になっていて、材質は金属のようだった。何故か家の後ろの方が何かに切り取られているように大きな穴が空いている。


  ギブは、その穴から家の中を覗いたところ、突然大きな轟音がした。地面に土煙が上がったので、これは危険だと感じ、すぐに木の影に隠れた。しばらくすると、おかしな杖を持った男が、訳の分からないことを叫びながら出てきた。変わった格好をしていた。肌にピッタリしている緑色の半袖シャツとまだら模様のブカブカのズボンだ。靴は、貴族しか履かない黒革のブーツだ。


  一番奇妙なのは髪の毛だ。まるで剃ったように短いのだ。ギブの知っている人間族の男は、皆、髭が長く髪の毛も伸び放題の汚らしい頭だった。まだ獣人族の方がこ綺麗だ。そんな事はどうでもいい。このままでは、あの火の吹く槍で殺されてしまう。ギブは、諦めて弓矢を遠くへ投げ捨てて、人間族の降伏のポーズをとった。両手を上げて、何も持っていないことを知らせるのだ。男は、槍をこちらに向けたまま、ジリジリと近づいてきた。ギブには、男が何を言っているか分からなかったが、男の目に殺意が見えなかったので、少し安心した。


  男が、身振り手振りで、向こうを向けといっているようだ。ギブは男の言う事に素直に従った。男は、後ろからギブの持ち物を探り、腰のベルトにさしている皮剥ぎ用のナイフをとりあげて、どこかに放り投げてしまった。あんなナイフだって銀貨1枚近くしたのに。そう思ったが、ギブは黙っていることにした。男は、何か言っていたが、何を言っているのだろう。怒ってはいないようだ。男の方を向くと、男はギブの頭の角をまじまじと見ていた。珍しいのだろうか。ギブは、自分の角はあまり大きくなく、左右が不揃いなのであまり好きではなかったが、それでも色合いが真黒なのが自慢だった。男が、なにか言って手を下に振っている。きっとしゃがめと言うのだろう。男は身長180センチ以上ありそうだが、ギブは魔人の長身族の中でも大きな方なので、2mを超えている。言われるがまま、しゃがみ込むと、男はギブの角を触ってきた。急に掴んで抜こうとするが抜ける訳が無い。ギブは、無抵抗のまま角を触らせ続けた。魔人族の習慣では、男同士で角を触らせるのは隷属の証なのだ。ギブは、自分の一生を恨んだ。これから男のために働かなくてはならないのか。


  それから、身振り、手ぶりを交えて、お互いの名前を名乗った。男は『トンプソン』と言うらしい。『トム』と呼んでいいらしい。それから、男は、この大きな家の事を秘密にしたいらしいと言う事が分かった。ここは、ギブの狩場で誰も入ることが許されない場所だ。大丈夫だと思うが、用心のため、大きく切り開かれている所に、木でカモフラージュをした。かなり苦労して、外からはなかなか入れないようにしておいた。家全体をカバーするのは、無理なので、勝手に入れないようにしたのだ。それから、トムは、家の中から大きな木箱を一つ持ってきた。かなり大きい箱なので、持ち上げることが出来ずに引きずってきたのだ。この箱の中の者を運びたいと言うらしいのだ。仕方がないので、片方ずつ持って、ギブの家に運び込んだ。


  村はずれのギブの家に着いた時には、既に夜だった。魔石で灯りを付けると、トムは珍しそうに魔石を見ていた。トムは、箱のふたを開けると、中にはトムの持っていた魔法の杖が一杯入っていた。それから、ギブが食事の準備をしてその日は、そのまま眠ることにした。翌日から、荷物運びの毎日だった。途中、鹿やイノシシ、キジなどを、トムの魔法の杖で仕留めていたが、魔法の杖の威力には驚かせる。1発で鹿を仕留めてしまうのだ。しかもあんなに遠いのに。ギブの弓矢では、何度も何度も矢を当てて弱って動けなくなったところを、至近距離から急所を射抜くのだ。


  暫くしてから、トムはギブにも、魔法の杖を1丁貸してくれた。もともと、目が良くて弓でもかなり上手い方だったギブは、直ぐに使い方をマスターして、トムよりも狩猟成績を上げられるようになった。村の商店に皮や肉を売りに行くときは、鉛の弾丸を必ず取り除くことにしている。それでも以前に比べて格段に多い収穫に商店の主人は不審がっていたが、矢傷の少ない毛皮は高級品なので高値で買い取ってくれた。


  あの奇妙は家は、家ではなく武器を保管している保管庫で、ここに来る前は、あの倍の長さがあったそうだ。狩りの合間に、日干し煉瓦を使って、後ろの穴をふさぎ、周りにも土を盛り上げて、金属の壁が見えないようにした。半年もしたら、小さな丘のようにしか見えなくなっていた。ある程度の武器はギブの家に運んだのだが、大型の榴弾砲やロケット砲などは、運び込むにはスペースがないので、保管庫に置いたままにしていた。


  トムは、半年の間に、随分、言葉を覚え、髪も大分伸びてきたので、人間族らしくなってきた。たまに一緒に村に行くのだが、トムは興味深そうに周囲をキョロキョロ見て回った。村の娘に興味を覚えたみたいで、しきりにチラチラ見ていたが、若い娘をガン見するのは失礼なので、そんなときはギブがトムの脇腹をつついていた。


  トムは、元の国では1977年と言う時代の『アメリカ合衆国』のメンフィスと言うところにいたらしいのだが、陸軍の兵隊で伍長だったらしい。ある時、武器倉庫で部隊用の武器の員数点検をしているときに、突然、倉庫の半分があの場所に転移してきたらしいのだ。2日程は、あの倉庫にいたのだが、食糧も付きかけてきたときにギブが現れたという訳だ。倉庫の中には、『M16自動小銃』が136丁と弾薬が12000発、それに『コルトM1911』軍用拳銃が120丁だ。45口径の弾薬は15000発が保管されていた。自動追尾ロケット『FIM-43レッドアイ』は、24門が4門ずつ6つのケースに入れられている。あと、色々な武器類があったが、トムが使ったことのないものだったので、何に使うのか良く分からなかった。大型の榴弾砲が2基と砲弾が置いてあったが、既にベトナム戦争も終わり、これから使用機会はないのではと思われるものだった。


  ある時、村を流れの野盗が襲ってきた。ギブ達は、家で夕食を取っていたのだが、一人の娘が家のドアを激しくたたいたので、異変を知ることになった。娘は、上着をびりびりに破かれ、乳房が見えていたが、そんなことなど構っていられないようだった。『助けて、追手がいるの。』と言って、その場で気を失ってしまった。よほど怖かったのだろう。ギブとトムは、直ぐに『M16』に30発入りの弾倉を装填して、家の外に出た。そこには、グリズリーに乗った長身族の魔人が10人位いた。家からギブ達が出て来たのに驚いたようだが、野盗の中の首領らしい男が、下卑た笑いをしながら、


  「おい、娘っ子が逃げこんだろう。おとなしく出せば、痛い思いをせずに殺してやるぞ。」


  この言葉は、その男の最後の言葉だった。ギブ達の『M16』2丁がフルオートで火を吹いた。フルオートでは、弾着が乱れるのが欠点だが、これ位の至近距離では関係ない。一瞬で野盗と騎乗しているグリズリーは動かなくなってしまった。ギブが単発でとどめを刺していく。トムは、家の中に入って、気を失っている娘を介抱する。とりあえず、ギブの汚い上着を掛けてやったのだが、久しぶりに見る女性の上半身に生唾を飲み込んでしまった。娘は、綺麗な黒髪とまつ毛の長い中人種だった。年齢は15~6歳位だろうか。綺麗な娘だ。トムには、元の世界でも恋人がいた。キャサリンと言う同い年の子だ。高校の同級生だったのだが、高校卒業後、大学に行けなかったので、そのまま陸軍に志願入隊したのだ。ベトナム戦争後、帰国したトムは、部隊の装備を整えるために、武器倉庫で在庫を確認中に異変に会ってしまったのだ。


  娘が気が付いた。娘は「リラ」と言う名前で、家で食事の準備中に襲われたらしいのだ。機転を利かせた母親がリラを逃がしてくれたのだが、あの後、母親がどうなったのか心配だ。リラは、ギブ達に一緒に村に戻ってくれとお願いしてきた。ギブとトムは、予備弾倉を2個ずつ持って、リラと共に村に向かった。村では、火の手が上がっていたが、野盗はいなかった。きっと、さっき殲滅した野盗どもが全員だったのだろう。


  リラが、母親と父親を見つけて走り出した。良かった。無事のようだ。火災も大したことは無く、間もなく鎮火するだろうといっていた。リラが、父親にギブ達の事を紹介していた。リラの父親は、この村の長だった。


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