第2部第116話 南北戦争その2
(1月5日です。)
僕達の部隊は、30式戦車を先頭に北進を続けた。30式戦車の砲塔を後方に向け、車体前部にショベルのアタッチメントを付けて、5台で森林の樹木を幅20m位切り開きながらなので、あまり速度は上がらないが、徒歩で進行するのとは格段に速度が違う。切り倒した樹木は、道路の両脇に積み上げている。貴重な森林資源だ。無駄には出来ない。
時々、散発的な銃撃があるのは、斥候部隊が攻撃してくるのだろう。砲塔の12.7ミリ重機関銃が一瞬で敵を沈黙させてしまう。
僕達の乗った輸送車は、一番後からついて行く。部隊は、休憩も野営もせずに24時間進行するのだが、僕らはそうは行かない。1日3回の食事休憩と野営の3時間は、信仰できないのだ。部隊は、時速20キロ位で侵攻しているので、僕達は時速40キロで追いかけることになるのだが、追いかけながら、切り開いた道を整地・舗装しながらなので、それ以上は速度を上げられない。舗装と言っても、土を焼いて冷やすだけなのだが、それだけでかなり固いものに変化してくれる。シルフが、陶磁器を焼いて作成するのと同様の組成変化だと言っていたが、それ以上詳しい事は、聞かないことにしている。しかし、結構疲れる。というか、気が休まらない。こんな事なら土魔法適性のあるビンセント君や女性陣の内で適性のある者を連れてくれば良かった。仕方がないので、僕一人で整地・舗装をしていく。
3日程進行したら、やっと森林地帯を抜けることが出来た。大きな川が行手を阻んでいたが、敵は、浅くなっているところを地トカゲとワイバーンを使って渡ってきたのだろう。流れ留めのためか、何本かのロープが両岸に渡されていた。
川の向こう側、広い河川敷の先の小高い土手の先は、敵本陣なのだろうか。夥しい数の幕舎が張られている。その数は、ざっと2000張以上あるようだ。1張8人を収容できるとして、16000名以上の兵士がいるはずだ。また、ドラゴニュート兵や獣人の作業員が一生懸命土塁を積み上げている。我々の侵攻に備えての防衛戦を作っているのだろう。
水深50センチ程度なら全車両が渡河できるが、特に危険を冒す必要はない。ゲートを向こう岸に開けば良いだけだ。そういう意味では、彼らが積み上げている土塁など約に立たないのだが、敢えて教えてあげることもない。というか、この距離では、戦車砲の射程距離だ。戦車砲だけで対処できるだろう。しかし、こちらからの先制攻撃はしないで、彼らの作業を見守っていることにした。僕達の部隊の先頭と彼らの土塁とは1キロ以上離れているが、僕の『遠見』スキルでみると、良く見える。彼らの中で、ひときわ偉そうにして歩いている者が何人かいる。どうやら魔人族らしい。ドラゴニュート兵達を顎で指図している。南の魔人族と同じ種族なら、あの長身種は魔法が使えないはずだ。しきりにこちらの方を見て、何かを指図していた。
そのうち、部隊の奥から、大きな大砲2門を持って来た。積み上げた土塁の中に運び入れている。大砲は、固定されていない場合、砲弾発射の反動で、後方に移動してしまい、また発射地点まで戻すのが大変なので、移動式大砲の場合は、後方に急坂を作り、その坂を上ることで反動を相殺している。そのことは彼らも良く知っているようで、大砲設置場所の後ろに分厚く土塁を積み重ねている。うーん、あれでは、台車が土塁に衝突して壊れるのではないだろうか。そう思っていたら、各1発ずつ撃って来た。大きな砲弾が飛んでくるのが見える。砲弾の姿勢を安定させるために後方に翼が見える。着弾点は、我々の遥か後方だ。おそらく、砲弾が砲身から打ち出される際に、反動で照準が狂ってしまったのだろう。
30式戦車の120ミリ滑空砲が一斉に発射された。ほぼ100%の精度で敵砲兵陣地を直撃する。一瞬で、敵砲兵陣地は壊滅してしまった。対岸から歩兵部隊が自動小銃を撃っているが、さすがに1キロの距離で命中させるのは無理があるようで、河原や土手に着弾している。シルフが変わった箱を取り出してきた。縦横四列ずつの筒があり、車付きの台車の上に乗っている。その箱の向きを敵の方に向けて、角度を調整している。小さなリモコンがケーブルでつながれており、10m位離れた位置で、リモコンボタンを押した。1つずつの箱から、次々と轟音とともロケットが飛び出ていた。ロケット推進方式なので、発射の反動は殆どない。全部で、16発が敵陣地の広い範囲に着弾する。着弾と同時に、火柱が広がる。爆発と言うよりも炎が広がっていく感じだ。焼夷ロケット弾だ。1発で100m四方を火の海にする威力だ。それが16発、シルフさん、こんな恐ろしい武器、いつの間に作られたのですか?
あとは、敵部隊が一生懸命消火活動をするのを遠見の見物するだけだった。結局、敵陣地の幕舎は半数以上が延焼してしまったようだ。地トカゲもどこかに逃げてしまったようで、敵戦力はほぼ無力化してしまったようだ。もともと肉弾戦などする気もなかったので、あえて、向こう岸に渡らずに様子をみることにした。ベンジャミン総司令官達は、我々の攻撃方法を見て、冷汗を流していた。向こうからの攻撃は殆ど当たらず、こちらからの攻撃は百発百中では、戦争になる訳がなかった。しかし、この部隊は、真の敵ではない筈だ。『魔王』を標榜する者と対峙しなければならない。既に、これだけ双方に被害が発生しているのだ。首謀者には、きっちりと責任を取って貰おう。
僕は、向こう岸の河川敷にゲートの出口を3カ所開けた。こちら側から舞台を3列重体にしてゲートを潜らせて行く。先頭は、勿論30式戦車だ。次に 6輪装甲車、続いて歩兵部隊だ。兵員輸送車や弾薬・資材の輸送トラックは安全な場所に駐車したままにする。歩兵部隊は、ゲートから出ると、走って戦車や装甲車の陰に隠れていく。土手の上からは、敵兵の一斉射撃が始まった。対戦車ロケットを討とうと構えた者は、発射する前に12.7ミリ機銃でハチの巣にされていた。装甲車の20ミリバルカン砲が敵兵を掃射していく。至近距離での20ミリバルカン砲の威力はすさまじく、敵兵は一瞬で肉片になってしまう。土手の向こう側で伏せている敵兵には、戦車の陰から迫撃砲を発射している。迫撃砲は、羽の付いた砲弾を発射口から発射筒の中に落とし込み、弾体の発射薬が爆発することにより尾翼付きの砲弾が放射線を描いて飛んでいく。距離や命中精度よりも、山の陰や建物の向こうの敵を攻撃するのにつかわれるのだが、その威力はすさまじく、敵は、次々と倒れて行った。
土手の上から、姿を現せば重機関銃の餌食、見えないように土手の陰や土塁の陰に隠れていれば迫撃砲の餌食となってしまう。ある程度、遠距離攻撃をして、敵の反撃が無い事を確認してから、歩兵部隊が横隊で進撃を始めた。腰には『M4自動小銃』を構えている。中には、近距離用の散弾銃を構えている兵もいた。兵士達は、僕そっくりかシェルそっくりの顔で、どう見ても兵士には似つかわしくないが、可愛らしいのは外見だけで、相手を殲滅するのに全く容赦が無かった。無言のまま、『M4の3点射を重ねているし、残っている幕舎には、最初に手りゅう弾を投げ』込み、その後に中を点検している。至る所で銃声がしているが、交戦していると言う音ではなく、単に生存者にとどめを刺している感じだ。
戦闘は終わった。僅かに残った敵兵は、白旗を上げて降伏している。ワイバーンは、1匹も残っていなかった。ドラゴニュートが逃走で騎乗していったか、砲撃におびえて逃げて行ったのだろう。地トカゲも同様と思われる。僕達は、生存兵の中から魔人兵を探したが、残念ながらいなかった。戦死したか逃亡したものと思われる。投降した敵兵380名余りのうち、最上位階級は大尉だった。大尉が1名、中尉が6人、少尉が9人、准尉が13人、あとは一般兵だそうだ。規模の割に士官が大尉以下しかいないのが気になったが、その理由は直ぐに分かった。敵兵の将校は魔人族が占めており、実働部隊の中隊長がドラゴニュート兵の最上位階級なのだそうだ。この部隊の指揮官は、魔人族の将軍だったが、昨日の段階でワイバーンに乗って王都に向かったそうだ。
敵の侵攻部隊は、ドラゴニュート兵を中心とした15000名規模の部隊で、ワイバーンが24匹、地トカゲが141匹いたらしい。また、狼人や熊人などの兵士もいたが、補給や工科など肉体作業要員として連れて来ているようだ。これまでの戦闘では百戦百勝、ワイバーンの空襲で敵の戦力を喪失させ、その後、地トカゲ部隊による中央突破と歩兵による掃討で、中央アメリアの獣人兵達を殲滅してきたそうだ。北アメリア大陸にも、けもの系の獣人がいたのだが、ドラゴニュートが権力を掌握して、虎人やライオン人など、けもの系の支配階級獣人を追放したそうだ。以前は、共存していたのに何故そうなったかについては、やはり魔人族の南侵が影響しているようだ。
魔人族は、3年前、突然、北の山脈を超えてきて獣人やドラゴニュートの村々を次々と襲い、征服していったそうだ。そして、若くて壮健なドラゴニュート達は、男女を問わず皆兵士として徴用され、今まで見たことも無いような武器を渡されたそうだ。もともと陸ドラゴニュートは、ワイバーンや地トカゲを移動手段として使っており、それらがそのまま軍に接収されてしまったのだ。今回の侵攻が始まる前、北アメリア大陸の西海岸にドラゴニュートの王国が建国され、若いドラゴニュートが国王として即位したのだが、完全に魔人王国の傀儡政権だった。ドラゴニュートは水辺を棲み処にする河ドラゴニュートは別にして4つの種族にに分かれている。武闘派の赤い鱗のドラゴニュート、狩猟を中心に山間部に住む青いドラゴニュート、農耕を中心に生活している緑色のドラゴニュート、そして平和的であまり多種族と交わらない灰色ドラゴニュートだ。今回の侵攻軍は、勿論、赤ドラゴニュートだが、赤と言っても、かなり茶色に近い赤色の鱗だ。今回、捕虜にしたドラゴニュート達は、そのまま中央アメリア王国内の捕虜収容所に移送した。まさか、380名もの捕虜を引き連れて敵地の中を進軍は出来ないだろう。




