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第2部第115話 南北戦争その1

(1月5日です。)

  今日は、敵前線の手前20キロ地点で野営にした。アンドロイド兵には必要ないが、随行の人間には必要だった。


  野営セットを2つ出して食事の準備をする。ベンジャミン将軍やサント将軍は、僕が料理するのに大変恐縮していたが、できる者がやるのは当たり前だ。シルフは、何でも知っているくせに、料理だけはやろうとしないようだ。機械の下では、微妙な味が再現できないのだろう。例えば塩などは、溶けていても降りかかっていても、塩の総量が変わらなければ塩分濃度は一定だが、味わいとか風味などは大違いだ。コンピュータでは、そこまでは数値化できないようだ。


  イフちゃんに敵の動きを探索させて、今日はぐっすり眠る事にした。リトちゃんが、僕の寝袋に入って寝る理由が分からないが、まあ、身体は5歳児なのできっと大丈夫だろう。






  翌朝6時に部隊は出発した。できれば敵が寝ている間に奇襲したかったが、それでは敵の戦力が分からないので、まず東方の機甲部隊に進撃してもらいます。30式戦車は、ある世界の暦で2030年に採用された兵器で一度ロックオンさえすれば、時速60キロで走行中も主砲の照準を外すことはない。タービンエンジンで発電した電気で左右のモーターを駆動するのだが、戦闘中はエンジンを切って行動するので、敵に察知されにくいと言う利点がある。僕も、戦車隊長車に同情する。この戦車は、砲塔手(隊長)、操縦士、無線兼火器管制手の3名乗車が基本だが、砲塔の主砲機関部の両脇に席があるので、もう1名が乗車できるようになっている。目の前の大型画面に前方の様子が映し出されている。


  画面に疎らな森が見えてきた。何かが動いている。拡大すると大型の地トカゲに乗っている敵兵が見える。あれ、彼らの装備って、槍じゃあない。話では槍って聞いたけど、あれは形式はわからないけど自動小銃だ。銃身の先に銃剣を着想しているので、槍に見えたのだろう。何故、彼らが自動小銃を装備しているのだろう。そう思っている内に、敵の一斉攻撃が始まった。


  敵との距離は200m程。狙撃するには少し遠いが、弾が当たれば致命傷になる距離だ。しかし彼らの武器では、この戦車には全く被害がない。戦車砲塔上部に設置されている12.7ミリ重機関銃が火を吹く。この重機関銃、手動でも操作できるが、今はモニター照準を見ながらのリモート射撃だ。この重機関銃は、正式には『ブローニングM2重機関銃』と言い、1143ミリの銃身長を持つ大型の機関銃だ。12.7ミリの銃弾が初速887m/秒で毎分635発発射される。


  次々と敵の騎乗している地トカゲが倒れていく。敵兵に直接当たると、体の半分がなくなってしまう。地トカゲは鱗が硬いのか、その場で血を噴き出しながら倒れてしまう。


  ほぼ一方的な攻撃と思っていたら、車内にアラートが鳴り響いた。ロケット砲がこの戦車をロックインしているアラートだ。ロケットは、前方から飛翔してくるようだ。全速で交代を始める。バックモニター画像とフロントモニター画像の2画面が映し出される。『来た。』森の向こうから発射されてきた。ロケットの弾体の後部にケーブルが見える。有線誘導ロケット砲だ。ジグザクに後退していたが、ロックオンが外せない。と思った瞬間、砲塔部に被弾してしまった。砲塔全面の複合増設装甲板が吹き飛んだが、砲塔本体は傷一つ付かない。しかし砲塔上部の機関銃の照準モニターが消えたことから、おそらく破壊されてしまったのだろう。


  相手の発射位置は分かった。今度はこちらの番だ。着弾予測地点をロックオンして、全速前進だ。車体をスラロームさせながら、120ミリ砲が火を噴く。次弾は、自動装填だが、リロードに3秒ほど要してしまう。結局、3発で敵ミサイルが沈黙した。


  その時、イフちゃんが警告してきた。


  『上空からワイバーンが来るぞ。』


  ワイバーンが、急降下してくる様子が、イフちゃんとの視界共有で見える。敵は、50m程離れた味方戦車を狙っている。ワイバーンが足に何かを掴んでいる。黒い塊で、後部に羽がついている。爆弾だ。味方の戦車は全く気が付かないようだ。50キロ爆弾だろうか?小型の爆弾だが、直撃を喰らえば、いかに30式戦車の装甲が優秀でもタダでは済まない。後方の6輪装甲車の20ミリバルカン砲が火を吹く。微妙な照準は、全て画像解析をする専用コンピュータがしてくれるので、砲手はロックオン対象を選ぶだけだ。迎角80度のバルカン砲が火を吹く。何発かの曳光弾がワイバーンに吸い込まれていく。その後方では、歩兵部隊が地対空ロケット砲スティンガーが発射された。本来は熱源を赤外線で追尾するホーミングミサイルなのだが、今回はレーザー光でロックオンしている。次々とワイバーンが墜落していく。


  流石にワイバーン編隊は北の方に逃げていった。これ以上の損耗を防ぐためだろう。しかし、戦車の天敵は空にいたのだ。今後は、対空戦略も考えなくてはならない。そう考えている余裕などなかった。森の向こうから、腹に響くような音がしたと思ったら、何かが飛翔してくるような風切り音がした。僕達の後方で、大きな爆発音がして戦車後部に何かが当たっていた。砲弾の破片と吹き飛ばされた土砂が、当たっているのだ。


  さらに後方では、何体かのアンドロイド兵が吹き飛ばされていた。長距離砲の着弾を防ぐ土塁等もないので、歩兵にとっては、着弾が逸れる幸運に頼る以外に手立てはなかった。


  その時、高度2000mに時空間の切れ目が現れた。そこから真っ黒な機体の『B2改ー天山』16機が現れた。3機ずつの5編隊だ。残りの1機は、さらに上空で航空管制をしている指揮官機だ。森に向けて絨毯爆撃が始まった。1機あたり、13発の900キロ爆弾を搭載している。さすがにワイバーン騎士達も、奇妙の形の爆撃機に怖れを抱いたみたいで、向かってくるものはいない。森の奥の方に爆撃をしていくと、長距離砲が沈黙してしまった。


  殆ど無傷の戦車隊は、森の中に進んで行く。細い木立は、そのまま踏みつぶし、幹の太さが1m以上の巨木は、何回かぶつかって倒してから進んで行く。時折、散発的に自動小銃弾が飛んでくるが、12.7ミリ機関銃の一斉掃射で沈黙してしまう。木の陰や、木陰に潜んでいる敵歩兵は、後続の歩兵部隊が殲滅していく。多くの捕虜を捕まえたので、そのまま手錠をして兵員輸送車に収納していく。地トカゲは、そのまま放置することにした。彼らの装備している自動小銃は、シルフの知らない機種だが、『M16A1』とよく似ているそうだ。それって、アンドロイド兵がもっと小さかった時に、ミニチュア版で作った物だった気がする。


  まだ、実物は見ていないが、さっきの長距離砲と言い、対戦車ミサイルといい絶対におかしい。シルフが、時空間の乱れにより、異世界の技術と文化が入り込んで来たのかも知れないと言っていた。うん、これ以上の説明を求めると、絶対に不味いので僕は黙って頷いていた。


  捕虜の内の将校らしい者に対する尋問を始めた。かなり大柄なドラゴニュートだが、着ている戦闘服についている階級識別章が星3つなので、かなり高位の将校だろうと思う。まず、指名及び階級について尋ねる。


  「ビランカット大尉だ。認識番号Q367583だ。」


  うん、聞いていないことまで教えてくれてありがとう。しかし、彼が離したのはここまでだった。これ以上は、『回答を拒否する。』と言って黙秘してしまった。まあ、僕にとっては全く影響はないんですけど。気を失わせない程度の『威嚇』を使わせてもらった。ビランカット大尉は一瞬、大きく息を吸ったのち、目に光を失ったまま僕達の質問に素直に答えてくれた。


  「今回の侵攻作戦は、自分達、丘ドラゴニュートの立案ではなく、北の寒い国から侵攻してきた魔人族によるものだ。一昨年、北の山岳地帯を超えて侵攻してきた魔人族が、それまでの北大陸を納めていた獣人の王『リムジン』様を追放し、新たなデーモン王国を建国してしまった。我々は、魔王『ズール』様の下で、新しい武器を貰い、新しい戦闘方法を学んだのだ。ズール様の横には、異世界の人間種がいつもおり、ズール様もその男には何も言えないようだった。」


  今回の侵攻について、理由を質問してみた。


  「南アメリア大陸には、新しく帝国が出来たようだが、同帝国と中央アメリア王国は停戦協議が成立した。よって南部前線に憂いのなくなった中央アメリア王国が北侵する前に叩いておく必要がある。異世界の新武器が手に入ったので、絶対に負けない戦いのはずだった。」


  大体、こんな内容だった。異世界の人間、それって何処からきたのだろうか?また、『魔王』って、誰?本来、魔王になるべき者は僕だった筈だと思うんですけど。でも、『威嚇』により自白させているのだから、嘘を言う訳ないし。兎に角、敵の武器は、今までになく強力だ。装備は、こちらが敵より上回っていたから、犠牲者が出なかったが、通常の戦闘だったら、大きな犠牲が出ていたろう。現に、中央アメリア王国国防軍は壊滅状態だと聞いている。


 しかし、『魔王』って誰だろう。確か、僕だった気がするけど、他にもいるのだろうか?魔王の条件って何だろう。魔界の王が『魔王』なら、魔界に行ったこともない僕が魔王になれるわけがない。もし僕が本当に魔王なら、魔界の魔物達には絶対に人間を襲わせない。セレンちゃんのように、単に歌が好きとか花の蜜が好きなだけの魔物もいるのだ。


  今日の敵には、魔人族がいなかった。きっとドラゴニュートのように、第一線で戦うのは獣人族に任せているのだろう。ベンジャミンさんが、『魔人族は遥か北の極寒の地に住んでいたはずだが。』と言っていた。魔人族は、長人種は体力的に優れているが、獣人族のライオン種、虎種や熊種には敵わない。魔人族の小人種は魔力に優れているが、敵を殲滅するほどの威力は持っていない。そのため、豊穣な北アメリア大陸中央部以南には進出できないでいたのだ。それが、広大な北アメリア大陸を平定したとなると、かなり強力な部隊の支援があったか、敵を圧倒するだけの武器を開発したかのどちらかだ。今回の戦闘で異世界の技術が流出していることが明らかだ。やはり、魔王がいるのだろうか。


  もっとも気になるのが、異世界から来たという人間だ。どんな異世界からどんな人間が来たのだろうか。シルフが、並行世界は、常に隣合っているのでほんの少しの時空のゆがみがあれば、簡単に転移することが出来るらしいのだ。ただし、そのほんの少しの時空のゆがみは、何百万年に1度、全ての並行世界のどこかで1回あるかどうからしいのだ。僕が、かつて異世界の地球と言う惑星の日本と言う国は、この世界からは普通には認識できない世界だが精神体だから転移できたのだろう。天上界や異次元空間も、僕が強大なエネルギーがあるから自由に行き来できるのだそうだ。


  まあ、直接会って、話してみれば分かる事だろう。とにかく、交代した敵を追撃しなければならない。

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