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第2部第110話 クルス教を改革します。その1

(12月25日です。)

  今日、旧インカン王城改め南アメリア離宮にイチローさんが訪ねて来た。以前から放っていた密偵から、聖クルス教総本部の実態について報告があったのだ。イチローさんの配下の内、人間族の忍びにシルフの翻訳機を装着させて潜入したようだった。


  イチローさんが、この翻訳機を暫く貸して貰いたいと言っていた。この国での諜報活動には、言葉の壁があるので、ネイキッドで話せるようになるまで必要らしいのだ。それは別に構わない。いくらでも作れるし、クラウドコンピュータの同時並列処理は、量子力学特有の物理状態である「重ね合わせ状態」や「量子もつれ状態」などを利用して演算処理を行っているので、どんなに大量の翻訳要求が来たとしても瞬時に処理できるらしいのだ。これは、シルフの受け売りだが、それ以上の事は、眠っていたので良く分からなかった。


  とにかく、イチローさんの報告は面白いものだった。まず、テレーズさんは、奴隷として教会に売られたらしいのだが、その支払いは、10年分割で年に10万ギルを支払うことになっていたらしい。当時の通貨では、金貨1枚で売られ、大銀貨1枚の10回払いだ。これは幼女の値段としては、破格に安いが貧しいテレーズさんの実家では大金だったのだろう。


  当然に、奴隷取引証明書などなく、闇の取引だったが当時は売買両当事者が納得していれば良くあることだったらしい。教会としては、幼女を奴隷としてかうのは、ブレンボ大司教のし好もあったが、テレーズさんの場合は、『予知夢』という特殊な能力があったので、ブレンボ大司教の毒牙にはかからずに育てられたらしいのだ。将来的に教会の重要な収入源になるかもしれないので、基本的な常識や読み書きについては、教会の中から家庭教師を選任して指導にあたらせたようだ。それと、監視役としてマザーの中から信用のおける者を『婆や』としてあてがったが、実態は、テレーズさんを使役するだけの役割だったみたいだ。


  テレーズさんの養育方針は、決して外界とは接触させず、他のシスターなどとも接点を持たせない。あとは、奴隷に準じた扱いで必要な事だけを情報として得られる存在にすると言うものだったそうだ。昨日、テレーズさんが帰る時に、元の粗末な服に着替えようとしたので、新しく買ったドレスを着ていけば良いのにと言ったら、『婆やに叱られるから。』と言って、どうしても着ていかなかったのは、そう言う理由だったのだろう。テレーズさんにとって、婆やは、奴隷におけるご主人様のように絶対的な存在だったのだろう。小さいときからの刷り込みも恐ろしいものだ。


  イチローさんが恐ろしいものを持ってきた。クルス教総本部の出納帳だ。しかも、どうやら裏帳簿らしい。それによると、信者からの寄進や地方の教会からの上納金がかなりの額になっている。だが、そればかりではない。大司教代行ら教会幹部の年俸だ。驚いたことに、大司教代行筆頭が年に1億2千万ギル、司教達が年に8千万ギルから4千万ギルと皆、とんでもない高収入なのだ。そのほかに、宿舎利用料金や被服費等も通常の相場より桁が1つ多いのだ。なんで、こんなに収入が良いのかとおもったら、ある項目に気が付いた。『御宣託謝礼金。』という項目だ。これは不定期に記載があるが、その収入額は最低でも1000万ギル、中には1億ギルと言うものもあった。この『御宣託』というのは、テレーズさんの『予知夢』の事だろう。「明日雨が降る。」という予知でも、商売をする者にとっては思いがけない儲け話になるし、作物が豊作か凶作かだけでも莫大な利益を生むことだろう。テレーズさんの『予知夢』がどのようなものか知らないが、それをネタに大儲けしているジョブさん達の腹黒い性格が許せなかった。


  テレーズさんの婆やに幾ら支払っているかと思って調べたが、『婆や』という言葉は見つからなかった。その代わり『監視員』と言う項目があり、毎月80万ギル支払われている。これが『婆や』の収入なのだろう。テレーズさんをいい様に監禁し、こき使ってこれだけの給料を貰えるのだ。割のいい仕事だろう。しかし、相手はこの国の国教を司る総本部だ。どうしたらいいか悩んでいると、シルフがあることを提案してきた。ジョブ代行達を異端審問に架けるのだ。それもゼロス教大司教国の異端審問官を利用するのだそうだ。あのう、ある宗教を他の宗教が異端審問にかけるなど聞いたことが無いのですが。


  シルフが言うには、宗教戦争など皆、そう言う者らしいのだ。自分たちの信ずる神が絶対で、それ以外の神を信じる者は『異端者』として断罪される。かつて、この国で繰り返された戦争の殆どは、それが理由らしかった。しかし『七つの大罪』の前には、そのような論争や戦争は全く無意味であり、人類対災厄の神との全面戦争が何度も繰り返されるうちに、宗教戦争など馬鹿らしいとなって、それからはそれぞれの神を信ずることになったらしいのだ。だからと言って、今、宗教戦争が起きてもおかしい事は一つも無いというのだ。


  異端審問官は誰にするかと思ったが、シルフがフランちゃんが適任だと助言してくれた。前ゼロス教大司教であり、現在の帝立総合治癒院の院長であるフランちゃんが適任だと言うのだ。しかし、異端審問のための被審問者が被る帽子が無いがと言ったら、1本の杖を出してきた。大きなガラス玉が付いた杖で、この杖を相手の頭に当てて質問すれば、勝手に光る仕組みになっているとの事だった。とっても嘘くさいが、まあいいだろう。


  タイタン離宮に戻ってフランちゃんに事情を話すと非常に乗り気で、是非、やらせてくれと言ってきた。ああ、そんなに目を光らせないでください。


  異端審問日は、明日の正午からとして、対象は、イチローさん達が内偵の結果あぶりだした13人にした。勿論、ジョブさんや婆やさんも入っているが、これでは審問対象外の司教は3人、それも1名は女性だが、それしか残らなかった。この3人は、不正の噂もなく、敬虔なクルス教徒だという話だった。






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(12月26日です。)

  今日、昼過ぎに聖クルス教総本部に向かった。総本部は大聖堂の裏側にあるので、大聖堂の正面玄関から中に入って行った。異端審問のメンバーは、フランちゃんを中心に本国の警察本部員及び税務庁職員達だ。フランちゃんは、銀色の法服をはおり、大きなとんがり帽子を被っている。いかにも宗教裁判の裁判官といういで立ちだ。右手には大きな杖を持ち、杖の上には直径10センチはあるだろう紫色のアメジストが嵌められていた。


  部隊を従えて大聖堂のミサ室に入って行くと、一人の少女が一生懸命、床を磨いていた。あれ、あの掃除婦さん、銀色の長い髪を括って、白いタオルを頭に巻いているけど、テレーズさんじゃありませんか。もう昼食時間だというのに、この広いミサ室の掃除が終わるまで昼食はお預けだそうだ。


  テレーズさん、入ってきたフランちゃん達に驚いたようだが、僕の姿を見て、満面の笑顔を浮かべていた。ペコリとお辞儀をして、


  「いらっしゃいませ。皇帝陛下。この前はごちそうさまでした。」


  うん、この前といっても一昨日の事なんですが。『ジョブさんに会いたい。』と用件を言うと、頭のタオルを外して、ミサ室の裏の方に走って行った。暫くすると、年配のシスターが出てきたが、その後ろについて来たテレーズさんの様子から、この人が『婆や』さんだろう。


  「いったいどうしたんですか。ジョブ大司教代行筆頭を呼ぶなんて、お前なんかの用事で来られる訳ないでしょう。」



  はあ、大司教様を『お前』呼ばわりですか。その婆や、僕達を見つけて目が点になっていた。


  「テレーズ大司教のお世話をしている方ですね。私はフラン、お聞きしたいことがあるので、ジョブ大司教代行筆頭を及び下さい。これはゴロタ皇帝陛下のご命令です。」


  あわててジョブさんを呼びに行っていた。暫くすると、いつものように配下の者達を引き連れてジョブさんが現れた。配下の人達は、法服を着ている人が6人と後は、銀色の鎧を付けた聖騎士達が20人だ。えーと、この聖騎士達はなんですか。まさかここで戦闘をする気ではないですよね。警察本部員は、腰につけている13連発の拳銃を抜き出して構えている。可哀そうな聖騎士さん、このままでは後数分後には皆、死んでしまいますよ。


  「ジョブ大司教代行、これは何の真似ですか?まさか皇帝陛下に弓曳こうなどと考えていませんよね。」


  「え、勿論、そんなことはありません。これは、不審者対策です。行程陛下の名前を語った偽物が横行していますので。」


  顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。少しカチンときたが、今はまだ押さえておこう。


  「聖騎士の皆さんは、あちらの壁際で跪いていてください。早く。」


  僕の『威嚇』含みの声に、全ての聖騎士が言う事を聞いていた。あれ、あの水の垂れた跡は、だれかオシッコを漏らしましたね。


  「次に、ジョブさん、この名簿にある方々を及び下さい。」


  ジョブさんは、ムッとした様子で、お付きの者に呼んでくるように言っていた。暫くしたら、全員が揃ったので、フランちゃんが本日の用件を述べ始めた。


  「私は、神聖ゴロタ帝国の帝立治癒院の院長をしているフランシスカと申します。ゼロス大司教国の大司教だった者です。今日は、皆さまに異端の疑いありと言う事で、異端審問を行います。」


  これには、司教たちは血相を変えた。異端審問など、お前たちこそ異教徒で異端審問の対象ではないかと言うのだ。なるほど、もっともです。しかし、そんなことはおくびにも出さずに、淡々と口上を述べ続けるフランちゃんだった。


  「我が神ゼロス様は生と死を司る神、あなた達の言う絶対神と同一かとも思われます。万物は、生きとし、生ける者であり、死を迎えるべきものです。これは神が定めたもので、人間では抗う事が出来ません。あなた達の言う神の御子クルス様も、そのように教えていらっしゃるではないですか。」


  あれ、いつクルス教の聖書を勉強したのだろうか。そんな暇なんか無かったのに。あとで聞いたら、完全なでまかせだったそうだ。ああ。


  「しかし、異端審問とは、何の咎があって異端審問をするのだ。」


  「あら、それは、幼女奴隷売買及び未成年者虐待、それと不当な利益の収受ですわ。」


  「な、何の証拠があって、そのような。」


  「神の前では、証拠など無価値です。神は全てをお見通しですから。」


  ああ、フランちゃんに理屈が通る訳無いのに、ジョブさん、早くあきらめた方がいいですよ。

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