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第2部第106話 魔物の能力って変

(12月17日です。)

  セントゴロタ市の官庁街の一角に帝立冒険者ギルド総本部がある。各統治領にも本部があるが、ここは、それらのギルドを総括管理している。といっても、冒険者登録のデータベースを管理したり、魔物の素材やダンジョンの算出品をオークションにかける総元締めをしているていどだ。セントゴロタ市周辺には魔物がでるようなダンジョンはないので、冒険者は護衛任務や配達任務をしながらなんとか生活をしている。稼ぎたいのなら、地方の都市に行けば、魔物討伐やダンジョン攻略もあるのに、どうも帝都を離れたくないようだった。


  僕達が総本部に入って行くと、冒険者達の注目を集めてしまった。僕とセレンちゃんは、あまり目立たないように地味な冒険者服を着ているし、僕は、特徴的な髪の色が見えないように、深めの帽子をかぶっているのだが、身長は高いが、一見して15歳位の少年と中学生以下のような超絶美少女だ。注目しないほうがおかしい。僕は、慣れっこになってしまったけれど、セレンちゃんはそうはいかない。かなり怯えているようだった。冒険者達の興味津々の目が突き刺さっている。セレンちゃん、僕の手をぎゅっと握りしめている。


  僕は、構わず2階に上がる階段の方に向かった。受付やロビー警戒の職員は、僕達の方をチラッと見ただけですぐに元の任務に戻っている。今日、僕たちが来る事を指示されていたのだろう。


  総本部は、石造り3階建てだが、一般冒険者が入れるのは2階までだった。僕達は、2階の一番奥の部屋に行った。奥の部屋には、既にノエルや年配の男性達が何人かいた。ノエルの通っている大学院の研究室の教授達らしい。今日、魔物のセイレーンの魔力について調査する事を聞きつけた教授達だった。


  基本的に、魔物の魔力を図るなど無理な事だった。ゴブリンなどの低級魔物は、そもそも存在そのものが魔法的であっても魔法は全く使えない。魔法の使えるゴブリンメイジなど、生きて捕獲することなど不可能に近く、今まで捕獲して研究したと言う記述もないのだ。


  魔物テイマーが従属させられるのは、人型以外の低級魔物に限られるので、セレンちゃんのように完全人型の魔物を隷属させた事自体、今まで例のない事だったらしい。


  セレンちゃん、1階にいた時以上に怯えている。ノエルが、優しい微笑みを浮かべながら、


  「セレンちゃん、何も心配しなくてもいいわよ。ここにいるおじさん達は何もしないから。」


  セレンちゃんは、僕と一緒にソファに座ったが、僕にピタッとくっついている。それを見たノエルのコメカミがピクピクしている。ノエルちゃん、そこで怒らないで。この子は、そんなつもりないから。


  温かい蜂蜜入りミルクとチョコケーキが出された。ケーキを食べはじめたセレンちゃんが、やっと落ち着いたようだ。


  さあ、まず能力測定だ。いつもの能力測定器の前に立ち、右手を機械の間に差し出す。針が刺さったのだろう。セレンちゃん、一気に涙顔になってしまった。これで測定は終わりだ。



******************************************

【ユニーク情報】

名前:セレン

種族:セイレーン

生年月日:王国歴1724年8月2日(315歳)

性別:女?

父の種族:?

母の種族:?

職業:魔物

******************************************

【能力】

レベル     1

体力     10

魔力   3560

スキル   870

攻撃力     1

防御力     1

俊敏性    10

魔法適性    ?

固有スキル

【魅了】【変身】

習得魔術  なし

習得武技  なし

*******************************************


  うーん?よく分からない。生物レベルは、人間の幼児程度だ。しかし、魔力とスキルの値が異常だ。僕ほどではないが、常人では到達できないレベルだ。


  魔法適性が『?』と言うのも謎だ。人間の場合、幾つか表示される場合もあり、また、適性がない場合は『なし』と表示される。『?』と表示される事はない。


  教授達は、『変身』スキルに興味があるらしく、見せてもらいたいと言ってきたが、セレンちゃんは首を振るだけだった。僕が、セレンちゃんの『変身』は、海に入った時と陸に上がった時に自然に発言するので、魔法のように自在に使えるものではないと説明してあげた。


  僕は、セレンちゃんの性別に注目した。『女?』とはなんだろう。生物的な女性ではないのだろうか。そういえば、裸の胸は見た事があるが、大切なところがどうなっているか確認した事は無かった。


  魔物専門に研究している教授がある事を教えてくれた。一般的に、人魚は半魚人と言われる魔物の一形態で、女性の形態はマーメイド、男性形態はサハギンと呼ばれている。セイレーンは、どうやらマーメイドの特殊個体或いは別種と考えられる。生物の繁殖形態は取らないため、性別及び両親の種族が不明なのだろう。


  なるほど。セイレーンちゃんは、ずっと高位の魔物か神に作られた創造物かもしれない。今度、海底神殿に行った時に聴いてみよう。


  今度は、ギルドの裏庭に行って、魔法の確認だ。通常のギルドでは、裏庭は魔物の解体場になっているが、このギルドでは、魔物の討伐が皆無なので解体場にも人気がなかった。ノエルが、セレンちゃんには汎用のワンドを持たせた。火魔法の詠唱を教えている。何回か教えていたら、覚えたようだ。早速、一人で詠唱をしてみたが、何も起らなかった。火魔法の次に、水魔法、風魔法そして土魔法と使わせたが全て無駄だった。セレンちゃんには魔法適性がないと言う結論に至ったが、それでは、あの以上なまでに高い魔力量は何に使うのだろうか。が、現在のところ、全く使えないのだ。その内、きっと理由がわかる時が来るだろう。


  これでセレンちゃんの測定と魔法特性の調査は終わった。僕達は、階下に降りていくと、なぜかロビーが騒がしい。どうしたのか聞くと、護衛任務の取り合いで、冒険者パーティ同士が争っているらしいのだ。


  ギルド内での喧嘩は厳禁で、目に余る場合は、冒険者登録の取り消しになるのだが、気の荒い冒険者同士での諍いは日常茶飯事だ。ギルド職員に詳しく聞くと、新しくゴロタ帝国の一部となった南アメリア領で新都市の建設現場の警備らしいのだ。食事と寝る場所が提供されて、1日当たり18000ギルも貰えるのだ。希望者が殺到するのも当然だろう。


  僕は、彼らには構わずギルドの外に出ようとしたが、セレンちゃんが彼らの一人にぶつかってしまった。


  「キャッ!」


  セレンちゃん、跳ね飛ばされて転んでしまった。セレンちゃん、冒険者服を着ていたが下はミニスカタイプだったので縞パンが見えてしまった。男達は、無遠慮な目で一点を見つめてしまっている。セレンちゃん、スカートの中を見られる事が恥ずかしいと言う事は分からないが、やはりこれはマズイだろう。僕は、直ぐにセレンちゃんの前に立って、視線を遮りながら起こしてあげた。


  誰かが、僕の肩を掴んだ。何かなと思って、振り返るとセレンちゃんにぶつかってきた男だった。謝ってくれるのかなと思ったら、逆だった。


  「おい、お前。この女の連れか?」


  相手は、身長180センチ位のマッチョ男だった。僕の方が身長は大きいが、格闘技系の体系ではない僕は、背の高い坊やと言う雰囲気なので、いつもこの手の男にはバカにされてしまう。


  特に超絶美少女のセレンちゃんを連れているので、相手の男のテンションが異様に高そうだ。


  「この落とし前、どうしてくれるんだ。」


  「どうって?」


  「そこの女がぶつかってきて、俺、腰を痛めてしまったみてえなんだよ。慰謝料というものがあるのを知っているかよ。」


  他の男達も、喧嘩をやめて僕達を取り囲んできた。彼らのランクは何だろう。装備品から見てBランクかCランクだろう。警備任務はCランク以上の依頼が殆どなので、Dランクという事はないだろう。


  僕は、ポケットに手を入れて1万ギル銀貨を取り出した。彼らの言う『慰謝料』を素直に支払って、トラブルを回避しようと思ったのだ。男は、銀貨を見て吃驚していたが、ニヤリと笑って銀貨を受け取ると、ポケットにしまいながらさらに付け加えた。


  「うん、物分かりがいいじゃないか。慰謝料はこれでいいが、そっちの女にも用があるんだけど。」


  やっぱり駄目か。いつもそうだ。昔、シェルと二人で冒険旅行している時は、こんな事は日常茶飯事だった。


  「もう用は済んだ。退いてくれる。」


  僕は、男を冷ややかに見つめていた。男は、ビクンとして道を譲ってくれた。僕は、セレンちゃんの手を引いてギルドを出たが、彼らはしつこく後をついてきていた。ギルド内では、床が汚れるのが嫌だったので抑えていた『威嚇』を、思いっきり放射してやった。ギルド前の路上には、ズボンを濡らしたままへたり込んでいる9人の男達が残っていた。


  その足で、市内で一番の商店街に向かった。大きなデパートがいくつも並んでいる目貫通りだ。その一角に、『バンブーセントラル建設』があった。社長のバンブーさんと面会の約束があったのだ。社内に入ると、社長以下、大勢の社員が整列している。あれ、時間を間違えたかなと思ったら、僕を待っていたらしい。5階まで電動エレベーターで上がると、大きな会議室があった設計の人たちが、イオーク王国の新王都に建設する予定の王宮について説明してくれた。現地で産出される大理石を使った地上3階、地下1階の立派なものだった。全館冷暖房完備の最先端設備を備えたものだ。会議テーブルの真ん中には、完成予想の模型が置かれていたが、重厚にして華美な建物で、いかにも王宮らしかった。完成は、早くても来年暮れになるそうだ。それから内装等を仕上げるので、クリシア女王陛下が入居されるのは、それから半年位先だろう。


  バンブーさんが、『この国で産出される木材と石材の専属輸入販売をさせて頂ければ、王宮建設は原価で対応させていただきたいと言ってきた。僕は、新王宮に関する要望を伝えに来ていただけなので、『そのような内容はシェルとシルフの二人にお願いします。』と言ったら、物凄くガッカリしていた。僕って、きっとチョロいと思われているんだろうな。


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